高度化社会と雇傭吸収力1

知財やブランドと違い、高級部品輸出は最終製品の組み立て産業よりは雇用吸収力が少ないけれども、ある程度の職人とその関連産業を養える・・一定の雇用吸収力がある点がアメリカの知財やフランス等欧州諸国のブランド化による生き残り戦略よりも有利です。
20年ほど前に金沢に家族で旅行したときに、近くの丘に登ってから下り道にあった博物館or工芸館だったかで3〜4時間かけてビデオを見たことがあります。
余り時間をかけているうちに、途中でお腹がすいて来たので出て来たのですが、そこで、鍍金金箔等の工芸品製作の流れを見ていると、多くの関連職種があって成り立っているのに感銘を受けました。
知財等はそれを育てる産業・・大学等を必要としますが、完成した後の知財そのものが雇用吸収力がある訳ではありません。
伝統工芸や調理士も一流になるまでの修練が必要ですが、その弟子入り・門下生をその町で受け入れることをもって(名人が内弟子として受入れるのはホンの数人しかないとしても)産業と言えないこともありません。
大学都市と言う呼称がありますが、それは、国内の別の場所から学生を呼び込むことによって観光やコンベンション産業のように成り立っていることになります。
留学生を国外から呼び込めば、国家的産業になります。
オーストリア等への音楽家の留学は、同国にとって貴重な産業の一種となっていることでしょう。
アメリカは英語圏を広げることによって、英語を身につけるために多くの国からどうってことのない田舎の大学でも留学生を多く受入れています。
観光客はそのときに訪問地で食事したり宿泊費を消費するだけですから、私の意見では公共インフラ維持費を負担しないのでトータルとしてマイナスですが、留学生は滞在期間が長い上に自分の宿泊費と食事だけではなく衣類その他すべての生活費の支出をする外、高額な学費まで支払ってくれるので大きな利益が出ます。
これはアメリカに対する理解を深める文化政策であると同時に一種の産業政策でしょう。
留学生受入れには上記のようなメリットもありますが、我が国のように、アフリカや中国等後進国からの留学生を受入れるために奨学金を交付して(あるいは日本でのアルバイトで自活させるのでは、日本人の雇用を奪っているだけですから、)受入れているのでは蛸足配当でしかなく、雇用の受け皿としての産業にはなっていません。
ただし、例えば500人の留学生のために大学教員の雇用が一定数・・例えば10人確保されるので、留学生500人が底辺労働500人分を奪っても、ペイするという見方もあるでしょう。
日本の文化力に引かれて自費で留学して来るなら別ですが、日本政府の留学補助金を使っていると、結果的に補助金を使った高級労務向けの失業対策事業になってしまいます。
観光事業も同じで、観光向けに広大な駐車場や道路拡幅工事をしたり立派な欄干を造ったり公共工事に巨額の税を投入して外国から呼び込んでいると外国人に補助金を払って来てもらっているようなもので、実質赤字になります。
話を知財・高級部材や伝統工芸品製作による雇用吸収力に戻しましょう。
これらを育てるためのコストの方が、知財等で儲ける額よりも大きいとなれば、本来的な意味の産業とは言えません。
バイオリニストを養成した費用で、その人が仮に一流奏者になったとしてもその人の演奏収入だけでは元を取れないでしょう。
このように元を取れない職種であるからこそ、芸術系はペイしなくとも資金をつぎ込める豊かな・余裕のある社会でないと育たないとも言えます。
結局・雇用吸収力として重要なのは、育てるのに金がかかる産業ではなく、裾野産業があるかどうかでしょう。

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