原発のコスト3(損害賠償リスク)

8月1日付日経朝刊第11面「福島原発Q&Aでは、7月31日現在第1号機炉底部の温度は94、4度と書かれています。
事故直後のように100度以上(何百度・・八百何十度で燃料棒の皮膜が溶けてウラン235が剥き出しになるということでした)で推移していたときとは違うので、蒸発量が次第に減って行くのは明らかで、ステップ1に関する7月19日の政府発表では同時に初期に比べて「放射性物質拡散量は、200万分の1まで減少した」としているようです。
それにしても炉底部とは言えまだ100度前後もあれば、日々相当量の蒸発=空気中拡散が続いている筈です。
政府発表が正しいかどうかはこの後の公開されることになる筈の?データ分析によるでしょうが、仮に正しいとすれば、今後は空気中への飛散量よりは、汚染土壌や植物の全国拡散(稲藁のように広域に移動していますので・・)や汚染水の行方に焦点が絞られてきます。
その他に同じ建家にくっついて使用済み燃料棒の巨大な量が保管されていた燃料プールからも蒸発が続いています。
これの冷却装置も壊れているために高温化・過熱していたのですから、これの冷却・注水(遠くから放水したりなど)作戦に大騒ぎしたことも記憶に新しいところです。
7月31日の報道では、4号機の燃料プールの冷却装置の試運転に問題がなかったので、今後稼働するようになるということでした。
8月10日の報道では、1号機の燃料プールについても循環冷却が軌道に乗ったので今後数日程度で40度前後に下がる見通しとのことです。
2号機から4号機までのプールでは既に循環冷却が行われているとのことなのでこれで全部の冷却が軌道に乗ったことになるようです。
これまで高温による蒸発が続いていたので、過熱を防ぐために時々事故直後同様にコンクリミキサー注入用のホースで冷却用の水を注入をして来ましたが、冷却装置が軌道に乗ればこれで解決に向かうとの期待報道ですから、これまで過熱による冷却用のプール内の水の蒸発・・大気中への放射性物質の拡散が続いていたことになります。
プールに関しては緊急事態を脱した上に「ステップ2」では同じ建家に貯蔵している使用済み燃料棒の取り出しにも取りかかることになっているので、高温化による放射性物質拡散の危険がかなり遠のいたと見て良いでしょう。
放出された放射性物質が最終的にはすべて海に流入して行くとした場合、当面は海流の行方・・どの辺まで汚染されるのかが重要ですが、長期的には海を回遊している魚類が吸収して遠くの海で死亡したり他の魚に食われたり食物連鎖して行くので、体内の放射性物質が遠くの海に再放出され、時間の経過(セシュウムの半減期は約30年間です)で世界全体に拡散して行くことになります。
短期的には福島近海の海が高濃度で汚染されますが、その海流の方向性によって、その下流が次に拡散汚染され、次いでその周辺の魚類等の回遊方向によって、(おおむね海流によって移動しているでしょうが・・)更に別の方向へ拡散されて行きます。
結局は今回の水素爆発による空中拡散と、格納容器底抜けによる地中への漏出・・上記のように最後は海に行くでしょうから、(フランス製の技術による汚染水の濾過装置によって吸着した分を除いて)今回の漏出した放射性物質の総量を先ず計算してこれを公表することが必要です。
放出総量が決まればどの程度の場所まで拡散し、どの時期にどの辺ではどのくらい薄まっている・・許容量以下になる・・その境界が明確に計算出来ることになります。
海域ごとにメッシュ表を造って何時から何時までの期間がどの程度の濃度・危険などの計算・・公表が可能になります。
(海底に沈殿する分も当然あるでしょうが、これの分布図の想定も必要です)
仮に原発周辺での垂れ流しが収まった場合、「海流・潮流によって何日間でその辺の海域の汚染水はなくなって(何%から何%に下がる)しまう、その代わりその下流の海域では何日から何日までの間濃度が濃くなる」などの予報を出せることになります。
台風の予想進路同様のイメージになります。
次々と放射性物質放出が連続している場合、福島周辺海域はいつまでたっても高濃度のままになりますし、短期間なら関係のない筈の海底の生き物にも長期化すると蓄積が進むでしょうし、海底に沈殿して海底の泥などに付着する可能性も増えてきます。

原発のコスト2(輸出リスク)

陸上の汚染マップは、火山学者である群馬大学の早川由起夫氏が個人的に作成したものが現在出回っていますが、政府は大勢の学者を抱え込みお金を使っていながら陸上についてさえもこれを造る気配がありませんし、ましてや、海上のマップ作成には(これは自民党代議士が要求していました・・)まるで乗り気がない様子です。
(国会では社民党代議士が政府が何故こうしたものを造らないのか・あるいは発表しないのか追及していましたが・・・)
スピーデイ言う何百億円か忘れましたが、巨額を掛けて用意して来た空中拡散に関する動画も「不都合な真実」らしく、一回だけ発表してその後は一向に公開する気配がありません。
いずれにせよ長期的影響となれば、放出された放射性物質の総量に関心が行きますが、これが正確に公開されていない様子です。
広島の原爆で爆発したのはウラン235を濃縮したもの1kgだったらしく、現在の原子炉内には1基あたり124、4トンの燃料が挿入されていて、その内ウラン235の容量としては2319、2kgとのことです。
(「とのことです」という意味は、誰かがネットで書いているものの引用すべき客観的データが私には入手出来ていないという意味です)
一基当たり広島原爆で爆発した2319倍のウランがはいっていたということですから、6号機まであればその6倍の量です。
また、http://d.hatena.ne.jp/elm200/20110327/1301206704によれば、発電量から逆算計算して福島原発全体では年間約160トンのウラン235を使い使用済み燃料棒の保管量は約2年分の320トンと推定しています。
これも物理の専門家ではないと断っての計算ですが、この危急存亡のときに多くの物理・原子力関係者またはその卵・セミプロが沈黙していて正確な数値を国民に伝える努力をしないのは遺憾です。
政府と言うか(管総理は政府ではないのかな?)伝統的勢力におもねって何も言えない学者ばかりでは、国の将来が心配です。
この膨大な燃料棒のうちどれだけが溶融してしまったのか、何グラム溶けたらどう言う放射性物質が出るのかなどの解説がまるで報道されません。
今は誰でもブログ等で簡単に発表出来る筈ですが、そう言うセミプロもいないようです。
膨大な関係者がすべて口をつぐんでいること自体、(伝統的勢力のご機嫌を損なう本当の意見を言えない空気があるのでしょう。)政府発表には嘘が多いのではないかと思うのが普通です。
これが風評被害の大本です。
上記の福島原発内にあったウラン235の内、今までどの程度の放出があったかの正確な報道がないので根拠不明ですが、5月末頃の誰かの意見では、放出された放射性物質量は、広島原爆の40倍だったとされています。
今回の放射性物質の大量放出は3月12日頃の水素爆発によるものが中心で、その後は格納容器内の燃料の冷却が出来ないために、今でも続けて注入している冷却用の水の蒸発による空気中への放出(これが建家内に溜まったので水素爆発になったのですが、建家が爆発によって壊れているので今その後は野放図に出っぱなしです)と、格納容器の損傷部位からの汚染水の漏出・・何しろ膨大な注水を続けていますので、これが中心になっているものと想定されます。
(大気への放出を止めるために壊れた建家の外郭に大きな覆いをかぶせる工事をするとか報道されていましたが、完成したとも聞いていません・・・)
汚染水の循環が100%成功すれば、吸着させた高濃度汚染物質をまとめてどこかに貯蔵することになるので拡散は防げます。
まだ原子炉内の正確な温度を測るようになっていない印象ですが・・この辺は私にはまだ分りません・・冷温停止状態近くになったのかな?
ただし、冷温停止状態に至っていないとしても、既に3月12日の水素爆発から5ヶ月近くも経過しているので蒸発し難い温度近くまで冷却出来るようになって来ているでしょうから、現在の空中拡散は水素爆発直後ないし1〜2ヶ月経過頃より縮小している筈です。
7月19日の政府と東電の「ステップ1」終了の発表では、「半年以内に冷温停止状態を目指す」としていますので、冷温停止状態になるにはまだかなりの期間がかかることが明らかです。

原発のコスト1(輸出リスク)

原発に関連する巨額交付金と地元の責任に関して、June 11, 2011「巨額交付金と事前準備3」前後からJune30 2011「交付金の分配」まで書きましたが、書きかけのテーマに戻っていたので原発問題から遠ざかっていました。
その後、交付金の恩恵を受けていない市町村でも大きな被害が出ていることからその市町村からの自分たちにも交付金をよこせと言う不満が時々報道されるようになっています。
交付金をもらっていないで被害を受けている市町村の不満・・ひいては貰っていた市町村は「何のために貰っていたのだ」という私の議論に繋がって行くでしょう。
今回は最近関心の高い原発廃止、停止・・ひいてはそのコスト・輸出問題にちょっと戻ってみます。
原発コストの方が火力より安いという産業界や伝統的支配層の意見ですが、これが本当かどうかの関心です。
今後原発縮小ないし廃止方向への国民意思は固まっていると思いますが、コスト問題は原発設備工事の海外受注の是非と大きく関わる問題ですからきっちり詰めておく必要があります。
今後海外受注をするには事故があったときに業者だけではなく、日本国政府による全面保証付きでないと受注出来なくなって行くでしょうから、事故賠償がどのくらいになるかのリスクもコストに含めて計算しておかないと、もしものときには国が破産するほどの巨額賠償に発展する可能性があります。
韓国業者がパラオだったかで建設した橋が直ぐに崩壊してしまったことがあって、損害賠償段階で受注企業が倒産し、韓国政府は民間のことは責任がないとして責任をとらずに、結局日本が無償協力か何かで橋を再建したことがありました。
現地では韓国企業の信用はがた落ちでしょう。
原発も同じで民間のことは政府は知りません(保証していないから)と言ってたのでは、次の受注が出来ません。
これからの原発受注は事実上の責任だけではなく、法的にも保証書を入れないお発注しないとなるのは目に見えています。
こうしたコスト計算をきっちりしないまま、もしも海外受注時に政府が勝手に(国民の知らぬ間に)保証するような事態になると国民は大変な迷惑を被ります。
法的に保障しなくとも製造物責任類似の責任が問われることも考えられます・・例えば福島で海に放射性物質を大量放出した場合、これがカナダ方面に回遊して行きカナダやアメリカで海産物がとれなくなった場合、契約で保障していなくとも損害賠償問題に発展する可能性が大きいでしょう。
事故直後に行われていた燃料棒のプールや原子炉本体への大量放水作戦時のコラムで書きましたが、・・・・・あれだけの水を投下して、それがどこに行ったのかの報道がまるでありませんが・・海に流出しているとしか考えられません。
(途中から、建家内の地下に充満していることが報道されるようになりましたが・・・)
また、ほうれん草や野菜についている放射性物質は、良く洗えば大丈夫とのことですが、その水はどこに行くのかとなれば最後は海に流れている筈です。
放射性物質は何十km川を流れて行っても化学変化しないので性質を変じて行かないし、牛や豚、人、植物が一旦吸収しても食物連鎖を経て、あるいは焼却しても煙は気流に乗ってまた降り注いで周辺汚染を繰り返しますし、灰には高濃度の放射性物質が残りますから、最後は(隔離管理しない限り)海に流れて行くしかないことになります。
結果的に(半減期が来るまでには)海に全部流れて行くとすれば、大気中あるいは、海に放出された放射性物質の総量が重要になります。
今回の水素爆発とその後の冷却化が進むまでは冷却水の蒸発が続いていますので大気中に放出された放射性物質は、すべて最終的には稲藁の販売や牛その他畜産物、農産物の販売等・・人間の移動等を通じて、全国に拡散しがらも結果的には周辺海域に流出して行くことは間違いがないでしょう。
気流や海流の方向性を研究しても総量が分らないと、どの辺で立ち消えになるのかどの辺まで拡散すれば害のない程度・濃度になるのかが分りません。
量が多いときには、太平洋全体に広がってもなお危険かもしれません。
その量によっては、福島原発周辺のどの辺の海まで一時的に(一定期間)どのような濃度で汚染されることになるのかのマップが必要です。

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