民主主義と正義11(政治資金2)

我が国の場合、12月1日の日経朝刊4面に11月30日付け官報からの情報としての記事によれば、2011年1年間の政治資金収支報告によれば全政党の収入合計が115億円前後でした。
これに比較して(民主党共和党両党の1年間の政治資金収入とは別に特定の選挙資金用としてだけで)アメリカ大統領選ではオバマ陣営だけで10億ドル・約800億円も集める予定というのですから、如何に巨額資金が動くかが分るでしょう。
我が国の場合、総理公選制ではなく、議院内閣制ですから各政党の消長・・誰が総理になれるかは議員一人一人の当落の総計で決まります。
その上小選挙区という狭い地域内の選挙ですし、選挙期間が短いこともあって資金力の差がアメリカほどの影響力を持ちません。
今回の維新の会の公認候補者資格は自前で選挙資金を用意出来ることが条件となっているようですし、この前の選挙では民主党のかなりの人が自己資金での出馬でした。
立候補するのに、アメリカの大統領選挙のような巨額資金を必要としていません。
政党全体での広報宣伝の効果がないとは言いませんし、そのためには一定の資金(これが巨額ではないと言うかは価値観次第ですが・・)が必要ですが、個々人の小選挙区(小さな千葉市だけでも周辺と併せて3選挙区ほどあります)では、マスコミやネットキャンペインによる大規模な宣伝には適していませんので、資金力の差はアメリカ大統領選ほど大きな差になりません。
今日偶然、石原慎太郎氏と新幹線で乗り合わせましたが・・乗車直前に振り向いたら彼が私の少し後ろに並んで立っていたのです・・報道で知っている顔だったので、知り合いと間違って粗忽な私はうっかり「やあ!」と片手を上げて挨拶してしまう所でした。・・・彼は今日から始まった衆議院選挙戦に際して維新の会の党首として、新幹線で移動しながら演説して回っているのでしょうが、大勢での移動だけでも大きなお金がかかります。
議院内閣制では、個々人の当選者数の合計で勝敗が決まるので、アメリカのように全国規模の党首討論やネガテイブキャンペインは、アメリカほどの威力を持たないのが幸いしています。
上記のように狭い千葉市と周辺を併せて3分割したような小さな選挙区では、候補者の具体的な顔が見えますので、草の根の日々の活動が大幅な意味を持っています。
アメリカの現状を見ていると総理公選制にすると、資金力の差で勝敗が決まる弊害が出て来る点に留意する必要があります。
日本でも軍資金・お金を出してくれる人が多い方が良いでしょうが、顔の見える小選挙区では個々人のパーソナリテイーの占める比率が大きいのが特徴になります。
資金力が追々重要になるとしても、個人からの一定額までの寄付しか認めなければ大量の寄付者が必要ですので、特定の大金持の資金に頼れません。
鳩山氏のように架空名義を利用した場合は違法として、厳しく処罰するようにすれば良いのです。
(ただし、親子兄弟の場合は元々関係が深いし特定の利害関係者による金銭による影響以上の関係ですから例外にすべきでしょう・・そうすると兄弟に一旦寄付する名義利用行為が起きますが、それは脱法行為の規制をすれば良いことです。)
以下に現行の政治資金規正法を紹介しますが、個人が2000万円も寄付出来るのでは影響力が大き過ぎます。
こう言う資金力のある人は会社経営者であることが多いでしょうから、この他に会社名義寄付、配偶者や子供、兄弟や従業員名義を借りることもあり得る・・これを禁止し取り締まるとしても、かなり潜脱出来ることを考えれば、一人2000万円では簡単に億単位になってしまうので、個人は一人100万円くらいに制限すべきだと思います。
法人や労働組合の寄付も一応制限されていますが、制限がゆる過ぎる感じです。

政治資金規正法(昭和二十三年七月二十九日法律第百九十四号)
(寄附の総額の制限)
第二十一条の三  政党及び政治資金団体に対してされる政治活動に関する寄附は、各年中において、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる額を超えることができない。
一  個人のする寄附     二千万円
二  会社のする寄附 別表省略
三  労働組合又は職員団体のする寄附         
          別表省略

民主主義と正義10(選出母体の支持獲得2)

為政者や政党の行為限界を画するための絶対的な正義の観念がなくなったので、大枠で決めておくために生まれたのが憲法制度です。
アメリカで言えばfor the peopleとは言うものの、何をすればfor the peopleになるのかは、選挙結果次第・・自国民さえ選択すれば侵略戦争でも相手人種殲滅目的でも何でも良いという無定見な国になっています。
アメリカでは、自由主義の限界を画すのが唯一連邦憲法(人権に関しては修正第何条)なのでしょう。
しかし、これでは積極的に何をするかの基準ではなく、人権を侵害しては行けないという法律家的消極基準でしかありません。
結局アメリカでは国内で多数の支持さえ受ければ、戦争をしようと何をしようと、国内の人権侵害さえしなければ、(相手国で)何を(人権侵害)しても良いという正義基準のない国になっています。
自国内でも市民権のある人は保護されるが「市民権」のない人は保護されない・・これが修正憲法が出来るまで黒人奴隷が容認されて来た憲法的基礎でした。
ところで多数の支持と言えば立派な感じですが、実際には大統領選挙資金が天文学的数字になっていることから、資金の出し手次第で正義が変わる国になっていると言っても過言ではありません。
今回のオバマ再選にはユダヤ系の資金が大きく寄与したと言われていて、11月18日当たりから(正確には、オバマ再選直後からイスラエルが対シリアなどで積極化し始めています)激しくなったイスラエルのガザ攻撃に対して、間髪を入れずにオバマはイスラエル支持を打ち出していました。
(その後エジプトの仲介で幸い停戦協定になりましたが・・・23日の報道)
ユダヤとアラブ関係について長期的にアメリカにとってどうすべきかの視点・論理などよりも支持母体への忠誠を示すことの方が重要な様子です。
(アメリカでシェールガスなど採れるようになったので、アラブの石油の価値が下がったとは言え・・露骨過ぎませんか?)
我が国の場合、元々革命がなくとも(民選ではないものの)民のためにある政府でした。
(民のかまどの煙を心配していた仁徳天皇の故事は作り話としても、こうした作り話が必要な国民性・・政府の正当性の維持には国民生活をいつも心配している姿勢を示す必要性・・価値観が、支配的だからこうした神話が作られたのです。
蒙古その他外敵から守るのも為政者を守るためではなく、為政者/領主/武士が犠牲なっても背後の民を守るために戦うものでした。
明治維新も日本民族を守るためには、政治システムを一新しないとどうにもならないという意識から始まったものです。
(だから北朝鮮の将軍様のように、薩長の殿様は政権を手に入れていません)
第二次世界大戦末期の特攻隊員も、自分の利益基準で動く中国的打算社会ならばとっくに逃げてしまったでしょうが、特攻隊員は銃後の家族や一族・村落共同体のために自分の命を惜しまずに大空の彼方へ飛んで行きました。
西洋の近代化・民主主義政体化と言っても政治目的の変更ではなく、選出方法を民選にしたに過ぎませんが、我が国は民選以前にどの階層が政権をとっても民の平安を祈らねばならない社会でした。
何のために、政府があるかの視点が文字を知るもっと前の古代から我が国ではあったのです。
民主主義体制になったことで、信念に基づいて正しいことをやりたくても、却って次の選挙で落ちるのでは困るようになって、「民意」と言えば聞こえが良いものの実際には大衆におもねる政治しか出来なくなってきました。

健全財政論11(貨幣価値の維持5)

マスコミを中心とするデフレ脱却論、インフレ期待論の合唱に応えて日銀による超低金利・「量的緩和」が長年実施されていますが、いくらゼロ金利にしても量的緩和をしても需要がないと金融仲介機能が働かず乗数効果がないのでどうにもならないのが現状です。
April 28, 2012「税金と国債の違い1)で書きましたが、リーマンショックまでは国際経済界では貨幣が発行されれば銀行の信用創造機能によって1万円札が何回も回転することによって約50倍に広がって利用されていました。
ところがずっと前から我が国に限っては、銀行の金融仲介・信用創造機能が落ちて来て発行した紙幣の大部分が(比喩的表現ですが・・)翌日には国債購入資金(創造機能ゼロ)になるようでは、信用創造機能が1〜2倍にしかなっていません。
仮に紙幣量を2倍に量的緩和をしても、50分の1に収縮したマネタリーベースが50分の1補充されるだけですから経済インパクトとしては殆ど意味がありません。
紙幣を2倍にすれば物価が2倍になるという旧来の理論が仮に今でも正しいとしても50倍利用されていたところから30倍〜20倍に収縮(収縮率は比喩的に書いているだけでデータに基づくものではありません)した状況で、元になる紙幣発行量(原料)を2倍にする=50分の1の原料だけ供給してもどうなる筈もありません。
(まして先進国・飽食の国民は紙幣供給が2倍になっても牛乳やアイスクリーム消費をこれ以上増やさない・1昨年地デジ移行で一度買ってしまったテレビをもう一度買わないばかりか、不足があればいくらで増産出来る消費材・大量生産社会になっていること、更には輸入品が穴埋めするので閉鎖社会の理論は妥当しなくなっていることを12日に書きました)
量的緩和・紙幣増発をすればそれに比例して貨幣価値が下がる・同率で物価が上がるという経済学者の理論通りになるならば、国債保有者あるいは今後の購入者にとっては死活問題ですから、インフレ目的で低金利・量的緩和を始めると報道しただけで将来の保有国債値下がりを見越しての売りが殺到し、新たな買いが成り立たなくなってしまいます。
インフレが進行する前からインフレになる見通しだけで予め新規国債引き受けがガタベリ・金利急上昇することになるでしょうが、量的緩和を始めてから何年もたつのに実際には国債は値下がりするどころか欧州危機後値上がりして(金利低下が更に進んで)います。
政府の思惑だけで経済実態に反してインフレを実現する能力が政府・日銀に仮にあるとしても、インフレ目標政策・・インフレを実現して国債価値を仮に1割減〜半額に評価減する施策を実施しながら、「これから大幅に国債相場を下げるけれど、手持ち国債を売らないで保有したままにしてくれ、今の高値でもっと買ってくれ」という都合の良い政策は実際には実行出来ません。
もしもそんなアナウンスで実施したらインフレの効果が出る前に、国債が大暴落になるでしょう。
実務の世界では銀行の信用創造機能喪失によって、紙幣の信用収縮中に原料の紙幣を仮に2〜3倍刷っても従来の50倍から20〜30倍(縮小率がはっきりしませんので比喩的表現です)に収縮している現状では物価上昇効果がまるでないことを国民全部が先刻承知ですから、日銀による量的緩和・国債引き受けを誰も恐れず国債や公社債売却に殺到しないのです。
量的緩和や超低金利政策が何の効果も出(政府には経済実態に反した政策をする能力が)ない・・無駄・効果のないことをやっているのをみんなが知ってるので、市場の反撃を受けずに政府が助かっているパラドックスです。
(中央銀行の役割は終わったと書いてきましたが、量的緩和や金利政策は日銀政策委員やエコノミストのお遊びの域を出ませんので、経済実務界では誰も相手にしていない証拠です)
今回の増税論の論拠に1000兆円もの国債があると、もし将来金利上昇になったら大変なことになるという意見がマスコミを支配していますが、国際収支黒字を維持出来ている限り黒字=資金余剰状態・・すなわち借りたい人が少なくて貸したい人が多いのですから、金利が自然(政府が上げたくとも上げられないことを昨日書きました)に上がることはあり得ません。
要は日本経済が破綻して大変なことになるか否かは、国際収支黒字を維持できるかどうかにかかっているのであって国債残高の量には関係のない話をあえてごっちゃにして国民に不安感を抱かせているのです。
心配すべきは国債発行残高の問題ではなく、繰り返しますが国際収支の結果次第です。
マスコミを覆うインフレ期待論・あるいは円安期待の結果が我が国でもしも実現するときを想定してみると、国際収支赤字(長期赤字継続で黒字の蓄積を食いつぶしたとき)が長期間連続したときしかないでしょう。
(高度成長期も物価上昇が続きましたが、このときはまだ我が国は十分豊かになっていなくてあれも欲しいこれも欲しい時代で飽食に至っていなかったからです)
長期国際収支赤字連続が実現したときには、とどまるところのない円安が始まり輸入物価の持続的上昇→インフレが来るし、国際収支赤字=資金不足状態ですから日銀が金利引き締めをしなくとも資金需要が超過しているので自然に金利が上がって、国債価格も暴落するし、日本経済にとって大変な事態になります。
国民はギリシャのように消費抑制で対応するしかない・・耐乏・緊縮生活が到来します。
財界人やエコノミストが頻りに訴えるデフレ脱却、インフレ目標・期待論は、何を期待していることになるのか、結果的に日本亡国・衰退を期待しているとしか考えられない、無責任・無茶苦茶な意見であることをFebruary 21, 2012為替相場と物価変動2(金融政策の限界1)前後で紹介しました。
繰り返しますが、デフレが続く=持続的円高によって持続的に輸入品価格が下がっていることですが、これは国力充実・国力伸張継続中の証で目出たいこと限りないことです。
失われた10年とか20年とか事実無根のデマをマスコミが流していますが、その国の通貨の評価こそが国力に対する諸外国の評価の動かぬ証拠であって、それ以上のことはありません。
国の評価が上がればその国の通貨が持続的に上がるのであって、そんな目出たいことをマスコミが何故目の敵にしているのか理解不能です。
昨年の大震災を契機に貿易黒字が縮小して逆に赤字になるなどで、日本経済に黄信号がともると、円高傾向が緩みひいては円安に振れ始めてその分いくらか物価が(電力料金を筆頭に)上がり始めます。
デフレ−ターが下がったとマスコミが喜ぶ記事が出るのですが、大局的に見ればニッポンの体力が下がるのを喜んでいるかのような変な構図です。
国債の国際化や株式の国際化(外国人に株を保有して貰って日本に何のメリットがあるのか・・例えばトヨタの株の9割を外国人が保有して日本のためになるの?)など、いろんな報道を見ても日本にとってマイナスになるようなことばかり推奨するマスコミは、もしかして外国人が牛耳っているのじゃないかと心配したくなります。

新興国の将来11(バブルとインフレ1)

中国がリーマンショック後約40兆円の財政出動すると宣言したときにその資金をどこから引っ張るのかについての報道がなかったので、以下は推測に過ぎません。
私が常々書いているように、自国通貨建ての国債の場合には、中央銀行が無制限紙幣発行(約40兆円分)をして、その紙幣で無制限に国債を引き受ける方式が可能です。
・・あるいはその応用かもしませんが、外資による中国国内への投資金をそのまま外貨準備にしないで、人民元に両替したりして国内で使う・・それでも不足する分は、外貨準備金を取り崩して人民元に両替する方式を取ったのではないかと推測されます。
これまでは人民元を国内にだぶつかせないためと人民元の為替相場が上がらないようにするためにトヨタ・日産などのドル外貨による投資があると、その資金(ドル)そのままで(人民元に両替する元が上がってしまう)アメリカの国債を買って人民元に両替しないままで来たのですが、この逆張りをやっていたと思えば良いでしょう。
リーマンショック後人民元の対ドル相場が少し上がったのは、外資による投下資金をそのままアメリカ国債購入資金にせずに国内で人民元に両替して国内で(中国政府債の引き受けに)使ったりそれでも不足する分はドル外貨準備の還流(ドルを売って人民元を買うのですから)の結果と見れば整合します。
17日の日経新聞朝刊11面では
「中国の為替制度がドルやユーロのバスケット方式なのに、ドルが下がっても対ドル相場だけ上がって来たのはアメリカに対して配慮してきた結果であり、ここに来てユーロに連動して下がっているのはアメリカに対する配慮がなくなっているからである」
と書いていますが、配慮の問題ではなく経済合理的な行動結果・ドル預金を減らしていることによるものではないでしょうか?
(ここに来てユーロと連動して下がっているのは、欧州経済依存度の大きい中国経済の実態・・対欧州貿易黒字の減少によるものでしょう)
中国が上記の通り外貨準備の取り崩し、あるいは外貨準備に回すべき資金を国内で人民元に両替して使うことによって、外貨の両替があった分だけ国内に人民元紙幣が多く出回ります。
この約40兆円分の紙幣増加が不動産バブルと食品インフレ発生の元凶になったでしょう。
何回も書いてきましたが、我が国のように生産過剰で飽食高齢化社会の国では、紙幣が2倍流通しても野菜や牛乳、アイスクリームを2倍食べたい人が少ないので消費が伸びないで預貯金が増えるだけですが、中国ではまだ飢餓線上の(大げさかも知れませんがこれに類する)国民が何億人といますので、紙幣が仮に2倍手に入れば消費材全部平均に資金が向かうのではなく、底辺層では生鮮食品に集中しますので消費が2倍どころか5〜10倍に伸びることになるのは当然です。
一定の収入以上になっている・・例えば上海の中間層にとっては食料品への渇望は卒業していますが、今度はマイホーム入手が夢ですから、そこへ殺到します。
仮に5%の紙幣増刷供給増があったとすれば、生鮮食品と不動産にこれが集中したので食品関連では50〜100%前後のインフレとなり不動産関連ではバブルとなってしまったのです。
補助金の関係で白物家電製品等へのシフトもありましたが、これは元々リーマンショック→輸出減による生産縮小の下支え目的ですし、需要に応じていくらでも増産可能なので、インフレにはなりません。
すなわち現在社会では、工業製品は補助金を出しても(車であれパソコンであれ・・)生産過剰の下支えになるだけで物価上昇には全く寄与しませんが、(我が国でテレビの地デジ移行に伴う特需がありましたが、量が売れただけで値上がりはしませんでした)食品関係は(野菜であれ豚肉であれ・・牛乳であれ)需要急増に合わせて増産を始めても一定期間かかるのでその間急激なインフレになります。

構造変化と格差12(輸出入均衡の必要性)

前回(12月29日)円高現象を市場に委ねた場合どうなるかを書きましたが、実際には、円高対策と称して円が上がったことによって弱くなった分野を関税で保護したり補助金を出して下支えすることが多いので、乱れます
円高によって弱体化した産業を補助金で下支えすると、トヨタなど成功企業の輸出が増えるだけで弱くなった部分の輸入があまり増えずせっかく円高になっても国内産業が簡単に入れ替わって行きません。
元気な産業に入れ替わって行くことによって効率の悪い分野から効率の良い分野に人、物、金などの資源が移動して国全体の効率が上がるのです。
円が上がることによって競争力を失う分野の輸出が減り輸入が増えることによって貿易収支・為替が均衡して行くことが期待されているのですが、補助金や関税で保護すると円相場が仮に2割上がっても輸入が増えないので、為替相場がさらに実力以上(前回例で言えば20%の円高から22〜23%)に上がってしまい、国内の弱い・生産性の低い産業分野の国際競争力が更に下がります。
国際収支もギブ&テイク・・「強い分野は輸出させてもらう代わり弱いものは買いますよ」ということで成り立っているのですが、(古代からの商品交換自体がそれぞれの最適生産品交換から始まっているものです)日本の場合、強いものは遠慮なく輸出させて貰い、弱い分野はその儲けで補助金を出して競争力を底上げして、且つ関税率を引き上げて輸入させないという「アンフェアーな体制」であったことになります。
物々交換の時代には、必ず相手のものを受け取る必要があったのでこんな芸当は出来なかったのですが、貨幣が介在するようになったことから、富みの蓄積が可能になったものです。
日本では輸入したい外国製品がないとよく言いますが、実は関税や補助金で輸入させないようにして来たからです。
これでは、儲けるばかりで輸入しないのですから、黒字が溜まる一方・・結果的に円が上がる一方になります。
日本の弱い分野・・すなわち近代化の遅れた分野・生産性の低い分野に対する補助金+関税保護は、保護すればするほど、弱い分野の輸入が円高になった割には増えないので、(他方で強い分野は輸出しまくるので・・)貿易黒字が溜まり結果的に円相場が上がってしまいます。
円高に対応するための補助や保護の結果、却って円の下落を妨げ円が上がる方向に行くので、競争力がなくなる一方です。
さらに補助金があると危機バネが働かないので、(危機克服エネルギーが技術革新よりも政治に向かい勝ちで)新技術の創出率も下がります。
円高緊急対策と称する補助金支給や関税率の引き上げは、更に円相場を上げるためにやっているようなものです。
関税その他の保護処置のことを、一般的には競争力がつくまでの緩和・・時間稼ぎというのですが、実際には逆効果になっていつまでも離陸出来ない・・むしろ弱くなる一方になっていることが多いのは、円高を収めるのではなく助長することによるものです。
円の切り上げの都度ついて行けない業種・地域・・主として農業では、急激な円高対策と称して補助金で何とかしながら、輸入阻止した分だけ円が上がり、上がった円を基準にすれば余計国際相場と開きが出る構図でした。
これに対して日米繊維交渉の後で輸出の主役から降りた繊維、その次の電機交渉の結果の電機産業等は、補助・保護がなかったので汎用品としての繊維系や白物家電では輸入品に押されながらも自力で技術革新に取り組みました。
例えば東レ(東洋レーヨン)で言えば炭素繊維が特に知られています(その他化学製品を多く造っています)が、東レだけではなく、特定分野(炭素繊維に限らずいろんな素材で)では逆に世界最強輸出産業に変身して生き残っている企業がいくつもあります。
(特定分野に特化出来なくて生き残れなかった繊維系企業はほぼ消滅し・・例えば大東紡のように生き残っていても大手企業と言えないほど縮小しています)
今年1年間ご愛読ありがとう御座いました。
明日の大晦日〜1月6日までは年末年始特別コラムになり、1月8日から、今日のコラムの続きになります。

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