アメリカの指導力低下5(太平洋2分割)

話題を米中関係に戻しますと、今後中国政府の基準に合わせないと、中国市場から閉め出されるリスクの方が多くなる時代が始まりそうです。
アメリカに従って(忠勤に励んで)一生懸命にやっていると、あるとき頭越しに米中協定が成立して今度は主戦派が米中友好に邪魔だとしてイキナリ切り捨てられるリスクがあります。
米中対等と言うか二頭体制で世界秩序を決めて行こうとなると普通に考えられるのは習近平氏の提案どおり太平洋を二分して相互に相手の領域内は口出ししないという密約でしょう。
西洋の大航海時代に活発に行なわれた教皇子午線を巡る線引き交渉の現在版です。
ポルトガルとスペイン間で世界中を植民地化する大競争をしていてこれの勢力範囲を教皇の裁定によって決めてもらおうとして、繰り返された交渉ででした。
その後マゼランの世界1週成功後は、大西洋上の子午線分割だけでは、アジアの境界が不明になったので、(特にモルッカ諸島の帰属でポルトガルとスペインは激しく争っていました)アジアでも分割が必要になって子午線交渉が続きましたが、当時の新興勢力であった蘭英仏は蚊帳の外でした。
新興国が教皇のお墨付きを無視して勢力を広げるには、政府の関知しない海賊行為(イギリス)に頼るか、ローマンカトリックの権威を低下させるしかなくなりました。
結果的に新興国で新教に頼るしかなく、これが宗教改革に結びついて行ったことになります。
(イギリスでは新教以前に離婚事件を契機に国教会樹立でローマンカトリックと縁を切り、平行して海賊行為で旧秩序への挑戦を続け、武力でスペインの無敵艦隊を破ってしまいます。
その後ビューリタン革命で精神的にも完全にカトリックと縁が切れましたし、オランダは宗主国スペインへの反抗を兼ねて根っからの新教国です。
フランスは新旧両派の混在であったこと・・その分、旧秩序への挑戦が曖昧だったのでフランスが近代での世界競争で世界の覇者になり損ねたことになります)
現在の中国による太平洋2分割案は同じ歴史を繰り返すのでしょうか?
2分割を認めるとアメリカが一方的に支配領域を中国に譲る関係ですが、いろんな交渉ごとがうまく進まないとイヤになってしまい、世界の警察官役をやめたいと投げ出す段階・・もめ事に巻き込まれるよりは楽だという気持ちになるリスクを検討しておく必要があります。
アメリカが投げ出すかどうかは、警察官役を努める努力の割に経済メリットが少ないかどうかにかかって来ると思われます。
いろんな分野での交渉で覇権を握っている国は有利な立ち位置が保障されているのですが、シリア問題等で露呈したようにアメリカの指導力にかげりが出ると,アメリカの指導力に応じたアメリカの国益に沿うようなプラスアルファの交渉がうまく行かなくなります。
TPP交渉等で言えば、「アメリカが守ってくれるから、ある程度アメリカのゴリ押しでも受入れるか」と言う従来型妥協が(守ってくれるかどうか分らないとなれば)し難くなって来たのです。
アメリカは豊かな資源をバックに超大国としてやって来たのでしぶとい交渉は苦手ですから、国際交渉が何もかもうまく行かなくなると短気を起こして覇権(世界の警察官役)を投げ出す可能性があります。
アメリカだけは、太平洋2分割を自発的に受入れれば権益を譲ってやる代償もあって、中国市場参入の権益が保障されるでしょうし、アメリカ自身図体が大きいので、中国もアメリカには直ぐには手を出せませんので何の心配も当面ありません。
尖閣諸島〜沖縄等の防御ラインをなくしても、当面中国によるアメリカ本土攻撃の心配がないでしょう。
アメリカに従っている日本や東南アジア等中小国は、イキナリハシゴを外されると本隊の撤退後に前線に取り残された前線基地のようなもので、直ぐにも攻撃される心配が生じます。
突き放されるのが嫌ならTPPその他の交渉でアメリカに大幅に譲れというスタンスでしょうか?
韓国のように、そんなことなら中国につきますという選択肢も生まれます。
中国市場の方が大きくなると、少しくらい中国に無茶言われてもアメリカに守ってもらうために大幅譲歩するより、中国に従った方が良いかと言う国が出て来てもおかしくありません。

財産「分与」から分割へ

October 27, 2010「破綻主義2」のブログで、昭和62年最高裁大法廷判決を紹介しましたが、現在の判例が破綻主義になっていると言っても有責配偶者の離婚請求を認めるか否かの基準は、離婚後の相手方の生活状況が過酷なものにならないかどうかの判定が中心となっていますが、こうした判例基準が出来てくる前提には元々有責か否かの問題以前に離婚に際しては離婚後の妻子の生活保障を重視して来た歴史に由来するものと言えます。
財産分与が文字通り夫婦形成財産の分割として、経済的意味を持つようになったのは私の実務経験では昭和50年代に入ってからのことのように思われます。
30年代末頃から40年代頃に結婚した夫婦が政府の持ち家政策と住宅ローン制度の発展に乗って(相続によらずに)郊外のマイホームを取得し,列島改造論・狂乱物価等不動産価格の連続上昇によってマイホームの価値が取得時の数倍に上がったので,これを離婚時にどちらが取得するかは重大な意義を持って来たからです。
この段階になると、夫婦形成財産の清算が原則になったのですから、逆に「分与」と言う一方から他方への恩恵的な用語の方が違和感を持って来ます。
分け与えられるものではなく、妻は自分の稼いだ収入の潜在持ち分を取り戻すだけの機能になって来たのです。
実際、ここ20年以上離婚に際しては夫が親から相続した資産は分与請求の対象にはなっていません。
夫婦で形成した資産だけが対象になっている時代が来たのですから、分与ではなく分割とすべきだろうと言うことです。
このような観点から配偶者の相続分の観念はおかしいのであって、配偶者が2分の1まで取得するのは本来は相続ではない筈だと言う意見を11/01/03「相続分6(民法108)(配偶者相続分の重要性1)(遺産は共有か合有か)」以下で繰り返し書いて来ました。
そのコラムでも書きましたが、始めっから夫名義にする必要がなく共有名義にしておくべきだったのですが、明治民法下では、不動産その他重要資産の名義は戸主・男の名義にする習慣になっていたので、何かを買うと男の名義にする習慣がなかなか抜けなかったのです。
この10年余りでは若夫婦がマンションを購入する場合、夫婦共働きが多いこともあって、夫単独名義にせずに夫婦共有登記することが多くなったのは、こうした私の意見に世の中が近づいて来た結果でしょう。
ところが、ここ20年ばかり物価下落によってマイホームの方は値上がりしていないことと、(結婚後10年前後の場合ローン残との清算価値ではマイナスの家庭が増えて来ました)長寿化した最近ではこれに代わって退職金や老後の年金受給権が大きな意味を持つ財産となったので、年金に関しては数年前から分割請求権が法で明記されるようになっています。
年金分割については、06/23/07「年金分割と受給資格1」以下で紹介しました。
ただし,これは熟年離婚には大きな威力を発揮しますが、結婚後数年での若年離婚の場合、大した金額にはなりません。
出産しないうちの離婚の場合、特に問題がないのですが、乳幼児を抱えての離婚の場合、財産分与や慰藉料ではどうにもならない(財産分与に将来の扶養要素を含ませても、男の方も若くて一時金を払える能力がないことが多い)ので分割払いの養育料が重要になって来たのです。

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