海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)

  日本も直接投資比率が低い点が問題・・債券相場に左右されるリスクがある点は同じですが、日本の場合国内金利が世界最低水準なのでどこの国債・・もっとも信用の高い物=低金利の債券を買っても損がない(日本が世界最低金利国ですから)点が有り難いところです。
繰り返しになりますが、国の安全のためには結局は対外債権の範囲内・・長期的経常収支黒字の蓄積の範囲内で外国人投資家に保有してもらうしかない・・それ以上になると借金経済に陥っている・・危険ということです。
対外純資産と言っても直ぐに換金出来る国債や社債などと直ぐに換金出来ない直接投資がありますので、差引黒字でさえあれば安全とは言い切れませんが、債券投資残高が外国人の日本国債等対日債券保有残高以上であれば一応安全です。
(一応と言う意味は、May 1, 2012「税と国債の違い4(市場評価)」に書いたように対外債券がいくらあろうとも民族自決の視点から国債保有は外国人比率を最小限にすべきだという基本的な意見によります)
人によっては債券をすべて売ることが出来ないから・・と言う意見がありますが、それを言い出せば外国人の方も決済資金として一定額保有していなければならない点は同じで、彼らも全部売りにかけることは不可能です。
共同体維持のために使う資金が国債発行によるか税によるか寄付によるかは、あまり問題ではない・・それよりか民族資本(収入の範囲内)によるか否かが重要であることがこれまでの検討で分りましたが、その資金の出所がどうなるかが重要です。
国債発行で吸収する資金源は何かと言うと、これからは貿易黒字によるのではなく、海外投資収益の還流に頼って、(国内個人金融資産の原資です)高度な社会保障(一種の補助金です)を続ければ良いという意見もありそうですが、これの持続性を維持することが可能かどうかの検討をしておきましょう。
資金源が貿易収支黒字による場合は、その年に国民が生産した結果の超過収益ですからその超過生産に関与した人と関与出来なかった人との格差是正のために税や国債によって資金を吸収して所得の再分配をしても、それほどの問題がありません。
貿易黒字(現役労働者の収益格差ではなく)がなくなり、資本収益(退職金や年金同様に過去の労働収益です)による格差が生じているのが、現在の日本あるいは先進国共通の課題です。
現在高齢者が豊かで若者が苦しいのは、資本収益の比率が上がって来た社会で高齢者が過去の蓄積・・資本収益があるのに対して、若者には自分の現在の労働収益しかないことによります。
マスコミ報道では年金その他で次世代が損をしているかのような書き方・世代間対立を煽る報道が多いのですが、実際には、何万人に一人の大成功者以外・多くの次世代が親世代の世話になっている方が圧倒的多数でしょう。
非正規その他貧しい階層は貧しいなりに、親の県営住宅に居候したりしていて、大学を出てもマトモな職がないので食費すらマトモに入れていない若者が一杯います。
仕事がある間アパートを借りていても仕事がなくなると親の家に戻ったり(当然収入がないので1銭も入れません)している若者もいくらもいます。
(都会地の若者はこの点で有利なことを書いたことがあります)
非正規雇用どころか、普通の正規雇用に就職出来た若者でさえも、親から貰ったり、(結婚式費用を援助してもらったりマンション購入資金の一部援助をして貰ったり)あるいはまだ現に貰ってる(親の家に居候して親に負担掛けている)分より自分の方が多く出している例は万に1つもないでしょう。

マイホーム主義の終焉3

現在の若手法律家は、昔ほどの高収入が保障されていないことは確かですが、(合格者数が我々の時代に年間500人だったのが今や2千数百人以上になっているのですから数字的に明らかです)今よりは高収入の保障されていた私たち世代の前後各15〜20年の女性弁護士や裁判官のほとんどは、出産後もそのまま夫婦で現役を続けています。
最近の女性が何故出産時の現場離脱が出来ないかですが、その頃は世の中の仕組みの変更が今ほど激しくなかったことから、出産前後に数年程度ブランクがあっても大したハンデイではなかったことが大きな違いと言えるでしょうか?
何しろ最近の制度変更はめまぐるしいものがあって、ホンの数年前にやったパターンの事件をやろうとすると裁判所の要求する書類や運用等が大幅に変わっている等で驚くことが多いのですが、毎日目一杯仕事をしていても驚くくらいですから、数年間仕事を完全に休むには勇気がいる時代です。
医師の世界も同じで、(制度変更は時間がかかりますが、現場の技術変更・進歩はもっと小刻みに激しいでしょう)医療技術水準の変更、薬品の変更が日進月歩ですから、(医療過誤の判断基準はその医療行為時の医療水準に合致していたかどうかです)数年もブランクがあると追いつくのは不可能と言えるかも知れません。
例えば薬剤を処方するのに半年前にはたとえば「a,r」と表示すればある薬に決まっていたのが、半年の間にその変化系の薬が何種類も出回っていて、「a,r」の次に別のアルファベットを書かないと従来とは別の薬になってしまうと言う極端な事例が起きてもおかしくありません。
それを知らずに以前の知識で処方すると大変なことになります。
この話は薬剤師から聞いた話ですが、薬剤師も現場を離れてわずかに半年で復帰してみるとちらっと見て知っている薬だと思っていると、実は英語の語尾が少し変わっていて別の薬だったこともあるそうで、過去の知識がじゃまになるリスクもあるようです。
カルテは頭文字だけの略語で書くことが多いので却って誤解が生じるようです・・医師に問い合わせると現役の医師自身でさえ別の薬が出来ているのを知らなかったりするそうで、これは医薬分業のメリットとして聞いた話です。
このように最近の変化はあらゆる分野でめまぐるしいので、現場を離れて数年もすると使い物にならないリスク・・これがいろんな職種・・専門分化しているあらゆる職種に蔓延している様子です。
これが高学歴層の少子化の基礎的原因ですが、これの解決策については04/05/09「ワークシェアリングと医師不足問題」や少子化対策に関して今年の5月初め頃から07/06/10「(1) 保育所の民営化」ころまでののコラムで連載しました。
今回のシリーズは、子を産むことも出来ない結果としての結婚事情の変化についての関心・・・別の視点で書いています。

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