原発コスト21(安全対策の範囲1)

関係者が本気で原発事故が起きた場合を心配していれば、事故が起きた場合の手順についてどのようにするかについて予め検討することになるし、その検討の過程で、事故防止策・・事故があった場合の補完策が逆に提案されるメリットあったでしょう。
たとえばジーゼル発電の担当者にしてみれば自分の担当する発電機が故障すれば一定時間内で直せるか、修理部品が足りているかなどに気を配るでしょうし、送電ルートの発電所が故障で停止したり、送電線が切れたらどうするなど持ち場持ち場で対処法を予め検討していた筈です。
また、巨額交付金を貰っていた自治体では、「事前準備6(用地取得)」June 25, 2011までのコラムで連載したように、村ごとにまとまって避難するための用地取得など、事故の程度(ABCDのランク付け)に応じてどの程度の避難と言う、ランク別の避難方法を予め策定しておいて、そのランクに応じた避難方法・避難用車両の準備などを決めて、時には訓練しておけた筈です。
どこの自治体も具体的な避難訓練どころか計画すらなく、政府ももちろん何の予定もなく、ムヤミに避難勧告するだけで、避難先の指示もないし避難方法も準備しないので車のない人はどうして良いか分らないような無茶な避難指示でした。
これが今になって非難されているのですが、こうした避難訓練や非難先・避難手段の準備は巨額交付金をもらっていた自治体が、地域の特性を踏まえて住民の安全を図るべく事前研究・準備しておくべきものであって、中央政府が地域特性を踏まえて各地域ごとの避難経路まで考えておく必要はないでしょう。
政府も自治体・地方政治家も業者もみんな先ず原発を推進することに積極的すぎて、安全性に疑問を呈すると「(何でも)反対派」というレッテルを貼って、その矛先さえカワせれば良いという発想で終始し、(地元政治家は反対運動を利用して交付金増額要求の材料にするくらいで)事故が起きた場合の危険性に関する真摯な対応を考えていなかったことが今回の事故で明るみに出ました。
広大な敷地内にある周辺の燃料タンクやパイプ配管や配電設備など、どれが壊れても直ぐに全体の機能が停止してしまう点では同じ(必要だから設備がある以上)重要性があるのに格納容器だけ頑丈に造っていた(その他は普通の建築や工場の設置基準であった)ことも、今回の大事故で分りました。
原子炉格納容器だけ特別な耐震基準で頑丈にしておいても、地震の結果冷却水循環用に必要な配管が壊れてしまうと電源があっても安定的に冷却水の循環が出来ず、冷却停止が3時間半続くと原子炉内が過熱して燃料棒の溶融(メルトダウン)が始まるというのが原子炉関係のイロハらしいことが一般に分ってきました。
電源喪失は冷却装置停止の一原因に過ぎず、電源が仮にあっても冷却装置全体が壊れてれば冷却出来ない点は同じです。
東電・マスコミは何故こんな簡単な原理を無視して、電源喪失が原因であるかのごとく報道していたのでしょうか?

原発のコスト20(安全対策と事故処理マニュアル)

8月の夏休み期間中余裕があったので、(私はお盆休みをしないで事務所に出る習慣です)事務所に送って来ていた中央大学発行の中央ジャーナル掲載の論文を読んでいたら、30年前から大地震のないアメリカでさえ、電源喪失に対処する方策について研究が進んでいたと書いてありました。
これについて国会で質問された班目委員長が「それは知っているが、それについては業界できちんと対処するように指示している」(上記本を持ち帰っていないので、うろ覚えの趣旨ですからそっくりそのままの答弁ではありません)と答弁しているそうです。
原子力保安院は、業界に指示して業界が指示に従ってきちんとやったとしても、それで良いかをチェックする役所ですから、業界に対処しろと指示しておきましたと言うだけは存在意義がありません。
また同委員長は、浜岡原発訴訟の証人尋問でも、ジーゼル発電機を常時2台用意しておく必要がないかの質問に対して、
「一々心配して対応していたら採算が取れないので切り捨て行く・・物事には割り切ることが必要なのです」と子供のような質問をするなと言わんばかりの証言をしています。(この文言も記憶に基づくもので一字一句そのままではありません)
今回の大地震の余震(程度)であちこちの発電所が壊れて、あるいは送電網が壊れて青森県の東通原子力発電所でも2〜3系統あった全電源喪失が起き、予定通りジーゼル発電機が動き出したものの、その発電機が直ぐに故障して停まってしまいました。
もう一台の発電機は定期修理中で使えなかったので結果的に冷却装置が動かなくなってアワや福島第一原発同様の事故発生の直前まで行ったのですが、そのギリギリのところで1系統の電源が回復してことなきを得たらしいのです。
冷却装置が3時間半動かないと大事故になることは予めアメリカなどの研究で明らかになっていたらしいのですが、我が国ではそんなことはあり得ないと勝手に無視して、その先の研究・・もしもの電源喪失に対する対処マニュアルさえ用意していなかったので、イザ電源喪失してみると爆発阻止するために弁(ベント?)を開けるにしても手動で動かすマニュアルもなくどのように動かして良いかの検討から始まったようです。
勿論移動式の電源車の準備をしておらず、漸く準備して持って来てもどこに繋いで良いかの手順さえ決まっていなかったし勿論訓練もしたこともない有様です。
津波は想定外だったというのですが、今回程度の津波の高さ自体も地震学者による指摘がその前からあったのに、地震や津波に関して専門外の原子力学者らがこれを無視して、将来の研究課題として先送りしていたことも分ってきました。 
想定外のことだったのではなく、防潮堤のかさ上げや発電機などの高所移動にはコストがかかるので(そんなことを一々気にしていたらやってられないと言う姿勢で)無視していたたことも分ってきました。
また、上記の通り津波を伴わない単なる余震(東通の場合は震度4前後ですから我が国ではどこでもしょっ中ある地震です)だけでもあちこちの発電所が自動停止してしまい、東通原子力発電所に電気が来ない状態が何時間も続いて自家発電装置も止まり、もう少しで福島第一原発並みの大変な事態になる寸前まで行っていたのですから、大津波に関係なく電源喪失=冷却装置の停止リスクはしょっ中あり得る事態だったことも分ってきました。

原発コスト19(付保険4)

関係者は本気で全面賠償する気がなかったでしょうが、「事故による損害を全部賠償したのでは採算がとれないので賠償しきれません」と正面切って業界が主張すると原発の方が安く発電出来るとする推進派の基本的立場が崩れてしまいます。
そこで、原発賠償法には無制限に総損害を賠償すると書くしかなかったのでしょうが、政府も業界も本気ではなかったのでもしも事故があった場合の事故処理手順の研究もしないし、(電源喪失時の手動の手順さえなかったのです)事故が起きたときの避難訓練や避難方法・範囲、更には食品その他放射性物質の基準についても何の計画も準備していませんでした。
その場合に生じる損害の研究を全くせずに来たし、リスクの指摘にまじめに対応して来ずに採算性範囲内で「割り切り」でやって来たことからすれば、本音では全面賠償する気持がなかったことが分ります。
本来法で全面賠償すると決めている以上は、政府が業者に本気で賠償させる気持ちだったとするのが一貫するのですが、それならば供託金を1200億円限度ではなくその数十倍の引当金を要求したり一時金で用意出来ないならば、交通事故賠償保険のように無制限賠償保険制度を創設しその加入を奨励しておくべきだったことになります。
保険金額が天井知らずでは保険会社はリスクが大きすぎるので保険に応じないだろうということになりますが、無制限にすれば却って保険会社は損害リスクを大きめに査定して再保険を含めてペイする(高額な)保険料を設定していかないと、イザとなれば自分が倒産するリスクがあるのでシビアーに見積もることが期待されます。
その綱引きの結果・・・世界企業を含めた多数の保険会社間の競争・再保険もあるでしょう・・高額保険料でも加入するか・・逆から言えば東電の提示する低額保険料では入札に応じる保険会社がないということで仕方なしに保険料を高くても加入するしかない・・国債引き受け同様に市場原理で保険料が決まって行くべきものです。
利害の相反する参加者の均衡点で価格を決めて行く・・これが市場原理ですが、裏で政治資金をもらっている政治家となれ合いで均衡点を決めて行く政治決着とは違って合理的です。
逆から言えば、損害が天文学的なものになるリスクがあるので保険でカバーしきれない・・保険料が高くなり過ぎて商売にならないとする主張があるとすれば、その主張は原発事故の損害をマトモに払うのでは採算が取れないことを予定していた・・自己証明しているようなものです。
にもかかわらず充分な保険をかけるようにしなかったのは、(1200億円以内と法律で決めてしまったのは)ハナから、まともに損害賠償する気持ちがなかったから・・マトモな議論をしていると原発が成り立たないという前提があったと言えます。
原発関連学者・・関連経済学者・公認会計士も含めての共通項は、「分らないから危険だ」と言うのではなく、検討するとコストがかかり過ぎて原発そのものが成り立たないから、「分らないから考えるだけ無駄だ」「津波の危険性あるいはその他の原因による冷却装置の損壊・電源喪失・パイプ破損など考えない」ことにしましょうという共通項・・無責任体質で括れるでしょうか?

原発コスト18(安全基準2)

損害賠償費、事故処理費用や廃炉費用を加えてコストが明らかにしても、結果的に火力発電と同じくらいのコストで仮に収まるとした場合、国民の不安心理からすれば、「同じ程度のコストだったら火力・水力発電にしてよ!」という国民が圧倒的多数でしょう。
仮に原子力発電のコストが半値でもどうかな?という国民が多いのではないでしょうか?
月平均1万円前後の電気代が2倍の2万円になっても、月々1万円のためにこんな危険と隣り合わせに生きて行く必要がないという人が多いでしょう。
元々1万円くらいは、ちょっと良い思いをするためにちょっと高めの洋服を買ったりアクセサリーや嗜好品に使っている人が多い時代です。
あるいは健康維持のために中国産ではない割高な国産農産物や健康食品・化粧品などを買ったりしている人が多いのですが、その追加出費額は月間1万円どころではありません。
あるいはちょっとした付き合いで、気持ちよく過ごすために冠婚葬祭や懇親会費として1万円程度のお金を包んだり出費することはいくらもあるでしょう。
放射能汚染地域で1万円出せば放射能汚染がなくなる魔法の設備が仮にあった場合、そんな便利なものがあれば1万円出してでも安心して暮らしたい人が多いのではないでしょうか?
事故直後放射能汚染された水を恐れてペットボトルを買う人が急増した事実がありますが、ペットボトルだけ月に数千円よけい出費しても空から降って来る放射性物質その他による被曝を避けられないのですが、飲み水にだけでもそれだけのよけいな出費を厭わない人が多い事実を重視すべきです。
とは言え、個人生活は別として、産業界が海外に比べてあまりに高い電力料金で流行って行けないという問題があるので、悩ましいことです。
どんなに国債競争上不利でも損害リスクをないものとした架空のコスト計算では意味がないので、繰り返し書いているようにもしも事故があった場合の損害コストを加算したコストでなければ意味がありませんから、ここはやはり損害を加味したらきっちりしたコスト計算を示して欲しいものです。
原子力事業に関する何重のチェック体制があろうとも、そのチェック目的が危険回避目的ではなく、事業をやって行ける範囲で国民の不安に応えて行けば良いという逆転の発想であったことが、今回の大事故に繋がったものと思われます。
9月16日にヤフーニュースに掲載された各地の原発訴訟を担当した元裁判官10人のコメント・印象が報道されていましたが、一旦原発を停めるとなると大変なコストがかかる・・国全体で原発を推進しようとしているときにそんなこして良いのか・と言う心理的圧力がかかってしまう・・結果的に格好がつく程度の証拠調べをして先ず認めてしまう心理状況が全体として流れている感じです。
(読み方・読後感は正確ではないかも知れませんので皆さん独自にお読み下さい)
この後で原子力安全・保安委員会班目委員長の浜岡原発訴訟での証言を紹介しますが、一々対応していると事業をやってられないと言う「割り切りが重要だ」という視点で安全度を判定していたことが分っています。
安全かどうかではなくコスト的にやれるかどうかを基準に保安院はチェックして来たことを自ら如実に証言しています。
こうした運用の結果、原発は火力より安いと言われても、火力より安くあげられる範囲で安全審査をして来た結果であれば、同義反復でしかありません。
各地の原発訴訟での裁判所の判断基準もやれる範囲でしか原告の主張を認めない・・どこもかしこも循環論法ですから安全審査も基準も意味がなかったのです。

原発コスト17(問答無用3)

原発は怖いがだからと言って感情的に全面的にやめるとまでは言えない・・・フグは食いたし命は惜しし・・と同じ心境です。
全面禁止か資格のある調理師の調理によるフグを食べるのかと似ていて、どのくらい高くなるのかの程度問題を先ず知りたい・その上でどうするかを考えたいのが、普通の国民の心理でしょう。
この関心は正当なものだと思いますが、これには正面から応えないまま、事故直後に(頼みもしないのに・・)東京電力の試算で、原発をやめると1家庭平均で月1000円上がるという発表が逸早く(こういうことには素早いのもおかしな会社です)ありました。
その前提になる元の原発コストは事故処理コスト等を計上していないときのコストですから、これと比較するかのような土俵設定をする事自体、論理法則違反です。
こんな論理法則・ルール違反の子供騙しのテーマ設定は・・当面の値上がりに庶民は間違って反応するだろう式の発想によるものでしょうが、国民をバカにしているし論点をすり替えようとする意図がアリアリです。
まして、投資済みの原発施設の投資回収をしないまま・中断してここで新たに火力発電所の新設をして行けば、二重の設備で半分しか稼働しないので、コストが従来よりも上がるのは、あたり前です。
(これでは原発の方が安いか火力の方が安いかの比較にはなりません)
原発から火力に切り替えるのではなく出来上がって数年の火力発電所の事故があって、新たに火力発電所を新設する場合だって、減価償却しない内に廃棄するコスト負担や事故処理と並行して新設火力となれば、料金を上げないとやって行けないのは同じです。
伝統的支配勢力は、稼働期間約40年しかないとすれば、後1年でも2年でも多く稼働させて1年分でも2年分でもよけい回収したいということで頑張りたい気持ちもあるでしょう。
しかしこんな議論をして廃炉を引き延ばしている間にも何時次の大地震がないとも限らないのですから、一日も早く廃炉準備をして行くべきでしょう。
同一業種でA企業は火災保険や交通事故保険料を火災事故による避難訓練などをコストに加えていて、B企業は避難訓練もせずに火災保険・事故賠償保険にも加入していない・・事故が起きたら倒産処理する無責任形式とすれば、何の備えもないB社の方が事故がない限りコストが安いのは当たり前であってコスト比較になりません。
今後これら費用をコストに加えるとどうなるかの議論がいま必要なのに、これに答えることなく先ず値上げから入って行こうとするのは、国民に対する威嚇戦法でしかありません。
マトモなコスト計算を公開しないまま、問答無用式に値上がりした結果だけを示して「こんなに高くなるんだぞ!」と脅して行く現在の方式は、如何に原発のときの方が安かったかの印象だけを刷り込んで行く作戦のように見えます。

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