ギリシャ危機とEUの制度矛盾3(関税自主権等)

今回のギリシャ危機解決のために主たる債権国のスイス・フランス以北の国々が、債権放棄あるいは追加融資で対応せざるを得ないのは、本来は1つの国内類似の関係・同一経済圏である以上当然の結果です。
日本でも仮に各県を独立国とした場合、地方県は東京大阪等からの流入超過を阻止するために、独立国として自国を守るために高率関税を取ったり輸入制限して自分の県内に立地しない限り、車、家電製品その他製品を売らせないことができます。
(金利の調整もできます)
(幕末に締結した不平等条約の改正・関税自主権の回復その他のために明治政府がどんなに苦労したかを想起すれば分るように、関税自主権は主権国家の最も重要な権利です)
高率関税や輸入制限等の規制ができれば、東京大阪圏等の企業は各地の県別に工場を分散立地するしかなくて、結果的に各地方に産業が立地して地方の自立が出来ます。
その代わりマーケットが狭い地域の乱立で、各企業は規模の利益を追求出来ず、世界的な競争力を獲得できなかったでしょう。
日本企業は国内だけで世界第二の大規模なマーケットを有しているので、国内である程度大きくなってから海外に出られるメリットがありました。
日本は各国の輸入制限措置の結果、アメリカに現地法人を設立して工場立地したり、韓国や台湾、中国アジア各国に合弁進出せざるを得なくなっています。
トヨタやコマツ建機等が海外で稼いでいると報道されていますが、これは国民を安心させるための一種の欺瞞・レトリックであって、稼いでいるのは正式な社名は知りませんが喩えばアメリカトヨタ、中国トヨタという別法人であって、日本のトヨタやコマツはその株式の大半を握っているだけです。
言わば海外生産比率の高い会社はすべからく株式保有による投資収益を本国に還流しているだけであって、世界企業とは生産会社から投資会社・知財会社化が進んでいる会社と言うべきです。
海外比率が4割から6割8割と上がって行くに連れて、生産・製造収入比率が6割4割2割と減って行く場合の社会がどうなるかを考え直す必要が有ります。
この比率を国内総生産に当てはめれば、生産に従事して得た収入が2割で、利子・配当・知財収入8割で生活している社会となります。
65歳以上の世代になれば、年金や配当収入及び貯蓄の取り崩しが生活費の8割で、老後のアルバイト収入が2割(有るだけマシ?)でも良いのですが、国全体(現役世代)がこれでは、社会がおかしくなってしまうでしょう。
全員が均等に株式等金融資産や知財収入を保有し、均等に職場が有れば上記の図式ですが、不均等が世の常です。
現役で言えば知財・金融資産保有者には有能な人が多いのでこれら資産を大量保有した上で2割の仕事を独占して高収入を得りょうになり、8割の人は無職で金融資産も保有していない・収入ゼロになりかねません。
現役世代では高額所得者と失業者・生活保護費受給者と二分される社会になりがちです。
アメリカがこの格差社会に突入していることは「 October 28, 2011格差社会1(アメリカンドリーム)」以下のコラムで書きました。
我が国の場合、現役の収入格差が小さい(企業トップと平社員の収入格差は諸外国に比べてかなり低い社会です)うえに累進課税のカーブがきついので現役一代目には有能な人でも一代で稼いで蓄積出来る金融資産は多寡が知れています。

ギリシャ危機とEUの制度矛盾1

グローバル経済が始まるまで日本の驚異的な輸出増によって輸出縮小・・国内生産減少に見舞われていた欧米の内アメリカ中心に書いてきましたが、ここから日本の攻勢に対する欧州諸国の対応を少し見ておきます。
アメリカは戦後世界の半分以上の生産力を誇っていて、超豊かな時代があったので日本やドイツからの輸入が増えて貿易赤字になっても、内需拡大で国内生産縮小を補えてたのですが、その惰性と言うべきか、蓄積を使い尽くして対外純債務国に転落してもそのまま贅沢をやめられなかったので、リーマンショックを引き起こしました。
欧州諸国は第一次と第二次世界大戦の戦場となって国富・蓄積を使い尽くしていたので、アメリカのような超豊かな時代がなかったので、日本に輸出で負けるようになっても内需拡大政策をとれませんでした。
その代わり採用したのが、10月18日に紹介した低賃金外国人労働力の導入でした。
ドイツやオランダの外国人労働力が有名ですが、イギリスでもフランスでも欧州諸国はどこへ行ってもアフリカ系や中国人や南欧など外国人労働力で溢れています。
20年ほど前にパリへ行ったときに帰りにホテルから空港までタクシーに乗ったら、運転手はアジア系で聞いてみると中国人とのことでした。
ま、日本人ではタクシー運転手になるために外国移住する人は今でも稀でしょう。
パリでもロンドンでも道路清掃やバスの運転手系は黒人が圧倒的に多い感じで人種別階層が出来上がっている感じです。
こうなると白人系の底辺層が(自分で敬遠して)こうした現場系労働から閉め出されがちですから、底辺層に人種差別運動・外国人排斥運動が起きるようになります。
今年の夏にノルウエーだったかで青年が外国人労働者増加に反対してこれを推進している大会に向けて無差別発砲事件を起こしたことで、こんな寒いところまで外国人労働力が浸透していることに驚かされたものです。
欧州諸国は外国人労働力導入によって日本に対抗しようとして、国内に高賃金の自国民と外国人労働者という2階層を作り出していたのですが、元々階級社会性・意識が色濃く残っている社会だから許容出来るのでしょう。
(ココ.シャネルの映画を見た感想として、所有権の絶対性に絡んで階級意識が色濃いことを、08/10/09「大名の没落と西洋貴族1(所有権の絶対性1)」以下のコラムで
少し書きました)
しかし民主主義国家ですから、賃金格差を維持出来るのは来たばかりの外国人だけであって、2世になると同等の待遇をせざるを得なくなります。
即ち外国人労働者を導入して4〜50年以上経つと、2〜3世の教育問題その他社会コストが増大して来る割にレベルの低さに悩まされるようになります。
フランス以北の欧州を覆う真の問題点でしょう。
ユーロ誕生後は単一経済圏誕生の恩恵で独仏以北の先進工業国は南欧諸国や東欧諸国を内庭として有利な輸出環境になったので、輸出が伸びて潤いましたが、その分南欧東欧諸国は借金まみれになってしまいました。
南欧の主な債権国は独仏英蘭であることは、独仏等輸出国が金を貸して輸出していたことの裏返しです。

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