為替変動と企業努力1

2011年夏以降の超円高によって、さすがのトヨタ自動車も国内に踏みとどまれるか微妙になってきましたが、今後は世界シェアー何割を抑えられるような高々度技術を持つ分野の業種だけが、日本に生き残れるのであって、汎用品で少しくらい技術が高くっても国内で生き残るのは難しい時代です。
部品の競争力が世界一と言っても、そこの製品を使えば例えば他所よりも1割くらい安く造れる・不良率が低い・1割耐久性が高い・・その結果1割くらい高くても売れるような場合、円が1割以上高くなるとやって行けません。
ですから、高度部品で世界でトップシェアーを握っているとしても、際限のない円高耐性をもっている訳ではありません。
これに対して、たとえば味の好みに関しては好みにさえ合えば、円が上がってもウマければ1割や2割高くしても買う傾向があります。
紀文の各種製品や桃屋のつゆ、西京漬等、この種の物に関しては「ここの味」と言う特定の味覚の顧客を造れば、少しくらい高くとも(逆から言えばよほど生活に困らなければ少しくらい安くともまずい物を我慢して食べないでしょう)1割や2割上がっても関係がないでしょう。
ゲームソフト、エンターテイメント類などもこの部類に属します。
何回も紹介していますが、2007年には1ドル120円平均でしたが最近約1ヶ月間では76〜77円です。
上記のとおり、コストパフォーマンスが良くて、値段・コスト競争で勝っているだけでは、(勝てば貿易黒字→円高になる仕組みです)コスト競争力のある分以上に円が上がればおしまいですから、コスト競争での生き残りを目指すには、国内の同業他社・他業種の輸出競争力平均以上の競争力がない限り脱落して行きます。
(円相場は理論的には(資本・所得移転を除けば・・)輸入輸出全体の加重平均・結果としての貿易黒字)で決まることを1月9日のコラムで書きました。
ある時期の円高に耐えられても、その次の円高には耐えられないとその時点で脱落ですから、儲けなければ脱落するし、儲ければ円高に追われて際限のないコスト削減競争を続けるしか企業は国内生産を維持出来ない時代です。
企業の方は、全世界に平均的に工場を分散させていれば、円が2割上がって従来より生産性を2割アップしなければ日本国内製品が国際競争出来ないとすれば、2割下がって競争上有利になった国での生産を拡大し、日本国内の工場生産を廃止・縮小すれば済みます。
国民の方はホンの少ししか工場の海外展開について行けないので、殆どが失業してしまいます。
世界展開している企業にとっては為替相場の変動に対応するには、各国での生産比率の変更で足りるし・・展開不足の企業も為替の下がった国での展開を加速すれば良いのです。
為替変動による貿易収支均衡論は、世界くまなく工場網を張り巡らしている企業にとっては、相場変動に対応してそれぞれの国の生産量を調節すれば良いので、結果的に国ごとの貿易不均衡は是正されて行く仕組みです。
この場合、円高に負けないようにする生産性向上努力は不要と言うよりは、そんな努力をするといつまでたっても貿易不均衡は是正されないでしょうから、円高対応努力は為替による均衡理論では本来予定されていないことになります。
この場合、自己節制として不断の努力をしないと同業他社に負けることになるだけで、為替変動による外圧は世界企業には本来予定されていません。

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