労働収入の減少2(世代間扶養1)

マスコミによれば次世代は「年金を払った以上に受け取れないから損だ」と頻りに宣伝して年金掛け金の支払意欲をなくす方向・・あるいは世代間対立を煽る方向へ誘導しています。
老親の面倒を見たら自分の受けた恩よりも多い・損だという論法は本当に正しいのでしょうか?
そもそも昔から子世代は生み育ててもらった恩返しに親世代を扶養するのが務めでしたが、(カビ臭い道徳と言われるかも知れませんが・・)それが個々人で出来なくなった(子世代の能力不足・あるいは合理化)から年金や介護保険で見るようになった歴史を前提にすれば、マスコミの立論はこれを忘れた論法です。
今の若者が世代間の財の移転で損をしているどころではありません。
庶民の子育ての歴史を概観すれば、犬猫や鹿のように乳幼児期を過ぎれば面倒見なかったころから、読み書きそろばん程度までは面倒をみた江戸時代、義務教育まで面倒を見た明治から大正期ころまで、昭和に入るとある程度以上では旧制中学や高等女学校まで面倒見るようになり、戦後は中の下クラスでは義務教育の中卒で働きに出るのが普通の時代(昭和30年代前半まで)から昭和30年代後半以降高卒が普通となり、昭和50年代以降は短大・平成以降大卒が普通になっています。
(従来からの大卒階層では大学院まで・・)
大卒どころか大学院まで面倒見たのに(これからは弁護士資格を得ても自立出来ない若者が増えるでしょう)一人前にならずに居候してる若者さえ少なくありません。
漸く結婚して子供産んでも子育て能力が不足しているので、子育て支援センターあるいは保育所その他多額の社会的負担で何とかなっている状態です。
彼ら若者の納税負担は僅かなので、これら膨大なコストを賄うどころではないでしょう・・まだ社会全体から受益を受け続けている状態です。
日常生活で考えても親世代に子供の送り迎えを頼むなど夫婦現役で働いている人は何かと親世代の世話になって漸く育てている状態の人が多いのが現状です。
このように庶民にとっては従来に比べて子育て期間が長くなっただけでも、その分今の若者は過去の子供世代よりも多くの恩を受けているので、以前の子世代よりも多く恩返しするべき関係です。
70歳前後以上の世代では、(年金制度は昭和30年代初めころに始まったものですから、)マトモに年金を積み立てていなかった親世代の面倒をきちんと見た(私の場合長兄夫婦が面倒を見てくれました・・ここでは一般論を書いています)外に、せっかく子供世代に大金を投じても次世代非正規雇用等(オーバードクターもその一種です)で身分が安定しないために彼らに代わって親世代が年金を払っておいてやったり、家を残してやったり、あるいは生前贈与で家を買ってやったりと至れり尽くせりやって来た世代です。
70代前後世代は兄弟も多く、しかも親世代の殆どが戦争で家屋敷が丸焼けになったので何も・・財産らしい財産が残っていない世代でした。
高度成長期に地方から都会への移住が進んだ結果、せっかく空襲に遭わずに残っていた地方の家は利用不能で、都会に移転した我々世代は自前で自宅購入を余儀なくされた人が殆どです。
次世代は、親の多くが既に都会に住み自宅を取得している人が多いことと、少子化の結果、一人一人が親の家を一戸ずつ相続出来る恩恵も受けています。
すなわち、子供二人の標準的家庭で言えば、親世代と人数が同じなので親の取得した家をそっくり受け継げることになっています。
2人の場合、仮に2分の1ずつ相続するとして、結婚した相手も同様に相続していると結局親世代の遺産を100%相続出来ることになります。
(この辺は都会2世と今から都会に出る人との格差問題としてFebruary 5, 2011「都市住民内格差7(相続税重課)」前後で書いたことがあります)
現在は少子化で一人っ子も多いので祖父母世代から集中投資して貰えるので孫は多くのポケットを持っていると言われている所以です。
このように多くの兄弟で育った70歳前後の世代から見れば、次世代は親世代から歴史上最大とも言える多くの受益をしているのに、受益分の恩返しをするには自己資産形成能力が逆に大幅に落ち込んでいるのが現状です。
多くを受ければ多くを返すのが人倫の基本ですが、その能力不足が年金負担能力・・ひいては親世代扶養能力低下をもたらして、将来の年金制度維持に危険信号がともっているに過ぎません。
毎年のように親世代から次世代への贈与税関連(相続時精算課税制度など)の控除制度を延長していることから見ても、親世代から子世代への財の移転が例外でないことが分ります。
年金問題は若者世代の労働収入が伸びない・安定しない(甲斐性がない)ところに基本的な問題があるのであって、次世代の人口が減ることや世代間負担不公平に課題の中心があるのではありません。
子供が少ない分1〜2人で多くの愛情を受けて育ったのですから、親に対するお返しを1〜2人でするのは当然です。
1〜2人だから・子供が多くないので食事や旅行にも連れて行ってもらえたし、大学も行けたのに、お返しの段になって、1〜2人では負担が大きすぎると言うのではバランスが悪いでしょう。
旅館でも4〜5人1室料金は安いのですが、一人で1室にしてもらう以上は高額負担すべきは当然です。

海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)

  日本も直接投資比率が低い点が問題・・債券相場に左右されるリスクがある点は同じですが、日本の場合国内金利が世界最低水準なのでどこの国債・・もっとも信用の高い物=低金利の債券を買っても損がない(日本が世界最低金利国ですから)点が有り難いところです。
繰り返しになりますが、国の安全のためには結局は対外債権の範囲内・・長期的経常収支黒字の蓄積の範囲内で外国人投資家に保有してもらうしかない・・それ以上になると借金経済に陥っている・・危険ということです。
対外純資産と言っても直ぐに換金出来る国債や社債などと直ぐに換金出来ない直接投資がありますので、差引黒字でさえあれば安全とは言い切れませんが、債券投資残高が外国人の日本国債等対日債券保有残高以上であれば一応安全です。
(一応と言う意味は、May 1, 2012「税と国債の違い4(市場評価)」に書いたように対外債券がいくらあろうとも民族自決の視点から国債保有は外国人比率を最小限にすべきだという基本的な意見によります)
人によっては債券をすべて売ることが出来ないから・・と言う意見がありますが、それを言い出せば外国人の方も決済資金として一定額保有していなければならない点は同じで、彼らも全部売りにかけることは不可能です。
共同体維持のために使う資金が国債発行によるか税によるか寄付によるかは、あまり問題ではない・・それよりか民族資本(収入の範囲内)によるか否かが重要であることがこれまでの検討で分りましたが、その資金の出所がどうなるかが重要です。
国債発行で吸収する資金源は何かと言うと、これからは貿易黒字によるのではなく、海外投資収益の還流に頼って、(国内個人金融資産の原資です)高度な社会保障(一種の補助金です)を続ければ良いという意見もありそうですが、これの持続性を維持することが可能かどうかの検討をしておきましょう。
資金源が貿易収支黒字による場合は、その年に国民が生産した結果の超過収益ですからその超過生産に関与した人と関与出来なかった人との格差是正のために税や国債によって資金を吸収して所得の再分配をしても、それほどの問題がありません。
貿易黒字(現役労働者の収益格差ではなく)がなくなり、資本収益(退職金や年金同様に過去の労働収益です)による格差が生じているのが、現在の日本あるいは先進国共通の課題です。
現在高齢者が豊かで若者が苦しいのは、資本収益の比率が上がって来た社会で高齢者が過去の蓄積・・資本収益があるのに対して、若者には自分の現在の労働収益しかないことによります。
マスコミ報道では年金その他で次世代が損をしているかのような書き方・世代間対立を煽る報道が多いのですが、実際には、何万人に一人の大成功者以外・多くの次世代が親世代の世話になっている方が圧倒的多数でしょう。
非正規その他貧しい階層は貧しいなりに、親の県営住宅に居候したりしていて、大学を出てもマトモな職がないので食費すらマトモに入れていない若者が一杯います。
仕事がある間アパートを借りていても仕事がなくなると親の家に戻ったり(当然収入がないので1銭も入れません)している若者もいくらもいます。
(都会地の若者はこの点で有利なことを書いたことがあります)
非正規雇用どころか、普通の正規雇用に就職出来た若者でさえも、親から貰ったり、(結婚式費用を援助してもらったりマンション購入資金の一部援助をして貰ったり)あるいはまだ現に貰ってる(親の家に居候して親に負担掛けている)分より自分の方が多く出している例は万に1つもないでしょう。

労働需要減少と就労者増

在日外国人労働者数としては正規と不法滞在を合計するとここ数年間1年当たり5〜6万人以上の減少が続いていると言えるでしょう。
私が年来主張しているように、労働力の供給過剰が生じて、これに敏感な外国人労働者が減って・・・一種の社会減が生じているのです。
1月9日の日経朝刊第1面ではリーマンショック後1年間で「外国人労働者が14%、4万5000人減少した」と書かれていて、上記人口統計(では年に正規登録者数で2〜3万人減・・しかも妻子を伴って帰る人もいるのでこの減少がすべて労働者とは限りません)とは少し違いますが、出典明示していないので根拠不明ですが、企業等からの集計かも知れません。
根を生やしていない外国人(に限らず国内でも転勤族は同じです)は仕事がないとなれば逃げ足が早い(非正規雇用が多いことも大きな原因)のです。
外国人労働者がものすごい勢いで減少しているのは、結果として国内労働需給・・雇用の場が縮小していることの反映です。
日経新聞1月10日朝刊1面では、「昨年11月時点の建設業就業者数は488万人で1997年よりも200万人少ない」「工場の海外シフトが進み、09年の製造業の就業者数は92年に比べ500万人減った」(出典不明)と書かれています。
(1990年からだともっと減っているでしょう)
このシリーズで繰り返し書いているように製造業に限らずその他業種でも事務処理の電子化等によって、銀行・証券・保険その他一般業種でも大幅に就業者数が減っていますから、実数では1000万人単位の減にのぼるでしょう。
この建設・製造合計700万人の労働者減だけで考えてもこれに匹敵する人口を減らすには、(労働者700万人のバックには赤ちゃんや老人、病人・これを世話する保育士や教育関係者・医療・介護・美容・食料等のサービス業従事者・公務員等不要になる分を含めると)数千万人以上の人口減が必要です。
仮に当時の就労人口が約4500万人だったとすれば、その6〜7分の1の減少ですから、人口の6〜7分の1が減少して均衡します。
統計局ホームページでの昭和28年からの就業者数の時系列データによると、平成元年には男子約2891万人、女子1714万人の合計4605万でしたが、その後男子は徐々に増えて平成2年10月に3000万台になってから平成22年11月男性3126万人の微増に対して、女性が平成15年12月に2200万人を超えてから一進一退で平成22年11月まで微増の2329万人・・男女合計5456万人となって800万人も増えています。
この外完全失業者が300万あまりです。
700万〜1000万の雇用減に対して、逆にじりじりと就労者が増えて来たのは、失業したままでいられない・・・青森県のように域外=国外に流出出来ないので、リストラ中途退職者の多くが非正規雇用者として再就職して働き続けた外に(定年延長等による労働者増とあわせて、)男性就労者が増え続け、男性の非正規雇用化による生活維持のために主婦層が新たに働きに出て行くようになった経過が読み取れます。
統計によると高齢化による滞在人口の増加によって就労者が増え続けているのであって、年金赤字は少子高齢化による就労者減によるものではないことが明らかとなります。
世上、少子化の結果少ない労働者が高齢者を支えることになるので大変だと言われていますが、実際には支える働き手が増え続けていたのに赤字が進行しているのです。
需要減=総収入減ですから、労働者だけ増やしても減少した収入をシェアーするだけ・・一人一人は貧しくなり、国家全体の労賃収入は増えません。
給与天引きに頼る年金や保険が軒並み赤字になっているのはこの原理によるのです。
以下就労人口統計の一部紹介します。
男女計     男子   女子
平成元年 1月 Jan.   4605       2891     1714
1989   2月 Feb.   4636       2909    1727
3月 Mar.     4645      2914     1731
4月 Apr.    4658      2915      1744
5月 May     4672     2923     1748
6月 June    4682     2928    1754
7月 July    4692      2939    1753
8月 Aug.    4701     2945    1756
9月 Sept.   4689      2936    1753
10月 Oct.    4698     2935     1763
11月 Nov.   4721      2949     1772
12月 Dec.   4739      2964      1776

平成10年 1月 Jan.   5397  3245 2152
1998   2月 Feb.   5397 3251 2146

平成22年 1月 Jan.   5489   3156    2333
2010 2月 Feb.    5474    3135    2339
3月 Mar.      5485   3144    2343
4月 Apr.      5442    3132   2310
5月 May      5417    3115    2301
6月 June      5418    3131    2287
7月 July       5446    3131    2315
8月 Aug.       5451   3127    2326
9月 Sept.      5510    3139    2371
10月 Oct.      5493    3135   2360
11月 Nov.      5456   3126   2329
12月 Dec. … … …

不法滞在者

外国人登録数に関係ないとは言え、不法滞在者はそのほとんどが(水商売であれ・・)日本で働く目的での不法滞在ですから、労働需給に大きく関係しますので、念のために不法滞在者数の推移を見ておきましょう。
不法滞在者数は、法務省統計によれば、2005年1月1日現在207,299人〜2006年1月1日193,745人〜2007年1月1日現在170,839人〜2008年1月1日現在の14万9785人から2009・1・1現在の11万3072人となって最近ではほぼ毎年3万人前後減り続け、直近では約3万6000人も減っています。
不法滞在=働きに来ている人が中心でしょうから、仕事がなくなればさっさと引き上げる人(帰る金がなければ自分で出頭して、強制送還して貰えばタダで帰れます。)の比率が高い(14万人の内3万人減とすれば20%減です)のは当然です。
ちょうど外国人の正規登録数の減少幅・・毎年数万人と絶対値では似ているのですが、不法滞在者は元々外国人登録している人が少ない・・留学等で登録した後に資格喪失などもあるでしょうが・観光ビザで来た人は登録しないまま不法滞在に移行していますが、・登録比率は少ないので、ここで数字が合致しても意味がありません。
前回紹介したとおり正規登録者数がここのところ年間2〜3万人減っているのと平行して、不法滞在者も数万人づつ減っている・・実数では合計2倍の減少率と読むべきでしょう。
正規登録者の内でも、労働者数としてはもっと減っているのでしょうが、正規登録者の場合、留学・日本人配偶者等その他多目的入国が含まれているのでその分野の増加があると総合計の統計では中和されるので、労働者数の減少よりも結果の数字が小さく出ている可能性があります。
ちなみに留学生がどのくらい来ているかについて見ておきますと、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の22年12月発表のデータによれば、「平成22年5月1日現在の留学生数 141,774人  過去最高(前年比 9,054人(6.8%)増)」とされております。
留学生が増えたか減ったかは別の問題として統計を取る意味はありますが、外国人を含め総人口減少だけを騒いでも意味のないことです。
話を日本人だけの人口増減に戻しますと、2005年の2万1266人の人口減少数は日本人だけの統計ですが、その翌年には8226人の増加に戻り、2007年以降また2万人台の減少に転じて、この2010年の国勢調査でイキナリ8万人台の減少(人口の0、06%と言う厚労省のパーセント表示数字)になったものです。
マスコミは日本の総人口には統計上在日外国人も含めていることを説明せずに(外国人を含めた)総人口の減少10万7000人減だけを大きく報道していますが、(マスコミは人口減少の危機感を強調したいようです)実態は小さなものです。
日本人だけのパーセント数字では0、06%減と厚労省が発表しているので、100年かかっても6%しか減らないことになります。
これではインパクトがないので、January 5, 2011「合計特殊出生率2」で紹介したとおり、政府では今後更に出生率が低下するとした場合のシュミレーションに励んで、今後約50年で50年前(1955年)の8000万人台に戻るとする研究結果を発表しているのです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC