国債破綻シナリオ1

東電は社債の金利だけは払っていくのが最低の義務・本来ですが・・これも国債のように借換債発行額を金利上乗せで徐々に増額して行く・利息支払用の小額社債発行をして増やして行けば東電自体の負担(持ち出し)はゼロです。
この賠償スキームは関係者が誰も負担せず(際限ない借り換えで)に最初から踏み倒す予定で、投資家から資金を集めているのと結果が変わりません。
(社債発行手数料だけは業界に入りますが、この手数料は発行額に上乗せするのが普通ですから東電は1銭も負担しません)
借り換えを前提にしていつまでも元利金を返済しない点で共通する国債に話題を移します。
国民は税負担増を嫌がる一方で何かあれば政府負担拡大を求める傾向が続いている現状では、国債発行額を減らして行くのは絶望的です。
財政の規律さえしっかりしていれば・・・臨時に紙幣の増刷や借金で凌ぐのは賢明な方策ですし、臨時に限定し直ぐに返済してしまうならば有益・意味があるのですが、これが返さないままで次々と今回は特別だからと赤字国債や紙幣増発を繰り返して累増して行くと紙幣や国債は狐の葉っぱに似てきます。
今のように元金を少しずつでも減らして行くどころか借り増を繰り返している状態になれば、将来的に破綻するのが目に見えています。
今回の大震災被害の復興資金が必要だという以上は、臨時増税して賄うのが本来です。
赤字国債で賄う場合、償還期限を形式上決めても期限が来れば借り換えを繰り返して行き、次世代も借り換えでその次の世代に送って行くとすれば最後の破綻まで誰も負担しない無責任なことになります。
こうして膨らみ切ったところで破綻することになりますが、それが何時のことか誰も分らない・遠い先のことだから良いだろうという無責任政治です。
本当に被災者を可哀想だと心から思ってるならば、自腹を切って負担してこそ、その同情心は本物です。
自分のお金を一銭も負担しないで、可哀想だから「あれをしてやれこれをしてやれ」というのは勝手ですが、「その分の増税はいや」というのではその費用負担を自分はしたくないと言うのと同義です。
こういう場合「その前に政府の節約・無駄遣いを減らすなど増税の前にするべきことがある筈」という決まり文句が出て来るのですが、そんなことを言ってると永久に増税出来ないので結局赤字国債に頼ることになります。
「削るべき冗費がある筈」と長年主張していた民主党が政権を取って事業仕分けしてもなお、税収が不足する結果が出た以上は、今回の大震災がなくとも不足分を増税するしかなかった筈です。
事業仕分けをしても財源が不足していて赤字国債発行をせざるを得ないということは、ともかく現在の政府努力では節約どころではどうにもならない、経常経費さえ財源が不足する結果ですから、その結果を認める以上は本当に可哀想だと思うならば「その分みんなでお金を出し合う」・・臨時増税しかない筈です。
それなのに誰もが復興資金用の増税に反対する今回の事態は、如何に国民みんなが無責任体質にどっぷり浸かっているかの証明です。
増税=自分が負担するのに反対しながら「何とかしてやるべきだ」というきれいごとばかりをマスコミを賑わす・・偽善社会ではいつかは咎めが来る・・紙幣が狐の葉っぱになってしまう時期が来るのは当然です。
考えようによれば、今回任意で集まった寄付金総額が国民の善意の総額であり、それ以上のことはないという現実を直視すべきです。
あるいは税で出せないならもう少し寄付しようかという人もいるでしょうが・・。
増税は嫌だと言うことは、国民は寄付した以上にはびた一文も自分の金を出したくないということでしょう。
復興のための増税しない・・寄付金だけでやりますと言うならば、予めそのようにアナウンスすれば、国民はもっと寄付したかも知れません。
増税しないけれども赤字国債で賄うと言われると国民はその借金支払責任が将来自分にも来るかもしれないと思うと追加寄付して良いかどうかに迷うでしょう。
税も取らない・借金しないで寄付金だけでやると言ってくれた方が、国民はどこまで自分が負担するか、寄付するかの腹を決め易くなると思います。
ちなみに、寄付金総額を調べようとネット上で探しましたが、6月24日現在の赤十字の発表では、2,542億3,171万9,174円となっていますが全体の数字統計が出ていません。
私は千葉県弁護士会の寄付口座に地震直後に送金しましたが、弁護士会では集まった寄付金の内何割を日本赤十字に送って何割をどこへ送ったなどの報告がありましたが、忘れてしまいました。
それぞれ業界団体ごとの寄付口座があって、一部を赤十字に一部を被災地地方自治他や同業者への直接寄付などに分配しているものと思われますが、日本全国全体でどれだけ集まったのかの集計がネットでは見つかりません。

社債・国債の償還システム2

超優良企業でもあるいは国債でも、自前資金で元々期限に元金100%を返す予定で社債や国債を発行しておらず、借り換えて返す予定しかない点はサラ金苦の自転車操業と本質が変わりません。
違うのはその始まりが消費資金債務と建設的な投資用債務の違いくらいであって、国債では建設国債と赤字国債に分類しているのがこれにあたりますが、期限後の借換債になると借金支払のための借金である点は同じになります。
元は建設的だったというだけで足りるならば、住宅ローンが払えなくなってサラ金から借金しても建設的債務という理屈になります。
これがサラ金債務者と違って健全と思われているのは、大手企業あるいは国(・・特にアメリカ)など大きすぎてつぶせない筈という変な神話に寄りかかっているだけのことでしかありません。
社債発行・・すべての分野での先送り体質については、03/27/07「過剰消費社会8(消費先取りシステム2)」」03/28/07「過剰消費社会10(消費先取りのシステム4)」02/23/07「キャピタルゲインの時代5(修正作用2)社債発行1」その他のコラムで連載しました。
たとえば、2000億円社債発行によって資金調達して新工場を立ち上げる場合、計画通り順調に売上が伸びたとしても5〜10年で設備投資資金全額を返済出来る予定ではありません。
(その設備を売リ飛ばせば別ですが、それではせっかく新規事業を軌道に乗せた意味がありません)
せいぜいその間の利息や減価償却費を支払い続けた上で、5〜10%の利益を出せるのが成功モデルです。
この利益から税を払い株式配当をした残りで元本部分を償還して行くとすれば、5年や10年で元本をゼロにして行くことは不可能です。
(用地取得から工場設備建設〜出荷で利益を出せるようになるまで、数年以上かかります)
殆どの企業は、社債の償還資金を積み立てているのではなく、借換債の発行で先送りして行く計画になっています。
会計上もこれで良いことになっていて、別に違法ではありません。
2000億円で工場を新設すれば、2000億円の負債が生じますが、他方で2000億円の資産を取得しているのでバランスシート上は均衡します。
その後は、減価償却分だけ資産価値が減少して行くので、これに見合う分だけ借入金の元本を減らすか、元本は全く減らさないままでも現預金あるいはプラス何らかの資産を増やせばバランスシート上左右が均衡します。
利益が出たからと言って減価償却した分以上の元金返還をすると、資産の減損以上に負債が減ってその差額分が利益計上になってしまうので、現金がその分なくなっていても税を払ったり配当したりしなければなりません。
こんな仕組みですので、社債の金利さえ払っていればいい感じになって、それ以上に償還期限が来る途中で元金まで返す・・社債の買い戻し動機が湧かないのが現状です。

社債・国債の償還システム1

賠償支援スキームに戻しますと、新機構を造ってもそこの支払能力に疑問があるので、政府が新機構の発行社債を保証する仕組みらしいです。
(きっちり政府のホームページに入って行けばあるのでしょうが・・・安直にグーグルで検索する限りでは・まだネットで条文が見られないので今はマスコミの報道を根拠にしています)
とすれば、新たな組織・機構を作らずに東電の賠償資金用社債に限ってこれを政府が直接保証すれば良いようなものです。
これがそうならなかったのは、賠償資金限定では一般社債の借り換え用社債発行困難のさし迫った危機解決になりません。
賠償金に限定しない借り換えを目的とした新発社債の保証が緊急に求められていることから、政府が特定企業の全債務保証をすることが出来るのかという疑問もあります。
従来の各種公庫や公社(今は独立行政法人)なども政府系というだけで法的に政府保証していた訳ではありません。
アメリカのサブプライムローン問題の引き金になったアメリカの住宅公社系も同じでイザとなれば政府が責任を持つだろうという程度の期待でしかなかったのです。
この辺はリーマンショック直前の09/05/08「GSE破綻リスクの怪2」前後で連載しました。
そこまで丸抱えでは国民世論が許さないだろうと言うことや、他方東電自身も事実上政府丸抱え・国営企業みたいになってしまうのはいやということで、中間に機構という半公的期間・ワンクッションを置くことになったと思われます。
ちなみに、借り換えで先送りして行く仕組みは今回のスキームに限らず一般民間企業の銀行借入や発行社債も同様ですが、一旦信用不安に火がつけば、しょっ中到来する借入金返済期限や社債償還期限に償還する資金がなくてショートしてしまう点も同じです。
社債を5〜10年に一回しか発行していなければ良いのですが、殆どの企業は数ヶ月〜6ヶ月に一回何らかの返済期限が来る仕組みになっていますので、社債販売条件の悪化に繋がる株式相場の変動にどの企業でも一喜一憂しているのです。
本来売ってしまった株式が10分の1に下がろう20分の1になろうとその企業に直接の利害がないのですが、次の社債発行条件・・実質利回りにモロに響くので、株式相場の維持に心を砕いているのです。
今回の賠償支援スキームで政府は東電の株主は切り捨てても(20分の4に下落した損害はそのまま)、社債に対する保証をして継続発行(今後期限の来る社債権者は100%払ってもらえる)だけ守ろうとしているのは、企業の本音そのものズバリであると言えば良いでしょうか?
企業としては社債によって集めた資金を投資して金利+減価償却以上のかなりの利益が出たときに、全部を利益配当にまわすと資金が社外流出してしまう上に配当落ちすることもあるので、その利益の一部で自社株式を購入して保有したりあるいはこれを消却するなどして、株式価値引き上げないし維持に努力しています。
たとえば、発行募集期間に株式相場が1割下落=社債発行価格が予定より1割下がれば、その分経営コストが1割上がることになって他社より不利・・苦しくなります。
転換社債の場合株価連動・ストレートの関係で分りよいのですが、額面百万円でその社債で時価100万円の株と将来強制交換となれば、単純に100万円を基準に(満期に100万円戻って来る前提で)中間利息控除した金額に表面利率を合計した金額プラスアルファ(変動リスク分考慮)で買い手がつきます。
ところが発行直前になって株価が90万円に急落すると、額面が100万円でも90万円が戻って来る基準にその差額を満期までの期間で割って金利計算した数字でないと買い手がつきませんから、実売価格が下がってしまう・・発行会社の手取りが減るのです
ただし、1割や5%の下落ならば数ヶ月先に償還期限の来る社債50億円の手当として、発行手数料等をプラスした52億円の発行計画があった場合、実売価格が1割減ですから、その分コストが高くなっても5億円だけ短期借入しあるいは手元資金の取り崩し等で補えるのでコスト(金利割高)だけの問題で済みます。
しかし、東電のように2000円台の株価が数日〜10日くらいで400円台に下がってしまうと、比率で言えば200億円手取り発行予定が40億円しか手取りにならないのですから、とても手元資金や臨時の借金では賄いきれず、資金ショートしてしまいます。
上記は理論的比率でしかなく、実際にこのくらい大幅に下がってしまうと4億円での買い手もつかないだけではなく、仮に買い手がついても40億円借りて200億円返すのではコストが高すぎて話になりません。
実際には中止するしかありませんので、資金ショートしてしまいます。
(・・政府発行国債だって同じようにしょっ中満期が来ますので、一旦信用不安に火がつけば大変です・・大暴落中だから借換債の発行を状況の良くなる数年先まで見合わせようと思っても、その間の既発行債償還資金手当がつかないので、たちまちデフォルトの危機・これが最近のギリシャ危機あるいは過去に繰り替えされた南米諸国のデフォルトの原因です)

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