基軸通貨とは1

日銀の国債引き受けに関連して金利動向・貨幣の強弱に関心を持った方が多かったと思います。
世界の金利分布を見ると、豊富な資金を有する国には資金需要が少ないことから需給の関係で最低金利を維持しているので資金不足国は低金利資金に頼る構図ですから、経済の世界では最大の資金国が基本的な力を持つことになり、資金不足国はその動き・・金利動向に従うしかない現実を表しています。
中国は豊富な外貨準備があっても、まだ世界中から企業誘致・投資資金を導入し続けないと経済が回って行かない国です。
公表されていないものの実際には昨年あたりからバブル崩壊・・それも日本の崩壊よりは激しい崩壊が始まっていることは明らかですが、それでも金利を下げられない状態です。
以下は日本と中国の金利差です。
今は公定歩合と言わずに政策金利と言っていますが・・日銀が銀行に貸し出す基準金利と思えば良いでしょう。
http://www.gaitame.com/market/japan.htmlからの引用です。
国 名   政策金利名      値       増減幅 発表日    前回値
日本O/N Call Rate Target 0.00%~0.10%  -  2012/3/13  0.00%~0.10%
Basic Loan Rate       0.30%      -   2009/1/22    0.30%

O/N Call Rate Target・・・無担保コールレート(オーバーナイト物)
Basic Loan Rate・・・基準割引率および基準貸付利率(公定歩合)

www.chinawork.co.jp/e-kinyu/2-b-b-kinri.htm – よりの引用です。

人民元金利

人民元預金金利 (2011年7月7日より)

単位:年利%
項  目 金利調整前 金利調整後
普通預金 0.50 0.50
定期預金 満期型
3カ月 2.85 3.10(+0.25)
半年 3.05 3.30(+0.25)
1年 3.25 3.50(+0.25)
2年 4.15 4.40(+0.25)
3年 4.75 5.00(+0.25)
5年 5.25 5.50(+0.25)
総合型
(普通・定期兼用型) 1年定期満期型に準拠。
同ランク金利の6割で金利を計上
出所:中国人民銀行

人民元貸出金利 (2011年7月7日より)

単位:年利%
項  目      期  間      調整前       調整後
流動資金貸出 6カ月(6ヵ月含む)     5.85       6.10(+0.25)
1年(1年含む)            6.31      6.56(+0.25)
固定資産貸出 1-3年(3年含む)    6.40      6.65(+0.25)
3-5年(5年含む)           6.65      6.90(+0.25)
5年以上                6.80      7.05(+0.25)
出所:中国人民銀行
注:貸出の条件①資本金が払い込み済み②信用ランク査定2Aまたは3A

以上の比較によれば日中の(公定歩合)金利差は約6%になります。
日本は潤沢な資金を前提に世界最低金利を提供出来る・・商品で言えば激安・最低価格提供ですから、日本の円は世界を席巻していることが分ります。
安い商品の場合、品質が落ちることがありますが、紙幣の場合品質差がないので利用コストは金利次第です。
中国は外貨準備が世界1としても、上記のとおりの高金利でないと資金を提供出来ないのですから、紙幣供給に関する国際競争力の差は明らかです。
対外純債権額では日本が世界一で中国がまだまだ遠く及ばないのは、中国の保有する外貨の内実は日本その他先進国が中国で投資した資金がドル外貨に変換されている部分が多いことを物語っています。
日本の場合外資導入によって経済発展・貿易黒字になったのではなく自前の資本で貿易黒字を稼いで来たのですが、中国の場合日本その他の外資が奔流のように流れ込んで、これが現地で全部中国人民元に両替しますので、中国政府はドルを大量に手に入れています。
トヨタやセブンイレブンが中国進出するときに日本国内で0%で借金して得た円・・例えば1000億円をドルに替えて、そのドルを中国に持ち込んで人民元に替えて中国の工場用地・店舗工事資金などを手当てします。
中国は入手したドルを市場で売ると元が上がって困るので、アメリカの国債を買うしかないのでアメリカ国債の保有が増える仕組みです。
一旦中国から外資引き上げが起きるとこの逆回転になります。
ギリシャ危機で欧米からの資金流入が細っただけで、昨年元が弱含みになったのはこの仕組みによるものです。
元は恒常的外資流入によって成り立っているとすら言えるでしょう。
ギリシャ危機で、中国はギリシャの救世主のごとく資金投入を一旦ほのめかしましたが・・あるいは人民元の内容を知らないマスコミの勝手な願望だったかも知れません。

結局何も出来ないで終わっているのは、欧州への資金拠出どころか自分の足下に火が着いていて、欧州からの資金引き上げにびくびくしている状態でしたから当然です。

上記のように中国では既にバブルが崩壊している状況にも拘らず金利引き下げに踏み切れないのは、海外からの投資資金の引き上げを恐れている状態を表しています。

自国通貨が逆流した場合2

一旦アメリカの信用に火がつくと、アメリカが値上がりしたユーロや円で下がったドルを買い戻さねばならないことから、いよいよドルが下がることになります。
世界が保有する外貨準備合計約7兆USドルあまりの内、(中国2兆ドルあまり、日本は1兆ドルあまり)アメリカが保有するのは僅かに700億ドル前後でしかありません。
これではイザとなればアメリカには買い戻す資金がないのと同じです。
(第二次世界大戦後イギリスが外貨をポンド換算で6億ポンドしか持っていなくて、対外ポンド債務=ポンド預金が100億ポンドあったことから、ポンド防衛が戦後経済の大問題であったことを後に紹介します)
ところで、自国通貨が他国の外貨準備に繰り入れられる比率が上がるとその分自国紙幣=紙切れが輸出商品のように売れる・・輸出出来ます。
たとえば、決済用資金として必要な資金としてそれまで海外で保有されている円資金が1000億円であるとした場合、円の信用が上がって備蓄用途として徐々に膨らんで(10年間で)10兆円になったとすれば、日本は実物・財貨・サービスを何も売らないで紙切れの円紙幣と引き換えに9兆9000億円分の外貨ないし、金や鉱物その他の財貨・サービスを取得出来たことになります。
自国紙幣が外国での外貨準備に使われる・・決済に必要な限度を超えたタンス預金化は国力上昇の反映とも言え、誇らしい気分(非合理な民族意識をくすぐります・・)がありますが、(その他に為替相場変動リスクがなくなるので自国通貨建て取引は日本の業者にとっては安楽で魅力です)そんな感傷に浸っているのは実は危険です。
自国通貨が外国で多く保有してくれるのは一種の借金(外国にとってのタンス預金)と同じで、いつかは(日本の国力低下時には)換金要求に曝されるリスク・・ダブルパンチになるリスクがあることを心すべきです。
外国で保有している円が多くなればなるほど、困ったときに助けになるのではなく逆に、困れば売り浴びせて来る予備軍(敵)を多くする結果になります。
日本は国債の海外投資家の保有率は僅かに約5%に過ぎないことをもって、日本経済界は安全性の尺度にしていますが、日本が少しでも弱みを見せたときに付け入られるリスクの観点から見れば、(円の売り浴びせ対策としては)海外に出回ってる円紙幣の総量=債務こそが重要です。
海外に出回っている円はいつでも求められれば、ドルやユーロ・・その時々の支配的通貨で買い戻さなければならない・・一種の対外債務(借金)であって経済的には国債と同じです。
自国通貨の海外保有量の多さ・・・基軸通貨国化を待望する論調のマスコミ報道は、支払能力もないのに借金が多いほど「自分は信用がある」と自慢している価値観の倒錯した人と同じです。
いつでも買い戻しに応じるに足る外貨準備がなければ、一旦歯車が逆転して円売り基調になれば、円為替相場が暴落してしまいます。
単純化して言えば、日本の外貨準備が1兆ドルあって、海外に出回っている円紙幣が5000億ドル分であれば、いくら売り浴びせがあってもびくともしませんが、これが逆に、外貨準備が5000億ドルしかなくて海外に出回っている円がドル換算で1兆ドル〜10兆ドルもあるときに、何かの切っ掛けでジョージ・ソロス氏のようなファンドに目をつけられると持ちこたえられません。
(実際には外貨準備は紙幣ばかりではないことと、決済用資金が必要なことから、これを全部を買い支えに使えません)

自国通貨が逆流した場合1

サブプライムローンも同じでしょうが・・金融資産は実態経済から見れば中間的経路を複雑にして膨張し過ぎている部分が多いので、時々これの是正をして債務者の支払能力の限度に是正して・・評価減して行かないとその乖離が大きくなり過ぎる・・一種のバブル崩壊まで待つのは却って危険です。
不動産バブルも同じで、途中の業者や参加者が多すぎると中間でいくらでも値上がり期待で高値に値段をつり上げて行きますが、本来はエンドユーザーの購買力以上の値上がりはバブルです。
今回のギリシャ危機も独仏等の黒字国が、南欧諸国への貸付金を支払能力以上に名目上膨らましていた咎めが出たに過ぎません。
我が国で過剰に発行された紙幣はタンス預金になって退蔵されたり、直ぐに銀行等に還流してしまい、銀行も民間資金需要がないので国債等へ還流していました。
余ってしまった紙幣の行き先は、(国債で得た資金を政府が税で財政投入資金として不足需要の穴埋めとして無理矢理に利用する以外は、)円キャリー取引としての外国人投資家への貸し付けが中心でした。
日本はここ20年前後膨大な紙幣の発行をして来ても、結果的に余剰な円紙幣を円キャリー取引を通じて国外に流出させて円を海外滞留させて、国内購買意欲上昇に繋がらなかった(国内で紙幣需要がなかったので海外に逃げた)のでインフレにならなかったことになります。
紙幣大量発行=インフレになる従来の社会・・物不足社会であれば貨幣価値が増加発行量に反比例して減価するので経済現象は簡単ですが、成熟国で多量発行してもインフレにならないままになりますと円の保有者は、そのままの額面価値を表面上保有することになります。
その間に仮に紙幣発行量が2倍になっていたら、国民は従来の2倍の金融資産を保有することになりますが、日本の国富が倍増する訳ではありません。
国富の増加は、紙幣発行量によるのではなく生産量によるのです。
生産量が増えていないのに紙幣だけ増やすといつか帳尻を合わせるしかない・・金融資産は紙幣の増刷した量に反比例していつか減価するしかない・・実態に合わせるしかない筈であると言うのが、今回のテーマです。
現在の円高局面(円高とは円紙幣の購入者が多いということです)においてもかなりの量の円紙幣が海外に流出している筈ですから、何かの切っ掛けで円取引が逆流を始めると円は大暴落(インフレ)に見舞われます。
幸い、アメリカドルもユーロも信用をなくしているので、(日本と競合していたドイツマルクはなくなってしまったし・・・)今のところ受け皿がなくて円の保有比率が上がる一方ですから、バブル崩壊後大量発行した円が海外に流出する一方・・需要が底堅いので、今のところ円が逆流する心配はありません。
世界全体で外貨準備通貨として、アメリカドル保有比率が下がる方向に進むとその分ドルを売ってユーロや円を買う・・買い替えが起きるので、貿易等の需要に基づく決済以上に要らなくなったドルがアメリカに還流します。
こうなると将来アメリカの貿易収支・国際収支がトントンになっても、(当面赤字のままでしょうが・・・)諸外国でのアメリカドルの外貨準備保有率が下がって行く分だけ、ドル売り圧力が高まることになります。

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