アメリカの指導力低下3

交渉というのは明文化された事柄だけではなく、交渉過程での人格的貸し借り・・明文化しない個人的信頼がかなり重要ですが、背景にある国自体の信用がなくなると致命的です。
アメリカ自身があちこちでの約束・・明文がなくともサウジ等湾岸諸国やイスラエルを大切にするなどの無言の約束事を反古にしてしまった影響は甚大です。
無言のコミットメントを反古にするようになると、国際交渉場面でアメリカの指導力を裏付ける信用力が急速に低下します。
イラン核問題やシリア問題以降、国際会議での指導力(発言の信用力)が急速に低下し、従来のようにアメリカの思惑どおり決まらなくなってきました。
TPP交渉がまとまらないのはアメリカ担当者の能力が低いという批判もありますが、従来超大国の実現力を背景にして下駄を履かせてもらっていたのに、下駄がなくなった(約束を守れるかどうか分らなくなった)以上は、従来同様の担当者の能力で従来どおりに会議での指導力発揮を望むのは無理があります。
飛び抜けたウマに乗って勝ち進んでいた騎手が並みのウマに乗れば勝ち続けるのに無理があるのと同じで、騎手の能力が下がったのではありません。
個人の資質だけではなく、誰もアメリカ政府自体を今までのように信用しなくなっている面を重視すべきです。
(アメリカの無茶なゴリ押しであろうとも一旦決めればアメリカが押しきって実行する能力があると言う信用でアメリカの言い分に付き従う面がありました)
アメリカがどの程度将来(無言部分を含めて)約束を守れるのか・・どの程度太平洋にコミットして行くのかすら分らない・今後の動きが読めなくなると、交渉参加者は疑心暗鬼になって行きます。
中心になる国の影響力がどのくらい続くのかが読めないと大きな交渉ごとは進まないようになるのが普通で・・担当者個人の交渉能力だけが問題ではないでしょう。
アメリカの政府としての信用・交渉力が衰え始めるとアジア太平洋地域でアメリカが従来の勢力(発言力)を維持するには、自分の(政治手腕や経済力=軍事力維持)能力不足分を日本に補完してもらうしかないのが客観情勢です。
中東やその他ではアメリカの能力低下・不足分を支えてくれる日本のような国がありませんが、アジア太平洋では日本だけがその役割を担える立場です。
こう言う見方によれば、日本をアメリカが大事にするしかないようですが、このような1面的見方は意外に危険もあるので、一応検討しておくべきでしょう。
日本が補完する場合、シリアでアメリカの能力低下の補完をしたロシアとどう違うのかということですが、もともとの競争相手ロシアと友好国日本との違いだけです。
シリアではロシアに助けてもらってアメリカが恥をかいたのですが、日本に助けて貰ってTPPがやっと妥結しあるいはフィリッピンの解除警備能力が上がっても、アメリカの実力低下が世界に知られる点は同じです。
戦国大名で言えば能力がなくて隣国に負けて滅ぼされてしまったり属国になるか、有能な家老・重臣に補佐してもらって隣国大名に対抗すして独立を維持出来る代わりに有能な家老・重臣に実権が移って行くのを認めるかの違いのようなところです。
君主一人の立場で見れば重臣に乗っ取られてしまうよりは、強国に服属すれば一定の地位が保てます。
アジア・中東の植民地の歴史を見れば、ほぼすべてが全面抵抗しないで地元豪族が英仏蘭等の植民地支配の手先になって一定の地位を維持してきました。
独立国の王であれば数万の兵力を維持出来たし、必要であったのが、傀儡政権になれば自前の軍が不要なので100人程度の使用人で足りて、王は挙国に滅ぼされる心配をしないで遊んで暮らせるし、王族の日常レベルとしては却って安泰です。
取り巻き・・一族郎党にとっては、駄目な君主に従って滅ぼされたり属国になって自分たちがクビになるよりは、有能な重臣が事実上実権を握ってお家を乗っ取っても、その大名家が覇を競う強国・独立国として存続する方が良いに決まっています。
勿論国民も植民地支配という異民族による人種差別を受けながらの苛烈な支配より同一民族による支配の方が幸せです。
同一民族間での日本の戦国時代でもどうせなら隣の国か欄侵略者に支配されているよりは地元豪族が強くなってくれた方が地元民にとっては有利ですから、地元豪族が団結して戦うのが普通です。
こうして下克上・・守護〜守護大名から守護代へ・・そのまた有力家臣へと政権が移って行き戦国大名が誕生したのです。
(長尾→上杉謙信や織田信秀→信長などそう言う流れです)

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