養育料3と民事執行法11

 

養育料支払義務を履行する意欲のある人がなかなか増えないとすれば現在の血の繋がった父親の責任を強調する制度・思想が当事者の動物的意識その他の実情に反する面があるからです。
ところで養育料支払が滞る人が多いと言う報道を見かけますが、ホワイトカラー系は職が安定しているのできちんと払っていることが多いのですが、離婚事件の大半は、現場労務系ですので、職が安定せずしょっ中職が変るので養育料支払能力が低い・また取りようがないのが現実です。
従って養育料支払率の低さを議論するならば、その職業別統計をとらないと意味のない議論になっている可能性があります。
非正規あるいは日雇い労務者等の離婚率はものすごく高いのですが、(皆さん身近かなホワイトカラーの中で何割離婚しているか見回して見れば全体の離婚率との違いが分る筈です)彼らは元々安定収入がないので同居中でもマトモに生活費を入れられなくて離婚になることが多いのです。
生活費をマトモに入れないことを主たる理由に離婚になった場合、彼らに離婚後の養育料支払を期待している妻が元々いないのですから、こういう統計をいくら取っても意味がありません。
私に言わせれば、04/06/10「母子一体感3(養育料3)」で書いたように、子育ては社会全体で見るしかないのですが、社会制度が未整備の間は誰かに責任を負わすしかないから夫を父親だからとして責任を負わすようになったに過ぎない・・過渡的・便宜上生まれた思想に過ぎないと考えられます。
にも拘らず、政府や文化人(人権活動家)がこれを金科玉条のごとくに思いつめて運動した結果、政府は、「従わないならば・・」とばかりにムキになって養育料未払いに対する強制執行制度の強化に乗り出していて、最近では将来分(6ヶ月限定ですが・・・)を含めて執行出来るように改正しました。
強制執行するには支払期限が到来していることが鉄則(30条一項参照)ですが、(たとえば3ヶ月先の給与を今払ってくれとか、3年先に明け渡す約束で借りているものを今日から2〜3日で返してくれと言うのは、お願いであって権利ではありません)養育料に関しては期限未到来・半年先の分までの合計金額で今から差し押さえが出来るように便宜が図られたのです。

民事執行法
(昭和五十四年三月三十日法律第四号)

 第三十条  請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができる。
2  担保を立てることを強制執行の実施の条件とする債務名義による強制執行は、債権者が担保を立てたことを証する文書を提出したときに限り、開始することができる。

(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百六十七条の十六  債権者が第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち六月以内に確定期限が到来するものについても、前条第一項に規定する方法による強制執行を開始することができる。

これはこれで実務的に必要な制度改正ですが、(私も養育料を請求する立場の場合、ある程度未払いが溜まってからでないと執行出来ないのは不都合と考えていましたし、そう言う意見をどこかで書いたと思います)別れた夫に対する養育料支払強制強化の側面として見ると、これが政策的に妥当かは別問題です。

 再婚8と養育費支払2

里子が同居して育てられていただけでは当然に相続人にならないのですが、・・・里親が死亡した時に同居していた限り引き続いてアパートや県営住宅等に引き続いて住めるような権利継承は必要(あるいは当座生活出来る程度の現預金の継承も必要)ですが・・・それとは別に遠くに持っている資産まで相続(継承)する必要がありません。
もっと多くを里子にやりたけれ、ば遺言で手当てしておけば済むことで法定相続権まで必要がないでしょう。
ただし、これは・・・私の従来からの主張によればまず配偶者が全部相続し・・これを相続と言うか否かは別として・・夫婦ともに亡くなった場合の話です。
配偶者は全部相続すべきだ・・そもそも世代交代ではないのでこれを相続に含めること自体がおかしいと言う主張は、11/02/03
相続分7(民法109)(配偶者相続分の重要性2)前後で連載しましたし、配偶者の全部相続と言っても再婚との関係で婚姻後の経過年数によって区分すべきだと言う意見も、07/11/03「老人の再婚5(相続)」および05/18/03「遺留分とは 7立法論3(民法55)」等で書きました。
ほとんどの人が自分で子供を生まない里子制度の時代が来れば、遺言で指定しない限り里子に対しては、預貯金等の金融資産で言えば未成年又は30代まで・・大学院等まだ自活出来ない里子もいるでしょう・・・とそれ以上の場合とでは、額を区別した上で、30代以上でも同居していた限り一定の法定額までは継承出来、不動産に関しては、(血統に関係なく)里子が現に住んでいる家(持ち家又は賃借権)を相続(継承)し、(自活出来ない低年齢者の場合、次の里親を国で手配する仕組みが当然用意されるべきでしょう)それ以上は国庫に帰属するような扱いが合理的かも知れません。
話を子育てに戻しますと、犬と養子縁組しなくとも、犬を飼っている普通の人はみんな自分の子以上に犬を可愛がっています。
孤独な老人がペットを残して死にそうな時には、それなりに誰かに後を頼んで死んで行くものです。
実際の生活を一緒にしていると愛情がわいてくるのは動物全般の現象ですから(いろんな動物が別種の動物の赤ちゃんにおっぱいを飲まするとその別種の動物も自分の子のように可愛がることはよく知られているとおりです)同居している人が、同居者の生活費を見るのが妥当(一つの家の中で誰の分の食費・暖房費と分けられない)です。
児童手当法の精神・・4条では父母でなくとも実際の監護者が受け取れることになっていることの整合性から見ても、再婚相手あるいは同棲相手が連れ子の養育費を負担する方が自然です。
血のつながりを理由にするのではなく、一緒に生活している限り面倒見るべきだと言う単純な法理を正面から打ち出すべきです。
連れ子の面倒まで見られないと言う男がいるとしたら、そんな男と一緒になる方・母親がおかしいのです。
この逆に別れてしまった男に対して血のつながりがあるからとの観念論で、離婚による別居後でも何十年もお金を送れと言う思想教育をしても動物本来の意識に反していて無理が有ります。
この辺の事情から、07/10/03「結婚事情(永久就職から・・・・?)13」のコラムで書いたように、それぞれが次の妻子の生活費を見るようにすれば(・・ただし、男の方が収入が多い現実を前提にすればの話です)それぞれの再婚・・再出発が容易になって合理的です。

子育ての意味

私の法律相談で関係する人々(言うまでもなく現在人ですが・・このテーマで相談するヒトとはどちらかと言えば高齢に属する人でしょうか?)でも、養子に限らず実子でも子供がいないと、家を継ぐ人がいなくなるとか墓を守ってくれるひとがいなくなると言う意識の人がまだ多かった(最近減りましたので漠然とした記憶では平成の初め頃までの相談者だったかな?)のですが、明治〜敗戦までは、制度的にもそうなっていたのが今でも意識として尾を引いている原因です。
今では跡を継いでもらうような・・世襲・後を継ぎさえすれば子々孫々が食って行けるような資産を有する人は皆無に近いし、継いでもらうために子供が欲しいと言うのは過去の伝統的価値観におもねて言っているだけで、端的に子供や孫が可愛いから孫が欲しいのではないように思われます。
何故子供や幼児が可愛いかと言えば、種の維持継続本能がその基礎にあるのでしょうから、今でも相続の本質は明治までの相続制と同じかも知れませんが、一家・一族・氏族・民族・人類の継承と言う意味では自分の子に限る必要がありません。
そのために他人の子でも幼児を見れば、まずは「可愛いね」と言う表情をすることが伝統的に義務づけられていましたが、最近この傾向が薄れて来ている感じです(子供が騒ぐと露骨に嫌な顔をする人が増えて来た・・子供に対して非寛容な社会化が進行しています)が、これは日本全体で次世代を養成して行こうとする意欲の喪失と言うか縮小傾向にあることを表しているのでしょう。
電車内どころか数十年前から学校近くに住む人から子供の声がうるさいと言う苦情が出るようになっていたことから見ると、(私自身の子育て中には変な大人が増えて来たなあと感じていましたが・・今になると)この心理変化は社会意識の変化が底流にあったことになりますから深刻な筈です。
この実態の進行に対して政府が危機感を持って少子化対策をしきりに試行しているのですが、日本人全体が次世代養育の熱意を失ってからかなりの時間がたっている現状(根本的原因)を直視しないで子供手当等の思いつき程度の施策でどうなるものでもありません。
個々の集合体である一族・一家の財産継承からいきなり人類一般の継承では大きすぎるので、その中間の日本民族一般の継承が現在の問題になっていると言うことでしょうか?
まずは血統にこだわらない子育てのために里親になるような・・自分の子でないのに育てるのですから(アメリカでは異民族・・中国人の子でさえ引き取って育てています)社会の援助システムも完備してくるでしょう・・・簡易な子育てシステムの構築が、有効なのではないでしょうか?
縁もゆかりもない子を育てる時代が来れば、自分の子に限る子育てのための結婚制度も相続システム・相続概念も変わって行かざるを得ません。

明治民法の養子縁組1

将来的には子育ては社会全体の責任にして行くべきだと言うのが私の持論(その時には父親どころか母親の関与も縮小して行く社会)ですが、(冷凍保存した優秀な精子の試験管ベビーをその時代に必要な数だけ受精させて一定段階まで育ってから誰かが配給を受けて育てる・・こうなれば結婚制度が不要になってしまうでしょう)そうした時代が来れば自分の子だから育てると言うのではなく、誰の血統でも預かって育てる時代になれば、まさに血統の有無などまったく問題にならない時代が来ます。
子連れの母子と一緒になりながら連れ子の食費を出したくない男は、好きなときだけペットに餌をやって後は放りっぱなしの無責任な買主みたいで、そんな男はそもそも女性と一緒になる資格がないと断じても社会常識に反しない筈です。
前回書いた血統に関係なく子供を預かって育てる時代が来ても育てる資格のないヒトです。
これを防ぐためには養子縁組制度(欧米では子育てのための養子として定着している感じです)がありますが、如何にも技巧的過ぎるばかりか、我が国では歴史的に大名や武家のお家断絶・・相続権喪失を防ぐために相続制度や家の格式を擬制する関連で発達して経緯もあって、(子を育てるための養子の歴史がないので)これを利用する夫婦は今でもあまりいません。
江戸時代の家禄制度がなくなった後の明治の民法でも、家を継ぐ・相続のための養子であることが露骨に現れているのが以下の条文です。
明治民法839条では推定家督相続人たるべき男子がいるときには、男子の養子をとることが禁止されていたのは,親のいない子に親をあたえる制度ではなく、相続目的にしか養子があり得ない前提で法制度が出来ていたといえます。

民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後改正されるまでの規定です)
  第四編 親族

第八百三十九条 法定ノ推定家督相続人タル男子アル者ハ男子ヲ養子ト為スコトヲ得ス但女壻ト為ス為メニスル場合ハ此限ニ在ラス

民法第五編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
第一節  相続

第九百六十四条 家督相続ハ左ノ事由ニ因リテ開始ス
 一 戸主ノ死亡、隠居又ハ国籍喪失
 二 戸主カ婚姻又ハ養子縁組ノ取消ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ
 三 女戸主ノ入夫婚姻又ハ入夫ノ離婚
第九百七十条 被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル
 一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
 二 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス
 三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
 四 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ女ト雖モ嫡出子及ヒ庶子ヲ先ニス
 五 前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス
2 第八百三十六条ノ規定ニヨリ養子縁組ニ依リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看做ス

再婚6と子供の運命5

ところで再婚の場合では、粗暴系の男と間違って結婚した場合、先ずその発露は女性に対してと言うよりは抵抗力のない連れ子・幼児に向かい勝ちです。
2010-4-10−1「再婚5と子供の運命4(ライオンの場合3)」前後から、書いてきた再婚問題の続きです。
肉体関係に入るまではどんな男(ヤクザに限らず粗暴な男)でも女性に優しいでしょうが、関係した後も女性を大事にする・・ひいてはその子を可愛がってくれるか否かは、別問題です。
女性の立場が弱いと連れ子が虐待されるどころか、母親まで相手の男のご機嫌に合わせて一緒に虐待することすらあって、最悪の場合虐待死が発生することがありますが、露見するのは死亡に繋がる極端な事例に過ぎませんから氷山の一角に過ぎず、そこに至らない虐待・いじめはその何十倍もあるでしょう。 (小さな子供は自分から逃げたり訴えたり出来ませんので・・)
何も知らないで別れた元夫がせっせとお金を送っていても、粗暴系遊び人の男と元妻・母親が一緒になれば、自分の子供は虐待されるは送った仕送りも使われてしまうはのまるでバカみたいな結果になる可能性が高いのです。
子供にとって、離婚前よりもいい生活が出来るか塗炭の苦しみを味わうかは母親の再婚相手の選択眼・魅力・・性関係に入った後の魅力を維持できる能力次第と言うところです。
現在の法思想では再婚した男には相方の連れ子を養育する法的義務がないとは言え、事実上子供の学費その他の養育費は次の夫が面倒見ているし,躾(と称するいじめも)もしているのが普通ですから、元妻が再婚すれば別れた夫がギリギリの生活から仕送りする実質的必要性が減少する感じです。
一つ屋根の下・・生計を同じくしている限度で、血の繋がった父親であろうとなかろうと、同居者に対する扶養義務・・法的義務に高めるのは実態にあっていて何の問題もない筈です。
明治の民法では戸主の扶養義務は同居の親族に限定されていましたが、今では家に使用人が同居する時代ではないので、同居している限り食事のときは一緒にすべきでしょう。
子供連れの女性と結婚する以上は、その連れ子の食費等の負担をするのは当然ですし、この負担能力がないと言うなら、そんな男は初めっから一緒になる資格がないと言い切っていいのではないでしょうか?
(途中で病気して負担出来なくなる場合があるのは別問題です)

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。