高齢者の財産管理・保護制度の創設

現在では後見人選任は、親族等からの申請がないと裁判所で選任しませんが、(April 8, 2011「失踪宣告4」に書いたように役所は受け身の体制です)受け身のママでは老人ホームや介護者が好きなように横領して財産処分してしまっても(身寄りがないので)誰も文句を言って行く人がいないことになります。
そもそも身寄りのない人には申し立て権のある人がいません。
例えば有料老人ホームに入居している場合(一定の資産があるのが普通です)で、子供など相続人がいない場合には、ボケているか否かに関係なく自動的に(従って現行後見人ほど強力な権限は強力過ぎるでしょう)定時に財産状況の管理検査をする権限のある人を(民間からの申し立てがなくとも)職権で選任して、高齢者資産の管理状況をチェックし裁判所に報告するような制度にすべきです。
何事も被害者からの申し立てがあってから動く今の制度では、家族関係が稀薄になってくると悪い者がはびこり易くなります。
悪いものがはびこるのは、道徳心の欠如によるだけではなく、これが直ぐに発覚するシステムがないときにはびこり易くなるのですから、制度改正が必要です。
現在では40〜50歳代以降では結婚していない人や子供のいない人が多くなっていて、しかも兄弟も少ないので、老後に備えて老後資金を蓄えている人が多いのですが、悪徳老人ホームの餌食になるリスクが大きくなるのでこの方面のチェック体制整備の方が喫緊の課題ではないでしょうか?
これについては戸籍制度があれば防げるものではなく、また元気な時に友達をいくら増やしておいてもお互い高齢化するのが普通ですので無駄です。
兄弟がいてもお互い80〜90代ではどうにもならないでしょう。
意思能力の有無にかかわらず施設に入居したり介護保険を利用するようになれば、申し立てがなくともこの時点で自動的に裁判所が仮称管理人・・保護者を選任するシステムを創設すべきです。
外部の目が行き届くと施設や介護業者が被介護者の資産を好きにいじれないようになるだけではなく、仮称管理人の定期的面会が要件になって行くと、お金の問題だけではなく外部の目が入ることによる牽制効果があって各種待遇が良くなり、介護水準も上がるし、ひいては虐待が発覚し易くなり・死亡の隠蔽が困難になるでしょう。
現在では自分が将来駄目になった時に備えて元々親しい人に頼める任意後見制度がありますが、これでは完全に意思能力を失った時だけで、能力があるが拒否力の弱った人の助けにはなりません。
保佐制度(元の準禁治産)も同様の問題があります。
後見と保佐の前段階としてに補助制度が創設されていますが、本人や身内のイニシアチブ・申し立てをしないと動き出さない点と飽くまで精神の障害を前提にしている点が同じですから同様の難点があります。
介護の利用や施設入居が始まれば精神障害がなくとも弱い立場になるのは同じですから、自動的に補助する制度創設が望まれます。
当面はこの制度しかないのですから、この補助制度で要求される精神障害の認定・運用を緩やかにして、障害があるどころかむしろしっかりした人が中心になって自分を守るために積極的にこの制度を利用することから広げて行くしかないでしょう。
私は一定の資産のある高齢者夫婦だけの暮らしの人には、まだ元気なうちに別居している息子や娘を補助人にしておくと良いですよ・・と、この制度利用を勧めています。
高齢化するとどんな立派な人でも最後は弱いものだと言う説明に納得して予め手続きしておこうかと言う人は、精神に障害があるどころか、今現在では平均人よりしっかりした人の方が多いです。
この制度を利用して押し売りや無用な自宅リフォームなどのまとまった金額の出る契約行為を補助人の同意が必要な項目(17条)にしておくのです。
偶然尋ねて来た娘などが気づけば、契約してしまった後でも契約の取り消しが出来ます。(17条4項)
これは、クーリングオフとは違いまさに権利ですから、業者が契約の履行を始めていても、どの段階でも取り消しが出来る強力なものです。
効力が強力である分精神障害の程度について緩やかな認定で良いのかの議論がありそうですが、私の意見は、精神の障害を基準にするのではなく、施設入居や介護を受けているかを基準にするものですから、外見では分りにくい精神障害を基準にするよりは却って第三者に明白な基準となって、善意の第三者が被害を受けることが少ないない筈です。
民法
(補助開始の審判)
第15条 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない
(補助人の同意を要する旨の審判等)
第17条 家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
2 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

不正受給防止(超高齢者)

 

戸籍制度の存在意義・超高齢者の戸籍登録残存問題に戻しますと、超高齢者が戸籍に残っていても何の不都合もないのに、マスコミが正確な報道をせずにムードばかり煽って無駄に騒いでいるのは、一種のスケープゴート造りの疑いがあります。
昨年秋頃にいきなり(April 11, 2011「戸籍制度存在意義2」まで書いて来た通り)意味もなくマスコミが騒ぎ始めたのは、年金制度の議論が行き詰まっているのでその八つ当たりというか問題隠しっぽい報道姿勢・・政治的意図によるものとでも言うべきでしょうか?
マスコミはいつも、時の政府の意向で動きたがる傾向があります。
年金や各種手当の不正受給をなくすにはどうすべきかは、戸籍登録の正確性をはかっても費用対効果で全く意味がないので、別に議論して行くべきことです。
各種不正受給をなくすには、住民登録制度の完備・正確性を期すことと年金・社会保険番号制度等の個人識別番号を充実していき、本人に直接支給する仕組みを充実すれば良い筈ですから、(大勢の人手を使って超高齢者の戸籍抹消に精出すよりは)この機会に戸籍・本籍を個人特定のよりどころにする戸籍制度自体が、不要になっているのではないかの議論こそすべきです。
昨年秋に発覚した不正受給事例は生活に困窮した遺族がお祖母さんの死亡後も死亡を隠して年金を受給し続けた事例ですが、よほど生活に困らないとこんなことが出来ませんので、これは本来ならば、きちんと死亡届を出して遺族が生活保護を受けるべき事案です。
生活保護を受給するのとお祖母さんの僅かな年金を頼りに細々と生きているのとでは、公的支出総額自体は変わらない可能性がありますので、実質的経済効果はそれほど変わりません。
県営・公営住宅の家賃未納問題も同じで、ときどき滞納者一掃作戦実施とマスコミが報道するのですが、県営住宅などの家賃が払えなくなっている人は生活困窮者が殆どですから、結果は市職員が生活保護受給申請を勧告・手助けすることが殆どであって、役所のセクショナリズムの結果に過ぎなかったことが露呈するのと同じです。
よほど生活に困っていない限り、自宅で死亡した人をそのままにして生活出来るものではありませんから、それほど困っている人であれば生活保護申請したら受けられた筈ですし、もしも受けられないとすれば生活保護受給制度の仕組みに問題があることになります。
個人が悪用する場合は上記の通りも極限的困窮者中心ですし、数もそんなにあり得ませんから、国家経済に関係するような実質的にそれほどの経済問題が起きませんから、そもそもマスコミで騒ぐほどの実害がないでしょう。
今後は少子化の結果子供のいない人など身寄りのない高齢者が増えてくることと、身寄りがない人の老人ホーム利用者が増えて来ることから、老人ホームなどで身寄りのない老人の死亡を隠して如何にもまだ在院しているかのようにした組織的巨額不正請求が発生する余地がありますので、これの防止策の方が政治的には重要です。
老人ホームで遺体を何体も何年も放置しておけないと思いますが、組織的にやる場合は冷凍技術を駆使するなどして特別な部屋を一つ用意すれば何十体も保管可能です。
狭い自宅でそのまま遺体と一緒に暮らすよりは、倉庫みたいなもので、特段の不気味さもなく事務的に処理して行ける筈です。
一人当たり何十万円も毎月保険請求請求出来るぼろ儲けを考えれば、一部屋に何十体も保存すれば、大変な額の不正請求になります。
最初は年金支給基準日に数日足りないような時に、(年金支給は日割り計算ではなく基準日を越えれば一ヶ月分が支給される仕組みです)数日遅れの死亡届にして行くなどの少しずつのズレから始まるのでしょうが、これが徐々に幅が大きくなって行くのではないかと言うことです。
病院での死亡の場合は医師の診断書があってごまかせませんが、100歳くらいになってくると特定の病気がないので病院に行かず、ただ老衰的死亡が中心ですから、(ガンになっていた場合でも治療の方法がないとして施設に戻る場合が殆どです)死亡後に医師に来てもらって死亡診断書を貰うのが普通です。
医師を数日遅れで呼ぶことから死亡日時のズレが始まり、次第にズレが広がって行くパターンが想定されますが、例えば一ヶ月もズレてくると一ヶ月前の死亡者を昨日死にましたと医師に見せる訳に行かないので、昨日死んだ人を、一ヶ月前に死んだ人の氏名で医師に説明して診断書を貰うような替え玉作戦になって行く可能性があります。
そこは従業員の集金使い込みの隠蔽工作と同様で、先月使い込んだ分をそのままにしないで翌月集金分を先月の人から1ヶ月遅れで集金したことにして会社に報告するのと同じ方法です。
この場合、一ヶ月間の死亡者数だけ、特別室に遺体が溜まって行く勘定ですが、徐々にごまかす日数が多くなるに連れて遺体の数も溜まって行きますが、収拾策として遺体投棄が起きると、バレル切っ掛けになります。
そこは使い込みが次第に膨らんで行くと集金報告が一ヶ月遅れから、2ヶ月遅れになって行き、収拾がつかなくなって発覚するのと同じパターンです。
何らかの手を打たないと死亡報告を少しずつずらして行く手法が多くなるかもしれません。
年金や介護費用の不正受給だけではなく、4月15日に書いたように身寄りのない老人の場合、その人の財産も生前から事実上老人ホームで預かって管理している傾向があります。
身の回りのことを出来ない被介護者も同じで介護人に銀行へ行って預金を下ろして来てもらうことが増えて来て、最初はその都度律儀に報告していても本人に見せてもよく分らなくなってくるとその報告もしないのが普通になってしまいます。
結果的にいつの間にか介護者が自由に出し入れ出来るようになってしまいますが後で親族が預金を見る前提ですと困るので簡単には手をつけませんが、後でチェックする身内がいないとなれば自由自在になり易いのは火を見るよりも明らかです。

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