消費社会と指導者視点のリスク

指導者の号令一家の経済運営は勢いがありますが、一斉型発展型経済で人件費が一斉に上がった場合・・・全産業一斉に競争力を失うので、入れ替わりに新たに伸びて行く産業がないので大変です。
低賃金を武器に国際競争上優位になっていた点では重工業も軽工業も全ての分野で同じですから、各業界で中進国の罠にはまる前に技術力アップに成功していたホンの何%かの企業以外は賃金アップについて行けなくなります。
例えば全産業で技術アップに成功していた企業が5%平均(しかない)とした場合、残り95%の企業がギブアップになります。
深圳などではバングラディシュやベトナム等との低賃金競争に負けて数年前から何千人規模の大工場の閉鎖ラッシュと言われますが、規模が大きいからマスコミ対象になっていますが、実はいろんな分野での整理・失業が始まっているものの、大量失業者の多くを吸収出来るほどの転職先がある訳がないと思われます。
輸出型産業を縮小して内需型に転換するしかないのですが、未富先老が問題になるのとと同じで、まだ内需が育っていない・・庶民の懐がまだ豊かでないので購買力の厚みが足りない・・不足します。
イキナリ内需転換と言っても生産品の大部分が輸出目的であった結果、輸出を縮小すると企業淘汰が早く進み過ぎる・・膨大な失業が予想されます。
日本が中国など低賃金国の挑戦を受けたときには日本にマザー工場を残して現地生産・・現地工場への部品輸出が残った、・例えばクルマや白物家電工場で言えば部品輸出や技術指導などの仕事が残りました。
中国の場合、自社技術がなく先進国からの技術導入なので、日本企業が第2〜3工場をベトナム等に造れば日本から部品輸出になるだけで、中国工場から輸出するべき独自技術が滅多にありません。
ベトナムやバングラデシュで生産→輸出が始まるとその分100%輸出・生産が減る関係です。
鉄鋼・石炭産業の整理だけで約600万人の失業が予定されていると言われますが(前回2月のG20で大見得を切った?)過剰設備整理公約を実行出来るかが見ものでした。
上記のとおり失速しているのは鉄鋼石炭石化製品等目につく企業だけではないのですから、日々発生している暴動に対する政府の危機感は半端ではないでしょうから、つい我慢出来ずに過大設備廃棄をちょっと進めては、こっそりテコ入れするしかないのが実情です。
実際に耐え切れずに直ぐに金融緩和した結果、5月初めには休止中の鉄鋼業などの操業再開・マンション価格暴騰などの副作用が国際的に(7月23日「中国の権力闘争激化1」に勝又氏の紹介しているフィナンシャルタイムズの記事を紹介したように)取りざたされています。
内需拡大・サービス業への人員誘導と言っても、石炭産業や製鉄所で働いていた人(現場工員)がサービス業(にこやかに接する)に転換するのは容易ではないでしょう。
急激な人員整理を避けるために?国有企業の赤字企業救済と兼ねて(金利下げは人民元下落に繋がるのでこれを防ぐために)この数ヶ月紙幣増発(・・中央銀行への準備預金率引き下げ)マネタリーベースに留まらず社会融資総量(7月28日のコラムに記載)の増加で対応して来たようです。
紙幣増発すると近いうちに人民元が下がると思うのが普通ですから、資金余力のあるコクミン・企業は損しないように急いでドルに変える動きに出ます。
(何千年といたぶられて来た歴史の結果、政府を信用していないので、こうした人民の自己保身能力が極めて高いのが特徴です)
その分外貨準備がザルの底から水が漏れるように減って行きますので、金利切り下げほど直接的ではないですが、時間経過で人民元下落圧力になっています。
中国の金融緩和分(社会融資総量)の大方は、債務の借り換えに使っているので債務が急激に増加していると言われます。
5月15日日経朝刊朝刊4面には、中国政府は景気テコ入れ政策?で、4、7兆元(リーマンショック時に4兆元投資で世界をあっと言わせたので同規模以上)の鉄道・飛行場等の公共投資計画を発表しているものの、不動産投資中心にバブル効果が出ていて、不透明な地方政府債務+融資平台(シャドーバンキング)の債券発行が急膨張している状態が始まっている。
しかし、民間投資は減速していて民間には影響が及んでいない・実需がない・・不動産バブル再燃期待政策?・・「不動産投資依存中国で強まる」と言う大見出しになっています。
中国では、バブル崩壊を先送りするためにミニバブル再燃に持ち込もうと言う魂胆でしょうし、利にさとい国民は政府がテコ入れするならば、株式相場と同様に半年〜一年は相場が続く筈だから、その間に一儲けして売り逃げしようとして再投資に踏み切っている人が多いようです。
恐ろしい国民と言えば言えますが、中国では政府主導によってサブプライムローンの拡大版が起きていてこれが破裂したときに世界にどのように激震を走らせるかが現在世界の重要課題です。
リーマンショックは・・・サブプライムローン利用者と不動産業界→金融業界だけが直接の関係者でしたが、中国の場合、多様な分野の国有企業の一斉過剰生産力→破綻と一緒になっている分が戦前のアメリカ大恐慌とメカニズムが似ています。

調整型から指導者へ

話を家庭内の扶養義務者の発生要因に戻します。
2010-12-7「貨幣経済化と扶養義務1」の続きです。
原始農耕社会でも集団生活である以上戸主・家長類似の権力構造が形成されたとしても、最初の頃はその役割の多くは各人の成果分配・調整の役割・コーディネーターでしかなかったでしょう。
我が国では、千年単位で各種組織や団体の長にふさわしい資質としては、衆より抜きん出た能力よりは(これは前回書いた強烈な平等意識の結果「出る杭は打たれ」逆に嫌われます)利害調整型能力が重視されて来たのは、この歴史が長かったことによるのです。
バブル崩壊以降政治の要点は、内部分配よりは国をどこへ向けて行くかの能力・・・内部利害調整型から団体を引っ張って行くリーダ-シップ・・信長のような能力が求められるようになっています。
実際経済界ではその頃から総合的に扱うのではなく、戦略的視点での資源の集中・廃棄のリストラが盛んになっています。
漫然と何もかも扱っているのでは、国際競争に伍して行けなくなったからです。
リストラと言うと人員整理ばかり連想するようになっていますが、元はロシアのペレストロイカの英訳で、これを和製英語にしたもので、本来の英訳としては事業活動の選択・・見直し策のことです。
このように産業界はバブル崩壊以降リストラ策が盛んですが、政治の方は国民意識の変化が遅いのでさっぱり進みません。
従来通り利害調整型ばかりが政党の幹部・党首に上がってくるし、せっかく政権が変わっても国民の方が従来通り利害調整を求めるので、新政権が右往左往してしまうのです。
沖縄の普天間基地移設問題がその典型ですが、ダムであれ、高速道路であれ両方の意見を聞いていれば何も決められなくなるのはたり前です。
自由貿易協定も両方の意見を聞いていると前に進めない・・利害調整型では、現状維持になるばかりで変化の激しい世界経済化の始まった時代にやって行けません。
以前から都市計画でも、旧市街の活性化と新都心・新市街地の成功の二兎を追い求める政策・・足し算ばかりが多く、これでは無理だと批判して来ましたが、国単位でも何を切り捨ててどの分野に注力して行くかの選択が必要なことは同じです。
政治が必要とされている集中と選択が出来ないで右往左往している・・・これを一般にバラマキと言うのですが、・・・ことに対する閉塞感・不満が、沸点に達したことが、調整型に徹して来た自民党政権崩壊への原動力だった筈です。

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