労働需要減少と就労者増

在日外国人労働者数としては正規と不法滞在を合計するとここ数年間1年当たり5〜6万人以上の減少が続いていると言えるでしょう。
私が年来主張しているように、労働力の供給過剰が生じて、これに敏感な外国人労働者が減って・・・一種の社会減が生じているのです。
1月9日の日経朝刊第1面ではリーマンショック後1年間で「外国人労働者が14%、4万5000人減少した」と書かれていて、上記人口統計(では年に正規登録者数で2〜3万人減・・しかも妻子を伴って帰る人もいるのでこの減少がすべて労働者とは限りません)とは少し違いますが、出典明示していないので根拠不明ですが、企業等からの集計かも知れません。
根を生やしていない外国人(に限らず国内でも転勤族は同じです)は仕事がないとなれば逃げ足が早い(非正規雇用が多いことも大きな原因)のです。
外国人労働者がものすごい勢いで減少しているのは、結果として国内労働需給・・雇用の場が縮小していることの反映です。
日経新聞1月10日朝刊1面では、「昨年11月時点の建設業就業者数は488万人で1997年よりも200万人少ない」「工場の海外シフトが進み、09年の製造業の就業者数は92年に比べ500万人減った」(出典不明)と書かれています。
(1990年からだともっと減っているでしょう)
このシリーズで繰り返し書いているように製造業に限らずその他業種でも事務処理の電子化等によって、銀行・証券・保険その他一般業種でも大幅に就業者数が減っていますから、実数では1000万人単位の減にのぼるでしょう。
この建設・製造合計700万人の労働者減だけで考えてもこれに匹敵する人口を減らすには、(労働者700万人のバックには赤ちゃんや老人、病人・これを世話する保育士や教育関係者・医療・介護・美容・食料等のサービス業従事者・公務員等不要になる分を含めると)数千万人以上の人口減が必要です。
仮に当時の就労人口が約4500万人だったとすれば、その6〜7分の1の減少ですから、人口の6〜7分の1が減少して均衡します。
統計局ホームページでの昭和28年からの就業者数の時系列データによると、平成元年には男子約2891万人、女子1714万人の合計4605万でしたが、その後男子は徐々に増えて平成2年10月に3000万台になってから平成22年11月男性3126万人の微増に対して、女性が平成15年12月に2200万人を超えてから一進一退で平成22年11月まで微増の2329万人・・男女合計5456万人となって800万人も増えています。
この外完全失業者が300万あまりです。
700万〜1000万の雇用減に対して、逆にじりじりと就労者が増えて来たのは、失業したままでいられない・・・青森県のように域外=国外に流出出来ないので、リストラ中途退職者の多くが非正規雇用者として再就職して働き続けた外に(定年延長等による労働者増とあわせて、)男性就労者が増え続け、男性の非正規雇用化による生活維持のために主婦層が新たに働きに出て行くようになった経過が読み取れます。
統計によると高齢化による滞在人口の増加によって就労者が増え続けているのであって、年金赤字は少子高齢化による就労者減によるものではないことが明らかとなります。
世上、少子化の結果少ない労働者が高齢者を支えることになるので大変だと言われていますが、実際には支える働き手が増え続けていたのに赤字が進行しているのです。
需要減=総収入減ですから、労働者だけ増やしても減少した収入をシェアーするだけ・・一人一人は貧しくなり、国家全体の労賃収入は増えません。
給与天引きに頼る年金や保険が軒並み赤字になっているのはこの原理によるのです。
以下就労人口統計の一部紹介します。
男女計     男子   女子
平成元年 1月 Jan.   4605       2891     1714
1989   2月 Feb.   4636       2909    1727
3月 Mar.     4645      2914     1731
4月 Apr.    4658      2915      1744
5月 May     4672     2923     1748
6月 June    4682     2928    1754
7月 July    4692      2939    1753
8月 Aug.    4701     2945    1756
9月 Sept.   4689      2936    1753
10月 Oct.    4698     2935     1763
11月 Nov.   4721      2949     1772
12月 Dec.   4739      2964      1776

平成10年 1月 Jan.   5397  3245 2152
1998   2月 Feb.   5397 3251 2146

平成22年 1月 Jan.   5489   3156    2333
2010 2月 Feb.    5474    3135    2339
3月 Mar.      5485   3144    2343
4月 Apr.      5442    3132   2310
5月 May      5417    3115    2301
6月 June      5418    3131    2287
7月 July       5446    3131    2315
8月 Aug.       5451   3127    2326
9月 Sept.      5510    3139    2371
10月 Oct.      5493    3135   2360
11月 Nov.      5456   3126   2329
12月 Dec. … … …

不法滞在者

外国人登録数に関係ないとは言え、不法滞在者はそのほとんどが(水商売であれ・・)日本で働く目的での不法滞在ですから、労働需給に大きく関係しますので、念のために不法滞在者数の推移を見ておきましょう。
不法滞在者数は、法務省統計によれば、2005年1月1日現在207,299人〜2006年1月1日193,745人〜2007年1月1日現在170,839人〜2008年1月1日現在の14万9785人から2009・1・1現在の11万3072人となって最近ではほぼ毎年3万人前後減り続け、直近では約3万6000人も減っています。
不法滞在=働きに来ている人が中心でしょうから、仕事がなくなればさっさと引き上げる人(帰る金がなければ自分で出頭して、強制送還して貰えばタダで帰れます。)の比率が高い(14万人の内3万人減とすれば20%減です)のは当然です。
ちょうど外国人の正規登録数の減少幅・・毎年数万人と絶対値では似ているのですが、不法滞在者は元々外国人登録している人が少ない・・留学等で登録した後に資格喪失などもあるでしょうが・観光ビザで来た人は登録しないまま不法滞在に移行していますが、・登録比率は少ないので、ここで数字が合致しても意味がありません。
前回紹介したとおり正規登録者数がここのところ年間2〜3万人減っているのと平行して、不法滞在者も数万人づつ減っている・・実数では合計2倍の減少率と読むべきでしょう。
正規登録者の内でも、労働者数としてはもっと減っているのでしょうが、正規登録者の場合、留学・日本人配偶者等その他多目的入国が含まれているのでその分野の増加があると総合計の統計では中和されるので、労働者数の減少よりも結果の数字が小さく出ている可能性があります。
ちなみに留学生がどのくらい来ているかについて見ておきますと、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の22年12月発表のデータによれば、「平成22年5月1日現在の留学生数 141,774人  過去最高(前年比 9,054人(6.8%)増)」とされております。
留学生が増えたか減ったかは別の問題として統計を取る意味はありますが、外国人を含め総人口減少だけを騒いでも意味のないことです。
話を日本人だけの人口増減に戻しますと、2005年の2万1266人の人口減少数は日本人だけの統計ですが、その翌年には8226人の増加に戻り、2007年以降また2万人台の減少に転じて、この2010年の国勢調査でイキナリ8万人台の減少(人口の0、06%と言う厚労省のパーセント表示数字)になったものです。
マスコミは日本の総人口には統計上在日外国人も含めていることを説明せずに(外国人を含めた)総人口の減少10万7000人減だけを大きく報道していますが、(マスコミは人口減少の危機感を強調したいようです)実態は小さなものです。
日本人だけのパーセント数字では0、06%減と厚労省が発表しているので、100年かかっても6%しか減らないことになります。
これではインパクトがないので、January 5, 2011「合計特殊出生率2」で紹介したとおり、政府では今後更に出生率が低下するとした場合のシュミレーションに励んで、今後約50年で50年前(1955年)の8000万人台に戻るとする研究結果を発表しているのです。

総人口と外国人数

ところで人口と言っても、外国人居住者を含めた総人口と日本人だけの人口の2種類があって、総人口とは外国人を含めた概念であるのに、マスコミが何ら限定なく総人口が減ったと大きく報道するのはミスリードする意図があるとしか思えません。
統計内容を見ると昨年の減少数は総人口では10万7000人減ですが、日本人の人口だけですと8万1000人(統計表にある%では0、06%減=100年で6%しか減らない計算です)しか減っていません。
在日外国人総数は上記統計によると・・総人口から日本人人口を差し引くと約170万人ですが、その中で特別永住権のある在日朝鮮人を含む朝鮮系は60万弱、留学生等が14万人前後で残りの100万人弱がいわゆる外国人労働者とその家族と思われますが、ここから1年で2万人以上も減ったとすれば、この減少率の大きさこそ注目すべきです。
在日韓国・朝鮮系は不景気になったくらいでは、韓国・朝鮮への脱出する人は稀ですが、(むしろ呼び寄せていることが多いにもかかわらず)60万人前後で何十年も安定しているのは、他方で日本人へ帰化が進んでいるからでしょう。
ところで、厚労省の統計とは別に法務省の外国人登録の統計「(2010年) 国籍別外国人登録者数の推移 法務省」によれば、外国人登録数が2000年末168万6,444人、2007年末215万2,973人、2008年末の221万7426万人と増えていたのが、リーマンショックのあった2009年218万6,121人と約3万人減少していますから、(2010年末現在はまだ発表されていませんが、)その1年後の2010年10月1日の国勢調査による約2万人減は趨勢としては大方合っていることになります。
法務省統計は出入国記録によるものであれば(密入国を除けば)正確でしょうが、統計局と若干時期が違っているとは言え、昨年の国勢調査による外国人人口=総人口−日本人人口との差額数字約170万人よりも約40万人も多くなっています。
(1年分の減少数2〜3万人引いても数字があいません)
国勢調査は自己申告による実態=不法滞在者も含む可能性がありますが、飯場に住み込んでいる不法滞在者が自己申告することは稀でしょうから、法務省統計が、仮に出入国記録の誤差(観光や留学・研修生その他で入ったままで、出て行かないオーバーステイなど)を全部カウントしているとすれば、不法滞在分だけ多くなっていると考えることが可能です。
そこでもう一度、法務省統計を見ると「外国人登録者数」ですから出入国の差額ではなく、正規に登録した人の数に限定されていることになります。
とすれば、不法滞在者数がこの数字・・2008年の221万人等の外国人数に入っていないことになります。   
2010年1月1日の国勢調査の外国人は総人口から日本人人口を差し引くと170万人前後しかないのに、法務省統計では210万人もいる誤差は、結局は正規登録者でも、外国人は国勢調査に協力しない人が多い(・・漢字が読めないなどで・・意味不明でプライバシーを書きたくない・・書けないでしょう・・英語などで対応しているのな?)と言うことでしょうか?

適正人口3

 

今後日本の労働需要がどうなるかの見通しによって、どの程度の労働可能人口を形成するのが適正かの基準を考えるしかないとすれば政府の人口政策は重要です。
企業はパソコンの普及等産業構造変化やグローバリゼーション化にあわせて、人材の配置転換等で迅速に対応して(不要人員には中途割り増し退職金支給等で企業外に放出するなどして)いますが、政府の方は不要な国民に支度金をやって(満蒙開拓団のように)海外に放出するわけにはいかないので、企業以上に先を読んだ人口政策が必要です。
企業家が数年〜数十年先の需給見通しによって仕入れたり、工場立地・・研究開発を進めるのと同じく、政府も何も考えずに成り行きに任せるのではなく、労働力の仕入れ=出産政策も30〜60年先の労働需給見通しによって策定すべきです。
そこで今後の労働需要の見通しに入って行きますが、グローバル経済下では日本だけが世界の工場として存在し続けるのは不可能ですから、長期的には国際平準化に向かうしかなく、この方面でもかなりの労働需要の減少が見込まれます。
出典不明ですが、ネットでは1990年に1197万人の製造業従事者が2007年には897万人に減っていると書かれています。
あるいは、平成22年11月16日経済産業省で開かれた「国内投資促進に関する意見交換会‐議事要旨」の発言によると
「平成14年から21年までの政権交代までの7年間、製造業では96万人、建設業では82万人の雇用減があった。」
とあり、需要減が続いていることが明らかです。
リーマンショック後に海外展開したことによる国内労働需要の減少だけでも、正確な数字は忘れましたが、何十万人にのぼると報道されていました。
この消滅した需要はリーマンショックの不景気から日本経済が立ち直っても最早国内に戻ることのない需要です。
仮に同じ生産量を国内で維持していても機械化・効率化によって従業員数は減る一方ですから、製品輸出産業に従事する労働力需要はじりじりと減って行くしかありません。
同じことは事務系労働者にも当てはまり、国際化による規模縮小だけではなく、事務処理の電子化等による効率化によって、中間管理職以下の事務職員の需要が激減しつつあります。
今後縮小して行くべき分野・裾野人口ほど、関連人口が多いのは当然ですので、裾野分野の過剰労働力発生に代わって研究開発やデザイン、漫画等知的分野で外貨を稼げるのは、うまく行っても少数の人間ですから、工場労働者や末端・中間ホワイトカラー向けのような大量の人員を養えません。
January 5, 2011「合計特殊出生率2と人口増減」で紹介したとおり政府や学者の予想では、現在よりも出生率が下がり続けても1955年の人口水準に戻すのには今後約45〜50年もかかってしまう予想ですが、それでは急激なグローバル化や効率化による上記のとおりの労働需要の減少に間に合わない筈です。

過剰労働力と域外脱出

適正人口がどうあるべきかの基準としてみれば、青森県の例・・たまたまネットで拾っただけで地方はいずれも似たような状況でしょう・・は大きな示唆を与えています。
青森県では人口減も始まっていますが、それでは収まらずに社会減=労働人口過剰が続いている・・・人口減と労働人口不足とは連動しないことが分ります。
青森県民・・あるいはその他地方では学者や政府が見通しを示してくれなくとも、適正人口を上回っていると自己判断した結果、脱出が続いていると見るべきです。
地元にとどまって失業率を押し上げるよりは、脱出して未知の地で就職活動をした方が良いと言う判断でしょう。
この結果地方の失業率はそれほど上がらず、(前回書いたとおり、就職機会がないと求職活動自体が低下するからです)大都会の方が失業率が高くなる傾向があります。
こうした実際の動きを無視して、失業率・持ち家率その他の統計だけで「地方は住み良いぞ!」とする宣伝を良く見かけますが、本当に住み良ければ地方の人口が減る筈がないのです。
地域として社会減があるのは、地元で吸収出来る以上の人口を用意してしまった・・人口政策を誤っていたことの厳然たる事実の現れと見るべき・・過去の為政者の人口政策と産業政策の総合的失政と言うべきですが、地域の場合過剰人口になってしまっても、他の仕事のありそうな地域への国内移動で間に合うので(地元失業率が許容出来ないほど上昇する結果責任を回避出来て)政治責任が顕在化しなかったに過ぎません。
これが政府が国全体の人口政策を誤って人口過剰になると、仕事のありそうな海外へ脱出出来るヒトは県外に出るのに比べて極めてハードルが高くなります。
政府が労働需要創出策とセットにした大枠の労働需要判断を誤り・・無責任に子供を増やすと、国内は失業の増大で大変なことになります。
(上記ネットあるいは関連ネットでは、流出が進むと過疎化が進んでしまい、大変だと騒いでいますが逆です・・青森のように出て行ってくれるから良いのであって、誰も出て行かないで県内で失業者が溢れたらもっと大変ではないでしょうか)
この流出実態に対して、地方では過疎化するからもっと子供生んでもらうには・・・と政策動員している現在の政治・マスコミはどうかしていませんか?

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。