社債・国債の償還システム2

超優良企業でもあるいは国債でも、自前資金で元々期限に元金100%を返す予定で社債や国債を発行しておらず、借り換えて返す予定しかない点はサラ金苦の自転車操業と本質が変わりません。
違うのはその始まりが消費資金債務と建設的な投資用債務の違いくらいであって、国債では建設国債と赤字国債に分類しているのがこれにあたりますが、期限後の借換債になると借金支払のための借金である点は同じになります。
元は建設的だったというだけで足りるならば、住宅ローンが払えなくなってサラ金から借金しても建設的債務という理屈になります。
これがサラ金債務者と違って健全と思われているのは、大手企業あるいは国(・・特にアメリカ)など大きすぎてつぶせない筈という変な神話に寄りかかっているだけのことでしかありません。
社債発行・・すべての分野での先送り体質については、03/27/07「過剰消費社会8(消費先取りシステム2)」」03/28/07「過剰消費社会10(消費先取りのシステム4)」02/23/07「キャピタルゲインの時代5(修正作用2)社債発行1」その他のコラムで連載しました。
たとえば、2000億円社債発行によって資金調達して新工場を立ち上げる場合、計画通り順調に売上が伸びたとしても5〜10年で設備投資資金全額を返済出来る予定ではありません。
(その設備を売リ飛ばせば別ですが、それではせっかく新規事業を軌道に乗せた意味がありません)
せいぜいその間の利息や減価償却費を支払い続けた上で、5〜10%の利益を出せるのが成功モデルです。
この利益から税を払い株式配当をした残りで元本部分を償還して行くとすれば、5年や10年で元本をゼロにして行くことは不可能です。
(用地取得から工場設備建設〜出荷で利益を出せるようになるまで、数年以上かかります)
殆どの企業は、社債の償還資金を積み立てているのではなく、借換債の発行で先送りして行く計画になっています。
会計上もこれで良いことになっていて、別に違法ではありません。
2000億円で工場を新設すれば、2000億円の負債が生じますが、他方で2000億円の資産を取得しているのでバランスシート上は均衡します。
その後は、減価償却分だけ資産価値が減少して行くので、これに見合う分だけ借入金の元本を減らすか、元本は全く減らさないままでも現預金あるいはプラス何らかの資産を増やせばバランスシート上左右が均衡します。
利益が出たからと言って減価償却した分以上の元金返還をすると、資産の減損以上に負債が減ってその差額分が利益計上になってしまうので、現金がその分なくなっていても税を払ったり配当したりしなければなりません。
こんな仕組みですので、社債の金利さえ払っていればいい感じになって、それ以上に償還期限が来る途中で元金まで返す・・社債の買い戻し動機が湧かないのが現状です。

社債・国債の償還システム1

賠償支援スキームに戻しますと、新機構を造ってもそこの支払能力に疑問があるので、政府が新機構の発行社債を保証する仕組みらしいです。
(きっちり政府のホームページに入って行けばあるのでしょうが・・・安直にグーグルで検索する限りでは・まだネットで条文が見られないので今はマスコミの報道を根拠にしています)
とすれば、新たな組織・機構を作らずに東電の賠償資金用社債に限ってこれを政府が直接保証すれば良いようなものです。
これがそうならなかったのは、賠償資金限定では一般社債の借り換え用社債発行困難のさし迫った危機解決になりません。
賠償金に限定しない借り換えを目的とした新発社債の保証が緊急に求められていることから、政府が特定企業の全債務保証をすることが出来るのかという疑問もあります。
従来の各種公庫や公社(今は独立行政法人)なども政府系というだけで法的に政府保証していた訳ではありません。
アメリカのサブプライムローン問題の引き金になったアメリカの住宅公社系も同じでイザとなれば政府が責任を持つだろうという程度の期待でしかなかったのです。
この辺はリーマンショック直前の09/05/08「GSE破綻リスクの怪2」前後で連載しました。
そこまで丸抱えでは国民世論が許さないだろうと言うことや、他方東電自身も事実上政府丸抱え・国営企業みたいになってしまうのはいやということで、中間に機構という半公的期間・ワンクッションを置くことになったと思われます。
ちなみに、借り換えで先送りして行く仕組みは今回のスキームに限らず一般民間企業の銀行借入や発行社債も同様ですが、一旦信用不安に火がつけば、しょっ中到来する借入金返済期限や社債償還期限に償還する資金がなくてショートしてしまう点も同じです。
社債を5〜10年に一回しか発行していなければ良いのですが、殆どの企業は数ヶ月〜6ヶ月に一回何らかの返済期限が来る仕組みになっていますので、社債販売条件の悪化に繋がる株式相場の変動にどの企業でも一喜一憂しているのです。
本来売ってしまった株式が10分の1に下がろう20分の1になろうとその企業に直接の利害がないのですが、次の社債発行条件・・実質利回りにモロに響くので、株式相場の維持に心を砕いているのです。
今回の賠償支援スキームで政府は東電の株主は切り捨てても(20分の4に下落した損害はそのまま)、社債に対する保証をして継続発行(今後期限の来る社債権者は100%払ってもらえる)だけ守ろうとしているのは、企業の本音そのものズバリであると言えば良いでしょうか?
企業としては社債によって集めた資金を投資して金利+減価償却以上のかなりの利益が出たときに、全部を利益配当にまわすと資金が社外流出してしまう上に配当落ちすることもあるので、その利益の一部で自社株式を購入して保有したりあるいはこれを消却するなどして、株式価値引き上げないし維持に努力しています。
たとえば、発行募集期間に株式相場が1割下落=社債発行価格が予定より1割下がれば、その分経営コストが1割上がることになって他社より不利・・苦しくなります。
転換社債の場合株価連動・ストレートの関係で分りよいのですが、額面百万円でその社債で時価100万円の株と将来強制交換となれば、単純に100万円を基準に(満期に100万円戻って来る前提で)中間利息控除した金額に表面利率を合計した金額プラスアルファ(変動リスク分考慮)で買い手がつきます。
ところが発行直前になって株価が90万円に急落すると、額面が100万円でも90万円が戻って来る基準にその差額を満期までの期間で割って金利計算した数字でないと買い手がつきませんから、実売価格が下がってしまう・・発行会社の手取りが減るのです
ただし、1割や5%の下落ならば数ヶ月先に償還期限の来る社債50億円の手当として、発行手数料等をプラスした52億円の発行計画があった場合、実売価格が1割減ですから、その分コストが高くなっても5億円だけ短期借入しあるいは手元資金の取り崩し等で補えるのでコスト(金利割高)だけの問題で済みます。
しかし、東電のように2000円台の株価が数日〜10日くらいで400円台に下がってしまうと、比率で言えば200億円手取り発行予定が40億円しか手取りにならないのですから、とても手元資金や臨時の借金では賄いきれず、資金ショートしてしまいます。
上記は理論的比率でしかなく、実際にこのくらい大幅に下がってしまうと4億円での買い手もつかないだけではなく、仮に買い手がついても40億円借りて200億円返すのではコストが高すぎて話になりません。
実際には中止するしかありませんので、資金ショートしてしまいます。
(・・政府発行国債だって同じようにしょっ中満期が来ますので、一旦信用不安に火がつけば大変です・・大暴落中だから借換債の発行を状況の良くなる数年先まで見合わせようと思っても、その間の既発行債償還資金手当がつかないので、たちまちデフォルトの危機・これが最近のギリシャ危機あるいは過去に繰り替えされた南米諸国のデフォルトの原因です)

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