増税と景気効果1

仮に外貨準備が足りなくなっても純債権国の場合、海外に買ってある土地や工場売却・・・投下資本の売却などで資金回収が可能ですから、更に厚みがあることになります。
(実際には投資してしまった工場や店舗・採掘権などを直ぐ売るわけにはいかないので、実際には簡単ではないですが、そう言う厚みがあるという意味です)
今回の大地震直後イキナリ円高が進んだのはこの連想作用によるものでした。
すなわち、日本は復興資金需要のために海外投資を引き上げるのではないか、そうなると海外資産を売って円に両替する→円高の連想作用・単なる思惑で急激な円高になったのです。
このように純債権国の場合、危機になってもギリシャなどの純債務国のように(海外から借りる必要がないので)その国の通貨が暴落するのではなく逆に円高になります。
日本は今のところ国内金融資産自体が部厚いので、(国内で国債発行すれば間に合う・・国内で殆ど消化出来る実力があります)海外から資産を引き上げる必要すらないことが分って、投機家の思惑が間違いであったことが分り、春先の円高が一旦収まっていました。
復興資金として東京メトロの政府株を売却すると言えば、直ぐに都知事が買いたいと名乗り出たことからも分るように国内でまだ資金余裕があります。
海外にまでメトロ株を売りに行く・海外勢に購入してもらう必要がありません。
ただし、本来は復興需要が始まるとインフラの被害で輸出が停滞する上に無資源国日本では復興用に輸入が増える→貿易黒字の減少または赤字転落ですから、短期的には円安傾向になるべき局面に戻っていました。
これがギリシャ問題で日本の安定性が見直されて再び円高局面になって来たのです。
東京メトロ株の売却の話題が出たついでに、復興資金用に増税あるいは国有資産売却をするのと赤字国債で賄うことの違いをこの際書いておきましょう。
巨額の災害対策・復興資金が必要ですが、これ以上赤字国債発行ばかりでは大変だという常識・大震災後急に日本の国債は国内総生産の何倍だとか言ってマスコミが騒ぎ始めました。(財務省のお先棒担ぎでしょう・・?)
このマスコミのムードに乗って国の借金を余り増やさないために増税で賄うべきだと言う議論・野田政権が出て来たかと思ったら、(増税に対する反対論を和らげるために、)最近では政府の保有株や不動産を売って復興資金の一部に当てる話になって来ました。
どこかの資金の出方次第で節操なく報道するマスコミに惑わされないように、災害復旧資金源として増税・国債発行、国有資産売却の功罪を考えておきましょう。
(幸い私は弁護士業の収入で書いているのでスポンサーが不要なので気楽です)
今回は災害によって、被災した分の資産が減少していて、これを政府が何らかの補填・復旧をすることになるのですが、その補填・復旧資金を仮に100%増税で賄えば、復旧後の政府の総資産は被災前と同額まで復活します。
復旧費用100%を借金(国債)で賄えば、復旧前後を通じて資産は(被災によって政府資産が減損したまま)同じです。
(1000億円掛けて復旧しても1000億円の借金が増えているとプラスマイナス零です)
復旧資金全額を国有財産の売却で準備した場合・・橋や道路の回復に1000億円掛けて完成しても同額分の国有財産を売却していれば、借金した場合と同様一方で資産の喪失があるので資産の増減はありません。
不要・遊休資産を売却して被災地の復旧資材等に置き換えただけです。
いずれの方法も市中から紙幣を必要額だけ吸収してしまう点は、同じです。
企業施設が被災した場合、増資して復旧すれば資産が回復しますが、増資しないで、どこかの施設を売って資金を作り、それで被災施設を復旧すれば、企業の総資産は、被災のよって痛んだままです。
政府の場合、企業の増資あるいは売上増に対応するのが増税による増収です。
増税による増収がない限り、借金で賄っても国有資産を売り払っても、政府資産の増減は同じです。

8月の貿易赤字と脱原発

このまま火力に移行すると今後はものすごい燃料輸入金額になり、電気料金も現在の2倍になるというキャンペインが多くのマスコミで9月23〜24日頃から始まりました。
天然ガス・原油等の輸入が増える分ウランの輸入が減る点を報道しませんし、(ウランも自給している訳ではありません・・もし今後10年分以上の買いだめをしているなら海外へ売れば良いでしょう)これまで書いているように原発被害の心配・(・これがコストです・・)をなくすための投資や保険をかけた場合との比較をしないままです。
原発もジーゼル発電機・燃料の準備を2倍にしたりパイプライン・防潮堤を高くする等多方面の安全対策を手厚くし、膨大な損害賠償金や警備コストを経常コストに加えれば、従来よりもコストが格段に上がることが当然予想されます。
伝統的勢力やマスコミは、賠償金や補修コストがどれだけ上がるかの試算や発表をしない・・させないままですが、結果として東電どころか業界が束になっても賠償金や補修資金を払い切れないので政府保証して機構債発行でごまかす方針になったことを、September 7, 2011「損害賠償支援法1」前後のコラムで紹介しました。
これをコストに加えたら、何倍〜何十倍にも電気料金が上がる筈ですから、原発を維持する場合に上がるべきコストを明らかにして、これと火力移行の場合の比較報道をするのが公平な報道のあり方です。
これまで、本来加えるべきコストを加えないで「原発は安い」とごまかして来たときのコストを前提にして、今後火力ばかりになると輸入代金がこれだけ(昨年比)増えるという報道を繰り返しているのは偏った報道と言わざるを得ません。
(事故がなくとも資源関連は高騰しているので、輸入代金を跳ね上げることも割り引く必要があります)
原発はリスクを隠して(充分な安全対策もしないし、保険もかけずに)安いと宣伝していただけで、実際には今までのような安い発電はあり得ない・・もしかしたら火力よりも高いとことが分る筈なのに、御用学者ばかりでこの計算式をどこからも出さないままになっています。
今後原発か火力かにかかわらず、安い電力など存在しないという冷厳な事実を受け入れるしかありません。
(ただし、韓国などに比べて元々我が国の電気料金は何故2倍もしていたのか、その検証が別途必要ですが・・・)
原発コストに関する正確なデータ開示がないまま、(火力に移行すると)今後これだけ高くなるとするイメージ報道ばかりが蔓延すると、どうなるのでしょうか?
消費者向け商品の場合、政府がいくらインチキな公表をしても市民が信用しないときには、風評被害・・消費者の信用を得られなければおしまいですが、供給される電気が火力か原発によるかで消費者は選択することが出来ません。
合理的な論争をさせない問答無用方式で、支配勢力による一方的な宣伝を繰り返しているうちに、何となく火力中心にすると日本経済は持たないという意見が社会の常識になって行くのでしょうか?
中国では天安門事件以来、国民不満をそらすために、日本軍の残虐性を執拗に刷り込む教育をして来た結果、当時以降の教育を受けた中国人は心から日本を憎んでいるようです。
日本の伝統的勢力は原発コストのデータ開示をさせないまま、原油・天然ガス等の輸入が増えて実際大変なことになっている・この一面的事実の大宣伝だけで、脱原発に向かい始めた国民意識を変えようと必死です。
日本人は目隠しされたまま、支配勢力の思いのままに洗脳されて原発推進勢力に組み込まれて行くようなレベルの低い国民ばかりなのでしょうか?
戦時中のように、大本営発表以外はこそこそと個人的に話すしか出来ない時代とは違い、今はネット情報が駆け巡る時代ですし、これを正面から禁圧出来ない点が違います。

早期引退と年金赤字解消

2010-9-28「高齢者引退と年金」以来デフレ論にそれてしまいましたので、年金赤字の問題に戻しますと必要労働力量が一定とすれば、仮に定年時労働者が100万人の場合定年を1年延長すると100万人分の労働力過剰がおきます。
この過剰分が新卒・新規参入者の就職難に直結します。
一定どころか、ここ数十年は海外進出企業の増加(例えば今年の例で言えば、日産が大衆車マーチ生産を全量タイに移管しました)で国内必要労働力量は減少して行く一方です。
ある報道によれば、リーマンショック以降この秋までの約2年間で製造業の海外進出による雇用減少分が11%あまりとのことですから、定年延長がなくとも若者の就職機会がここ2年で11%も減少しているのです。
この状態のところに、定年延長あるいは高齢者雇用が進むと若者の職場は両側から攻められることになります。
国内必要労働力の減少に合わせて新規参入労働力=人口を減らせて行けば整合しますが、(人口減少政策が必要と言うのが私の基本的立場でこれまで繰り返し書いています)これには30年単位の長期ビジョンが必要ですので、1〜2年単位の不況による職場減少対策や5年前後の短期政策には間に合いません。
そこで、短期的な当面のつじつま合わせとすれば、中高年齢層の早期退場によって、景気変動に合わせて調節するのが合理的です。
従来どおり60歳で引退しているだけでは、上記のように海外進出の加速による国内職場減少分を若者が引き受けるしかないのですから、むしろ職場減少分に合わせて58→57歳と逆に定年を前倒しして行って、高齢者が若者に職場を譲ってくれないと若者の就職するチャンス・場が足りない時代です。
レストランでも美術館でもどこでもそうですが、後がつかえているときには早めに出て行って(回転を早く)もらわなければならないのに、逆にゆっくりしていくように誘導していたのでは、入口で入場者が滞留してしまいます。
若年層の失業率の引き上げ・・職場への入場制限していると、その間、時間つぶしに本を立ち読みしたりパチンコをしているようなもので若者のモラトリアムと言われる現状・フリーターや非正規雇用の増加に繋がっているのです。
思い切って定年を55歳に戻せば、5年分の雇用・・仮に年100万人の労働者としても500万人の労働力不足が起きて失業問題あるいは若者の非正規雇用問題が解決します。

年金・健康保険赤字と所得構造の変化

(リーマンショックだけではなく)平成に入った頃から我が国企業の逐次海外進出の継続で、国内雇用が減少する一方だった分だけ、総労働力需要量が減少し、その分だけ総勤労所得も減り年金納付額も減って来たことになります。
これまで何回も書いていますが、税で賄う介護や医療関連職場の増加による年金納付者の増加は、その原資が税ですからこの待遇改善で納付者や納付額を増やせば増やすほど介護や医療保険の赤字補填のために税の赤字が増える・・蛸足配当同様で財政赤字になる要因としては同じどころか、これを加速させるもので本質的に意味がありません。
県営・市営住宅の滞納者を減らすために、生活保護受給に誘導しているようなものでいずれにせよ税の投入額は同じです。
(生活保護受給資格査定等その他関連の人件費分がよけいにかかるかな?)
ですから、ここで言う総労賃とは福祉関連の労賃を控除した前向きの製造・生産向け賃金と言うべきです。
成熟国・・債権国では、蓄積した所得で債券や株式の運用で稼ぐ人が増えるものですが、その結果金融資本関連所得の比重が上がり所得構造が変わって来ているのに、年金や保険制度がこれに対応していないのも赤字の一因です。
国民総所得が仮に同じでも、国内製造で稼いでいた分を海外生産で稼ぐ図式に変えると、その分国内労賃所得は減りますが、その代わり海外からの利益や所得送金が増えてきます。
仮に国内勤労所得で年収1000万円稼いでいた人が、今では半分の500万円が給与所得で残り500万円が、利子配当所得になっているとしたら、その人の年収が同じでも年金や保険納付額は半分になってしまいます。
我が国の国際収支は、高度成長期の貿易黒字中心から、平成に入って資本・所得収支黒字の比重が大きくなりつつあることを、05/26/07・・2「キャピタルゲインの時代17(国際収支表2)」で紹介しましたが、金融・資本所得や海外所得の場合その増減は、年金納付額に関係しませんので、所得構造の変化も年金や保険の赤字増大の要因です。
年金制度が勤労所得にだけ頼っている限り、(徴収対象を変えない限り)納付すべき職場・国内支給の総賃金所得が減って来た以上、総納付額が減るのは当然ですから、これの解消策として一定の所得に対する年金納付額・負担率の引き上げが数年ごとに繰り返されています。
(今年も9月頃分から、比率が引き上げられました。)
経営者にとっては、事業主の保険負担額の上昇は支払給与が同じでも実質的増税又は人件費負担増ですから、・・・海外との法人税格差・人件費格差に苦しんで海外進出しているのに保険料率引き上げによる実質的人件費アップ政策をとると正規社員の雇用は重たくなる一方なので、海外立地への逃避又は非正規雇用採用に傾きます。
バスの乗客が減ったからと言って運賃値上げばかりしていると却って客が逃げるような関係です。

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