近代立憲主義7と政治活動

政治運動論と学問のすり替えについては、以下の通りです。
https://ameblo.jp/fall1970/entry-12277529472.html
2017-05-24 21:14:37

首相改憲発言は「憲法を軽んじる言辞」 学者らが批判
5月3日の安倍首相の憲法改正に関するメッセージをめぐり、法学等の専門家らから成る「立憲デモクラシーの会」が記者会見を開き、安倍発言を批判する見解を発表したそうである。
会見の場で青井未帆氏が「自衛隊を憲法に書き込むと、武力行使の限界がなくなり、9条2項が無効化する」と指摘し、石川健治氏が「(憲法に自衛隊が書かれていないことで)軍隊を持てるのかということが常に問われ続け、予算などの面でブレーキになってきた。その機能が一気に消えてしまう」と述べたとのことである。
これらは「九条歯止論」といわれるものであるが、昨年2月9日の記事で述べたようにそもそも法律論の体をなしておらず(青井氏も石川氏も憲法学者)、会見に同席した長谷部恭男氏でさえ「[法の]解釈論」とは「峻別」されるべき「運動論」(長谷部「表立っていえない憲法解釈論」『法学教室』301号所収)と切って捨てているシロモノなのである
・・「立憲デモクラシーの会」の見解なるものを見ると、まず、「自衛隊はすでに国民に広く受け入れられた存在で、それを憲法に明記すること自体に意味はない。不必要な改正である」とのことであるが、・・・安倍首相を難詰していて、安倍首相の主導による「改憲」を何としても阻止したいようであるが、そのためには自衛隊違憲論の旗をも下ろすというのであれば、ご都合主義との謗りを免れないであろう。
前記見解は「自衛隊[が]すでに国民に広く受け入れられた」という事実の規範力を承認して憲法変遷を肯定するものとしか考えられないが、「安倍改憲」を阻止するためにはもはや手段を択ばないということか。この点、長谷部氏は「主権者たる国民の行動をあらかじめ拘束することに憲法9条の存在意義がある以上、国民の意思を根拠として同条の意味の『変遷』を語る議論も背理だということになる」(長谷部『憲法の理性』東京大学出版会)と述べているのだが。
・・「立憲デモクラシーの会」の見解に戻ると、「安倍首相は北朝鮮情勢の『緊迫』を奇貨として9条の『改正』を提案したのであろうが」との前提のもとに、「たとえ日本が9条を廃止して平和主義をかなぐり捨てようとも、体制の維持そのものを目的とする北朝鮮が核兵器やミサイルの開発を放棄することは期待できない」と主張しているが、安倍首相はビデオメッセージにおいて北朝鮮情勢には一切言及していない(そもそもそんなことは百も承知であろう)。
この主張はその前提が臆断にすぎない以上、コメントする価値もないが、北朝鮮が核兵器とミサイルの開発を止めないばかりか、中国が軍拡路線をひた走っている現在、日本を取り巻く安全保障の環境は厳しさを増すばかりであるから、政治家としてはこれに対する備えを講ずべきことは当然で、そのためには憲法9条の改正が必要であればそれを国民に訴えることはむしろ義務ですらあるというべきであろう。
それを「奇禍」などと見当違いの議論を持ち出して矮小化するのはいかがなものか。
さらに、「憲法による拘束を緩めれば、軍拡競争を推し進め、情勢をさらに悪化させるおそれさえある」とのことであるが、わが国が憲法9条によって自らの手足を縛っているにもかかわらず、中国も北朝鮮もそんなことにはお構いなしに着々と軍備を増強していることをどのようにお考えなのであろうか(そんなことには関心がなく、とにかく9条によって自衛隊を抑え込むことができればそれでよいのであろう)。いかにも責任のない立場からのお気楽な発言としか評しようがない。
憲法学者はなぜこれほどまでに9条「護持」に固執するのか理解に苦しむところであるが、この点について、井上氏は、「要するに、立憲主義と平和主義が予定調和の関係にあって、それを守るのがおれたちの使命だ、みたいな。べつに学問としての憲法学とは関係ない、ある種のカルト的な使命感をもっちゃったんでしょうね、日本の憲法学は。[改行削除]自分たちは九条を守ることで日本の平和に貢献してきた、という自己欺瞞。いや、今はもう、はっきり言って自分たちでもそれが嘘だ、日本の平和は九条違反の自衛隊と安保のおかげだと気づいていると思うから、ただの欺瞞だな。ただ、立場上、旗を下ろせない、というね」と診断しておられる(井上前掲書)
・・・・愚かな国民が道を踏み外すことのないように自分たちが教導しなければならないという度し難い思い上がりが根本にあることを指摘しておく。

私の従来書いてきた(共産主義者による「国民を指導するべき前衛→エリート意識」論の思い上がりその他)意見を簡潔に書いているので大方を引用させていただきました。
公明党は今秋の総選挙での公約(だったかその頃に)で(この原稿は昨年総選挙前後に書いていたものです)
「自衛隊はすでに多くの国民から憲法違反の存在でないとの信認を得ているので、憲法に明記する必要がない」
という意見を発表して自衛隊明記反対の立場を明白にしていたような報道を見た記憶です。

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