官と臣2(公僕を兼ねる?1)

現憲法の公務員は国民全体に対する奉仕者ですが、一君万民思想下では臣民は天皇家への奉仕者ですから、天皇家と臣民とは(今風に言えば労使関係の)対立可能性を内包していたことになります。
これの危惧があって、日本では戦後も公務員の争議権を厳しく制限してきました。
フランスでは警官もデモする権利があり、裁判官のデモもあると学生時代に聞いて驚いたものです。

国家公務員法
(昭和二十二年法律第百二十号)

第九十八条 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
○2 職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。
○3 職員で同盟罷業その他前項の規定に違反する行為をした者は、その行為の開始とともに、国に対し、法令に基いて保有する任命又は雇用上の権利をもつて、対抗することができない。
附 則
第十六条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、船員法(昭和二十二年法律第百号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)並びにこれらの法律に基いて発せられる命令は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない。

上記に対して地方公務員法は労働法原則適用を前提として、58条に労働法規の除外規定を置いているようです。

地方公務員法

(他の法律の適用除外等)
第五十八条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)及び最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない。
2号以下省略

日本で戦後臣民という法律用語が国民に変わり天皇の臣〜官から公務員という単語に変えても、もともと臣・官であった同じ人間が今日から公僕である公務員になったとしても意識が簡単に変わらない上に、変わらない意識を温存するために?国家公務員法や地方公務員法という一般労働者と別扱いする特別法を同時に作ったことになります。
幕末会津藩が、リスクが大きく割の悪い京都守護職を引き受けるのは損な役回りになるのが明白だったので家中では慎重論が強かったのですが、藩祖以来の将軍家との特別な関係重視・「本家の危急存亡のときに役に立たずにどうする!」「義」を重んじる論が大勢を制して、ついに京都出兵に応じて最後は賊軍の汚名を被ることになりました。
一般譜代大名や親藩と血の濃さが違うのだ!ということだったでしょう。
今でもこの種の浪花節的?美学・生き様は日本人の心打つものがあります。
豊臣秀吉死後着々と豊臣政権を蚕食していく徳川家康の策謀に豊臣恩顧の子飼い大名が次々となびいていく中で、身を挺して抵抗していく小身の石田三成の美学・・石田三成を最後まで応援した大谷刑部の友情の美学、大坂の陣で最後まで戦い切った真田幸村の義勇に心惹かれるのです。
根強い忠臣蔵人気は、徳川初期以降国学として支配力を持った朱子学普及による忠義の心によるのではなく、(大義名分として幕府の掲げる忠義の実行だと言うことになっていますが)本音はそれ以前からある日本民族に備わっている滅びゆくものへ「義を尽くす」ことに対する美学でしょう。
平家物語の最も心打つ場面・「木曽殿最後」の主従再会場面も同じですが、(朱子学などまだない時代)信頼で結ばれた「義」を重んじる滅びゆく美学です。
判官贔屓と言う熟語があるのは、彼が赫赫たる戦果を挙げたからではなく、(田舎育ちで複雑な貴族社会の駆け引きを知らない義経が老獪な後白河に手玉に取られてしまったことによるとしても)不幸な言いがかりで?滅びて行くことに対する国民の哀惜の情によります。
豊臣家恩顧の「義」をコケにして見え透いた利に従って率先して裏切った(福島正則を筆頭とする)有力大名が徳川体制確立後次々と改易されますが、家康がずるい・酷いというよりは、「こんな奴は用済みになれば切られて当然」という評価で国民は同情しません。
明治以降は憲法はどうであれ、民意重視ですから政権が短命で、安倍総理が7〜8年が史上最長らしいですから、現在政治家は子々孫々までの忠義立ては不可能でいつもその次を考えながら強いものにつき生き残る高度な政治力が必要です。
かといって、主と仰いだ総理が落ち目になると率先して裏切っているのではそう言う人間は次の政権でも、誰も信用してくれないので強い方につきたいものの過去の恩顧やしがらみを無視できません。
この辺の微妙な観点から徐々に軸足をズラしていくしたたかさが戦国時代以上に求められます。

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