対外強行主義の限界1

国境の壁をなくすと自国立地の不利=人件費その他総合コスト高を嫌って,アメリカ系企業まで皆自国を棄ててメキシコへ工場移転していました。
これに対してトランプ氏が反発して企業には35%の関税をかけると脅したのです。
自国内企業が高コストでもメキシコ立地企業と競争出来るようにするには,相手国の貧困を理由に批判するのではなく相手国も豊かにしてやって同じ「高コスト体質」同レベルで来競争したらどうなるかのテーマをきっちり考えるべきことです。
アメリカの伝統的中南米政策は「相手を搾取し尽くして窮乏化に追い込んだまま究極の貧困状態で物事を考えらないほど追いつめて絶対に立ち上がれないようにする」ものでした。
モンロー宣言はこれを確かなものするためのもの・・囚われの「南北アメリカ大陸に口出しするな」と言うものだったように見えます。
新興国の各競争力に戻りますと,公園・・駅舎や道路工場設備も貧弱であるなどインフラコストがかかっていない・・人件費も何十分の1と安い分に比例して割安に物を作れますが,(その代わり技術レベルが低いので粗悪品が多い)それは一時のことです。
新興国が成長軌道に乗るとインフラが充実して来て(職場にも空調が効くようになり)負担経費がいるし,人件費も上がる・・私が年来書いている世界平準化が進みます。
国際平準化の流れについては,02/21/07「生活水準の国際平準化14と格差社会5(キャピタルゲイン2)」その他で繰り返し書き、平準化進行後の世界については,October 15, 2012「世界平準化後の世界ランキング6(民度2)」まで書いたことがあります。
賃金も上がる→今の中国のように賃金アップ(中進国の罠)で苦しむようになって大きな貿易黒字がなくなって行くのが普通ですから、不公正だ何だと言わずに自然の流れに委ねてその帰趨に任せれば良いことです。
このシリーズで書いているように、市場原理に委ねれば民度レベルまでしか給与やインフラレベルを上げられない・・これが正常な姿です。
自国民の給与・所得水準を上げたければ、民度を上げて行く努力しかありません。
先進国は産業革命の先行者利益の結果実力以上の所得水準を謳歌していたのですが、産業革命の成果が新興国にも及ぶようになるとメッキがはがれて行くのは当然で,将来的には自らの民度レベルに下がるのは仕方のないことです。
ラーメン屋で言えば,味付け能力が低くともラーメンにトウモロコシを乗せるアイデアだけで売上を伸ばすことは可能ですが、それは一時のことで,トウモロコシを乗せる方法が普及すると元々味付けの良い同業者に負けてしまいます。
スーパーダイエーはスーパー方式で先行しましたが,同業者が増えると販売能力の高い方に淘汰されました。
東南アジアや中国の安い人件費に目を付けて先行進出し大成功していた中堅家電メーカーがありましたが,その後実力のある大手が進出するとすぐに負けてしまいました。
いろいろな事例を見ると技術などの実力がなくて目先が利く程度では,一時的に大当たりしても中長期的には結局実力の限界で落ち着くしかないのです。
アメリカの民度は出身地の西洋諸国に比べてかなり低い・低レベル層が基礎集団と言う基本理解でこのシリーズでは書いていますが・・これを前提にすると、将来的には西洋平均以下の生活水準+資源販売益レベルに落として行くしかないと観念すべきです。
日中その他相手の場合には,関税以外の不公正慣行がどうのと言う言いがかりをして来ましたが,不公正と言う言いがかりをつけられない・・何の障壁もない国内同様の物流が実現しているNAFTA相手ではそれが通用しません。
そこで已むなく自国の雇用を守れと言うしかなくなった・・遂に本音が出たと言うべきでしょう。  
昨日書いたように輸入規制でホンの一時的に息をついても、外資が国内生産に参加すると一定期間経過で実力のない民族資本が負け始めるのが目に見えていますので,その内相手国に一定数以上の輸入受け入れを強要するしかなくなります。
政権発足当初に設定した輸出規制・・クルマの例で言えば、アメリカの輸出受入れ台数以上の輸出を相手国に認めない(たとえばフォード車を1万台以上輸入しないと日本から1万台以上の輸出を認めない場合)と強制的に決めさせていた場合、数年後にアメリカが輸出台数を増やすには,同数の輸入枠拡大を認めるしかなくなります。
結果的に同数を輸入するしかないならば,国内需要以上の生産が出来ないことは同じですから、国内生産を結局は国内需要以上に増やせない点は同じです。
まして特定品目別ではなく総額交渉の場合(貿易赤字を問題視するならば,これが普通の交渉でしょう)、日本が米国から食料品や燃料等を輸入すると,その分クルマ等工業製品の輸入を強制される量が減少します。
フォードの頼るピックアップトラックで言えば,トヨタもアメリカ国内で生産を始めると,結局は競争力・生産効率の差になって行くので,多分短期間でフォードの販売数が減って行くでしょうから、政商的利権で(日経新聞の推測記事の真偽不明ですがそのパターンで)動くフォードの栄華はそれまでの短期間になります。
トランプ氏の輸出入規制を煽る過激言動は一見目覚ましいように見えるものの、アメリカの信用を傷つける割に実はアメリカのビッグスリーにとって大した効果を生まないことが明らかです。
昨日紹介したように35%のトランプ以上の過激規制・・ビッグスリーの要請に答えて日本製クルマ輸入に100%課税の脅しを掲げたクリントン政権は,結果的にビッグスリーのアメリカ国内シェアーを落として終わったのですが,メキシコから国内回帰強制してもビッグスリーが現地生産の進んでいる日系その他海外勢に勝てるようにルトは思えません。
このままで放置ではオバマ政権と同じですから,国内でも自由競争による淘汰を認めずに(移民排斥同様に)民族資本かどうかで差別する方向に行くしかないのでしょうか?
こうなって来ると自由主義や人権思想の適用を国内外で分ける欧米の二重基準の人権思想の御都合主義の矛盾が国内でも起きて来ます。
中国が外資を導入しながら他方で何かと嫌がらせするのと、どう言う違いがあるのか分らない・・中国レベル以上の恣意的基準・・専制政治をしたいと言う意思がはっきりして来ます。
1月17日のダボス会議で世界一の横暴・恣意的政治をして世界からひんしゅくを買っている中国の習近平が、アメリカを名指ししないものの保護主義批判演説をしたので世界中が驚きました。
報道印象では「お前に言われたくない」と言う基本姿勢でしたが、私はそうは思いません・・まさに時代の変化・・アメリカが中国以上の恣意的政治に入ろうとしている危険を象徴していました。
中国でさえ霞んでしまうほどの恣意的・強引政治出現に,専制支配ナンバーワンの地位をアメリカに奪われるのが許せないと言う意味だったのでしょうか?
ウエストファーリア条約のシリーズで欧米の内外・人種や宗教で人権基準を分ける矛盾をこのコラムで書いて来ましたが、最も民度の低いアメリカで真っ先に露呈し始めると思われます。
私は安倍政権の外交が成功していることは認めますが,アメリカの価値観は表向きとは別に実質は無法者価値観・こん棒外交であるから、これと一緒は困る・・価値観外交は方便として利用する範囲だであるから、あまり言うと危険だと言う趣旨の意見を書いたことがありますが,こんなに早く本音を露骨に出して来る時代が来るとは思いませんでした。

取引外交3(取引が終わると?1)

イスラエルの行動原理は,アジアではアメリカ一強、次は中国と読めば,正義の基準に関係なく尻馬に乗る韓国の動きに似ています。
韓国の「事大主義」と揶揄される目先を追う行動は、千年単位で従うべき強国は中国地域で成立した歴代王朝しかなかった・・次に成立した王朝に朝貢すれば良いというと言う単純経験・・覇権は数十年単位で変わって行くものと言う経験がないことによります。
日韓併合は日清露3ヶ国の中で、欧米の応援を受けている日本に着いた方が間違いないと言う判断で日本にすり寄った結果です。
戦後は米国一辺倒・・アメリカに迎合するために反日教育をし過ぎた結果、米国が半端な態度(いわゆるはしごを外される状況)になっても今更反日をやめられないのが一種の国難で反日で貫徹する以上は中国の方がくみしやすいことと,将来は中国と判断して露骨にすり寄ってしまったと思われます。
朴大統領職務停止後の野党の動きは,中国へ韓国企業閉め出し緩和の陳情団を送り込む一方で,1昨年末の「日韓合意破棄」を主張しているのは,反日世論に迎合した動きとしては一貫しています。
無茶な要求でも廻りが無視出来ないアメリカとは違い、小国の場合世論迎合だけで国際関係を無視して行動出来るものではありません・・。
今後米中でどう言う取引が成立するかは別として,当面厳しい対立関係に入ることが予想される現段階で,朴大統領でさえ軌道修正するしかなく,米国の求めるサード配備に同意するしかなかったのに,中国の言うとおりにこの配備を中止・ご破算にするのは・朴政権以上に中国に思いっきり傾斜し直すことが可能かの合理的判断がないのです。
トランプ外交は取引外交が本質なので相手国・・世界中が読み易いので,(トヨタがすぐに米国投資を発表したように)却って安心とも言えますが,二国間協定で相手国の貿易黒字否定が続き,順次攻撃相手が小さくなって行くと,その先どうなって行くかの壁にぶつかります。
国内的に見ると最初は大きな成果が目に見えるので支持率が高まりますが,・・あっという間に対外強迫の成果が目に見えなくなって行きます。
この繰り返しをやって来た・・だから301条が存続出来て来た・・政府=弁護士業務的政府に見れば,仕事がなくならないので良いでしょうが・・これがアメリカ政府でした。
トヨタその他企業を強制して国内投資させても国内市場規模以上のクルマ・家電その他はいらないのですから,輸入制限した穴埋め分の取り合いのときにはまだ何とかなりますが,それも終わると国内競争が激化します。
元々国際競争に負けているコトにカンシャクを起こして歴代政権が輸入規制して来たのですから,現地生産を強制しても民族系企業に競争力がつくわけがありません。
今朝の日経新聞朝刊6pには昨日から私が書いている状況が出ています。
クリントン政権が1995年5月突然日本からのクルマ輸入に100%関税をかけると脅して来た歴史です。
このときもトランプ氏同様に「国内雇用を守る」と言う大義名分(民族系企業を守るためとは言えなかった)でしたので,日本の智恵でアメリカ現地生産+部品調達率アップし国内雇用拡大提案をして6月には合意して100%課税が回避されました。
ここまでは昨日書いたことと同じ・・即ち表向きの大成果には上記合意には新たな衰退の芽を用意していたと言うことです。
現地生産開始歓迎(雇用を守るためと言う脅しでしたから,生産拒否できない・歓迎するしかなかったでしょう)の結果、15年までの10年間ににアメリカ国内での日系車生産量は約150万台に達していて,(その他韓国車75万台、欧州車70万台)輸入規制にすがったアメリカ車は99年から15年までの間に1003万台から641万台へ361万台も減っていると書いています。
輸入規制働きかけたアメリカ企業には,日系車が現地生産を軌道に乗せるまでの一時的恩恵しかなかったことが分ります。
この部分が昨日に続く今日コラムに書いたテーマです。
輸入規制の結果アメリカ系企業が一時的に息を吹き返しても、外資系の現地生産が軌道にのると国際競争が国内に持ち込まれるだけで,結果は同じことになった現実が既に起きていたのです。
27日に保護主義についてちょっと書きましたが,ここでもう一度書きますと,成人前の子供を守るためにいろいろな保護や教育制度があるように未成熟国が独り立ち出来るまで国内産業育成を保護するのは必要なことですし、成人すれば1人前に働けます。
これが従来型の正当な保護主義ですが,アメリカの「保護主義発動」の原理は自分が世界で一番「強い」コトが理由ですから,真逆です。
「強いから保護しろ」と言うのは論理矛盾ですから相手を不公正貿易国と批判するしかないのですが,これは権力を背景に「白」をクロと言い、馬を鹿と言い、相手に反論させない故事と同じで正義無視・・強い者には正義はいらない・・専制的支配そのものです。
日米戦争は,アメリカが道義に反した要求を繰り返して日本を戦争に引きずり込んで戦争になると戦時国際条約に反して残虐行為を繰り返した挙げ句に原爆投下に至ったものです。
自己の非道徳性を誤摩化すために逆にありもしない戦犯裁判を強行し,それでも足りずに南京虐殺あるいは慰安婦騒動をけしかけて来たのと同じ論法です。
慰安婦連行を認めない日本の動きを「戦後秩序否定」と韓国が国際運動するのは,まさに正義かどうかではなく強大な「アメリカの正義」に逆らうのかと言う主張方法ですから,彼らの主張はアメリカがでっち上げの震源であることを自ら語っています。
ところで,未成年者だけではなく高齢者も保護の対象になっていますから衰退産業も保護される権利があると言う主張になるのでしょうか?
高齢者の虐待からの保護は現役を退いた人が対象ですから若者の就職を妨害するものではありません。
ただし定年1年延長は1年分の労働力余剰・・ひいては就職難を生む面があると言う意見をこれまで定年延長問題その他のテーマで01/08/03「ゆとり生活 2」01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」その他何回も書きました。
だからと言って高齢者雇用に反対ではなく,能力があっていつまでも働くのが労働需給に関係するならば、労働力不足を理由にするる移民を入れなければ良いだけのことです。
高齢者保護は時間経過でいなくなるのでその間の退場システム・・企業淘汰と同じ退場システムの問題ですが、後進国ではないアメリカの輸入規制は成長を待ってもらうためでもなければ,退場システム・・緩和目的でもなく、既存企業の淘汰を防ぐためのものですから,いわゆるゾンビ企業を抱え込むリスクを自ら冒していることになります。
ところで不公正の認定が恣意的になり易いので,戦後は国際機関・・ガットに始まり,WTOのパネル協議で公正な基準で決めて行くルールが決まっています。
アメリカは自分だけは勝手に決める権利があると言う?立場で、301条成立前から,ガットやWTOルールによらずに勝手に「認定するぞ」と脅して事実上輸入自主規制などを強制して来ました。
今回のメキシコ攻撃・・ナフタの中止・再交渉宣言は文字どおりこれまでの「不公正貿易国」認定の恣意性・・不当な言いがかりだったことを自白したことになります。
すなわちナフタ(北米自由貿易協定)は相互関税撤廃または低障壁化ですが、この結果低賃金のメキシコからの輸入が増え過ぎていることとアメリカ企業のメキシコ移転・国内空洞化を防ぐと言うのがトランプ氏の主張です。
メキシコに工場設置する企業には高関税をかける脅しで次々と投資予定の撤回を迫っています。
と言うことは,対等条件では競争に負ける・・同一条件下の競争では負けていることを正面から言い出したことになります。

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