金融駆け引きと為替相場

資本規制を厳しくする一方では、結果的に人民元の外為市場が成り立たなくなる・・自分で仲間外れにして貰っているよう・・国際取引が出来なくなって行きます。
日経新聞は大手メデイアらしく・・「代金の送金を禁止していない」と言う中国政府の言い分を乗せていますが、このニュースですぐにアサヒホールデングスに払ったかも知れませんが・・。
アメリカ金利上げ発表が今年の3月15日ですからまだ二週間あまりしかたっていませんが、米利上げは昨年末から織り込み済みとは言え、中国がこの金利差にどの程度持ちこたえられるかが世界の大関心事でしょう。
中国は景気下支えのために14〜15〜16年と金利を徐々に下げて来たことをこのあとで紹介しますが、米利上げがあると金利差が縮まり過ぎる→人民元下落圧力が増すので、これ以上下げるどころか上げるしかなくなります。
人民元下落を防止するには負けずに金利を上げるしかありませんが、そうなると政府主導の不動産バブルその他に急ブレーキがかかってしまいます。
とは言え仕方がないので昨年末から、年明け予定の米利上げ影響緩和のために年末から国内金利に直接関係のない香港オフショア市場で短期金利操作をして人民元投機売りを防ぎながら、国内景気対策上過剰なマネーサプライを少ししか減らさない政策を採用している様子です。
 http://seisakukinri.nekokuro.jp/543の引用です
中国の政策金利の推移(2010年~2019年)です。(10月分までしかデータがありません)
 1月  2月  3月  4月   5月   6月  7月   8月   9月   10月  11月  12月
2016年
4.35  4.35  4.35  4.35  4.35  4.35  4.35  4.35  4.35  4.35
2015年
5.6  5.6  5.35  5.35  5.1  4.85  4.85  4.6 4  4.6 4 4.35  4.35  4.35
2014年  6   6   6   6   6    6     6    6    6    6   5.6
上記のとおり14年には原則6%の金利でしたが、不景気進行に応じて15年からは5%台に下げ16年には4%台に下げていました。
ところが今年に入って様変わりです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL16HPT_W6A211C1000000/
中国にも「利上げ」の予感 進む人民元安、短期金利は急上昇           2016/12/17 0:05 日本経済新聞 電子版
NQN香港=大谷篤】米国が1年ぶりに利上げを決めたが、もう一方の経済大国、中国でも「利上げ」の雰囲気が漂い始めている。物価は上昇し、国債利回りはうなぎ登り。短期金融市場では資金逼迫の心配さえ出てきた。
 中国の金融市場では人民元安と債券安が続き、短期金利の上昇が止まらない。オンショア(中国本土)の人民元の対ドル相場は1ドル=6.94元台と8年7カ月ぶりの水準に下落。秋ごろまで過去最低の2.6%台に…」
今年1月のニュースでは以下のとおりです。
http://jp.wsj.com/articles/SB108523985882373536098045825828313247289662017 年 1 月 27 日 10:48 JST 更新
 中国人民銀行(中央銀行)が24日に金融機関に対する主要貸出金利を引き上げたことを受け、中国の国債利回りが急伸している。
 指標となる10年物国債利回りは25日、前日の3.296%から3.336%に上昇し、12月半ばにつけた直近の高水準である3.387%に近づいた。」
上記のとおり昨年末から1月に掛けて中国の金利が上昇局面に入っている様子が出ています。
それどころか以下のとおり香港オフショア市場では当局の意図的操作?によって短期金利が急騰しました。
年1回の外貨両替枠更新が1月にあるので、昨年末の外貨準備減少を見て「年間両替枠を年初に使い切ってしまおう」としてドル買いが殺到する懸念があったので、その出ばなをくじく奇襲作戦のように見えます。
以下は http://blogos.com/article/204865の意見です
 久保田博幸  2017年01月07日 11:28
中国の短期金利が一時100%となった原因
介入を行うと外貨準備が減少するが、外貨準備の減少は元安要因ともなりかねない。このため、中国政府は年が変わってから介入ではない手段を講じてきたようである。それは短期金利の操作で、いわゆる短期金利の高め誘導を行ってきた。
 比較的、元を自由売買できる香港短期金融市場で、オフショア人民元の流動性をひっ迫させ、香港銀行間取引金利(HIBOR)の翌日物が前日の16.9%から38.3%へと約1年ぶりの水準に上昇し、午後には100%を超える取引も成立したようである。ちなみに昨年1月にも香港市場で中国国有銀行を通じて、ドル売り元買いの市場介入を行ったことでHIBORが急騰し、翌日物HIBORは12日には60%台に急上昇するという場面もあった。
今回は外国為替市場での大規模な元買いドル売り介入は見送られているようで、中国の国有銀行などが短期市場への資金供給を絞ったための短期金利の急騰とされる(日経電子版の記事より一部引用)。年が変わると年間外貨両替枠が更新されて、中国からの資金流出が加速される恐れも懸念されていたことへの対処でもあったとみられる。 HIBORの上昇をみて、ヘッジファンドなど元を売っていた投機筋などが、コストの増加を嫌気して外為市場では元の買い戻しの動きを強めることとなった。人民元が急反発し、その余波で上昇し続けていたBitcoinが急落するなどした。
 ただし、インターバンク市場の流動性ひっ迫は、銀行に深刻な影響を与えかねない。企業や市場などにも影響を与えることで、昨年のような景気減速そのものへの警戒が強まることもありうる。さすがに昨年の二の舞はないと思われるものの、当面の中国人民元の行方も注意する必要がありそうである。」
上記のように(国内市場に直結しない)オフショア市場の資金供給をイキナリ絞ることで、短期金利急上昇(100%?)を演出して外国人短期投資家に金利負担をさせて売りポジション解消に成功した様子で・・一種の綱渡りです。
その他政府・人民銀行自身がデリバテイヴ取引に参加して人民元を高値誘導している様子もあるようですが、先物は安くなっているからこの先どうなるか?と言う意見もあります。
中国はアメリカ留学経験者を動員して高度技術駆使しているようですが、サイバーテロ等は技術だけアレバ出来る・社会経験や政治能力不要でしょうが、市場対策は金融工学どおりに行くわけがない・・市場との対話能力不足が1昨年夏の株暴落や昨年1月初めのサーキットブレーカー作動による大失敗等々です。
ゾンビ企業への追い貸しの結果中国の民間債務が巨額にのぼっている・GDPの伸び率を大幅に超える貸付金の増加が追い貸し分に当たると言う・・ことが従来論じられていましたが、国際批判を気にしたのか?今朝の日経新聞6pではこの多くを株式化したので4代銀行の不良債権比率が急激に縮小していると書いています。
ゾンビ企業に対する不良債権を株式に書き換えてもそんな企業の株式は価値がない筈ですから本来意味がないのですが、この裏には中国の特殊性があります。
1昨年の株式暴落以降株式市場は大口売買が禁止されたままと思われます・・その後報道がないのでどうなったかな?貸し付け債権の増減はデータ次第ですので国際的に注目されて来たのですが、株式相場ならばいくらでもサジ加減出来ると言う社会主義市場経済の妙味?を発揮出来るからでしょう。
実体経済と乖離した小手先の技術で誤摩化せるのは一時的ですから、次々といじるしかないでしょう。
留学帰りの秀才が活躍出来ることは間違いないですが・・。

騙しあい社会4(金利の駆け引き)

大名が自腹持ち出しだけではなくその家臣団も主君の命令があれば家の子郎党引き連れて自腹で軍役に参加するものであって、この生き方は末端まで行き渡っています。
日本では公的業務は、自己犠牲が原則であって上から支給されたモノを自分の懐に入れることなど出来るものではありません。
日本と社会の仕組みが根本から違う中国の歴史によれば、習近平氏による汚職摘発は元々民族・社会のトータル正義にあっていませんが、「政敵倒し目的」と「見えすいた名分」と分っている範囲が限界で、それ以上一般官僚にまでに進めると国民全部が対象ですから無理があってそれ以上進めません。
そこで、大物・即ち政敵粛清が終わった昨年半ば頃からは、汚職摘発が収束して来ました。
国民もこの辺で終わると想定して自分には及ばないと達観していたでしょう。
「習近平を批判した」かどうかが本来の基準・間違って検挙されても、表向きは賄賂をもらっていた以上は、言い開き出来ない基準なき社会・・これが専制支配の特徴です。
賄賂罪そのものは何十年も前からあるので、政権が変わった途端に(政敵支持を理由にする)処罰は形式上罪刑法定主義に反しませんが、本来の処罰基準が政敵かどうかにあるとすれば、ある政権のとき実質上非処罰だったのが政権が変わると前政権に協力していたことを実質的理由に「賄賂」罪で検挙されるのでは、一種の事後法処罰です。
要するに法・・ルールがないのと同じで国民・企業は安心出来ません。
結局旧政権近づいていても政権が変われば・恥も外聞もなく強い方に直ぐにすり寄る・旧勢力には手のひら返し・・保身のためには旧政権の秘密を売るしかないと言う程度の処世術が発達します。
権力者も権力を失えば最側近からいつ裏切られるかしれないので、権力を手放せなくなるし猜疑心ばかりでお互い心が休まる暇がない社会です。
汚職構造に戻しますと汚職をなくすには徐々に徴税率を上げて行き、その分給与をしっかり払って汚職を減らして行くべきでしょうが、これは相互性があって一方だけイキナリ出来ることではありません。
日本マスコミは賄賂の巨額さを騒ぎますが、実は国家財政的には大した資金ではありません。
曹操が兵糧不足を兵糧長官の不正の所為にして処刑した故事がありますが、個人のちょっとした汚職くらいで、曹軍百万と言われる大軍の兵糧がどうなるものではありませんから、言わば不満な兵の目くらましに使っただけです。
賄賂摘発は政敵粛清目的であって、その程度の国庫収入増ではどうにもならないので外需・・外資導入が減る+資本流出穴埋めのために何とか人民の金を吸い上げる必要に迫られています。
中国国内のバブルがガン細胞のように株式→マンションバブル→商品相場へと次々と転移して行くのは、政府と国民の騙し合いの戦場がドンドン移動して行くと見れば分りよい思います。
この一環として15年夏の株暴落直前まで政府系報道機関が率先して株式が儲かると煽っていましたし、これが15年夏に終わると株の売り逃げで儲けた人相手にマンション投機を煽ったりあの手この手の策を巡らしますし、人民はこれに乗せられたフリをしてうまく儲けて売り逃げしようと策を巡らします。
中国バブルは政府主導ですから、政府の動きを早く知る限り安心・幹部のコネさえあれば潮目がはっきり分ることです。
売り逃げ出来る自信のある情報にアクセス出来る層が厚い・・これを裏切ると大問題ですが・・のが特徴でしょう。
裸官と言って海外に逃げている層はそれほどでもない・・むしろバブルの波にのってうまく逃げられるグループの方が優秀・したたかです。
失業者が妻子を不安にさせないように貯金を取り崩して見た目の宴を派手に繰り広げているような状態ですが、その資金がいつまで続くかの心配を他人(外国人)がしている状態です。
日本的感覚で言えば、国民に対して実態を説明して質素倹約・海外旅行に行って不要不急のお金を使わないように要請するべきですが、それを頼めない・・弱みを見せると権力がおしまいになる・・政権の弱さでもあります。
弱さの原因は普段から政府が国民との信頼関係構築を怠って来た結果であり、日本流に言えば身から出た錆です。
3月18日の日経新聞記事を紹介していたように、国民の海外投資抑制を通り越して外国企業との企業間取引代金支払いまで待ったを掛けるようになると・国外企業は怖くて中国企業と取引出来なくなります。
尖閣諸島や南沙諸島のように腕力に任せて乱暴なことをすると廻りが怖がるし、韓国やフィリッピンや台湾等を威嚇するために観光客を絞ったりして、バナナなどの輸入妨害すればフィリッピン等がたちまち降参する・・勝ち誇っているつもりでしょう。
気に入らない企業には代金を払わせない・どうだこの強さは!と言うつもりでしょう。
この結果、自分自身が世界中から乱暴なことをするクニだと言うマイナス評価・効果を受けます・・。
北朝鮮のように国際取引禁止の制裁を自分で申告しているようなものですが、中国政府はその意味が分かっていないようです。
専制君主が「自分がどんな無茶でも出来る」と自慢しているようなものです。
ネット報道レベルでは中国危機説がしょっ中出ていましたが、ネットに留まらず大手の日経新聞が3月18日に日本企業への不払いが起きていると言う大ニュースを流す重みですが、取り付け騒ぎの風聞に類することを大手マスメデイアが公式に言い出したことになります。
政府が権力に任せてこんなことをしていると、いよいよ海外からの投資(回収出来ない投資をしません)が減る一方になるでしょうから、資金不足が加速します・分ってはいてもそうするしかないほど資金的に追いつめられているのでしょう。
これらの強制措置が功を奏したらしく17年2月末の外貨準備が久しぶりにプラスに転じたとの報道です。
国民が自由に資金を動かせないままで国民が黙っているとは思えません・・「下に対策あり」と言われる国民性ですから、時間経過で規制をくぐり抜ける裏技が出来上がって来るでしょうからイタチごっこになります。
2月末の外貨準備持ち直しの3月7日発表は、3月5日から始まったばかりの全人代向けお化粧の疑いもあり、この先どの程度続くか分りません。
もしかするとこんな無茶な規制は長く続かない・・続いても「下には対策」がありますので4〜5月末にはまた減少に転じるかもしれません。
3月27日に紹介した3月18日付日経新聞記事には、日本企業の決算による利益送金が集中する6月頃に大量送金不能がもしも起きると・・正念場が来るとも書かれています。
大手メデイアですから、まさか「デフォルト直前」とは書けません・・あっさりと書いているものの、ここまで来ると殆どデフォルト直前の様相をそれとなく報道していることになります。
この報道を見れば余程ノーテンキな企業でも、今後中国への進出あるいは受注活動を一旦中止して様子見に転じる筈です。
6月頃には「対策」が進んでまた外貨流出が始まっている可能性があり、別の規制が始まっているのかな?

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