豪華クルーズ船対応批判4

同様にクルーズ船入港前から受け入れ研究が進んでいたでしょうから、武漢からのチャーター機帰国者の行動が大きな先例であり検査拒否者をどうするかが重要テーマになっていたと想像するのは、外野の思い込みに過ぎないと言えるでしょうか?
自粛要請を無視して格闘技大会を強行すると巷では(経営者が日本人でないのでは?)というひそひそ話が出回るように、クルーズ船は英国船籍の船でもあり外国人観光客が多数を占める場合、何%の造反が出るか、その場合感染拡大に対する防御策があるか、あるとしても有効性がどうかなどが大きな議論になったと見るのが普通です。
武漢からの帰国者の場合検査拒否しても自宅に帰っただけですが、観光目的乗客が拒否して国内各地を移動しまくる場合の感染拡大リスクは桁違いです。
クルーズ船乗客の場合・例えば4〜5日〜1週間程度の旅行日程できた人が、上陸後2週間も船外のどこかのホテルにステイしてじっとしているのに協力しかねる気持ちになるのは当然・非難性が低い→拒否し易いでしょう。
往復船で来た人は帰りの船が2週間後まで待ってくれるか2週間後に自分で帰国用の飛行機予約できるかも不明です。
クルーズ船客が黙って2週間の滞在に応じる確率が低いし、それに日本がこだわると法的根拠があるのかなどの国際的紛争を引き起こしかねないリスクなどの総合判断が行われたと見るのが普通でしょう。
今は入国解除するにしても2週間待機を前提条件にするのが国際慣例(相互主義)なっていますが、当時まだ二週間待機要請が議論の初期段階で入国条件として一般化していない時期だった記憶です。
下船=入国許可後の検査と船内検査の利益衡量をすると、下船後検査の場合、外国人観光客に下船後検査を拒否されると手の打ちようがないのに対し、船内検査の場合検査拒否すれば入国拒否すれば良いだけで単純順明瞭です。
船内検査に時間が掛かる→その間感染者が増えるかもしれないが、陽性結果者には法律上全員強制入院させられる・どちらを選ぶかの政治判断による選択だった(設備優劣でなく)と見るのが素直でしょう。
国際法で考えると入国前の防疫審査で一定の時間がかかっても・・中国がフィリッピンに対する嫌がらせにバナナ検疫に時間をかけることなどがしょっちゅう行われていますが、ズバリWTO違反になりません・・妥当性の問題です。
入国審査(防疫検査)に2〜3時間並ばせようと結果が出るまで5時間〜翌日までかかろうと妥当性の問題ですが、入国条件に2週間の移動制限や検査協力を求めるのはこの情勢下では妥当性はクリアーできても、拒否された場合強制できる法が存在しない点が致命的です。
武漢帰国者検査拒否者の論理を法的に考えると検査承諾の誓約は民事契約に過ぎず、契約による身体に対する直接強制はできない・・契約違反の損害賠償請求されてもいいという程度の意味でしょうか?

民法
(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

一般的に身体強制は上記間接強制しかできない解釈です。
間接強制は、「違反1日当たりX円を払え」という判決を求めるしかないことになっています。
弁護士に頼んで訴状を出し、それから1ヶ月後に裁判が始まり・・そんな悠長なことをしているうちにどんどん感染が広まったらどうするかが喫緊の課題でした。
こんな悠長な裁判を(国内移動目的の住居不定の外国人旅行客相手にそもそも訴状・呼び出し状送達をどうやってするのかの事実上の不可能性があります)しているうちにコロナが広がってしまうので上陸後検査拒否されれば政府としてはお手上げです。
そもそも一般的入国条件を満たしているのに外国人相手に2週間の移動制限や検査を受ける事前承諾を求めた場合、これが国際法上有効かすら俄かにわかりません。
違法の主張が起きて・・いうだけタダですので、承諾拒否された場合どうするかの問題が起きます。
これが国際報道され違法行為をしていると日本は国際非難を受けるリスクがあります。
当時は今のように2週間自粛要請がまだ一般的ではありませんでした。
さらに承諾しても、いざ下船後武漢からの帰国者のように検査に応じ、結果出るまで外出しない約束を守るかどうかすらわかりません。
船内検査した方がよいかどうの判断基準は、設備の優劣にあるのではなく、入国を認めても下船後外国人全員に検査強制できるか、一定期間待機強制できるかの問題があるのに対して、船内=今回のクルーズ船は英国船籍内にいる外国人=入国前の検疫であれば強制する必要すらない・検疫に応じなければ入国拒否できるのが国際法上の権利ですので、検疫検査結果が出るまで入国手続きに応じる義務がないという出方をすれば法的に単純明快です。
選択にあたって比較すべき項目は検査設備や受け入れ態勢の問題でなく(独りも逃さず)全員検査できるかのテーマ比較だったと想定されます。
以上は事実経過の公表がないので何が事実か不明ですが、結果から見ればそうなるということです。
岩田氏は持論の正当性を主張するならば、「最初のジレンマ」だけ出さないで当時議論された問題点を全部出すべきです。
彼は感染症の専門家の立場で、検査できる所与の環境下でどのような感染予防策がよいかの比較をした経験→関心が主だったでしょうし、厚労省役人は国際条約や国内法規の制約のもとで何ができるかできないかの前提条件のチェックがまず気になる点が大きな違いです。
医師の場合、患者が医師に見て欲しくて病院に来る前提・経験が多い・・見て欲しくない人のところへ押しかけて行く必要が滅多にないので、拒否されたらどうするかのテーマに関心が低かったのではないかの疑問を抱いています。
岩田氏の主張を見ると上陸させて分離管理して検査すれば良いのに・・設備不十分な船内検査を(厚労省役人が)選択した以上は、上陸後の検査以上に完璧であるべきとの主張になりそうです。

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