政治と信頼1(意思表示の責任)

不確実性とは何か?要は相手が何をするか分らない・・下の者は何をすれば良いか分らない不安・信用出来ないと言うことです。
昔から政治には周辺者の支持が必須ですが、その支持は約束を守る信頼の上に成り立っているモノで、これ形式化・・「見える化」したの中国古代の韓非子・法家の思想であり、西欧近代の法の支配です。
現在で言えばマニュアル化でしょう。
法とは、国家・為政者の支配・命令の意思表示ですが、仮に一方的に制定されたものであっても、この命令に従った者に相応の恩賞を与えたり、処罰出来ない(罪刑法定主義)など君主自身の行動も縛られる・・国民との約束です。
国家が個別国民と個々に約束出来ないので、公布と言う形式で国民全部が拘束される約束・対世効があるのが「法」であり、個別意思表示でも相手方に対して法律効果が出る・・守らねばならないのでこれを法学用語で「法律行為」と言います。
民法
第五章 法律行為
    第一節 総則
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(任意規定と異なる意思表示)
第九十一条  法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
(任意規定と異なる慣習)
第九十二条  法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。」
「法」とは国民が守るべきモノと言う意味であり、個人の意思表示に法律効果があると言うことは、意思表示したことは守るべき義務・責任が生じると言うことです。
企業が消費者の意見を聞かずに一方的に示す(民主的手続がなくとも)約款やレストランのメニューであっても予め示した取引条件・意思表示に企業自身が不特定多数の顧客に対する効果が出る・・縛られるのは「法」と個別「意思表示」の中間的場面です。
一方的命令・・通告であっても実効性を持たせるには、命令・ルール通りにしたことが褒められ、処罰されない・・しょっ中変えない・安定性・信用が重要です。
店舗も定休日や執務時をその都度変えると、せっかく行ってもお休みだったら困るので、客は安心てその店に行けません。
約束は守るが自分に不都合になると朝令暮改では、いつ変えられるか心配で国民や相手は安心出来ません。
議会制民主主義とは君主が勝手に国民に命令・約束出来ない・・側近に諮問していたのを民選の議会で作るようになった内部手続の問題であって、これを経ていない時代でも公布したり命令した途端に国民や官僚に対する約束になる点は同じです。
政治が機能するには、国民が法(政府の約束)に従っていれば大丈夫・政府を信用出来ることが大前提です。
「綸言汗の如し」言われて来た所以です。
これを世界規模に及ぼすと国際合意の重みです。
世界の覇者が法・・過去の国際合意を好き勝手に変更するのでは、民(世界の弱小国)は何を信じてよいか分りません。
アメリカは近年国力の衰えが見えるとは言え、今なお世界最大の強国ですし、アメリカの大統領は世界最高の権力者です。
この最高権力者がアメリカ主導で決めて来た過去の国際合意を自国都合で一方的に変更すると宣言しているのですから、今後アメリカ主導の国際合意をしても彼の気持ち次第で一寸先が見えないとなると、国際合意の価値が減少します。
トランプ氏は、「過去の合意をちゃぶ台返しするが、自分がした合意は守る」と言うのでしょうが、彼の任期は最長でも8年しかありません。
国際合意は長期間の行動指針ですから、大統領が変わる都度変更になるのでは、安心して長期的関係を築けません。
合意だから変更要請を断れば良いかと言うとそうは行かない現実があります。
アメリカの圧倒的影響力があって、高関税や輸入禁止、日米安保ももっと費用負担しないと撤収すると言われれば、日本は拒み切る力を持っていません。
戦前日本がアメリカの不当な要求に次々と屈服・受入れて来たのに対して最後にハルノートを突きつけられて遂に妥協の限界が来て日米戦争になりました。
戦後も自由貿易と言いながら繊維交渉、電気交渉、鉄鋼・半導体・プラザ合意などなどその他全て無理な要求全部受入れて来た歴史です。
日本は無茶な要求されれば、大方飲まざるを得ない弱い関係・・変更交渉に入れば思うままに変更出来る日米の力格差があります。
合意の変更を求めると言うのは一見公平そうですが、力関係に格差がある場合、強い方が言い出すのは一方的変更になり勝ちです。
これを横で見ている韓国がアメリカのように、日韓条約や過去の合意をスキなように反古に出来ると思うようになったように見えます。
韓国の主張や動きを見ると、オブラートで包んでいるアメリカやユダヤ系の本音をそのまま言って来る便利な存在です。
世界中が(3月11日に書いたように中国はかなりの抵抗力がありますが・)一強のアメリカから過去の合意変更を強要されると日本同様に拒み切れない関係ですから、過去の合意を変更したい・アメリカが高関税を掛けると言われるとみんな困ります。
関税を一方的に上げれば報復合戦になるとメデイアは言いますが、日本はとても報復する力を持っていません。
企業で言えば社長が変わる都度、弱い下請けに対して前社長時代の合意を下請けの不利な方向へ変更してくれと言って良いのかと言うことです。
世界最高権力者がこんなことを言い出せば、折角時間をかけて合意してもいつ変更してくれと言って来るか分らない・・権力者への信頼が失われます。
言わば事実上の強制ですから一方的に約束を破るのと結果が変わりません。
政治・権力は支配下の信頼によって成り立っているのですから、横紙破りの一方的なことを宣言すると一見権力誇示で強そうですが、アメリカ自らの世界支配構造をぶちこわす方向へ働くことになります。
国益・・王権維持のために王様は無茶しないのが鉄則です・・勇ましく荒っぽいことを主張すると一見強そうに見えますが、ヤクザがすごむのと同じでそのときの被害者一人に対しては強権を振るえますが、多くの人が眉をひそめる・・結果的に多くの信頼を失う結果になります。
アメリカにとっても長期的には損することですから、アメリカのメデイアは、国益を守るために政権の足を引っ張る方向よりは、政権を軟着陸させる方向へ協力すべきでしょう。
日本にとってもっとも危険な想定・・南シナ海や尖閣諸島問題放任政策への転換は単純レベル・アメリカンファーストの応用編でいえば、トランプ政権にとってあり得る選択肢です。

素人政治の限界6(プロの流出)

3月7〜8日頃に出した第二次入国禁止・大統領令では、施行まで1〜2週間の猶予期間を置く外、グリーンカード保持者・イラクなどを除くようにしていると報道されています。
報道なのでその他の修正部分までは分りませんが、(今回は如何にアラブ系のテロが多いかの資料をある程度集めているでしょうが・・実は大したことがない可能性がありますので、)この程度で「明白且つ現在する危険」法理の要件を緩和出来るかの読み次第でしょう。
今度は予告期間があるので、到着空港で入国拒否されるリスクを知りながら、もめ事を起こしてまで観光旅行したい人はいない・・あえて飛行機に乗って来る人はいない・・「具体的に入国禁止される人がいなければ「執行停止の裁判にならない」と言う技術的読みがあるかも知れません。
人権団体が(訴訟目的で費用負担して)エジプトなどの誰か(・・予め出来るだけ入国拒否が人道的に問題のありそうな人を選んでいるでしょう・・米国在住の子供の急病で駆けつけるとか自分自身の医療の予約で来たとか・)を入国させようとして拒否されたら待ってましたと提訴するパターンを防げません。
これを防ぐために海外大使館では多分新規ビザ発給停止しているのでしょうが、大統領令署名前からビザを持っている人の入国手続を防げません。
今回の大統領令でこう言う人を(正当な事由がある場合を除くなど抽象的に)除外しているか一律禁止かどうかです。
裁判所で「こんなレベルではダメ」となってまた違憲決定になると、関与した弁護士が恥をかく・・実務家無視の強行策が続くとこんな無茶な事件を受任していると弁護士キャリアーに傷がつく・・恥だとなって、有能な人から順に政権から逃げ出して行きます。
「自分は反対だったが意見が通らなかった」・・と言う言い訳が通用しない・・意見が違うならやめるべきだった・・居残っていた以上は連帯責任と評価されます。
行政実務家・政治任用官僚にとっても同じですから、対外行為その他無茶をすればするほどプロの官僚が恥をかき・・その都度逃げて行きますので、内部から政権弱体化が進行します。
アメリカ政界人脈は回転ドア形式・・政権交代と当時に民間に戻る仕組みですから、4年〜8年しかない政権に協力して、へまなことばかりやらされる(我々弁護士で言うと負けそうな事件ばかりやらされると)とその後の経歴に傷がつくリスクを怖がります。
政権入りすること自体が評価を下げるようになる・・「俺は誘われたが断ったよ」言う話が一般化するようになると大変です。
第1回目の大統領令が出た直後に顧客のブーイングを受けて、ウーバーの社長が大統領との◯◯委員会参加を取りやめたと報道されていました。
政権就任直後だからチームが弱体なのではなく、時間経過でやればやるほど逆に弱体化進行のリスクを抱えている印象を受け始めると雪崩を打って行きますので・・その進行を防がねばなりません。
3月12日日経新聞5p【日米の死角」では政治任用官僚約4000人で議会承認必要数は、約600人とされ3月6日現在で承認されたのはまだ16人しかないと報道されています。
トランプ氏は「厳選しているから」と主張しているらしいですが、人材確保に苦労している印象です。
人材確保・流出が気になっていて、昨日からこのテーマで書き始めていたのですが、タマタマ昨日出た新聞記事から見ても世の中の関心が私同様に人材がどうなっているかに向かい始めた・メデイアはこぞって人材供給妨害して、政権の根を枯らせる作戦に出ているのかも知れません。
ただしマスメデイアは政権が実務家不足でガタガタになることを期待しているようですが、私は逆の視点です。
この後で書きますが、世界的に製造はロボット任せの時代が来て、社会構造のサービス化進展を避けられない・・これこそが豊か社会実現ですが、そのときにどのような社会を構想するかと言う考えから見れば、彼の主張やその背景にある庶民の不満は(短絡的フラストレーションの爆発に過ぎないとバカにしないで)導き方によれば新しい社会のあり方を暗示している可能性があります。
今のところ表現や行動が乱暴過ぎて無理があるのは確かですが、思想的にうまく説明出来る人がいて、他方でこれを実現するために有能な実務家がきちんと道筋をつけてやれば新しい地平を開く1つの道になる可能性を秘めていると思われます。
この辺は後で書くとしてここでは先ず、政治意思実現には信頼が必要と言う視点で書いて行きます。
政治は信頼が基礎ですが、支持者に約束したことを本気で実行しようとシテ努力したものの、利害調整に失敗して政策を実現出来ないと結果重視の有権者からは「嘘つき」となって信頼を失います。
実務能力がなくてスローガンを実行出来ない政治家は「噓」を言わなくても、信頼を裏切った・・次から言っていることが信用されない・・信頼を失います。
従来路線踏襲でも有能な実務家に支えてもらう必要があるのに、路線大幅転換の実現には、よりいっそう実務を知り尽くした多くの有能な実務家が必要です。
就任後1ヶ月半以上経過してスローガン的発言などよりは、実際政治に関心が移って来ると実務能力に対する疑問符・・実務家がいなくてマトモな政治が出来るのか?に関心が移って来たように見えます。
私は元々アメリカの大統領が政治的にはセミプロ程度の政治経験しかなくて直截選挙でムード的に選ばれて大丈夫か?と言う心配があるのに、これを補佐すべき実務官僚1400人も大量に入れ替えてしまう制度で本当にスムースに継続的実務をやれるかの疑問を何回か書いて来ましたが、今回はその補佐すべき官僚の応募者難となれば、もっと大変なこととなります。
一般的に政権末期に発生する人材流出現象が、政権開始直後から始まっているとすれば大変です。
日本としては、折角政権の懐深く飛び込んだ以上は、折角日韓合意までこぎ着けたのに失脚した朴大統領のようになるのでは困りますので、トランプ氏が多様な意見を聞く柔軟路線にうまく切り替えて盤石の政権を作って欲しいところです。
(トランプ氏の代弁する庶民の気持ちを大事にする必要があると言う私の意見ではなおさらです)
ただし、相手の意見を聞きながらやる政治に切り替えるのはトランプ氏にとっては一種の撤退ですから、メンツもあるし旧支持者を失うリスクもあるし非常に難しい作戦です。
これについて日本的政治経験の豊富な安倍氏が、内政干渉にならない程度にどうやってうまく応援してやれるかでしょう。
兎も角トランプ政権がガタガタになって苦し紛れに取引外交に入るのは日本にとって大きなリスクですから、そうならないように、日本は政権を応援して行くしかないでしょう。
取引にはいるとどうなるか・これがトランプ流取引外交に対して日本が脅威を感じている真の危機感です。
トランプ氏は1対1の取引ならば、見えないところで譲歩することが可能・・自信があると言うイメージで、(裏返せば複雑な利害調整が苦手)これが世界を不確実性の不安に陥らせている原因です。

素人政治の限界5(「明白かつ現在の危険」)

トランプ氏は政策実行の過程で対内政策であろうと対外政策であろうと、全ての分野で利害調整無視の単純主張では何も出来ない現実に直面して行くしかないでしょう。
自分の得意とする対外強行策で相手が強い(米国内関係者が多い)からと尻込みするとメンツを失い支持を失うリスクがあります。
ここで中国の抵抗(実はアメリカ国内企業のロビー活動)が強いからと対中高関税を引っ込めると鉄鋼労働者の支持がなくなる・・この種の政権は激突しか解決の道がないのが普通です。
内政の場合には前年末予算編成時・年初には景気中立的予算で秋頃になって海外情勢の急変に合わせて補正予算で追加財政出動したり金利上下するなど時機に応じた政策発動が予定されています・・景気の足腰が弱いのに年初から金利上げするのではなく、過熱気味になるまで待つなど機動的決断が期待されています。
対外強行策スローガンの場合,経済のような情勢変更は理由になり難い・・相手が強くて歯が立たないと言う理由での方針変更は、(「少なくとも県外へ!」と言っておきながら、どこの県も手を上げてくれないからとやめるのでは、)前もって根回ししていなかったのか?嘘つき呼ばわりされかねません。
弱腰・腰砕け・足下が揺らいだと政敵から見透かされ、国内支持者を失いかねません。
敵を迎え撃つために出陣したのに方針が変わったと戦わずに城に逃げ帰るようなものです。
1月末の入国禁止令の不発以降勢いづいた反トランプ陣営の嵩にかかった攻撃で、大統領補佐官フリン氏の就任前のロシア大使との秘密交渉露見による辞任、その他政権内部もガタついて来ました。
3月4〜5日ころからは、折角議会承認を受けて正式就任した司法長官の就任前ロシア関係交渉疑惑が持ち上がっています。
1月20日就任以来まだ2ヶ月半しか経過していませんが、政治経験のない者の集団ですから、粗雑対応中心・・やることなすことミスが多くて虎視眈々と狙っていた反対派の標的になる例が増えて来ます。
このまま引き下がるわけに行かないので、入国禁止大統領令の再発行が3月7日頃に発表されていました。
これに対してハワイ州が執行停止を申し立てると言う報道が8日夕刊に出ています。
今回も違憲決定がもしも出ると政権のメンツは丸つぶれです。
今回は前回の大統領令意見決定を踏まえて修正したものですから、大統領独断ではなく、議会承認された国務省、司法省長官その他政権幹部・支配下の官僚を巻き込んで訴訟対策を考慮して修正した大統領令を発布したのですから、それでもダメとなれば政権チーム全体の実務能力に大きな疑問符がつきます。
次々と未熟な政策を打ち出すと時間経過で逆に矛盾激化も進みますので、それまで政権を持ちこたえられるかが心配です。
半年〜1年経過で政権に人材が集まれば政治能力も少しは身に付くでしょうから、逆から言えば陣容が整うまであわてて新機軸を打ち出そうとしないでじっとチャンスを待つのも政治のあり方ですが、こう言う冷静な判断すら出来ないほど未熟なのかも知れません。
分ってはいるものの、マスメデイアとの対決を煽って耳目をしょっ中引きつけることが政権維持の基礎構造になっているので、やめられないのかも知れません。
政権実務家を掌握して官僚が動き出す前に慌ててスローガンそのまま実行して失敗ばかりしていると折角入りかけた有能な人材が恥をかかないように政権から逃げ出すし、新たな就職者も2流〜3流人材にドンドン劣化して行きます。
トランプ氏は選挙用のスローガンどおり政策実行すると無理があるのを知っている・・実務家に検討させると出来ないことばかりで鳩山民主党のように行き詰まるのを恐れて、実務家チェックが入る前に敢えて拙速承知で第一次入国禁止大統領令を発布したのが真相ではないかと思われます。
1月の入国禁止・大統領令の高裁審理でのやり取りを「February 12, 2017」のコラムで
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaokanozomu/20170210-00067544/トランプの研究(6):控訴裁判所での大統領令を巡る訴訟でトランプ大統領敗北、トランプ政権に大きな打撃」の記事を一部引用しながら紹介しました。
そのとき全文を紹介しませんでしたが、その中に「緊急入国禁止しなければならないほどの危険が実際に起きているかの主張立証が足りない」点を裁判官から指摘されたときに政権側弁護士が、(急な異議申し立ててだったので?)「証拠収集する時間がなかった」と答弁していて、「準備不足だったのですね」と共和党系裁判官から優しく声かけされて弁護士が何も言えない様子が出ています。
正確なやり取りを知りたい方は上記引用記事に直截当たって下さい。
しかし、イキナリの入国禁止・人権制限をする以上は、訴訟に発展するのを想定しておくべきですし、その場合には、表現の自由規制に関して発達した「明白且つ現在の危険」のルール応用が必須でありそうなことはプロから見れば「イロハ」です。
担当弁護士としては、(異議申し立て段階での受任なので?)弁護士としては、第一審決定後短期間の異議申し立て(日本の場合2週間しかありません)だったので準備する時間がなかったと言うのは、プロ・弁護士としては一貫しています。
しかし、政権のあり方としてみると訴訟社会のアメリカで、大統領令を発布した場合99%訴訟になるのが見えているのに、訴訟になった場合の先読みをしないで実施に踏み切っていたとすればお粗末過ぎます。
プロの意見を求めると反対されるのが目に見えているので、あえて意見を求めないまま実施したのか?と言う私の憶測になるわけです。
ところで、「明白且つ現在の危険」の法理は、ウイキペデイアによれば、以下のとおりです
「明白かつ現在の危険」の基準は、1919年のシェンク対アメリカ合衆国事件(Schenck v. United States, 249 U.S. 47 (1919))の連邦最高裁判決において、ホームズ裁判官(Oliver Wendell Holmes)が定式化した。」とされています。
我が国では、
最三判決昭和42年11月21日刑集21巻9号1245頁
公職選挙法138条1項は、買収等の「害悪の生ずる明白にして現在の危険があると認められるもののみを禁止しているのではない」として、戸別訪問禁止規定に「明白かつ現在の危険」の基準の適用を否定した。」
とあるように、我が国でも知られた法理です。
ただし、憲法事件に関する素人の私にはどこまでこの法理の応用が利くかまでは知りません。
法案のように審議会や公聴会を経て議会で時間をかけて議論する場合にはいわゆる「立法事実」があるかどうかの議会判断(規制必要性が議論されます)ですが、大統領令でイキナリ実施するのは議会を経ていない分よりいっそう厳格な「明白且つ現在の危険」法理の応用・・主張立証が必須です。
実施にあたってはこの流れを読んでその準備をした上で、この資料で「行ける」と言う確信を得てから実施すべきだったでしょう。
法律家が前もって大統領令の法的成否を相談された場合、「アラブ系新規入国者に限定したテロ発生事例をあまり聞いたことがないので無理じゃないか?」・・「やるならば「◯◯等の資料を蒐集してみてそう言う資料が出れば別だが・・資料を見てからでないと分らない」と答えるのがほぼ100%でしょう。
時間を十分にかけて準備してからの大統領令の発布であるべきですから、高裁審理で1審決定後異議申し立て期間が短かったので資料準備時間がなかったと言うのでは、素人の集まりか?・漫画的です。
このやり取りの紹介文の正確性は分りませんが・・・・これを見る限り、大統領と側近はプロの意見を敢えて聞かないで・無視して強行したのじゃないかの疑念・・印象を受けます。

素人政治の限界4(絡み合っている米中経済)

関税引き揚げは(国民にとっては実質増税ですが)国内税と違いスーパー301条・・大統領令だけで実施出来ることについては、January 27, 2017に紹介しました。
しかも人権団体の標的にならないので、司法の関与もありません。
その代わりに相手がある・・中国に限らず相手国の報復を受ける覚悟がいります。戦前の大強行時にアメリカが高関税いを掛けたので、欧州諸国が報復関税を実施した結果、国際貿易が急速に縮小し、ひいてはブロック経済化=囲い込みの結果→障壁を破るための第二次世界大戦の原因になりました。
現在の中国は経済戦争の相手としてもレーガン時代のソ連とは違い、米中相互に経済関係が入り組んでいるので国民経済に及ぼす悪影響が複雑・・かなり手強い相手です。
中国から安い製品が入らなくなれば国民・消費者が真っ先に悪影響を受けることになるのは周知のとおりですが、消費材に限らず供給側から見れば、サプライチェーンが複雑に絡み合っているのでアメリカ大企業も大きな影響を受ける点が見逃されています。
元々経済規模の小さい北朝鮮やイランに対する制裁とは受ける影響の意味が違います。
中国とアメリカの経済交流規模(アメリカの貿易赤字の45%も占めるから腹が立つと言うのですが、逆にこれ)に比例した影響をアメリカ社会が受けます。
たとえば、アメリカの重要産業である自動車産業の雄・GMの復活は実は中国での現地生産・販売増加によっているほか、フォードも中国で伸ばしていると言われます。
http://www.chinapress.jp/consumption/52242
「報告によると、ゼネラルモーターズ2017年2月の、中国市場自動車販売台数は、2016年同期と比較して0.4%増加し、24万6730台となった。
ちなみに日系車は以下のとおりです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC03H0Y_T00C17A3TJ2000/
【北京=中村裕】トヨタ自動車は3日、中国での2月の新車販売台数(小売台数)が前年同月比25.1%増の8万1900台だったと発表した。日産自動車も23%増の7万4830台で、マツダも22.3%増の1万5783台となった。今年1月から小型車の購入時にかかる取得税の減税幅が縮小されたが、日系各社は引き続き、減税対象の小型車を中心に好調だ。」
トヨタが25%増で好調と報道されていますが、絶対数で見ると僅か8万台ですが、GMは1社だけで24万6730台です。
フォードもGMを追い上げていると言われますし、アメリカ系企業の存在が如何に大きいか分るでしょう。
http://response.jp/article/2017/01/20/288793.html
「米国の自動車大手、フォードモーターの中国法人、フォードチャイナは1月上旬、2016年の中国新車販売の結果を公表した。総販売台数は、新記録となる127万2708台。前年実績に対して、14%増と2桁増を達成した。」
その他にもケンタッキーフライドチキンや一般報道されていない多くのアメリカ企業が中国での現地生産・売上に頼っている現実があります。
貿易収支だけでなく所得収支を含めてもアメリカの対中収支は大赤字だから?経済制裁合戦ではアメリカが圧倒的有利と言う一般的解説のようですが、タクスヘイブン議論で有名なとおり、実はアメリカ企業は法人税逃れのために海外収益を現地温存していることを考慮する必要があります。
アメリカのデータに直截当たる能力がないので日銀の国際収支計上の説明を見ると、所得収支は「本社に送金されたものを計上」となっていることに注意すべきです。
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exbpsm6.pdf
「1.B.2.1.1.1 配当金・配分済支店収益
「直接投資家と直接投資企業の間で受払された利益配当金7、および支店の収益 のうち本社に送金されたものを計上します。」
アメリカも同じ会計処理とすれば、GMやスターバックスなどいくら中国で儲けていても本国送金しない限り統計に出ていないことになります。
法人決算では儲けがそのまま帳簿上出ていますので、米国市場での株は上がりますが、送金されないのにどうやって、配当金を払うのか?の疑問です。
素人憶測ですが別の資金勘定・・喩えば、利益送金ではなく現地企業からの貸付金・金融機関を迂回するなどで資金手当てして配当しているのでしょうか。
アメリカの海外純資産は膨大ですから、国際収支だけ見ても実態が分らない・中国で言えばGM・フォードその他企業の対中投資を中国が締め上げる対抗が可能です。
昨年来韓国政府によるサード配備決定に対して、韓国系事業に対する露骨な締め上げが日々報道されています。
ところで、中国進出企業がトランプの対中強行路線に反対かと言うとそうでもない構図が紹介されています。
散々嫌がらせされているので、この際45%関税でドンドン責め立ててこれを引っ込める代わりに、これ以上嫌がらせさせない・・逆に米企業を優遇させるようにギュッと言わせて欲しい期待があるようです。
ちょうどトランプ氏が経営している事業で、中国で申請していた特許だったかが、何年も許可を得られずたなざらしにされていたのが、トランプ氏が当選するとすぐに許可になったように、強面の仲間入りすることによって、中国で優遇されるメリットへの期待らしいです。
これだけ深く入り組んでいる米中決裂はあり得ない・どこかで折り合いを着けるに決まっている・・そうとなれば言わば当初から大きく出た方が得・トランプ氏の取引外交の成果に期待してる関係です。
投資規模で見れば先進国と後進国との関係では、後進国が圧倒的に多くの投資を受けている・・言わばその分を質にとっている関係です。
11〜12年頃までの統計しかアチコチの記事論文に出ていませんが、アメリカにとって対中投資は世界投資の約1、5%前後らしく(欧州が約55%・・内オランダだけでも13%)ので、アメリカにとって痛くも痒くもないかのような書き方が多いですが、お互いに資産凍結になれば、(中国からアメリカへの投資はごく少ないでしょうから)先進国の方が損をする関係です。
中国の持つアメリカ財務省証券の凍結をアメリカがやれると言う意見がありますが、これは準戦争状態になってからですが、中国の手段である進出企業に対する嫌がらせは(現在韓国に対する嫌がらせが露骨ですが・)準戦争状態にならなくともじわじわ「合法的」にやれます。
http://www.japan-world-trends.com/ja/cat-1/post_1098.phpによると、以下のとおりです。
「1)米国の対中直接投資残高は2010年末で604億5200万ドル。2000年に比べて5.4倍(この期間、全海外に対しては3.0倍)に増えているも、全海外に対する直接投資残高の僅か1.5%(日本に対しては2.9%)に過ぎない(但し増加分の中での比重はもっと大きい)」
上記は2010年までの投資残ですが、その後米中関係は日中関係のような反日暴動もなく、安定的に投資が続いていますので、今ではもっと投資残が大きくなっているでしょう。
アメリカにとって僅か1、5%と言っても絶対額が大きいから、上記のとおり604億ドル・・約6兆円以上も投資している・もしも米中紛争がエスカレートしてお互いの意地の張り合いで、後に引けないような紛争になると、中国進出企業だけで被害を受ける業界が6〜7兆円規模もある・・サプライチェーン関連の米国内企業も無数にある・・その分米国内で取引解決を求める裏の動き・ロビー活動が活発化するでしょう。
こうなって来ると、国内政治は予算が必要なために議会との協調(利害調整)が必要なように対外交渉も国内産業利害の縮図である点は同じであることが分ります。

素人政治の限界3(ユネスコ運営)

尤もダーテイ資金に汚染され放題の後進国も同じ1票ですから、無理がある・・一緒にやってられない気持ちも分ります・・一概にアメリカの政治能力不足の所為ばかりとは言えませんが・・。
そうとすれば、むしろその方面から議論を起こせば良いこと・・こう言う議論が成り立つかは別として、その不満があることは確かでしょう。
続いて日本も南京虐殺を世界遺産指定したことに不満で昨年度から分担金支払を止めていることを紹介しますが、単純1票制度に無理が出ていることは確かですが、これは日本のユネスコに対する不満のところで書きます。
タマタマ今朝の日経新聞朝刊6pデープインサイト冒頭にはトランプ氏の脅威は・本音はまさにこの「単純1票制度」に対するアメリカの不満の代弁・国際機関に対する挑戦であると言う意見から始まっています。
ただし、パレスチナ問題では正義がない印象ですから(ただしマスメデイア情報によるだけで、私には本当のところは分りませんが・・)無理があるようにも見えます。
パレスチナ問題でどちらに正義があるかは別として国際紛争を裁いて、どちらが正しいかの基準で運営するのではユネスコの設立趣旨に反するように思えますが・・。
以下は、ユネスコ憲章前文からの抜粋です。
 「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。
ここに終りを告げた恐るべき大戦争は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代りに、無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義をひろめることによって可能にされた戦争であった。
文化の広い普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、且つすべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神をもって果さなければならない神聖な義務である。
政府の政治的及び経済的取極のみに基く平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない。」
設立趣旨を宣言した前文を読む限りでははっきりしませんが、国際平和のために基礎的な文化・教育が重要である言う趣旨で出来たとすれば、・政治紛争を裁くのではなく生々しい紛争と距離を置いて運営するのが本来の目的であったように思われます。
国家しか加入資格がない場合、例えば反政府運動体を国家と認めるかどうかはまさに政治そのものですから・・今で言えばISやクルド族が加盟申請したらどうなるかですが、政治に距離を置いているから申請あれば認めるべきと言う形式論が通るとは思えません。
パレスチナの場合、一定の安定した支配地域があって多くのクニがその存在を事実上認めているからと言う理由で政治紛争・対立の渦中にあっても加盟申請あれば認めると言う解釈で採択したのでしょうか?
アメリカの反発した決議は、2011年のパレスチナ加盟決議に対する抗議でしたが、日本も16年から支払留保にはいっています。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/13/japan-unesco_n_12481624.html
「日本がユネスコ(国連教育科学文化機関)に支払う分担金について、外務省は10月13日、2016年の分担金など約44億円の支払いを留保していると明らかにした。毎日新聞などが伝えた。
支払いを留保しているのは分担金(約38億5000万円)のほか、カンボジアの世界遺産「アンコールワット」の修復費など任意拠出を約束している約5億5000万円の合わせて約44億円。日本は例年、当初予算の成立後の4~5月には分担金を支払っており、10月時点でも支払っていないのは異例と言える。」
以上を見るとアメリカの素人政治批判だけシテはいられませんが、日本の場合には南京大虐殺世界遺産登録に対する不満です。
日本人は意見相違は許せますが、事実無視の主張が通ること・・不正に対しては怒ります。
「国連って何の巣窟なの!」と言う批判が日本では渦巻いていますが、世界多数派工作出来ない点ではアメリカと同じでしょうか?
アングラマネーをいくらでも支出出来るクニと違い、日本はそう言うお金を使えませんし、そうした競争に参加しない国是です。
(道義的)能力差を無視した対等発言権を強調する悪しき民主主義適用の結果に不満を抱き始めた点では日米共通です。
子供と大人も基本的人権としては平等ですが、政治の場面では同じこと言っても、発言の重みが違うことで社会秩序が保たれています。
最近の日本では、選挙年令を引き下げることが人権運動のような風潮を煽っていますが、長い目で見れば昔より今の方が大人になるのが遅い・未熟化が進んでいる客観事実に逆行しています。
単純化した主張をするのは、トランプ大統領一人の個性ではなく元々アメリカは多角交渉が苦手と言うか「正義」を作り上げるのに庶民が参加出来ない・・参加させると無茶苦茶になるからうまく庶民を遠ざけて参加させなかったのだと思われます。
国内では民主義と言っても、庶民を巧みに政治決定過程から遠ざけて、事実上エリート(いわゆる・ワスプや東部エスタブリッシュメント)にお任せ政治だったのですが、国際政治ではこのような二重基準が成り立たず文字どおり1国1票制度の貫徹ですから、きれいごと民主主義の無理が出て来たのです。
アメリカ程度の民度では地道な意見の擦り合わせではなく演説に興奮・盛り上がってその勢いで行動する・・直接投票する制度・・選任したら後はお任せの大統領制しかないことを、大統領制民主主義の基礎として書いてきました。
韓国の反朴騒動の激しさを見ても、落ち着いた議論で決める習慣がない・・興奮民主主義の典型・・これが大統領制を必要とする民度です。
折角アメリカ主導で合意したTPPも(結果が思うようになっていないことの不満で1対1の力で押しきりたい本音が出て)自ら壊すと主張して平然としています。
いわゆる2項対立で白黒だけつけて済めば簡単ですが、世の中は多種多様な色合いで出来ているのに白組か黒組の二種類に分けるのは無理があることに納得出来ないのです。
納得し切れない国民のフラストレーションをバックにアメリカ国民の多くが開き直って、過去の多角交渉の結果を全てご破算にすると言い出したことになります。
3月4日日経朝刊3pには、「通商方針WTOより国内法」の黒抜き見出しで出ていますが、予定どおり中国に対して関税を課すと言い張ったことがニュースになっています。
その一環として、WTO違反懸念に対しては気にしないと言う反論のようです。
就任直後の(第一次?)入国禁止令の違憲決定でミソをつけ、ロシア疑惑で補佐官のフリン氏辞任に追い込まれ、今や司法長官までロシア疑惑に曝されて防戦一方になって来ました。
二月末の大統領教書ではおとなしかった・・大人の政治に戻るのかと一時報道されていましたが、弱みを見せられないとばかりにそのすぐ後で力んだ発表をしたように見えます。
この発表によって鉄鋼業退で困っているいわゆるラストベルト地帯の支持者は喜んでいると言う報道ですが・・。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC