アメリカの指導力低下2

日本の拒否反応の大きさに困ってしまったらしく、1月12日の日経新聞朝刊に出ている米政府要人の発言のトーンが変わってきました。
アメリカは、偏ったマスコミ報道を日本の世論と誤解していたのではないでしょうか?
参拝批判の大キャンペインの影響を受けた結果でも80何%の支持率ということですから、アジアで孤立することになったと大キャンペインを張っていたマスコミは、もしかして10%以下の意見を代弁していたことになります。
第4の権力と言われるマスコミの世論形成力・・誘導力が急速に低下していることが分ります。
本来本国の行き過ぎた発言が大使赴任国で反発を受けると、本国の真意はそうではないと大使が言い訳して火消しに回るべきですが、本国が大使声明の火消しに回るのでは役割が逆です。
靖国参拝はシリアやエジプト事件のように難しい問題ではない・・アメリカは何のコミットもしていないのでノーコメントで済ませられた問題です。
コメントするべき立ち場でもないのに、言わなくて良いことをわざわざ声明発表したこと自体が、オバマ政権=ケネデイ大使の無能力ぶりを世界に曝してしまいました。
私はケネデイ大使赴任に対してミーハー的人気があるかもしれないが政治能力のない人材が大使では、日本にとって困ったことになると元々心配していました。
赴任したばかりのケネデイ大使に対する日本人の歓迎ムードを自らぶちこわしてしまったことも、今後の日米関係にとって重要です。
こんな能力では、今後日米間の複雑な交渉の下準備・下支え役は勤まらないと多くの国民が思ったでしょう。
言うべきときに適切なことが言えない人物(オバマ政権)は、言わなくていいときに言う・・ものの道理・基準が分っていないことに起因するのですから、コインの裏表の関係です。
優しいことだって間違う程度の能力だったの?と裏から無能力が証明されてしまい、シリア問題が難しかったから・・誰がやってもあれしかなかったというような言い訳・弁護が出来なくなりました。
超大国のときには何でも無茶を言ってれば通ったでしょうが、相対的大国になると一定の交渉力が問われます。
ケネデイ駐日大使の声明を見ると,背後でこれを承認した政府も大使自身もレベルが低過ぎ・・こんな単純なことでもわざわざ失敗するようでは、オバマ政権は国際政治の複雑な懸案処理能力が低いのではないかと疑う人が多くなっているのでのではないでしょうか?
TPPが年内妥結に進まなかったのも、中心になるべきアメリカ代表の交渉能力がなくて、まともな交渉にならなかったことによると言われています。
そこで急遽今年に入って普通は事後に行なう議会承認を事前に行なって交渉全権を議会が予め委任しようという米議会の超党派提案になって来たようです。
(1月12日日経朝刊)
法律上の権限さえあれば複雑な交渉を成し遂げる能力があることにはなりませんから、交渉の成否は人材にかかっている面を無視出来ません。
ただ権限が強いに越したことがないですが、そう言う法案が必要になったこと自体・・アメリカの発言力・交渉力が衰えたことを表しています。
交渉代表者の発言が後にアメリカ政府が責任を持って守ってくれるのか分らない不安が大きくなっていて、交渉が進まなくなっていると言う巷の噂がそのとおりなんだなと推定されます。
アメリカは同盟国のはしごを外すことが続いていて、アメリカの信用が揺らいでいる・・最も重要な軍事同盟でさえ、信用出来なくなり始めると、民事的な細かい約束事を本当に守れるの・・「そもそも交渉に来ているあなた自体が信用出来ないよ!」となって来てハクを着けるために権限強化法案を提出せざるをえなくなったことが窺われます。
法的制度で言えば、民主国家では、国際交渉=条約は最後に議会の批准を受けないと効力がないのはどこの国でも同じです。

日本国憲法
第七十三条  内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一  法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二  外交関係を処理すること。
三  条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

世界で最も信用のあるべき最強国アメリカが、先に議会から主要部分で全権委任のお墨付きを貰ってこないとまともに交渉相手にされなくなって来たとすれば、ことは重大です。
同盟国を裏切るようなことが次々と増えて来ると、アメリカの信用がアジアでも揺らぎ始めます。

アメリカの指導力低下1

中韓両国は出来れば知らんぷり・・大問題にしたくないのに、ココでアメリカに声明を出され,マスコミで大きく騒がれると、「アメリカでさえ言ってるのに・・」と言う弱腰外交の批判に国内で曝されるので・・ほとぼりが冷めるのにはその分長くかかります・・早くとも半年〜1年くらいはかかるでしょう。
その内安倍総理がしょっ中参拝するようになると中韓両国が国内的にも参拝に慣れて来てどうでも良くなるの待っているのかも知れません。
マスコミは米大使声明に鬼の首を取ったかのように大はしゃぎしていたものの、年末の靖国参拝ではアジアで孤立しないし、アメリカも日本の反発の大きさに驚いて?声明の効果減殺に動いているので、マスコミが大宣伝していたアジアで孤立するという旗を降ろして次に狙いを定めて解説するようになってきました。
今回の米大使声明の意味は、終わったことは良いが今後参拝しないようにして欲しいという意味・・これ以上参拝を続けるならばアメリカも何かするしかないという印象の解説に変わってきました。
1回であろうと何回であろうと死者のお墓参りに他所の人が口出しすべきことではありません・・この原則から言えば2回目は絶対しないという日本の約束はあり得ないことになります。
東京裁判の有効性問題は別としても犯罪者として死刑になった人の家族が、そのお墓参りしては行けないという国がどこにあるかと言うことです。
アメリカといえども、そこまで言うのはリスクが大きすぎるでしょう。
中韓が人道に反していくら非難しても正義はこちらにあるし、そんな言いがかりで交際したくないと言うならば、こちらの方こそ交際する必要がないと言うべきです。
日本にとっては中韓との正常化=資金または技術援助することになるだけですから、遅くなればなるほど日本にとって利益ですから,靖国参拝の決断は国民大多数の支持を得ています。
今回のアメリカ大使館の声明は日中韓で靖国問題(お墓参り)に他国が口出しするのは筋違いだという認識でこの問題を出来るだけスルーして正常化したいという思惑で進んでいたところで、聞かれもしないのに「そんなことはないでしょう」とわざわざ割って入って問題提起したことになります。
日本総理に会ってやる?条件に中韓両政府が「ああしろこうしろと」注文をつける事自体が非礼だという世界の常識に戻そうとする関係国の内々の機運を、駐日米大使声明は妨害し、東北アジアの関係改善機運を妨害する結果になってしまいました。
友人間のいざこざがあると、これを煽って喧嘩が大きくなるようにけしかける変なオバさんの役割です。
アメリカの声明によって大事件にされてしまったので、内緒でハードルを下げられなくなってしまった中韓両国にとしては、アメリカの政治レベルの低さに「失望」したと思われます。
アメリカにとってはいつまでも日中韓を対立させておきたいという(仲直りされるのは困る)歴史的立場があるのでその線の含みもあってやったのでしょうが、露骨すぎて日本中の猛反発を受けてしまいました。
「日本が内々謝って来たから」と中韓両国が国内向け説明を出来ないように安倍総理が堂々と参拝したように、アメリカもこの際はっきりさせるために問題を大きくしてくれた結果が残りました。
アメリカの思惑は別として大使館声明の追い打ち・けしかけがあって、中韓両国にとっては靖国問題を正面から「問題にしない」という立場を明らかにしない限り正常化交渉が進まないギリギリのところに追いつめられたことは確かでしょう。
そもそも大使というのは本国と赴任国とのもめ事について、まあまあと間に入る役割であって自分が先頭に立ってもめ事を起こす立場ではありません。
安倍叩きが出来ると大はしゃぎしていたマスコミの期待に反して、ヤフーネット調査では80何%もの参拝支持率という報道です。
以来アジアで孤立するというマスコミによる大運動は静かになりました。
アジアや世界で信用をなくしているのは、変な声明を出したアメリカであり、無茶を言っている中韓両国の方ですし、米大使館の声明で鬼の首を取ったかのように日本がアジアで孤立すると大キャンペインを張っていた日本大手マスコミ界です。

指導力と事前準備

今回の大震災事故に関して、総理や政府の指導力不足を議論する人がいますが、我が国は古来から、合議のまとめ役・世話役がオサの仕事ですから、これに軍隊の指揮者のような指揮力を求めるのは無い物ねだりです。
ただし前回書いたように、政権が安泰な時には事実上の指導力があり、閣僚も従いますが、指導力の実態は、その下の実務官僚が動くか否か、動く気になっても事前の準備があるか否かにかかっています。
むしろ我が国では上からの号令ではなく、司ツカサに任せればその司ツカサで最大限の臨機応変の工夫・能力を発揮する社会ですから、(工場の生産性も研究者・研究所長が決めるよりは現場の工夫によるところが大きいのが我が国の特徴です)この伝統の上に(大統領制ではなく)内閣制度があるのですから、合議のチェアーマンの役割に慣れていない・・あるいはそのような資質の菅総理がいろいろと口出しして却って現場が混乱した結果が出ているのは、我が国歴史経緯に照らして当然です。
原発の海水注入中止問題も管総理があまり細かく口出しするので、東電としては総理の指示あるまでうっかり何も出来ないと感じた・・不快感を持ったことが騒動の原因です。
むしろ避難行動その他を見ていると事前指示・計画に頼らず、現場の判断で予定避難地より遠くへ避難させて多くの児童が助かったりしていますし、避難所でも現場での自然発生的助け合い役割分担が出来ているようです。
また2011、5、27日午後10時前の北海道占冠村でのトンネル内でのJR特急火災事故でも、車掌の指示は「電車から勝手に出ないで下さい・そのまま待機していて下さい」と言うものでしたが、もしもそのまま指示に従っていたら全員蒸し焼きになるところでしたが乗客の機転で全員が車内に逃げ出して、トンネル内を走って逃げたので奇跡的に全員無事に逃げられたことが報道されています。
被災地付近の病院の例でも、余震がある都度役割分担を決めなくともある人は直ぐにエレベーターに走って閉じ込められた人がいないかの確認に行くなど、それぞれがいつの間にか自分で走って行って自分なりの役割を果たすようになっているようです。
現場任せ体質社会ではその場限りの応急措置には間に合いますので、イザと言う時には現場の実情が分らない中央からの指令が必要がない・・あると逆に混乱する感じです。
幕末に来日した欧米人の誰かが書いた文書では、日本人は使いにくいが任せると頼んだ以上のことをしてくれるすごく良い関係になると言うくだりがありました。
その代わり現場力頼みでは、大きな構想力・・未曾有の大事故に対する予めの備えにはなりませんから、我が国で政府に求められているのは、大きな構想を立てることと現場が臨機応変に動き易いような資材その他の設備の備えをすることでしょう。
事前の避難地域の指定・・これが頭に入っているとこの予備知識の上に更に遠くへ逃げるべきかどうかの次の判断に繋がりますが、何の想定もなしにいきなり現場の判断となると現場に事前情報がない中で判断するのですから、混乱してしまいます。
今回の津波被害では、殆どの学校では全員無事に逃げているのに対して、石巻市の大川小学校では事前に避難場所すら決めていなかったために当日混乱してしまい、津波の来るまでの50分間のうち避難場所決定まで40分もかかってしまい、避難途中で津波に巻き込まれて児童の7割も死亡した大惨事になってしまったことに対する学校による報告集会が開かれたことが、6月5日の日経朝刊に掲載されています。
予想外であろうとなかろうと普段からの準備があればその先の対応を現場で応用出来るのですが、想定訓練・予備知識がないと現場付近の地図やその他の情報が頭にしみ込んでいないので、イザとなったらどこに行くにはどう言う道筋が良いかも分らず現場力も発揮出来なかったのです。
例えば避難先に関して言えば、事前計画があれば、避難先の選定に際してどこが良いかの複数以上の候補地があって、そこまで逃げなくても大丈夫かどうかの議論の過程で、一定の場所が決まるいきさつがあるので、(危険・安全な順の①・②・③の候補地から中をとって②に決まったような場合)会議に参加したり関心のある人は、そのときの咄嗟の感覚で今回はこの辺で様子を見て・・とある程度の見当がつきます。
危険感の強そうな時にはもっと安全な候補地③まで逃げようかと、現場対応が即決し易くなります。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC