会社の運営7(取締役の役割4)

執行部提案を否決されたら辞任しなければならないかに関するテーマ・2013年8月6日の議論に戻ります。
以前紹介したかと思いますが、2〜3年前に千葉県弁護士会では定期総会で執行部提案が二年続けて(提案事項はその都度別ですが)否決されたことがあります。
だからと言って、そのテーマに賛成出来ないというだけで執行部不信任という訳ではないので重要案件を否決されても、執行部が辞任しないで頑張ってきました。
川重の取締役会議で反対論を充分主張しないままで、直ぐに解任動議に走る体質を見れば、今でも取締役会=重役会議では上位者による執行意見を上命下服すべき伝達機関と言う意識のママ(執行役員会のような意識で)運営していたし、社員一同そのような体質的理解で来ていたと思われます。
この意識を前提にすれば、上位者の提案(命令)に異議を唱えるのは謀反にあたる・・反対・反抗する以上はクーデターしかないと思い詰めたのではないでしょうか?
うっかり反対意見を述べると冷や飯食いになる・・と言う恐れがあって、誰も執行部提案に反対論を述べられない風土が蔓延していたと見るべきです。
社長らがその任に堪えないような事態(社長就任後病気その他権限濫用が甚だしいなど)になったならば別ですが、意見が違うだけならば、反対論を述べてそれでも決着がつかないならば否決〜多数決で優劣を決めれば良いことです。
川重の三井贈前途の合併提案は社長が病気等で任に堪えないというのでもなく、不正行為をしたというのでもなく、単に意見相違というだけですから、いきなりの解任動議の提出は、法形式を(濫用して)イキナリ法に形式的に則って、実質的クー・デターを起こしたものと理解すべきなのでしょう。
日本の多くの会社では、役員は社長がお願いして(社長の指名で)なってもらうものですし、(役員が社長を選ぶのは法形式に過ぎず実態は逆です)その結果取締役会は社長の意向伝達機関としてずっとやってきました。
法的には、逆に代表者の選任・解任機関であった・・法形式と実態とがかけ離れていたことを利用して、平取締役が多数を恃んでいきなりクーデターを起こしたのが日本社会に衝撃を与えているのです。
そもそも大方の株主総会では、社長派と反社長派に分かれてそれぞれの取締役を選任する例は滅多になく、普通は社長のやり易いように一丸となれるような執行体制のトータル承認形式が普通です。
余程揉めている会社でない限り、次期社長は事前に内定して報道もされていますし、その後にそのとおりの総会決議がされます。
内閣総理大臣が衆議院で選ばれて,総理が内閣構成員を選任する場合、総理が意に沿わない閣僚を個別に罷免するのも理が通っています。
会社の場合は、全員が総会で選ばれて、その互選で代表者を決めるので法的には対等な関係ですが、実際には内閣のように誰を次期トップにするかが事実上内定していて、トップ予定者の人選によるその他の取締役と一緒にトップも選任される・・総会はその信任をしているのが実態です。
こう言うセット選任を得ている場合、その後に個人的好き嫌いで、社長派と反社長派に分かれて、タマタマ反社長派が多くなったからと言って社長解任動議で解任出来るのでは、セット選任している株主に対する背信行為・実質的裏切りにならないのでしょうか?
法的には上記のとおり合法的ですから、誰も(マスコミも含めて)公に「そんなことして良いの?」とは言えません・・。
今回の騒動をクーデター・・実質的違法な実力行使の一種と言う理解が底流にあって・・社会に衝撃を与えているのだと思われます。
選挙で政権が変わることについて何も釈明は要りませんが、実質非合法に政権が変わるときにはエジプトのクーデターもそうですが、相応の大義名分・説明が必要です。
何故三井造船との合併反対かについては企業秘密があって公表出来ないとしても、イキナリ解任するのは、総会の実質的信任を裏切っているのですから論議を尽くすことが出来なかった事情に関する相応の説明責任がある筈です。
社長は多数決に従って執行すれば良いだけですから、多数取締役と意見が合わないからと言ってやめる必要がないし、やめさせるべきではありません。
我が国の株主総会の実態から見れば、(実態が方形式にあっていないのは上記のとおりですから実態を法形式に合致させられるならばそうすべきですが、今後も実態を日本社会が変えるつもりがないならば、)取締役会で解任するのは多数意見に従った執行をしていないとか不正行為をしているなどの場合に限るべきです。

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