NAFTA見直し決着の影響

メキシコでの1~2月の生産・輸出台数を詳細に見てみると、トランプ氏への対応の違いがはっきり出た。米フォード・モーターや本田技研工業(ホンダ)は生産・輸出台数を減らした。
フォードの生産台数は前年同期比41.2%減、輸出台数は44.2%減と大幅に減少した。フォードは米国での雇用を奪われるというトランプ氏の批判を受け、いち早くメキシコでの新工場計画を取り消した。
米国に生産拠点を集約するためメキシコ工場の生産を縮小しており、今後、メキシコから撤退するのではないかと推測されている。
ホンダの生産台数は24.4%減で輸出台数は16.3%減。ミドルサイズの「CR-V」の生産分をメキシコ工場から米インディア工場に移管したことによる。1月6日付ロイターは、ホンダのメキシコ戦略の変更を、こう報じた。
「関係者によれば、ホンダは日本で生産する米国向け小型車『フィット』をメキシコ生産に集約する計画だったが、日本からの輸出を今まで通り続ける。また、今年からメキシコで増産する計画のある米国向け多目的スポーツ車(SUV)『HR-V(日本名:ヴェゼル)』も、日本からの輸出を検討している」
メキシコでの新工場建設をトランプ氏からツイッターで名指し批判されたトヨタ自動車は、生産台数が12.7%増、輸出台数は10.5%増だった。
マツダの生産台数は9.2%増、輸出は52.5%増と大きく伸びた。マツダは米国で販売する自動車の約3割がメキシコでの生産車となっている。

https://www.kanzei.or.jp/topic/international/2018/for20180921_1.htm

米国とメキシコ両政府がNAFTA見直しで大枠合意(USTR)
米通商代表部(USTR)は、2018年8月27日、米国とメキシコ両国政府が北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉の結果、協定内容を見直し、大枠で暫定的な合意に達したことを発表した。この協定見直しの再交渉は2017年8月16日に開始されたもので、合意内容は多岐にわたっている。合意された主な項目には、原産地ルール、物品の市場アクセス、繊維品、農産品、知的財産、デジタル貿易、少額貨物の扱い、金融サービス、労働、環境の分野が含まれ、USTRはその発表の中で合意内容の中には現行のNAFTAや環太平洋パートナーシップ(TPP)協定を越えるものもあるとしている。

と言うのですが具体論次第なので、実はメキシコ生産をどうして良いか不明なので現地撤収の動きが見えています。
本田の場合です。
https://jp.reuters.com/article/honda-production-shift-idJPKCN1N01AD

2018年10月26日 / 19:27 / 1年前
[東京 26日 ロイター] – ホンダ(7267.T)は米国市場向け小型車「フィット」について、次期モデルからメキシコでの生産を中止し、日本からの輸出に切り替える方向で検討を始めた。複数の関係者が明らかにした。米国、メキシコ、カナダ間の新たな北米貿易協定で関税免除の条件が厳しくなり、現地生産のコストが中長期的に上昇する懸念がある。さらに、フィットの米国販売が低迷していることも踏まえ、生産集約による効率化も狙う

https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20180918_5244.html
には以下の意見が見られます。
トランプのNAFTA見直しで何が変わるのか-米国の雇用は拡大しない。日本の自動車メーカーに不利はない  研究主幹 山下 一仁

論拠については直接お読みください。

25%の関税に挙げられるなら挙げてみろ!逆に米国内企業が高いものを買わされるだけで、結果的にメキシコは困らないし日本も困らないはず!結果的に米国のメキシコ恫喝は、読んだ印象では「大山鳴動鼠一匹」の結果に終わるという読みのようです。
こういう結末可能性は対中交渉も同じで、「実力による生産力向上の動きを力づくで止められるものではない」という一例のように読めます。
向上がどの程度まで行くかは別問題ですが、民度によって60点止まり〜70点までいくなどの限界線があるでしょうが、上がり始めた以上は民度限界までいくのを邪魔しても仕方ないことです。
トヨタはトランプ氏の名指し批判にひるむこなく堂々と反論するなど「どん」と腰を据えた対応をしている印象ですが、メキシコ現地生産戦略に関してホンダは何となくジタバタしている印象です。
ジタバタうろたえるような対応は、長期的に見てジリ貧の元です。

NAFTA→雇用喪失と移民増3

機械化による効率化・生産性向上が進むと人件費率が上がるより下がる方向へ作用します。
ロボットなどの製造工場に合理化・生産性向上分の多くが吸い上げられる構造です。
宅急便の荷物仕分け物流センターの機械化も同様で、100人の作業員が10人で済む・・あるいは恒常的残業時間がへる方向になり手取り収入が減ります。
企業は元々白人に対する高額賃金では国内に1工場も残せないから低賃金労働者を入れて平均コストを下げて何とかしているとした場合で考えます。
外国人労働がないと工場の維持ができない=白人の職場がゼロになる関係・・例えば千人の工場に200人働いているから白人の職が200奪われているのではなく、200人いないと800人の白人の職場がそっくりなくなる関係とすれば、逆恨みも良いところです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44975010Y9A510C1000000/

トヨタ「輸入車規制は逆効果」 トランプ氏に反論
2019/5/18 7:10
トヨタの米国法人がコメントを出した。同社が60年以上にわたって米国に根付き、工場や販売店で50万人近い雇用を生んでいると主張。「今日の声明から、トヨタの米国への投資や従業員の貢献が評価されていないというメッセージを受け取った」と不満を表明した。トヨタが米政権を批判するのは珍しい。
トランプ大統領は同日、日本車を含む輸入車への追加関税の判断を180日延長することを決めた。一方で自動車の輸入増を「国家安全保障上の脅威だ」と指摘し、期限内に合意できなければ「追加措置を取る」とした。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50272150W9A920C1MM8000/
2019/9/26 22:35  日本経済新聞 電子版

【ニューヨーク=飛田臨太郎、辻隆史】日米両政府による貿易交渉は25日(日本時間26日)、閣僚級協議の開始から実質半年という短期間で決着した。日本は最大の懸案だった米国への自動車輸出の高関税や数量規制を回避。中国と対立を深める米政権は2020年の大統領選を控え、牛肉や豚肉の関税削減を確保した。安倍晋三首相は「ウィンウィンの結論」と評したが、先送りした懸案も多い。

先送り感は否めないものの、政治というものはいつも先送りであり、いつ蒸し返されるかしれない本質を持つものです。
当面危機回避できたことは良いことです。
トランプ氏の移民抑制とNAFTA見直し宣言は、高度成長期に日本からの輸入増大による職場を失う不満が、ハンマーでの日系製品叩き壊しパフォーマンスになったのと同じ方向のエネルギーを汲み取った政策と見るべきでしょう。
トランプ氏がNAFTA再交渉宣言とメキシコとの国境の壁設置を同時主張している所以です。
ここでメキシコの発展経過を見ると、日本の中国に対する関係同様にNAFTAをキッカケに米国企業の現地進出の動きが始まったので、現地人が工場労働経験を積み(規則正しい勤務になれるなど)製造工程の機械化が進めば進むほど個々人の技能差に頼る率が少なくなり、米国内生産と品質面でそれほどの遜色なくなっていきます。
メキシコ人労働者が経験を積みサプライチェン関連のインフラも整ってきたのを見て、日系企業も進出してもモノになると踏んで?日系企業進出が始まると、現地人工場労働技術習得に加速度がついた印象です。
11日見た車生産台数のグラフでは、日系進出が始まった11年の翌12年以降急激に車生産が増えています。
18年には韓国の生産台数を追い越してしまったニュースを見ました。https://www.globalnote.jp/post-3184.htmlによると18年ランキングでは、メキシコはドイツの次・・世界6位で韓国7位でした。
こうなると、メキシコを米国の独占市場にするどころか、米国の方がメキシコの製品の販売市場になって輸入国に逆転してきたのがこの4〜5年ということでしょうか?
こうした傾向は米国の対中関係でも同様です。
米国は冷戦勝利の余波を駆って中国の門戸をこじ開ければ、中国市場席巻の予定だったでしょうが、(実際に大量の米企業が進出しある程度成功しています)逆に中国からの輸入の方が増える一方メキシコ同様に予定が外れ、トランプ氏の不満が炸裂しました。
11日冒頭にアップルの例を紹介した通り、最終完成品を中国から輸入する仕組みでは貿易収支で見れば、自国初の発注製品でさえ米国の方が赤字になるのは必然です。
要は最終製品輸出国は貿易黒字になりやすいのです。
米国にとって中国のように覇権争いをしませんが、経済的に見れば中国同様に目障りになった段階かもしれません。
グローバル化に成功してみたら自国が損をすることが分かって、ちゃぶ台返しを始めたのでしょう。
米国覇権を狙うのを許せないのは共和、民主共通ですのでトランプ氏に限らず対中政策強化は一致のようですが、メキシコは米国覇権を否定しようとしていないので、共和、民主の立ち位置による評価の違いが出ているのでしょうか?
メキシコやカナダは米国覇権に挑戦する気持ちがないので、あっさり米国の要求に応じてNAFTA見直しに応じ米墨の紛争(メキシコからの輸出環境不明のままだと日本などのメキシコへの進出計画が立たず・・投資停滞・経済活動停滞リスク)が長引くことによる貿易関係不確実性除去に早期成功しました。
トランプ氏の恫喝によるメキシコに対する影響は以下の通りです。
https://biz-journal.jp/2017/03/post_18439.html
2017.03.24

ドナルド・トランプ米大統領は、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを打ち出し、メキシコで生産された自動車に高関税を課す考えを示した。今後の交渉次第では、メキシコからの輸出に影響が出かねない。

NAFTA→雇用喪失と移民増2

日本大手メデイア好みの移民問題に対する理解・人道主義的理解・オバマ礼賛オンリーでは日本は誤ります。
かと言って、トランプ氏の過激政策(壁を建設するなど)は選挙対策的には意味があるでしょうが、基本的に無理筋のイメージです。
企業が出て行けばその分野の雇用が減る(製造業が国内立地の場合不採算事業を国外に移せば、)その分野の雇用が減るのは理の当然ですし、企業が国外活動すれば自国民が出かけるだけでなく外国人も入ってくる関係になります。
これが気にくわないと当たり散らしてもどうなるものではありません。
人件費が割に合わないならば、一部国外進出どころか潔くその事業を全部やめればいいのですが、フォードやクライスラーが国内全面撤退すると政府が怒るので企業が付き合いで国内に止まるには赤字にならない程度の割安労働力が必要です。
ところが、低賃金あるいは3K部門のやり手がないのでそれを嫌がらず担当するメキシコ系の移民導入が進んだのではないでしょうか?
日本では不法就労外国人だからといって賃金単価を差別することは出来ないので米国も同じと思われるのですが、なぜ外国人に低賃金職場が奪われるかのような不満が起きるかといえば、労働者不足の場合経済原理からいえばその分野の人件費が上がるべきなのに上がらないのは低賃金参入があって下支えをするから上がらない・この不満を古典的表現で「低賃金職場が奪われる白人の不満」とメデイアが表現しているのではないでしょうか?
実際に米国では好景気でほぼ百%雇用状態と言うのですから、不法移民が白人の職を奪っているのではなく、不満があるとしたら好景気なのに給与が上がらない・格差が縮まらない不満というべきでしょう。
日本の介護士不足のコラムでだいぶ前に書いたことがありますが、本当に不足しているならば経済原理に委ねれば時給単価が上がり労働環境の改善が進むはずなのに上がらないのは、低賃金政策があるからではないか?
待遇改善したくない力学が働いているという意見を以前このコラムで書いたことがあります。(下書きに書いてそのままになっているかも?)
完全雇用下で市場原理に委ねると単価的に近い接続職場・・従来の3K職場や非正規雇用者との人員争奪になり膨大な裾野労働者の人件費引き上げに連動していきます。
今の人件費体系で辛うじて生き残っている(ギリギリの採算で)旧来型製造工場サービス業等が軒並み国際競争力を失う結果になるからでしょう。
これをやってしまったのが韓国最低賃金強制引き上げによる零細事業の廃業続出現象です。
医師、介護士や看護師給与は一見市場原理のようでいて、国民皆保険制度の結果、薬価同様に点数次第で基本枠組みが決まるのでその枠内での業界内の自由競争でしかなく、実事実上の国定賃金です。
本当に保育士や介護士を増やしたいならば、競合する居酒屋やコンビニバイトより単価を上げれば済む話です。
それが出来ないのは一波万波を呼び・・競合接続業界から順次人件費引き上げ連動が起きて、最後は国内製造業の工賃単価に及び、辛うじて生き残っている限界企業が国外移転するしかなくなる・・雇用縮小に見舞われるのが怖いからです。
100%雇用状態とは言い換えれば国際競争できる人件費水準であり、これを仮に2割あげるとたちまち競争力がなくなり職場がなくなり失業の嵐になるでしょう。
為替相場で円を2割高にする政策と同じです。
保育士や介護士がコンビニや回転すしチェーンや居酒屋より重要だというならば、現行の賃金体系の序列を変更して、保育士介護士などの賃金をあげるが日本全体の賃金底上げに連動しない・・(そんな法律は作れないので)国民合意しかないでしょう。
100%市場原理で雇用している宅急便やコンビニ居酒屋等の場合、人手不足→競合他社より人件費待遇改善すれば自社だけ人を増やして労働時間短縮できるはずです。
しかし、他社と生産性が同じであれば他社より高い賃金では採算が取れない→自社だけ単価を上げると客が逃げる・・業界横並びで賃金アップ→商品単価アップすれば他業界に客が逃げる(スーパー業界が談合で単価を1割上げればデパートやコンビニに負けるなどで他社や他業界との生産性比較の問題です。
人手不足とは人が足りないのではなく、その業界が他業界から人材を引き抜けない・・これ以上給与を上げられない→単価を上げれば競合類似業界に客を取られる・・生産性の低さの言い訳に帰することがわかります。
売り上げ減を補うための単価値下げ競争は(回転すしのように合理化による単価下げは意味がありますが、)消耗戦に過ぎないのは知られていますが、生産性アップを伴わない待遇改善競争→客単価の値上げしかない・これも値下げ競争同質の消耗戦です。
寿司業界が回転寿司業態を開発して生産性で大飛躍しましたが、人手足を嘆く業界は、生産性アップ努力で他業界に遅れていることを自白をしていることになります。
回転寿司のような画期的業態変化は滅多にできないので、国内で低賃金が不満なら安い人件費でも喜んで働いてくれる後進国へ逃げて国内生産にとどまる競合を圧倒する安直戦略が流行りました。
サービス業は海外に逃げられない(コンビニや建設業も海外展開していますが国内分野ゼロでは国民が困るので)ので、待った無しの生産性アップ努力が問われるようになったのです。
そこで介護ロボットの工夫・医療現場のIT化など進み、コンビニ・スーパーなどでのセルフレジ化)介護化看護師等の負担軽減努力が進んで来たのですが、その程度では足りない・・待遇改善だけではなく給与そのものアップが必要です。
企業とすれば、10人必要なレジ係が最新設備によって3人で足りるようになれば、7人分の人件費が浮くのですが、その代わり機器導入費負担がかかるのでストレートな人件費アップになりません。
このような構造変化が進む結果、労働分配率が下がり続けているのですが、メデイアが時々この種の批判論をキャンペインするのをこのコラムで批判してきました。
回転すしで言えば従来20年前後徒弟奉公したベテランしか握れなかった寿司を、短期間講習で握れるように単純工程化した結果、人件費単価が急激に下がりましたが、この場合企業の大きなコストは回転チェーンの設備投資と立地経費、仕入れ単価が多くを占めるのであって、労働分配率が下がるのは当たり前です。

NAFTA→雇用喪失と移民増のダブルパンチ1

カナダとの往来は事実上一体化が進んでも気にならないでしょうが、メキシコへ我が物顔で進出するようになると、自国への入国だけ厳しくしたままでは無理が出てきます。
自分は自由に出入りするが、お前らの出入りは勝手にするなという強者の論理は時間経過で無理が出ます。
強いものは・・お殿様は屋敷内のどの部屋に入ろうと誰の許可も(法律上?)いりませんが、その代わり部下、目下の私的空間に入るのは遠慮するのが暗黙のルールです。
個人で言えば、親は子供部屋に無闇に踏み込まないのが親子間の暗黙のルールですが、子供の方は、成人しても親の家に自由に出入りするのが普通です。
将軍家は配下大名家の屋敷に自由に出入りできないが、配下大名は将軍家城内の隅々まで体で知ることが可能でありそれが普通です。
奥方と腰元の関係も同様であり、社長周囲の秘書や側近は社長一家のプライバシーに接する機会が多いのですが、社長の方は秘書や側近重役の私的関係に立ち入らないのも同様です。
形式ルールと実質ルールは違う・・実は逆になっているのが普通です。
子供頃に覚えた言葉ですが、
「稔るほど頭を下げる稲穂かな」
本当に偉い人は威張らないのが日本社会です。
この数十年で重視されるようになったプライバシー関係も同様で、高位者・・権力に基づくプライバシー侵害は厳しく規制されているのに対して私人間の場合には原則として当事者間での自律に委ねているのはこの違いです。
・・例えば親は子供が心配で学校の様子など知りたいことが多いのですが、一定年学年以上になってくると詮索し過ぎると嫌われる・親が子供部屋をしょっちゅうかき回していると親子関係がうまくいかないなどそんなことは家庭の自律に委ねて間に合うのです。
西洋近代法の考えで・・・日本の憲法では、令状がないと家宅捜索できないなど決めていますが、そんな憲法以前に昔から日本社会では、殿様が家来の家をむやみに訪問できない・結婚した子供らが親の家に入るのは自由ですが、親が子供の家庭をむやみに訪問するものではありません。
こんなことはフランス革命で初めて手に入れた西洋とは違い、日本社会では常識だったでしょうから、憲法制度導入の当初から当然のように条文になっています。
こんな当たり前のことまで憲法に書いておかないと分からないのかと驚いた人もいたでしょう。

大日本帝国憲法(1889年(明治22年)2月11日に公布、1890年(明治23年)11月29日に施行)
第25条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ
第26条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ

日本国憲法(1946年11月3日公布1947年5月3日施行)

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

アメリカは形式的な法の理解で実質関係は逆になる点に気付かないのかな?
このコラム最初から折に触れて書いているように、社会のあり方に関する発展度合い・文化レベルが日本に比べて欧米は何周回遅れの社会というのが私の直感的意見です。
米国は戦後一強になると・・グローバル化〜自由化すれば金と武力のある強いものの行動の自由が広がるという形式面しか理解できず、グローバル化・自由化を戦後ずっと推し進めてきたことになります。
饅頭を押し込めばあんこがはみ出る関係で、水が低きに流れるのを防ぐのはダムで塞きとめるようなものでどんな大きなダムでも、いつか満杯になると、本来の流量と同量の水を水門から継続放流するしかない・・ダムは一時の気休めに過ぎません。
古代から都会人が紀行文など残すし、旅行ガイドも都会人向けのものが多いので、都会から田舎に行く人の方が多いように見えますが、実際には田舎から都会に出る人の方が多いのです。
田舎では人口が少ないので都会から観光客がいっぱい来ているように見えますが、自然の豊かな場所は日本全国〜世界にいくらもあるので都会人はいくらでも行き先がある(分散する)のに対し、有名演劇〜相撲などのイベント〜スポーツ大会は、東京や大阪のような大都会にしか来ない・・即位の式典などその他東京にしかないものが多く、全国の人が東京などに集中します。
例えば千葉房総半島の人で東京へ行ったことがない人は滅多にいないとしても、東京の人が房総に来たことのある人は数%あるかないかでしょう。
みなさん故郷の人に置き換えてもわかる筈です。
このように数の上では経済力に劣る方からの華やかな方へ流入する方が多いのが原則です。
都心と郊外の人の日々の移動関係も同様で千葉から毎日東京に行く数と東京から千葉に向かう数は往復では同じですが、居住地発で見れば大幅な差があります。
このように経済活動の自由化に比例して低賃金地域から高賃金地域へ人の移動が多くなるのは、水が高い方から低い方に流れるような関係で、これを変える方法はありません。
私は今日日弁連委員会出席のために東京に行きますが、逆がないのです。
経済交流が増えるとこれに比例して人の移動が激しくなり法規制を変えなくとも結果的に人移動の障壁が低くなるのが普通です。
米国とメキシコの場合、法規制緩和しなくとも、大統領令という便法で不法移民の子供に対する永住権付与や国外退去処分のランク分けなど画期的枠組みなど運用緩和が進んでいました。

雇用喪失と移民増に対する米国の不満

NAFTA署名の92年当時といえば、1992年のEU発足と同時期ですから西欧が地域ブロック経済で米国に対抗するならば米国はこれに対する対抗心からもともと自分の裏庭と自負する北米地域で北米統一市場を企図した動きのように見えます。
もともとメキシコは米国にとっては、裏庭ともいうべきお膝元であり当時のメキシコ経済は近代工業製品輸出国ではなく工業製品を売りさばく市場そのものでしたから、米国はEUに対抗して米国の裏庭にあたる市場を囲い込み・支配独占を確かなものにする日本の高度成長期には意識に基づく政策だったと思われます。92年当時のメキシコの経済力を見るために当時から現在に至るGDPや貿易額推移を世界ネタ帳でGDPを見ておきます。
https://ecodb.net/country/MX/imf_gdp.html

メキシコの名目GDP(USドル)の推移

メキシコ輸出額の推移

上記両グラフによれば92年NAFTA署名〜94年発効以降を見ると、GDPや貿易量が急激に伸びています。
FTA・・貿易自由化の徹底は後発国(韓国や中国を含め)が先進国に追いつくには、後進国に有利な制度であったことがわかります。
19世紀型植民地支配は、被支配地域に工業生産を許さず先進国の輸出市場としか扱っていませんでしたが、戦後ほぼ独立してしまい植民地支配が出来なくなりました。
先進国間で戦後復興が終わり市場争奪戦が再開されると、(似たような生産ラインでの競争である以上)より安い賃金・安い地代等総合的低コスト地域に立地した方が同業者や競争国との価格競争に勝てるので、現地進出競争が始まりました。
日本の場合も中国が改革解放されると現地生産指導のコストをかけても、農産物等の価格が10〜20分の1の値段で仕入れできれば競争相手・同業者に勝てるので、中国現地に出向き日本人向き蔬菜づくりの現地指導に乗り出す競争が起きていました。
毒餃子事件で知られるように日本の食品メーカーは競って中国進出していましたし、食品は日常庶民の目につくので目立っていただけで、その他各種産業は中国から安く仕入れる競争時代が始まっていました。
米国とメキシコの関係もこれに似たようなものだったと推測できます。
米国としては市場囲い込みのつもり・EU理念に負けない市場一体化・もしかしたら北米全体をEU理念同様にアメリカ合衆国を拡大する意気込みもあったのでしょう?
その理念の事実上(EUのシェンゲン条約のように公文書ではっきりさせませんでしたが)人的移動の自由化も緩やかになる一方だった気分の実現として、米国企業が強者の論理で遠慮なく内国並みに自由自在に進出し、メキシコも中国のように進出企業に民族資本との合弁強制や知財移転要求などのイチャモンをつけずこれを受け入れていた状態を推測出来ます。

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