夫婦の協力義務(応急措置法)

 

民法応急措置法は読んで字のとおり、敗戦後いわゆる国体が180度変更され、民主憲法が制定されても、その他の法律の改正が間に合わなかったので、その間の基本的応急措置を定めたものです。
先ず夫婦のあり方に関する憲法の条文です。

日本国憲法
昭和21・11・3・公布
  昭和22・5・3・施行
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

明治民法では、家庭内で戸主だけが1頭高いところにいて一家を統率しその代わり家族みんなを食わせる義務が決められていたのですが、戦後・日本国憲法制定後は夫婦対等(両性の本質的平等・・措置法第一条)の理念から、戸主に限定せずに双方向の夫婦間の同居協力義務が規定されました。
夫婦間の協力義務が強制されるようになれば、この延長として婚姻中に準ずる離婚後の養育費用分担思想が生まれたものでしょう。
離婚にあたって実際に・・実務上考慮される大きな要素は、財産分与の額を定めるには妻子が離婚後もちゃんと生活して行ける配慮がされているかが大きな争点です。
と言う事は、養育料と言い婚姻費用分担と使い分けても、その内容実質は離婚後の妻子の生活保障にあったことに帰し、似たような機能を有していたことになります。
以下応急措置法の条文です。
基本的人権の尊重・・民主憲法への変更が民法に及ぼした効果をみると、そのほとんど全部が男女のあり方に関するものであったことがこの条文で分るでしょう。
この結果民法の中で、親族相続編(第4編第5編)だけが全面改正されたのです。

  日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)

第一条 この法律は、日本国憲法の施行に伴い、民法について、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚する応急的措置を講ずることを目的とする。
第二条 妻又は母であることに基いて法律上の能力その他を制限する規定は、これを適用しない。
第三条 戸主、家族その他家に関する規定は、これを適用しない。
第四条 成年者の婚姻、離婚、養子縁組及び離縁については、父母の同意を要しない。
第五条 夫婦は、その協議で定める場所に同居するものとする。
2 夫婦の財産関係に関する規定で両性の本質的平等に反するものは、これを適用しない。
3 配偶者の一方に著しい不貞の行為があつたときは、他の一方は、これを原因として離婚の訴を提起することができる。
第六条 親権は、父母が共同してこれを行う。
2 父母が離婚するとき、又は父が子を認知するときは、親権を行う者は、父母の協議でこれを定めなければならない。協議が調わないとき、又は協議することができないときは、裁判所が、これを定める。
3 裁判所は、子の利益のために、親権者を変更することができる。
第七条 家督相続に関する規定は、これを適用しない。
2 相続については、第八条及び第九条の規定によるの外、遺産相続に関する規定に従う。
第十条 この法律の規定に反する他の法律の規定は、これを適用しない。
附 則
1 この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
2 この法律は、昭和二十三年一月一日から、その効力を失う。

明治民法4(家制度1)

 

前回紹介した条文に出てくる家族とは、「其家ニ在ル者」すなわち現実に一つ屋根の下に同居していなくとも、「観念的な家」・・戸籍上同一戸籍に属すれば(分家しない限り)足りるようですから、戸主の弟夫婦が都会に出て別に住んでいても分家して一家を創立しない限りその家族・妻子も同一家族となりますので、今で言う同一世帯より広い意味となります。
本家分家の表現を聞いた方が多いでしょうが、一軒の家を分家・・物理的に解体して分けることはあり得ませんので、(今でこそマンションの発達で区分所有制度がありますが・・・明治時代の小さな木造家屋では考えられなかったことです)この表現は具体的な建物としての家ではなく観念的な家の制度を前提にしていることが明らかです。
また「家族」とは親子以上の広がりを持った感じです。
今で言えば端的に親子と書けば良いものを「家の族」・属にも通じる漢字を使ったのは、家の制度に包摂される親子以上に広がありのある一族「族=やから」を意味したからではないでしょうか?
ところで、明治の初め頃には生活・居住実態を表現する住民登録制度がなかったので、元は親子として一緒にいた子供や兄弟が元の具体的な家・建物を出て行ってしまった後までみんな血統に基づいて登録したままにしておくか、江戸時代のように目の前にいなくなったものを無宿者に(除籍)してしまうかの二者択一制にする必要がありました。
明治政府は、国民の管理上前者の制度を選択したのです。
ですから離れて住んでいて親兄弟にすら生きているのか死んでしまったかすら分らなくなったものまで家族を擬制していたので、その咎めがこの秋頃からマスコミを騒がせていた超高齢者が生存中であるかのように登録されたままとなった結果になったと言えます。
個人の識別特定のためには、血統に基づく戸籍制度によるのではなく、実態に合わせた住民登録制度あるいは、社会保険・年金番号制等個人識別制度に移行すべきであり、それで足りると言う意見を次々回以降のコラムで書きます。
明治民法で観念的な家の制度を法定し戸主の扶養義務をセットとして法定し、大正〜昭和と来たのですが、この矛盾が大恐慌に始まり国民の困窮が頂点に達した戦中戦後に頂点に達したと言えるでしょうか?
この点については、政府による宣伝・教育を信じて「いざとなれば故郷の兄が面倒を見てくれる」と思って実家に仕送りして来た次男や三男あるいは嫁に行った娘達が、大恐慌による失業や米軍の空襲に焼け出されてふるさとに帰ってみると、実家ではこれを吸収する能力のないことが証明されてしまいました。
この辺のことについては、04/04/05「都市労働者の増加と家父長制の矛盾2(厄介の社会化1)女性の地位低下2」その他で何回か書いています。
こうした矛盾激化と戦後民主主義との総合結果として、敗戦直後に民法改正前の民法応急措置法が制定され、戦後改正民法のあるべき家族のあり方として両性の本質的平等・家の制度の廃止・戸主や家督相続性の廃止を定めました。
戸主=男子による一方的な財産管理権とセットになった扶養義務は否定され、夫婦相互協力義務に変化したのです。

貨幣経済化と扶養義務2(明治民法3)

 

家庭内の権限集中のテーマ意識から、リーダーシップに話題が移ってしまいしましたが、2010-12-7「貨幣経済化と扶養義務1」の続きに戻ります。
権限・財力の集中が起きて来たから、扶養義務の観念が必要になったと言う問題意識のテーマです。
上記コラム出した例で言えば、収穫したトマトや野菜をその場で・家庭内消費する限り問題ないのですが、農業社会でも貨幣経済化・・・これを市場に出して換金するようになると、1家族の中で貨幣収入(あるいは外に働きに出られる人)のあるヒトと貨幣収入のないヒトが分化して来ますので、特定人がお金を握る代わり「扶養義務」を法で規定して行く必要が出て来ます。
貨幣経済化の進展がさしあたり外で働きに出られる男性の地位を高めた点については、Published on: Sep 3, 2010 「家庭外労働と男女格差」のテーマでのブログで書きました。
貨幣経済化の進展が経済力を戸主に集中するようになって行ったことが、我が国明治民法(明治31年)747条で戸主の扶養義務が法の世界に登場し、規定されるようになった経済社会的背景だったと思われます。
明治維新以降地租改正を基礎として急速に農村にも貨幣経済化の波が押し寄せたことについては、09/03/09「地租改正6(地券)」や秩父事件に関連して09/11/09「農地の商品化と一揆の消滅2」前後のコラムで連載しました。
ここで明治民法(戦前までの制度)の戸主とはどんな権限・義務を持っていたのか条文を紹介してお置きましょう。
民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後の改正前の規定)
  第二章 戸主及ヒ家族
 第一節 総則
 第七百三十二条 戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス
 2 戸主ノ変更アリタル場合ニ於テハ旧戸主及ヒ其家族ハ新戸主ノ家族トス
 第七百三十三条 子ハ父ノ家ニ入ル
 2 父ノ知レサル子ハ母ノ家ニ入ル
 3 父母共ニ知レサル子ハ一家ヲ創立ス
 第七百四十七条 戸主ハ其家族ニ対シテ扶養ノ義務ヲ負フ

商業・交易社会とリーダーシップ

 

ところで、日本では有史以来農業が国の基本産業でした(白村江の敗戦以来原則的立場は鎖国状態・・自給自足を原則で来たことを繰り返し書きました・・このDNAが騒ぐので日本の企業は総合型自前主義にこだわって来たのです)から、利害調整・・世話役が幅を利かす社会であったのに対して、モンゴルや匈奴あるいは中央アジア等遊牧系あるいは商品交換社会では、昔から根回し・調節型よりは統率力・リーダーシップが求められていたのは、土地の痩せた地域では自給が不可能ですから、異民族との交換経済・・交易には途中の安全確保その他闘争が本質・必須だったからです。 
交換経済社会・・その前提として通商が必須ですが、気象変動の激しい砂漠の旅・あるいは海路でも瞬時の決断が集団の生死を決めますので、指導者の資質は根回しよりは果敢な決断力が必須の要件です。
日本のように合戦にあたっても軍議を開いてそこで大将が決断する仕組みでは、嵐の迫っている船は帆を下ろすのに間に合わずに嵐に呑まれてしまうでしょう。
商業社会の長かった国では、即断即決向きの国民性が出来上がっているのにたいし、農業社会経験が中心の我が国では出る杭は打たれるし、国民自身自分より優れた指導者の出現を好みません。
ですから優れた指導者の出現を望むには、国民自身の偏った平等意識を変えて行くしかないでしょう。
今後農業国・・食料生産国でも、国際商業活動に参加しない限り生き残れない時代ですから、世界中でどこの集団でも商品交換経済的決断・・リーダーシップが求められる時代になったのです。
リーダーの出現を求めるだけではなく、リーダーに委ねるように国民性自体を変えて行くしかありません。
我が国の企業がいくら技術が優れていると自慢していても、良いものさえ作れば良いと言う農業社会的発想では競争に負ける・・トータル提案力が要求されている時代で、韓国の原子力発電事業輸出にも負け続けているし、多分新幹線輸出でも大分遅れている中国にさえ遅れを取りそうになっているのです。
大リーガーの松井やイチローを見れば分るでしょうが、一定の技術がないと始まり(相手にされ)ませんが、かといって交渉能力・・エージェントがないとやって行けないのが現実です。
我が国では昔から「腕さえよければ良いのだ」と言う職人気質を尊ぶようなところがありますが、そんな偏狭な心や態度では国際競争を勝ち抜けません。

政治=実行力

大統領制の場合でも指導力を発揮しやすいと言うだけで、大統領でも法案の成立には議会通過が必要ですから、結局は議会に対する根回し能力が必須であることは結果的に議院内閣制と変わらないかも知れません。
とは言え、地位の安定性と言う面ではまるで違いますので、大統領と議院内閣制とは指導力の発揮のしやすさに置いては格段の相違があるでしょう。
対外的にパッとしなかったジョンソン大統領の時代に法案通過率がものすごく高かったことが有名ですから、どこの国でもどのような体制でもリーダーシップを発揮するには自分の地位の安定性の外に根回しの重要性を無視出来ません。
掲げるスローガンさえ正しければ強力な政治をやれる(ならば学者で十分)のではなく、正しい時代認識とそれを実行する実行力=根回し能力が必要です。
民主党には、学者系が多いこともあって、この実行力が欠けている面もあります。
実行力とはテーマが正しいだけではなく、それに向けて賛同者を増やし反対者に対する説得懐柔能力です。
我が国の最近例では、小泉政権のやり方が大きな参考になる筈です。
郵政民営化は当初自民党内でさえ賛同者が少なかったのに、彼はついにこれを成し遂げてしまいました。
見事と言うほかありません。
私はこうした政治家こそが今の日本に必要だと考えています。
小泉元総理の場合、賛同者中心にして敵対するものをたたきつぶして行く方向でしたから目立ったのですが、反対者の説得・懐柔・切り崩し策に重点を置くと裏方の仕事になるので目立ちませんが、恨みを持つ人が少なく長期政権になります。
自民党はこれが得意でしたが、こればかりにエネルギーをつぎ込む政治ですと本来の目的・テーマがあやふやになって易きにつく・・無原則・事なかれ主義的な政治になってしまいがちです。
東西冷戦終結・中国の経済解放後グローバル経済化が始まり、バブル崩壊後は、従来の政治社会のあり方を大幅に切り替えていく必要性があったのですが、自民党による根回し中心・惰性的政治の繰り返しでは、(せいぜいバラマキしか出来ず)ドラスチックな方針切り替えに向いていなかったので、政権交代になったと言うのが私の見立てです。
政権交代の基本的理由がそうであったとすれば、その理由に合わせて行動するべきです。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。