基軸通貨とは3(逆ざや)


日本の場合、国債相場が1%周辺でアメリカ国債金利相場が2%近辺ですから為替差損リスクの外は1応1%の金利差があってさしあたりの損がありません。
(ドル下落リスクを考えれば、純粋金融取引としては5〜6%の金利差が欲しいところです)
中国の場合国内公定歩合でさえ6%前後ですから国内貸し出し金利・国債はその2%前後の上乗せ金利とすれば、アメリカ国債を買うのは6%前後の逆ざやになっている感じです。
逆ざや保有で大損をしている上にドル下落リスクを抱えるとなれば、中国にとってアメリカドルの保有はリスクどころかはっきりしたマイナスの関係ではないでしょうか?
http://jp.reuters.com/article/economicNews/idJPTK807868120120113によれば、2011年末の中国の外貨準備は
「[北京 13日 ロイター] 中国人民銀行(中央銀行)が13日発表した2011年
末時点の中国の外貨準備は3兆1800億ドルと、9月末時点から206億ドル減少した。
外貨準備の減少は、貿易黒字の縮小と投機的資金の流出が影響している可能性がある。」
となっており、3兆1800億ドルの外貨準備の内アメリカUSドルの額が分りませんが、その8割前後とすれば、約2兆5千億〜3兆ドルにも上ることになります。
2兆5千億〜3兆ドルのアメリカ国債その他のドルを保有していると、年間6%の逆ざや=1500〜1800億ドルを毎年アメリカにかすめ取られているようなものです。
中国の対米貿易黒字は、http://www.gci-klug.jp/masutani/2011/01/14/011663.phpの記事によれば、
「対中赤字は依然、米国の貿易相手国の中では最も大きい数字で、1‐11月累計でも前年比53.7%増の2524億ドル。年率換算では2753億ドルとなり、2008年に記録された過去最高2680億ドルを突破すると見られている。」
とあります。
仮に中国の対米貿易黒字が年間2〜3000億ドルあっても年間1500〜1800億ドル分が逆ざやで損をする・・黒字が黙ってかすめ取られているのでは、実質1200〜1500億ドルしか黒字がなかったのと同じですし、その上保有ドル外貨が2兆5千〜3兆ドルもあるときに、毎年約1割アメリカドルが下落してしまうと2500〜3000億ドル前後も目減りしてしまい、何のために稼いでいるのか分らないほどの大損をしていることになります。
中国は貿易黒字によるUSドル保有増加の外に外資導入よるドル増加と人民元高防止のため・・逆から言えばドル買い支えのために大量にドルの保有が増えています。
この関係は、中国国内で高利で取得した資金をゼロ金利のUSドルに付け替えている関係ですから、モロに逆ざやの損をしていることになります。
アメリカから見れば、ゼロ金利で資金を取得した金融ブローカー・金融業者が、高利の中国に再び持ち込んで高利運用して儲けている関係です。
こういう無茶な関係(ドルの下落傾向と低金利状態でドル還流を誘導するの)はいくらアメリカが大量に商品を買ってくれるし、軍事力が怖いとは言っても、いつまでも続くとは思えません。
日本の場合も、約1%しかない金利差では、アメリカドルの大量印刷によるドル安政策が目に見えているのに、アメリカドルを大量に持ち続けるのは危険すぎるでしょう。
危険であってもアメリカに車など買って貰わねばならない以上、アメリカドルを貰うしかないのは分りますが、世界中から出来れば貰いたくないと思われている通貨はいつかは駄目になるのは明らかです。
日本の円は、世界中から持っていたいと思われている通貨だからこそ、日本は軍事力の裏付けがなく、世界最低金利でも、イザとなればいつも円高になるのです。
USドルはいつかは大暴落を演じることになる・・ギリシャ危機の大規模版になると思っていますが、暴落は何かに対する暴落ですからその対になって高騰する通貨があることになります。
ユーロは対極になり得ないことが今回の騒動ではっきりしましたので、その対極として暴騰するのは円でしょうか?
それとも人民元でしょうか?

国債無制限発行とデフォルトリスク1

日銀の国債引き受け・・極論すれば紙幣の無制限発行に進んだ場合日本経済はどうなるのか心配している方が多いと思います。
今のところ日本は世界一の対外純債権国・・資金のある国ですから外国から資金を導入する必要がない・・儲けが溜まり過ぎているので金あまり・・しかも商品は供給過剰と来ているので銀行からお金を借りたい人が少ない・・・その結果世界最低の金利水準になっています。
バブル崩壊以降(供給過剰社会でありながら)借りたい人がいるとしたら、サラ金の顧客等リスキーな人・儲けるための投資資金ではなく借金返済用の後ろ向き需要が多くなっています。
これでは消費者金融以外の前向き金融の分野では、借りたい人・企業が少なすぎて世界最低の金利にならざるを得ません。
ところで商品は同じ性能であればコストの安い方が競争力があります。
貨幣も交換すべき商品の一種売り買いの対象とすれば、仕入れコストの安い方が競争力・需要があります。
世界での低金利競争では世界最大の純債権国である日本は自然に低金利になりますので金利競争では最強です。
低金利国で資金を入手して高金利国で運用した方が有利です。
もしも日本より資金力のない国が日本よりも金利を安くした場合、その国から資金が日本に逃げ込んでしまいその国にとっては資金不足で大変なことになります。
世界金利秩序は資金の足りない国・経済弱小国を最高金利国として、順次国力に応じて順次金利が下がって行くようになっていて最強経済国の金利が最低金利国になるのが原則です。
ただし、物事には例外があってアメリカの場合貿易赤字国で対外純債務国に80年代ころから転落していますから、本来金利を中国よりも高くしなければないのですが、リーマンショック以降低金利政策を取っているので中国よりかなり低くなってます。
もしかしたら日本の次・世界2番目の低さかも知れません。
巨額貿易赤字国で純債務国に早くから転落しているアメリカが、日本に次ぐ低金利国であるのは上記論理から言えば異例ですが、長期的には無理が来ることについてはこの後に「基軸通貨」のテーマで4月10日以降に書きます。
中国にとっては貿易黒字で稼いだ資金をアメリカ国債ないしアメリカの公的資金で運用するのでは、逆ざやになってしまっています。
この点は中国が経済実態以上に人民元の為替相場を低く抑えようとして経済原理に反した介入を続けていることによる損失ですから、覚悟の上のことと言えるでしょう。
金利運用の逆ざや問題はこの後に書いて行きます。
金利を高くしても客のつかないほど信用のない国では、自国通貨建てでは客がつかないのでドル建てや円建てで債券を発行しています。
これがサムライ債など他国通貨建て債権の存在意義です。
日本の場合、余剰資金国ですから海外でドル建てで起債する必要がないばかりか資金がだぶついているので世界最低金利での国債発行が可能になっています。
世界最低金利の発行でもそれ以下の金利での預金が豊富にあり、あるいはロンバート型で日銀から公定歩合・政策金利で低利融資を受けた資金で買う限り、確実な利ざやを稼げるので国内金融機関は国債を買い続けるので海外から買ってもらう必要すらありません。
純債権国の地位を維持している限り、銀行であろうと日銀引き受けであろうと海外から資金を導入する必要がないので問題がないということでしょう。

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