世界の警察官から軍事同盟へ(太平洋二分論の基礎)2

トランプ氏に至っては、「相応の防衛費を分担していない」と今から日本に難癖つけているのですから、非武装憲法を押し付けた歴史を無視(または無知?)し、「日本防衛義務を果たしたくない」と選挙戦で公言しているようなものです。
ただし、その後の勉強の成果かどうか不明ですが対日批判をあまりしなくなったようですが,アメリカはこれまでのような負担をし切れないと言う点はどの候補者が大統領になっても変わらないでしょう。
アメリカ(トランプ氏)の戦略は、日本だけ標的と言うのではなく、「ニクソンショック以降のアメリカは中長期的目標としては自国に必要な範囲・・当面東太平洋さえ確保すれば良い→世界の警察官をやれない」と言う基本認識の一環としての話で、これが内々の話ではなく表に出さざる得なくなるほど経済的に切羽詰まって来たことによります。
以下は仮定の話ですが、戦後直後に圧倒的国力差を背景に世界各地の米軍駐屯地で必要経費の9割を負担していて、その後各地の経済復興を反映して現地政府負担率を引き上げてアメリカの負担率を減らして行き、今では半分を切っているとした場合、これが更に減って3割〜1割〜5%と下がっていくと、この負担率減に比例して地域安保に与えるアメリカの影響力が下がって行くのは避けられません。
北朝鮮問題も自国だけでは決められない・6カ国協議・・中国の出方次第になっている所以です。
ちなみに今の在日米軍経費については、日本が既に約半分以上を負担しています。
http://rick08.hatenablog.com/entry/2016/05/06/070000からの引用です。
ウオールストリートジャーナルで公表されたものらしいです。
「武器弾薬なんかの装備のお金に加えて、米軍関係者が約9万6,800人、さらに、日本人2万5,500人が事務員、消防士、医師などとして働いているそうです。これらの人件費と、基地の使用コスト、近隣の騒音対策費用などなどで合計年間102億ドルほどかかります。ざっくり1兆1千億円ほど。うち、米国が負担しているのが55億ドル、日本が負担しているのが57億ドルです。更に、日本は、グアム移転費用など、ときどき追加コストも負担しています。」
「アメリカの軍事費の総額は5,830億ドルだそうです(2017会計年度)。なんと日本円換算で64兆円!日本の軍事費の13年分!!これを毎年使ってるとか、勝てる気がしない。
 そのうち、在日米軍の年間費用は55億ドルは軍事費全体の0.94%にあたります。」
日本駐留経費の半分以上を日本が負担していますが、沖縄基地はベトナム戦争時の出撃基地だったことからも分るように、今でも中東までのアジア全域をカバーする基地ですから、日本安保のためだけの基地ではありません。
しょっ中米韓合同演習をしていますが、日本に基地がなければ大変・・遠くから出て行けば莫大な時間コストがかかるので演習する回数・規模が縮小します。
アジア全域にわたり(米軍の都合に合わせた)ヘゲモニー維持のための軍事費の半分以上を、日本が負担して(させられて)いることになります。
この少ない予算でもケチりたくて・・もっと日本に負担させたくてトランプ氏が大げさに騒いでいるし、米軍基地の沖縄からグアムへの移転計画も着々と進んでいます。
沖縄基地反対闘争を利用して移転費用を日本に負担させる形式ですが、自国防衛に必要なことしかしたくない・・戦線縮小計画・・長期戦略の一環でしょう。
上記データ紹介を見ると全軍事費の1%足らずしかアジアで使っていないし、戦力をグアムの内側へ下げ続けている現状を見れば、アメリカのアジア重視宣言は殆どジョークみたいなもの・・本気度が分かります。
アメリカが実際にやっていることは、当面グアムの線で守れば良いと言う・・マサに太平洋2分論の実践です。
これでは中国がグアムの外側では何をしても良いと言う態度・・アメリカをバカにしたような行動・・国際ルール無視の傍若無人の振る舞いをするようになったのは当然です。
比喩的に言えば、戦後直後には現地国同士の紛争があっても両国兵力合わせてもアメリカ駐留軍の1割しかないような場合、アメリカがどちらの味方するかの表明だけであっけなく勝負がついてしまうので、実際のアメリカ軍出動さえ必要がない状態でした。
「パックス◯◯」と言う状態は、圧倒的兵力差があってこそ成立するものです。
アジアでは、対中国関係で上記のような圧倒的兵力差がなくなっているどころか、そのうち中国に逆転(現在戦では兵器性能差が重要ですので、単に航空機や潜水艦等の数の差ではありませんが・・)されそうな気配です。
最早世界の警察官をやっていけないが同盟は維持したい・・アメリカの基本戦略からすれば、グアムの外側・・日本やフィリッピンがアメリカに従属してくれているのは有り難いがそれだけのことです。
日中,中台、中越の争いでどちらがその地域の覇者になろうとアメリカにとって死活的関係がない・・どうでも良い・どちらかに肩入れしてアメリカ人の血を流すメリットがないと言うのが、基本戦略と思われます。
と言うよりは圧倒的兵力差がなくなっているので、現地紛争に関わると自分も大きな損害を受けるリスクが高まっているからです。
せいぜい情報提供や兵器供給や訓練程度の協力をしても良い・もめ事が多くなって兵器の販路が広い方が良いと言うのが本音でしょう。
尖閣諸島や沖縄が中国支配になるより日本が支配している方がアメリカの安全にとってプラスと言うだけ、韓国でのサード配備も少し早めに中国の動きがつかめる程度のことです。
どちらかと言えば、韓国に対する「踏み絵」を迫った程度のことです。
沖縄基地や三沢基地から引き上げても、グアムや人工衛星でデータ収集するのと大差ない時代があっという間に来る・・それまでは日本に情報収拾させれば足りる・駐留コストを掛けたくないだけではなく・・近過ぎるリスクの方が大きいと言う意見ではないでしょうか?
実際に朝鮮半島で駐留米軍をドンドン減らしているのは、朝鮮戦争時には、数十km後方でも安全な後方基地だったでしょが、今の時代・・数百km単位の後方でもイザとなると前線基地とリスク・壊滅リスクがほとんど変わらないことによるようです。
南沙諸島が中国支配に入って・・海上輸送ルートが中国に押さえられて日本が困ろうとも、中国がアメリカと友好関係を約束するならアメリカにとって死活的重要性がありません。
ロシアのウクライナ介入やクリミヤ占領に対しても同じこと・・アメリカ国防に何の関係もない地域紛争に血を流すほどの関与したくない・・日本からグアムへの後退作戦も日本の(対中)戦争にアメリカが巻き込まれたくない意思表示・・沖縄にいながら防衛協力しないわけにはいかないでしょうが、沖縄にいなければその内応援に行きますと言う程度で済みます。
アメリカの長期戦略を・・合理的に考えて行けば、太平洋二分論・・グアムでの線引きは(中国が言い出したと言うよりは、)かなり前からのアメリカ自身の基本戦略であったコトを中国が確認しているだけ・・だから明白に否定出来ないのだと思われます。

世界の警察官から軍事同盟へ(太平洋二分論の基礎)

江沢民は1年間に4回もの訪問で相応の手応えを感じたので、これをはっきりさせておくためにだめ押しとして公衆の場で真珠湾演説を行なったと見るべきでしょう。
本当に信用出来る内諾があれば秘密にしておくのが普通ですから、アメリカが世界中が見ている場で否定出来ないと言う程度・・逆の押しつけをしたと見るべきかも知れません。
習近平がオバマとの初会談時だったかに強引に「太平洋二分論」を提案してオバマが否定出来なかったこともワザワザ公表されています。
(首脳会談は綿密な事前擦り合わせがありますが・・仮に唐突な提案であったとすれば・・)初会談では突然のことで想定していなかったのでどう対応すべきか決断出来なかった・優柔不断と言えないこともありませんが、今夏中国で開催されたG20でも太平洋二分論が習近平によって繰り返されたことが報道されていますが、オバマはやはり否定しませんでした。
いずれにせよ習近平の太平洋二分論に対してオバマだけではなく、江沢民の真珠湾演説時の日本敵視発言をブッシュも明確に否定しなかった点が重要です。
アメリカ歴代大統領の対応を見ると、中国が仮に日本を攻撃したり南シナ海が封鎖されても、アメリカが日本の自助努力がどうのと言って直ぐに参戦せずに、ぐずぐずしている事態が容易に推測されます。
南シナ海封鎖が実行された場合に封鎖されたままで「話し合い解決で・・」と悠長なことを言っていると、日本は日増しに不利になります。
中国の軍事基地が出来上がる前に実力で阻止しないで放置しておいて、出来上がってから実力で取り壊すにはイラクのクエート侵攻後の第一次イラク戦争のように圧倒的兵力差がないと無理があります。
「話し合い解決を期待する」と言うのは、一方が実力行使していない段階では合理的ですが、一方が実力行使しているのにこれを原状回復させないままで話し合い解決を求めるのは「実力行使を受入れろ」と言うに等しい無責任な態度です。
日本の非武装論者と同じで、相手が実力行使した場合どうするかの議論が抜けていて・・強い者がスキなように出来るルールです。
最近のアメリカのやり方はすべからく・・ウクライナ侵攻〜クリミヤ併合も・・実力行使を阻止しないで実力行使の結果をそのまま認める・・現状追認しかない最近の行動を見れば、・・内々その程度のゴーサインを出していた可能性の方が高いと見るべきでしょう。
これが今のオバマの優柔不断と批判されている裏事情です。
中国による南シナ海封鎖が実行された場合、日本が高額負担している日本駐留米軍が何か役に立つのでしょうか?
役に立つとすれば、今までの航行自由作戦のように時々行く程度でなく、アメリカ海軍がその海域に常駐して日本向け船舶を守ってくれるほどのことをしてくれないとどうにもなりません。
ただし、過去の同盟関係を見ても、(長篠の合戦でも信長の援軍が来るまで守り抜いたように日露戦争時の日英同盟も皆そうです)応援軍が来るまで一定期間自力で守り抜くのが現地軍(砦)の勤めでしたから、「ある程度自力で守って下さい」と言うアメリカの主張はあながち無茶な主張でありません。
実力行使阻止のためにアメリカ軍が介入するには時間がかかるので、その間くらいは自力で守る必要がある・・これが自衛軍の必要性論です。
このシステムがあると、空き巣狙いのような戦争開始の誘惑を阻止出来ますが、非武装論は短期間でも自衛の必要がないと言う意見になります。
初戦だけではなく、応援軍が到着してからでも応援を頼んだ軍が危険を顧みずに真っ先に戦う気持ち・・危ない戦闘を応援軍に頼りきりですと、応援部隊はイヤになってしまいます。
南シナ海封鎖の場合、アメリカに全面依頼するだけではなく当然日本海軍もアメリカ軍との共同作戦に従事する気構えが必要です。
ただしこれまでの自衛の定義では、船舶航路の妨害排除は含まれ難いような印象ですからこの辺・・自衛の範囲に関する法整備が必要です。
昨年制定したいわゆる安保法でもこの辺の出動要件がはっきりしない感じです。
全部を読んでいないので断定出来ませんが、「周辺事態」と言ってもこれまでの議論では米軍に対する援護論であって、自衛隊が先に出動する必要がある場合の要件が分りません。
アメリカが「世界の警察官をやれない」と言う意味は、アメリカが圧倒的経済力・軍事力を背景に現地常駐し,米軍が出ると周辺が従うしかなかったのでこれが普通のように期待していただけであって、これが出来なくなっただけです。
世界の警察官と軍事同盟の違い・・警察の場合、市民は丸ごと治安をお任せ・・丸腰ですが、軍事同盟の場合、同盟国間で力の強弱があるとしても、応援を頼まれてから駆けつける・・一定程度までは自力で守るのが原則です。
ニクソンショック以降アメリカの基礎体力が落ちる一方ですから、具体的な応援要請もないのに日常的に警察官役を果たすのは無理が出て来たことは確かです。
まして同盟国に自国軍を常駐させて日常的に守ってやるほどのコストを負担する関係ではありません。
アメリカでは◯◯違反と言っては、毎年のように欧州企業から何兆円規模の懲罰→和解金をとっていてこれが欧州の不満のタネになっていますが、(いま話題になっているのはドイツ銀行に対する懲罰金の巨大さです)これでは財政難に苦しんでいた徳川幕府が時々豪商を取りつぶしていたのと同じやり方です。
これを繰り返し発動するしかないこと自体に、アメリカのジリ貧・・資金不足・・政権(国際的発言力)末期到来を表しています。
この数年タクスヘイブンが大テーマになっているのも、全てアメリカの資金不足に由来しています。
上記のとおりアメリカは今後警察官役を無償で果たせないが、同盟関係(相互関係ならば)はまだやりますと言う段階です。
これが相互防衛条約=集団自衛権が必要になって来た我が国の事情です。
※ただし日本の場合「アメリカが非武装を強制してその代わりアメリカが守ると言う約束です」からこの辺が他国とは条件が違います・・念のため・・。
平和憲法の根幹は、市民と警察のような関係・・アメリカ軍が駐屯して日常的に平和を守ってくれることが前提・・「警察が犯罪を制圧する前提であって、国民が自力で警察官が来るまで強盗犯と渡り合う関係」ではありません。
アメリカが世界の「警察官役をやめて普通の軍事同盟関係に戻る」と言えても、日本に対しては、平和憲法を強制した以上・・あるいは核武装を禁止している以上は核の脅威から守る義務がありますから丁寧な擦り合わせが必要でしょう。
「核の脅威から守らない・・自力で守れ」と言いながら、核兵器所持を禁止・・核不拡散条約遵守を求めるのは矛盾してしまいます。

アメリカの指導力低下5(太平洋2分割)

話題を米中関係に戻しますと、今後中国政府の基準に合わせないと、中国市場から閉め出されるリスクの方が多くなる時代が始まりそうです。
アメリカに従って(忠勤に励んで)一生懸命にやっていると、あるとき頭越しに米中協定が成立して今度は主戦派が米中友好に邪魔だとしてイキナリ切り捨てられるリスクがあります。
米中対等と言うか二頭体制で世界秩序を決めて行こうとなると普通に考えられるのは習近平氏の提案どおり太平洋を二分して相互に相手の領域内は口出ししないという密約でしょう。
西洋の大航海時代に活発に行なわれた教皇子午線を巡る線引き交渉の現在版です。
ポルトガルとスペイン間で世界中を植民地化する大競争をしていてこれの勢力範囲を教皇の裁定によって決めてもらおうとして、繰り返された交渉ででした。
その後マゼランの世界1週成功後は、大西洋上の子午線分割だけでは、アジアの境界が不明になったので、(特にモルッカ諸島の帰属でポルトガルとスペインは激しく争っていました)アジアでも分割が必要になって子午線交渉が続きましたが、当時の新興勢力であった蘭英仏は蚊帳の外でした。
新興国が教皇のお墨付きを無視して勢力を広げるには、政府の関知しない海賊行為(イギリス)に頼るか、ローマンカトリックの権威を低下させるしかなくなりました。
結果的に新興国で新教に頼るしかなく、これが宗教改革に結びついて行ったことになります。
(イギリスでは新教以前に離婚事件を契機に国教会樹立でローマンカトリックと縁を切り、平行して海賊行為で旧秩序への挑戦を続け、武力でスペインの無敵艦隊を破ってしまいます。
その後ビューリタン革命で精神的にも完全にカトリックと縁が切れましたし、オランダは宗主国スペインへの反抗を兼ねて根っからの新教国です。
フランスは新旧両派の混在であったこと・・その分、旧秩序への挑戦が曖昧だったのでフランスが近代での世界競争で世界の覇者になり損ねたことになります)
現在の中国による太平洋2分割案は同じ歴史を繰り返すのでしょうか?
2分割を認めるとアメリカが一方的に支配領域を中国に譲る関係ですが、いろんな交渉ごとがうまく進まないとイヤになってしまい、世界の警察官役をやめたいと投げ出す段階・・もめ事に巻き込まれるよりは楽だという気持ちになるリスクを検討しておく必要があります。
アメリカが投げ出すかどうかは、警察官役を努める努力の割に経済メリットが少ないかどうかにかかって来ると思われます。
いろんな分野での交渉で覇権を握っている国は有利な立ち位置が保障されているのですが、シリア問題等で露呈したようにアメリカの指導力にかげりが出ると,アメリカの指導力に応じたアメリカの国益に沿うようなプラスアルファの交渉がうまく行かなくなります。
TPP交渉等で言えば、「アメリカが守ってくれるから、ある程度アメリカのゴリ押しでも受入れるか」と言う従来型妥協が(守ってくれるかどうか分らないとなれば)し難くなって来たのです。
アメリカは豊かな資源をバックに超大国としてやって来たのでしぶとい交渉は苦手ですから、国際交渉が何もかもうまく行かなくなると短気を起こして覇権(世界の警察官役)を投げ出す可能性があります。
アメリカだけは、太平洋2分割を自発的に受入れれば権益を譲ってやる代償もあって、中国市場参入の権益が保障されるでしょうし、アメリカ自身図体が大きいので、中国もアメリカには直ぐには手を出せませんので何の心配も当面ありません。
尖閣諸島〜沖縄等の防御ラインをなくしても、当面中国によるアメリカ本土攻撃の心配がないでしょう。
アメリカに従っている日本や東南アジア等中小国は、イキナリハシゴを外されると本隊の撤退後に前線に取り残された前線基地のようなもので、直ぐにも攻撃される心配が生じます。
突き放されるのが嫌ならTPPその他の交渉でアメリカに大幅に譲れというスタンスでしょうか?
韓国のように、そんなことなら中国につきますという選択肢も生まれます。
中国市場の方が大きくなると、少しくらい中国に無茶言われてもアメリカに守ってもらうために大幅譲歩するより、中国に従った方が良いかと言う国が出て来てもおかしくありません。

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