希望の党の公約5(正社員で働くことを支援とは?1)

希望の党の公約に戻します。
(2)若者が正社員で働くことを支援し、家計の教育費と住宅費の負担を下げ、医療介護費の不安を解消する」
と言うのですが、正社員で働く(とは終身雇用化のことでしょうか?)を「支援する」と言っても、これは(文字通り専制政治でさえどうこうできない経済のうねりで非正規化が生じているもので)政治が号令かけてできるものではありません。
ベルトコンベアー方式に始まる分業化の進展が仕事を細分化する一方であり、細切れの作業工程の結果、引き継ぎらしい引き継ぎ不要の細切れ交代就業を可能にして来ました。
マクドナルド店員やクリーニング受付で言えば、5時間前に出勤した人も1時間前に出勤した店員も顧客サービスに差がありません。
工場のラインでも同じです。
作業が細分化されて行くにつれて限定された作業能力さえ同じならばその他の総合力の比率がさがる結果、10〜20年の年功者も1〜2年前からの経験者も差異がありません。
タイピストや電話交換手のような特殊分野だけの細切れ作業分野が、家事保育や医療・介護・教育(全人格教育の掛け声があっても実際には塾の盛行に知られるように小学生相手の教育でもさえ専門分化が進んでいます)を含めてほとんどの分野に広がって来たのが現在社会です。この結果午前中だけや午後だけ、夕方から、週に2〜3日だけ働きたい人も働ける社会になっています。
正社員で働けるように支援するという時の「正社員」は何を意味するかを決めないと意味不明になります。
従来型意味では上記のような不規則〜不連続勤務しか出来ない人は臨時雇用原則で、正社員とは言われていませんでした。
社会構造が変わりつつある現在、従来型の正規非正規の区分けを前提に正規(正社員・終身雇用)社員就職支援するとすれば、時代錯誤な印象を受ける人が多いでしょう。
仮に正規(正社員)化に引き戻すのが正しいとしても「言うだけ番長」という単語がありますが、どうやって働き方を正規(終身雇用)化に変えていくかを政治家はいうべきでしょう。
「平和主義」というだけで平和は来ないので、どうやって実現するかこそ政治が語るべきなのと同様に、「正社員(終身雇用)化」普及が正しいとしてもそれをどうやって実現するかを主張してこそ政党の公約になります。
そもそも正規(正社員)と非正規(非正社員)の違いは何でしょう?
左翼生政治家は、平和主義というだけでどうやって平和を守るかの具体論がないのと同じで「正社員就職支援」というスローガンだけでは何もわかりません。
本来「正」に対する反対熟語は「不正」ですが、メデイアはしきりに「非正規」とマイナス的表現するものの、実はモグリでもなければ違法就労ではありません。
「正社員就労を支援する」の「正社員」自体曖昧模糊としていて、鳩山氏の「少なくとも県外へ!」のスローガン同様に国民に対するイメージ強調の印象です。
違法就労ならば権力者が合法化しそれまであった処罰を廃止すれば済むことですが、臨時雇用・短時間不規則勤務は違法でもない多様な雇用形態をいうに過ぎない・社会実態によるものですから、政党が「正社員就労を支援する」と言い、法令改廃だけすれば7〜8時間の連続勤務に変わるものではありません。
革新系には権力信奉者が多いので、政府が正社員を増やせといえば正社員が増えると思い込んでいる人が多いでしょうが、経済の動きはそうはいきません。
1日8時間以下の就労を禁止しても3〜4時間しか働けない人や、週に1〜2日しかバイトできない人が、毎日出勤できるようにはなりません。
あるいは、「日に数時間しか働けない人も今後正社員と呼ぶようにします」という「言葉狩り」ならば、あまり意味のない公約です。
アルバイトやパートも期間工でも皆企業にとっては正式雇用した従業員ですし、パート・バイト等も違法に企業内で働いているものではありません。
正社員とは何でしょうか?
ホンの一時期特定の歴史状況下で大手企業や公務員で主流「的」(終身雇用最盛期の高度成長期にも零細商店や個人的修理屋や中小規模の建設関連業種等々では、臨時雇用不定期就労者が国民の大半であったに思われます)雇用形態について、度重なる労働法判例によって不合理な解雇が認められない・雇用が守られるようになってきたのを、一般に終身雇用「制」といってきたに過ぎません。
労働判例の集積で守られるようになった「終身雇用」方式の被雇用者をいつから「正社員」と言うようになったのか知りませんが、その背後にはこれを正式就労形式と賞賛する意識があり、結果的に多様な労働形式を否定的に見る→画一労働形態社会にしていくべきとする意識の高い?人々が言い出したのでしょうか。
正社員・終身雇用を増やすべきかどうかの前提として、終身雇用「制」とは何か?と考えると「制度」ではなく単なる自然発生的・・多様な雇用形態の中で大きな落ち度さえなければ、希望すれば定年まで原則的に雇用が守られるようになっていた状態をメデイアが理想と考えて?これを「正式社員」それ以外は保障のない労働者=イレギュラーであり、ゆくゆくは淘汰されてくべき・・あるいは一段下に見下すべき階層を作っていく価値観があって「非正規」という言葉を普及させた用語と思われます。
共産主義思想・・労働組合に基礎を置く左翼系政党やメデイアにとっては労働組合によって守られた労働者・・これのみが「正」社員であって、この枠組みから外れたものを江戸時代の部外者「非人」的位置付けに差別化したものと思われます。
欧米の民主主義といっても元は「市民」と「それ以外」という差別思想を基礎にするのと同じ系譜に属します。
左翼系やメデイアの信奉する中国では今でも都市住民と農民戸籍にはっきり分けられて統治されているのと同じです。
韓国では大手(財閥系)企業正社員・労働貴族とそれ以外の格差が半端でない実態・このために大手(サムスン就職塾という個別企業就職塾が幅を利かしています)に就職するための専門塾が発達し就職浪人が普通になっている実態もはよく知られている通りです。
いわば、李氏朝鮮時代のヤンパン支配を就職試験で区別するようになった社会のようです。
このかなり後で書く予定ですが、欧米では何事も支配・被支配その他2項対立区分けが基本ですが、その影響下にあるように見えます。
ところで、わが国では不合理な解雇が認められないのはアルバイトやパート期間工でも同じですから、正規・非正規の問題ではなく多様な契約形態による効果の違いであり、結局は期間の定めのない雇用契約の解約事由と期間の定めのある雇用契約の解雇事由をどう区別すべきかの問題です。
また各種年金や保険加入等のインフラ参入の資格も正規化非正規かによる区別の合理性がない・・多様な就労形態に応じて多様な加入資格/あるいは給付内容を多様化すれば良いことで、非正規=何の社会保証もないという極端な格差を設けることがおかしいのです。
公権力で長期雇用を商店等零細企業(繁閑差の大きい商店やリゾートホテルなど)に強制するのは無理すぎるし、一方で短時間・不規則に働きたい需要を禁止するのも無理過ぎます。

原発賠償支援スキーム3

政府保証がついていても払う義務のあるのは債務者本人ですから、社債がいつか発行出来なくなるときに備えて本来元金を徐々に蓄積しておくべきですが、8月21〜22日に社債の仕組みで書いたように、どこの優良企業も利息さえ払って行けば良い仕組みです。
我が国の赤字国債同様にうっかりすると利息支払分までも次の社債で手当てしている企業が多いのではないでしょうか?
国債がデフォルトになるときには国債を大量に買い込んでいる国内各種金融機関も軒並みデフォルトになり、多くの貸付金も大方焦げ付く事態でしょうから、国債がデフォルトのときしかデフォルトにならない債務は、国内的には超優良債務と言えます。
ちなみに、政府保証付きでも信用がなくなって次の借り換え用の社債発を行出来ないとき・・5年もの債権とすれば5年先に政府が保証債務を払えないと言う予測が立っているときですが、実は誰も5年先のことは分らないので、現時点で既に国債がデフォルト寸前であって初めて「今払えない者が5年先の保証するなんておかしいよ!」となるものです。
原発大事故まで東電は世界の超優良企業だった筈ですが、それでもひとたび事故にあって次に借り換え用の社債発行が出来なくなりデフォルトの危機に見舞われる状態ですが、政府保証の神通力が効かなくなったときにいきなり東電や新機構が自前資金で次々と到来する社債を償還出来る筈がありません。
東電の持っている銀行株や大手国内優良株を売って資金にしようとしても、国債がデフォルト状態になれば上記のように銀行株や大手企業株の大暴落で売って資金を作るどころの話ではありません。
借り換えが出来なくなるときには、国内企業全部が連鎖倒産ですから自分のお金で払うことは全く予定していない・・元々不可能な設計です。
政府保証が現実化するとき・・機構が新規社債発行不能のときとは、政府債務が破綻して政府保証の効能がなくなったときのことですから、政府保証とは言うものの、イザ保証債務を支払うときには既に政府が破綻しているのですから、政府自身も1銭も払わない結果で終わる予定になります。
政府保証とは言っても最後は東電も機構も、政府もみんなでそろって踏み倒すことを前提にしていることになります。
このように社債や国債発行スキームは名目上発行の度に利息分を上乗せして行って膨らみますが、最後まで払う気がない詐欺みたいな仕組みです。
ニクソンショック以降、金の裏付けがなくなった後の貨幣や国債・政府保証債・大手企業の社債などは、政府や大手企業が先頭に立ってモラルハザードを拡大しているのが現状と言えるでしょう。
景気沈滞を嫌がって必ず来る景気下降期にその都度紙幣の乱発・これを吸収するための国債乱発をして来た咎めの帳尻合わせがリーマンショック以降南欧諸国など鎖の弱いところから世界を駆け巡りながら徐々に続いているのです。
この最後に来るのが我が国の国債デフォルトと言うことでしょうか?
原発被害を100%賠償しますとは言っても、実際は社債と言う紙の発行の繰り返しで先送りするだけで関係者は誰も自腹をいためない仕組みです。
政府が払えないときは、最後に一種の徳政令で終わりですから、お互い気楽なものです。

原発賠償支援スキーム2

東電が直接社債発行するならその資金用途を投資家に説明する必要がありますが、新機構が機構名義で発行する場合その資金が東電の既発債返済資金に使うのか、あるいは東電の通常の運転資金用か・新たに必要となった賠償資金用に貸し出すのかを説明する必要がないことになるのでしょう。
言わば銀行がどこに貸すかを言わないで社債を発行するのと似たような役割になっていると思われます。
銀行のように預金を庶民から集めないし決済機能を有しないものの一種の金融業になります。
(条文自体を見ないと正確には分らないのですが、会員企業にだけ提供するので・互助会的扱いも可能でしょう)
当然のことながら新機構は構成員企業が一定額を出資して設立されるのでしょうが、それでは大した金額にならないので当初発行社債で入手する資金は先ずは新機構の基金積み増し(準備金)用になってしまい、その後蓄積した基金を何の用途に貸し出すかは機構の内部処理・・密室作業になります。
銀行が返済能力の見込めないことが分っている賠償資金に貸出すのは故意の不良貸し付けとして背任行為になるのでしょうが、新機構は赤字で返済能力のなさそうな(市場判定を受けている)東電に貸す目的で設立されたのならば、貸付先である東電や原子力事業者の返済能力を気にせずに貸し出せる点が違います。
事故賠償金向けにだけ限定ならば分り良いのですが、今回の原発事故による信用不安で社債借り換え不能になっている東電の資金ショート阻止が当面の課題で出来たスキームですから、賠償資金向けに限定することは法的に不可能です。
事実上は緊急の借換債代替機能が終わり、危機を凌いだ以降は一般債務借り換え・・普通の運転資金向けの貸し付けをしない暗黙の了解があるのでしょうが、法的にはこれの区別は難しいと思います。
数日前に書いたように、条文自体がまだ入手出来ていないのではっきりしませんが、条文上の区別は難しいので、もしかしたら既発行社債・一般債権弁済向けには期間制限・・たとえば1〜2年間に到来する債権の返済目的に制限していて、市場が落ち着いたら・・その後既存債務返済用に機構が東電に貸し出すのには主務大臣の認可がいるなどとしているかも知れません。
そうしないと電力業界は、極端なことを言えば自前で社債発行しないでこの機構を利用して次々と資金導入すれば全部政府保証になってしまい、モラルハザードが起きてしまいます。(まさに焼け太りです)
8月21〜22日に掛けて紹介しているように社債は元々満期までに元利金を用意していて返済する仕組みではなく、借り換えを前提にしているのですから、借換債の発行不能な信用状態にならない限り返済不能にはなり得ない仕組みです。
政府保証債ですから政府信用がぐらついて新規発行不能にならない限り無限に借換債の再発行が続くのですから、賠償資金用に限定したとしても自前資金では返済能力が全くないのを分っていて貸しても不良貸し付けとは言わないのでしょう。
ところで、今回の事故による東電の責任を限定せずに全額賠償義務を負わせる・・無限責任とは言うものの、社債による資金調達システムでは東電は自己資金を1銭も使わないで(この世の?)終わりまで行きそうです。
機構が発行した政府保証社債を使って集めた資金を丸ごと東電が借りて原発賠償金を弁償し、その後は借換債で繰り返して行けば半永久的に借金の元本を返済する必要がありません。

原発賠償支援スキーム1

 借金先送りシステムに話を戻します。
東電も一般企業同様に22日まで紹介した「借り換え繰り返しモデル」で資金運用していた・・自己資金で返す準備金を全く用意していなかったところに、大事故が発生しました。
巨額賠償金の手当が出来ないだろうという市場予測から、・・社債の借り換えが出来なくなってしまう予測・デフォルト含みから株式の大暴落になりました。
株式の暴落が社債市場に影響しますし、社債市場でのデフォルト予測が将来を織り込んだ株式相場に反映される相互関係ですが、社債発行は1年〜半年に1回程度しかないのに対し、株式市場は毎日開いているので刻々の変化が株式市場で先ず現れる関係です。
国政選挙が仮に2〜4年に1回しかなくとも、途中の補欠選挙やしょっ中行われる地方選挙で、政権の動向を読み取るのと似た関係です。
今回の賠償支援法・スキームが緊急に必要となったのは、
   ① 東電は賠償資金がなくて早晩行き詰まる予測から、 
   ② 現在の株価が大暴落し、(2000円台から400円台まで)
   ③ 直近に期限の来る既発行済社債の償還資金用借換債の発行困難化
   ④ 既発行社債を期限に償還出来なければ倒産→原発事故処理が滞る
   ⑤ 東電の当面の資金手当の必要性
   ⑥ 事故直後に1兆2000億あまりが金融機関から緊急供給
   ⑦ 緊急資金は、次々と到来する社債償還資金にはなり得ない
   ⑧ 恒久的資金供給枠組みを造るか、賠償責任の限定が必要
   ⑨ 賠償責任限定は政治的に不可能
   ⑩ 新たに作った中間組織による社債発行=資金準備
   ⑪ 新機構から東電へ社債償還資金を供給
   ⑫ 新組織の信用力不足を政府保証で補完
   ⑬ 将来的には東電の賠償資金の手当もこのシステムを使う。

ので、賠償資金の心配が要らないと言うことでしょう。
賠償支援法ですので賠償資金を直接捻出するための法かと思うのですが、東電が賠償資金を借りられないから賠償資金の調達を今直ぐに政府が保証するのではなく、外形から見ると先ず目先の倒産を防ぐために借換債発行の代わりに機構から供給を受けられる仕組みを作ってやったことに過ぎないことになります。
(これは賠償金支払ではなく結果的に既存投資家保護になります)
そして当面の資金ショート危機が去った後で、具体化して来る賠償金支払資金もこのスキームに乗せて順次機構による新発発行社債で集めた資金から東電が供給を受けて賄って行こうとするものでしょう。
これが軌道に乗れば東電の信用不安が解消されるので、賠償資金用途以外は東電が従来通り東電名義の社債を発行して資金を循環して行くことが期待されているのでしょう。
借金に切り替えても支払義務・負債の増えた点は同じですから、利益が出ないので長期間利益配当出来ない・・株式相場には影響するでしょうが、信用不安払拭にはなります。
社債は元々半永久的に自腹では払わないシステムですから、政府保証の社債発行残高がいくら増えても東電の信用・デフォルト不安には響かないことになります。

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