貿易赤字の克服(アメリカの復活?)2

アメリカの原油自給可能性の復活があることの政治的効果の外に経済的にはその権益購入の巨額資金流入によって国際収支の改善が期待されるようになって、アメリカドルの持ち直しが始まりました。
(イギリスのポンド防衛時代の北海油田の採掘開始を彷彿とさせます)
日本企業が数千億円で権益を取得したなどのニュースがときどき流れますが、その同額がアメリカに資金流入していることと将来への期待から、ドルが堅調になって来たのです。
アメリカはこれまで貿易赤字の穴埋めのために財務省証券や公社債を買ってもらって資金環流していたので、(これは借金ですから)いつかは支払不能になると心配されていたのですが、石油採掘権の権益販売の場合は、目に見えない「権益」というもの輸出出来るようになったので、借金と違って返す必要がないので気楽な収入です。
油田による収入が増えて赤字の穴埋めが出来れば、中国に威張られる心配がありません。
しかも今後原油が出れば、その輸出による資金獲得も見込める・・貿易収支も改善しますのでアメリカドルの価値を維持出来ます。
これが欧州危機以降アメリカドルの上昇の基礎です。
ただし、これは赤字縮小に少しばかり資する程度であって、抜本的解決にはほど遠いのではないかと思われますが、、さし当たり自身が戻ったことは確かでしょう。
また、投資家もこれ以外よりどころがない(ユーロだけではなくアメリカまで破綻したら大変ですから、)これを大きくはやしているに過ぎないかも知れません。
ここに来てイランに対する原油取引封鎖の強気の態度も、今後はアメリカは原油を自給出来る・・第二次世界大戦前の強いアメリカに戻った自信の現れでしょう。
アメリカが原油の輸入国ではなくなれば、同盟国の必要分まで見られないまでもかなり強気の行動をとれるようになる筈です。
これは「家貧しゅうして孝子あらわる」パターンで危機解決策としてはアメリカにとって当面目出たい次第です。
しかし、アメリカドルの維持・値上がりは国内産業の競争力向上によるものではないので、却ってアメリカ国内産業は長期的に見て実力以上の為替相場に苦しむ・・国際競争上不利になります。
原油収入に頼ってなかなか自国産業が離陸出来ないアラブ諸国や、その他資源国と同じ悩みを抱え込むことになります。
この理は、我が国が所得収支の黒字の結果、貿易競争力と離れて円が上がる傾向にあるのと同じ・・・ロシアその他資源価格の高騰によって経済が持ち直した国に共通の問題です。
貿易赤字早期解消の期待に戻りますと、災害による生産ライン寸断による輸出縮小は一時的なものですから、これは行く行く回復出来る筈です。
とは言え、生産停止の隙を縫って韓国にかなり客を奪われているとも言いますので
楽観は出来ません。
(10の内8奪還出来るかどうかだとすれば、震災によって2割の輸出が失われたことになります)
さらに今回の超円高で、この機会に海外展開を加速する企業が多いことから、この方面でも国内生産が減り輸出が今後減って来る・・(自国企業の海外生産分は国内生産と競合するので最も強力なライバルとなります)減りっぱなしになる可能性があります。
結局災害による輸出減が、災害による生産停止が収束しても輸出額が完全には元に戻らないと見ておく方が正しいのかも知れません。
そうとすれば、従来製品の復元ではなく、新機軸・新製品投入で韓国のハナをアカスしかなのではないでしょうか?
貿易赤字下の円高を阻止するには、どうすれば良いかの知恵を絞っておくしかないでしょう。

貿易赤字下の円高3

個人ではなく、企業の方も蓄積があるのとないのとでは必死のになる気持ちが違うでしょうし、本気になって頑張ろうと思っている矢先に赤字なのに円が上がってしまえば、努力する気力が失せてしまいます。
貿易赤字=競争力がなくなってから直ぐに円が下がり始めれば、国内産業が壊滅までしないうちに競争力の復活が容易です。
貿易赤字=国際競争力がなくなっても、なお所得収支や移転収支の黒字があるために結果的に経常収支が黒字のままの場合、為替力学上は円がなお上がり続けることになります。
所得収支の黒字が大きいので10年や20年赤字が続いても大丈夫とした場合、その間円は上がり続けることになります。
貿易赤字になってからも仮に10年も20年も円が上がり続けると、貿易上のハンデイが重たくなる一方ですから、国内産業が根こそぎなくなるまで進み、修正・復活能力が途切れてしまうリスクがあります。
(20年後に円安になって採算が取れるようになったので、イザ製造業を復活しようとしても技術の継続性が途切れてしまうでしょう)
我が国の場合、貿易赤字になっても所得収支の大幅黒字があるので大丈夫・・心配がないように思っている人が多いと思いますが、ギリシャ危機の根源が、継続赤字下でも独自の通貨がないために為替の切り下げが出来ないところにあるのと同様で、所得収支や移転収支の黒字が却って国際競争力を反映するべき為替の切り下げを遅くしてしまって傷を深くするリスクにもなります。
貯蓄が悪い方に作用することもある・・何事もプラス面とマイナス面がある一例です。
親世代に資金力があると若者がハングリーでなくなって挑戦力が弱くなり気に入った仕事がなければモラトリアムになりがちです。
以上貿易赤字下の円高のリスクを書いてきましたが、これを防ぐには所得収支の黒字に頼らない・・海外利益はそっくり海外に再投資して行けば、貿易収支の赤字がそのまま円安に振れることになります。
移転収支・・海外からの投資が少ない(もっと魅力のある市場にしろ)というマスコミ意見が多いのですが、資金が入って来る(資本収支の黒字)とさらに円高に振れますので、意味のない意見です。
逆に海外資金は出来るだけ引き上げてもらった方が、為替相場が円安方向に振れて好都合です。
最近の日本株式市場の値下がりは海外投資家の引き上げによるものですが、(有り難いことに円高のブレーキ役にもなっているでしょう・・)その穴埋めに日本国内資金が向かっているようですから、言わば日本企業に対する海外投資家比率が下がって目出たいことです。
トヨタや日産、ソニーの業績を心配しても、その海外投資家株式保有比率が仮に8〜90%も上がっているのでは、日本人にとってはトヨタの儲けは海外の投資家に大方行ってしまうので意味がありません。
ちなみに海外投資家比率はNECで25%、東芝やパナソニックも15〜20%前後で似たようなものですが、韓国ではアジア通貨危機以降海外投資家比率が大幅に上がってしまったようです。

貿易赤字下の円高2

現在の超円高は、過去の貿易黒字の蓄積の調整によるばかりではなく、円キャリー取引で海外流出していた=円を借りてドルに両替して海外に流出していた巨額資金が、アメリカでも低金利になったので日本から低利で借りているうまみがなくなって日本の銀行に返すためにドルを売って円を買う動き=ドルやユーロの売り圧力による側面もあります。
この後にも書きますが、日本は長年の貿易黒字の一部を海外投資に振り向けて来たので、その利子・配当収入が大きくなってその所得収支黒字が原因になっている面もあります。
(リーマンショック直前には貿易黒字を追い越して年間16兆円の黒字でした。)
超低金利によって実力以上の円安を演出していた無理が、一挙に逆流し始めたことになります。
(無理がとおれば道理が引っ込む」と昔から言いますが、それは短期のことであって長期的には無理を通しているといつかはその結果が出ることについては、「ショック」等の意味でこの1月8日に書きました)
産業の国際競争力は貿易収支のプラスマイナスで見るべきで、上記のようにその他の要素によって決まる為替相場の変化で見るべきではありません。
貿易赤字下の円高の心配があることをNovember 8, 2011「利子・配当収入(鉱物資源)で生活する社会2」前後で連載しましたので、今回はその続きです。
我が国の場合、海外投資による所得収支が、リーマンショック直前の最盛期には16兆円ばかりありましたので、(リーマンショック以降は世界的低金利になったので11兆円前後に下がっているらしいです)貿易赤字になってもサービス収支の赤字との合計額が所得収支の黒字と同額になるまで(移転収支がトントンとした場合)なお経常収支では黒字ですから、円が上がり続けることになります。
言わば所得収支(海外投資残=蓄積)があるから貿易赤字になってもまだ大丈夫というよりは、蓄積がるから却って傷が深くなる・・貿易赤字・競争力が既になくなっているにも拘らず円が上がり続けることになります。
健康管理同様に国の場合も鈍感よりは敏感(病弱な人)の方が早めに手当て出来ますし、・・蓄積の少ない韓国のようにその場その場の経済実力が直ぐに為替に反映する方が傷が浅く済みます。
セーフテイネットが充実していると当面悲惨な結果を回避出来ますが、その病理現象と言うか、失業保険が貰える間は無理することがないので対応が遅れる・・ランク落ちの職探しする気にならない人が多いのが現実です。
長期間遊んでいると仕事からはなれていた結果仕事勘が薄れるもので、数年にわたる無職期間があると採用側でも嫌がって再就職が難しくなります。
貿易赤字で大変な状態・・すなわち国内企業の倒産・縮小が続いても所得収支の黒字(個人で言えば貯蓄の取り崩しで)何とかなる限り、国民も失業前よりもランクの低い再就職に本気になり難いし、政府もバラマキはやめられないでしょう。
高度成長期と違って、国内産業縮小過程での失業の場合、前職よりランク落ちしないと就職先が滅多にないのが普通です。
これに順応する国民が多いと高賃金の是正作用が速やかに働くのですが、失業保険の保障期間が長かったり、貯蓄が多いときには簡単にはランク落ちの再就職に踏み切れない傾向があります。
中高年での割り増し退職金をもらっての失業者や定年退職者たちにとっては、失業保険受給期間中のランク落ちになる再就職には乗り気ではありません。
高齢者向け失業保険支給期間が長いのは高齢者が再就職に困るからと言うよりは、自分たちが長く保険料を払って来た権利だという意識で、満額までもらわねば損という感覚の人が多いようです。

貿易赤字下の円高1

輸出入を全体として見ると収支が貿易黒字になっている・・その結果円高になったときに、その円相場では大量生産型産業が国内に生き残れなくなって行くのは嘆かわしいことではありません。
昨日書いた比喩的利益率の分布によれば、輸入によるマイナス分も加重平均した結果の貿易黒字による円相場で生き残れない業界は、わが国の輸出産業の平均的利益率以下になっていることになります。
・・即ちもっと効率の良い産業が別に多く発展していることの証(あかし)であり、日本の輸出産業の平均コスト以下に決まる円相場でも生き残れない企業は、既に我が国の平均利益率以下の産業になっているアカシでもあります。
平均能力以下の産業は退出して行き、より効率の良い(利益率の高い)分野に労働力や資源を集中すべきです。
この種の話は元々景気不景気の話と同様であって、不景気で売れないと嘆く人と同じです。
その業種がゼロになったなら別ですが、建築でいえば、前年比5%着工が減っただけならば、(車の売上でも同じです)「腕の悪い職人から仕事が減るのであって、腕のいい人の仕事は減らないでしょう」と言うのが私の持論です。
不景気を嘆くのは自分が業界の最下位の仕事しか出来ていないからヒマになったら真っ先に仕事を切られるに過ぎないことを自白しているのと同じです。
大学の入学定員が5%減って厳しいという人は、最下位入学を志しているようなもので、そんな人は入学出来ても授業について行くのが大変なだけですし、やっと卒業出来てもマトモな仕事にも就けないでしょう。
やっと最下位で就職しても真っ先に首を切られたり窓際族になったりして、居づらくなります。
ただし、上記の原理は、貿易黒字による円高になった場合のことであり・・我が国は昨年3月11日の大震災までは貿易黒字が続いていたことを前提に書いています。
もしも大震災以降燃料の大量輸入等で貿易赤字が定着して来たとすれば、大晦日のコラムでも少し書きましたが話は別です。
貿易赤字になっている・・総合的競争力がマイナスになってしまったにも拘らずに、その他の理由・・高金利のために円が上がったり、所得収支や移転収支の黒字のために円が上がっているときには、既に産業の競争力がなくなっているのに更に円が上がり続けると悲惨な結果になります。
我が国は巨額の貿易黒字が続いていたにもかかわらず、低金利による円キャリー取引、海外投資促進による資金流出で、(今回の円高局面でも海外M&Aの盛行で巨額資金が流出し円高圧力を和らげている側面があります)円高になるのを長期間阻止して来たのですが、経済実態(国際競争力があるのにハンデイを付けていた)に反していたことの裏返しの結果が始まろうとしています。
逆の動き・・すなわち過去に逆張りして来た咎めが出て貿易赤字・競争力がなくなってから円が上がり始めると大変です。

為替相場と貿易収支・金利

為替相場は、貿易収支・所得収支の結果によるだけではなく金利相場によっても(資本移動によって・・国際収支のの項目で言えば資本収支項目のプラスマイナスによって)変動することについては 03/17/09「為替相場の妙味」その他の 円キャリー取引のコラムで書いた通りです。
ここで貿易赤字と金利政策(資本収支)・および為替相場の関係を書いておきますと、貿易赤字・輸出の縮小が始まると輸出不振・輸入品が増加して国内生産が減少して、国内が不景気になるので、金利引き下げによって国内景気刺策を行うのが一般的です。
低金利政策を為替相場の側面からみると、円キャリー取引で説明したように、低金利国で借りて(資金調達して)高金利国で運用したら利ざやを簡単に稼げることから、低金利=資金流出→為替相場安に繋がります。
海外進出も同じ原理でゼロ金利の日本国内で海外投資資金を調達して、中国やタイ(が仮に高金利であっても)で工場建設すると安い金利で新規工場を立ち上げられます。
低金利政策は貿易赤字による両替需要による為替相場の下落力学と低金利による資金流出と連動して為替相場の下落を加速するので、貿易赤字の改善にも効果的です。
為替が安くなれば結果的に輸出産業界も息を吹き返し、ひいてはここに納入する国内産業が活発になって、景気回復に向かうシナリオとなります。
輸出が伸びて好景気になって物価が上昇し始めると、インフレの過熱を抑えるために金融引き締めによってこれを抑制するのが普通です。
(今年の中国の物価上昇や不動産バブルに対して、中国政府は金利引き上げをして引き締めました)
高金利にすれば高金利国に資本が流れ込むので高金利国の為替相場も上がり、この面でも貿易黒字傾向が冷やされ、貿易黒字を前提とした生産力が過剰になって景気が冷やされます。
以上が為替と金利関係・景気循環の一般理解ですが、我が国の場合は、貿易黒字がまだ続いていたのに低金利にした理由は何でしょうか?
バブル発生と崩壊がその原因と言えるでしょう。
これまでの膨大な貿易黒字継続に対する世界のブーイングによって無理が出たために、この解決のためにアメリカ国内への工場進出加速や(欧米への迂回輸出のために)生産設備のアジア諸国への海外展開が進みました。
国内生産増加率の低下ないし減少の穴埋め分として、欧米からの要求もあって焦って内需拡大に向かったのでバブルを引き起こしたものです。
海外展開は国内生産をそのまま維持して増産分だけ海外展開するのが最初の頃の殆どの企業のポリシ−でしたが、それでは前年度比国内生産はゼロ%成長ですから、それまで年率7〜8%増の売上を前提としていた日本経済にとっては、大変なことでした。

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