最先端社会に生きる5

欧米経済学者やマスコミは日本の長期持続して来た高度成長による欧米追い越しに対するやっかみがあって、ついに日本も駄目になったと言うことばかり強調したがる傾向があります。
欧米では中国から遠いので格安品の流入による影響が静かに進んでいたこともあって、これを見ないことにして、中国・新興国由来のデフレに悩む日本を失われた20年などと揶揄してバカにしていたのです。
新興国の逆襲に何の対応も出来ずに、(欧州が合併してEUとして規模による防衛するくらいしか考えないで)欧米国内産業が疲弊するに任せていました。
ちなみに商品の競争力がない負け組が合併を繰り返して生産規模を大きくしても、割高な物を大量に作れるだけでは意味がない点は企業でも国でも同じです。
・・清朝のように大きな国でも技術革新に負けてしまった19世紀には、近代化した英国に叶いませんでした。
パナソニックが、サンヨーと合併して規模を大きくしても、商品単位あたりの性能やコスト競争力がなければ、何にもなりません。
国や企業は規模ではなく、(EUが大きくなればいいというものではないでしょう)如何に効率よく、良い商品を作れるかが競争力を左右します。
日本は格安製品の怒濤的流入に対して国中挙げて対応して来た結果、国内企業も負けずに(ユニクロや100円ショップのように)格安製品を供給するようになったのがデフレ化の原因です。
他方で価格競争から脱する工夫に関しても各分野で成果を上げていますが、精密機械等では門外漢には分り難いとしても、身近な一例としては、国産農産物の品質が格段に良くなったことは誰もが認めるところでしょう。
欧米は、デフレに苦しみコストダウンや品質アップに必死になっている健全な姿の日本をバカにしているばかりで、中国や新興国からの格安製品の流入にこれと言った適応努力も出来ずに貿易赤字を膨らませていた結果が、現在の大量失業社会の現出であり、リーマンショック〜欧州危機です。
ただし、優れた生産技術で圧倒した19世紀の植民地化進行時代とは違い、中国が人件費の安さで勝っているだけですから、この競争は欧州やアメリカも人件費が中国並みにまで下がれば(あるいは中国の人件費が上がれば)均衡します。
中国が画期的技術を開発しない限り(先進国の盗作や模倣だけでは)逆転することはあり得ません。
日本の場合、今でも中国の人件費の約10倍ですが、この格差のママで貿易収支が黒字を維持出来ていたのは、余程うまく対応出来ていたと言うべきでしょう。
19世紀西洋の産業革命による廉価品の怒濤のような輸出攻勢に対して、アジア・アフリカ諸国はなす術もなく敗退して行き、日本を除いて全て植民地化・半植民地化して行きましたが、この逆張りの進行・逆襲に対して今回も日本以外の先進諸国は全てなす術もない状態に陥っていると言えます。
(グローバル化=先行者利益の消滅過程であることについては05/26/07「現地生産化の進行と加工貿易の運命1(先行者利益の寿命)」February 28, 2012「高度化努力の限界2」等のコラムで書きました)
逆張り進行については以前書きましたが、もう一度簡略に書いておきます。
機械化によって大量生産出来ればその分労働者数が不要になる論理ですが(この論理によって機械打ち壊し・ラッダイト運動が西洋で起きました)増産した分を輸出に回して他国の市場席巻出来ることによって、後進国へ失業を転嫁し、 先進国では失業にならずに逆に分け前にあずかれる・・先進国労働者が高賃金を得られました。
即ち世界中に機械化による製品を輸出して後進国の失業輸出・・植民地化=奴隷的地位への転落と引き換えに先進国労働者は高賃金を得られていたのです。
グローバル化によって、世界中が近代工業社会・生産能力がフラットになると新興国でも最先端機械を使って生産する以上は競争力の源泉は人件費の差に帰してきます。
人件費差が国際的に平準化するまでは、新興国の攻勢が続くと見るしかないでしょう。
日本は直近の国でイキナリに始まった激変経済環境(超低価格化の波)にその割にうまく適応して来ました。
(ブラックホールのような低賃金・大規模人口国で起きた低価格品流入潮流にも拘らず・・・・原発事故まではずっと貿易黒字だったのですから、)
この成功の原因は戦後5〜60年に亘って時間をかけて形成して来た中間層の層の厚さ・蓄積の大きさによるところが大きいと思われます。
(この点は2〜3日後で書きます)
しかるに欧米かぶれの経済学者やマスコミはこの成功の意味を知らないで、新興国の挑戦を肌で知らない欧米学者と一緒になって「失われた日本の20年」と受け売りして得意になっています。
受け売りの行き着くところ、目覚ましい高度成長期の復活期待の合唱になっていてこれを実現出来ない政治家に対する不満意識を誘導しています。
そもそも政治でやれないことをマスコミが政治に要求していれば、誰が政治をやっても出来る訳がないのですから必然的に政権交代がめまぐるしくなって行きます。

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