オーナーと管理者の分配(リクシル騒動)2

この種リスクは消費者分野だけではなく、プロとプロの関係・・大手企業間でも昨年だったか発覚したリクシルの中国小会社の現地責任者の不正経理(使い込み)で巨額損失受け、その後代表者解任騒動に発展しているのがその例でしょう。
https://toyokeizai.net/articles/-/285558?page=2

リクシル、対立の根底に海外買収攻勢の「失敗」
問われているのは「ガバナンス」だけではない
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当時、藤森氏は「LIXILを本物のグローバル企業に生まれ変わらせる」と自信満々に語っていた。だが「海外子会社について実態をしっかり調べたり適切に管理したりできる人材は、日本の本社では皆無に近かった」と、内情に詳しい関係者は話す。
海外事業に精通した生え抜き社員はほとんどおらず、藤森氏は買収先の経営を以前からの現地経営陣に任せていたという。LIXIL本社のマネジメント能力不足は明らかで、買収後の海外子会社では軒並み業績悪化や不祥事に見舞われている。
巨額の損失を計上したジョウユウ事件
例えば2014年1月に買収したドイツのグローエ。2015年4月には同社の中国子会社ジョウユウ(LIXILから見ると孫会社)で不正会計が発覚した。実はグローエ経営陣は、2009年にジョウユウに一部出資(2013年に子会社化)した時点から主要な財務情報に十分なアクセスができない状態だったにもかかわらず、LIXILに報告すらしていなかったのだ。
ジョウユウは実際には債務超過で、その破綻処理を迫られた結果、LIXILは関係会社投資の減損損失や債務保証関連損失などで総額608億円もの損失を計上。この時、LIXILは社外取締役と外部有識者による特別調査委員会を立ち上げ事実関係を調査したが、報告書は概要しか公表せず、全文を開示していない。

ドイツの子会社だった時から帳簿開示すら応じなかったというのでは、リクシルが買収時にどういう審査していたのか?驚くばかりですが、これはある程度信用できる会計基準が現在確立しているから言えることです。
源平時代に戻りますと、他人に任せるに足る管理システム(帳簿制度などあるはずもないし)が整わないので、リクシルの国外企業買収と同じような状態に陥っていた・現地管理の武士から届けられる「つかみ金持参」で荘園領主は我慢していたのでしょう。
ちなみに管理システムがきっちりしない時代には、売り上げ(農作物の場合収穫の何割)の何%という比率による収納制度は無理があるので、支配を委ねる代わりに収入の増減に関係なく年間固定金(租庸調)収納システム・一種の請け負いシステムしかなかったはずです。
今で言えば、レストランや小売店の売り上げに関係なく、土地や建物を貸して地代家賃をもらう仕組みがこれです。
貸店舗などでは、売り上げ増減で地代家賃が上下しない・・売り上げ減で家賃を払えないなら出て行ってくれという簡単システムですが、これは廃業すればいい・・・どこかへ働きに出る仕組みがある・・あるいは生活保護システムが機能しているからできることです。
農業社会の場合、凶作は広範な地域・関東平野全部とか東方地域全部などの天候不順によるのですから、どんな凶作でも一定量納付しろ・納付できないならどこでも知らないところへ流れていけ!というのでは、受け皿になる他の産業未発達なので社会が崩壊します。
そこで減免騒動・・あるいは納付しない実力行使が起きると、個々の農民の能力不足や怠慢とは違うので領主の方が折れざるを得ない状態になります。
この現状把握次第ですから京都にいる荘園領主や預かり所の信西入道のような公卿には実態不明で手に負えません。
そこで実情に詳しく実力行使能力も兼ね備えた武士に現地管理を依頼するしかない状態が増えてきたのです。
近代法では以下の通り法制化されています。

民法(明治二十九年法律第八十九号)
第五章 永小作権
(永小作権の内容)
第二百七十条 永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
(賃貸借に関する規定の準用)
第二百七十三条 永小作人の義務については、この章の規定及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
(小作料の減免)
第二百七十四条 永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。
(永小作権の放棄)
第二百七十五条 永小作人は、不可抗力によって、引き続き三年以上全く収益を得ず、又は五年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。
(永小作権の消滅請求)
第二百七十六条 永小作人が引き続き二年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。
(永小作権に関する慣習)
第二百七十七条 第二百七十一条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

上記によれば、1年間納付しなくとも出て行ってくれ(農地を返せ)と言えない仕組みになっているし、2年間未納になれば、消滅請求出来る(任意引き渡しがない場合、訴訟が必要です)ようになっています。

※民法は現行法ですが、農地の場合戦後農地法ができて大幅に変更されています。
戦後永小作権の新規設定は皆無に近いと思われますが、明治30年代における小作関係の法的意識だったでしょうから参考のために引用しました

オーナーと管理者の分配1

今は管理組合とマンションオーナーとは経営が別組織ですが、これがゆくゆく、固定資産税や各種負担軽減化その他の総合管理業になって利益だけオーナーに送金するようになるとこの水増し・・コスト管理のごまかしがないかのチェックが重要になってきます。
班田収受法が戸籍も登記制度(測量の前提たる度量衡もはっきりしない?)もない時代にどうやって実施できたかの疑問を書きましたが、電話も郵便制度もない時代に遠隔地の収入管理を委ねた場合、どのようにその収益を貢納させられるかのインフラの問題です。
資本と経営の分離・株式会社組織になると帳簿管理が重要で、・・商法では昔から商人には帳簿作成義務が明記されていました。

商法(明治三十二年法律第四十八号)

第五章 商業帳簿
第十九条 商人の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする。
2 商人は、その営業のために使用する財産について、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な商業帳簿(会計帳簿及び貸借対照表をいう。以下この条において同じ。)を作成しなければならない。
3 商人は、帳簿閉鎖の時から十年間、その商業帳簿及びその営業に関する重要な資料を保存しなければならない。

商法は累次改正されていますが、上記条文は私が弁護士になった昭和40年代から変わっていないと思われます。
そして商人のうちでも会社になるともっと厳格な番頭に当たると理締まり役の職務権限が整備され、その裏付けとしての帳簿整備義務が課されます。
15年ほど前まで商法600条台から会社設立から株式発行株主と運営担当の取締役それを監督する取締役会・・それがイエスマンばかりになると監査役の権限強化、さらにこれもイエスマン中心になると、独立監査法人制度・・独立性のある社外取り締まり役の要請など、屋上屋を重ねる繰り返しです。
取締役会や帳簿整備義務など記載され、その部分を会社法と講学上言われていましたが会社法(平成十七年法律第八十六号)という独立法ができてその部分が商法から削除されました。
商法から独立した新会社法は、1000条近くもある大きな法律ですが、それほど資本家と資本を預かる運営部門との関係が複雑精緻になっている・人類永遠のテーマということでしょう。
会社法の歴史を見ると株主個々人にチェック能力ないので監査役の強化〜監査法人等が発達し、さらには社外取締役制度の宣伝・・他方で消費者保護のために金融商品法との規制法が整備されてきたのは、この所産です。
いわば人権尊重と憲法に書いても個々人は弱いので弁護士が必要になったのと似た次元です。
消費者には個人中心の各種利殖投資には、監査法人が代わって法令違反がないかを調べてくれないので、各種消費者被害があとを絶ちませんので、金融商品取引法という一般的法令が充実してきましたが、それでも事件が起きてから法令違反を消費者系弁護団が追求する程度が限界です。
個々人で言えば、如何に能力のある人でも超高齢化すれば最後は誰かに資産管理を委ねるしかなくなります。
従来これを相続人に一任・・相続人家計との渾然運営を事実上黙認していたのですが、個人主義の風潮が高まると、子供が親の資産を自己経費に流用するのは老人虐待となってきたので、複雑になってきました。
親族後見で子供一人で唯一相続人の場合、子供としては親の資産を食いつぶすほどではなく、例えば、数億資産の場合そのうち50万や100万程度子供の家の修繕費あるいは自分の子供の大学入学金などに使ってもいいと思いたくなるのも人情です。
後見人による使い込み〜横領事件が増えているというのは、裁判所による預金残高の定期チェックで発覚することが多いのです。
流用したい時にはあらかじめ裁判所に相談して解決できるので、今ではこの種の使い込みが減っているでしょう。
今後の問題は貢献まで行かないある程度自分で判断できる生涯独身者の高齢化が進む場合の資産管理でしょう。
貯蓄不足で高齢者が路頭に迷うのも困りますが、せっかく老後資金を蓄えていても、これを狙う悪党がはびこるのは困ったものです。
在宅介護など発達すると一人住まい高齢者の家に出入りする他人は多種多様です。
法人決算のように事件があろうとなかろうと、帳簿開示による不正経理がないかを恒常的に事前チェックする仕組みはありません。
消費者被害は帳簿開示だけでは事前チェックが難しいのです。
リスクの大きい金融商品・利殖系被害と違いアパート投資は堅実投資と思われてきたのですが、スルガ銀行問題やレオパレス問題(不良工事の続出)でこれもリスキーなものとなってきました。
いわば荘園管理を他人に委ねているうちに荘園領主(本家)の手取り収入が徐々に蚕食されていくようになったことの再現です。
この種問題・・人任せ分野がなくならない限り避けられない・人類普遍のテーマとも言えますが、現在では法令が細かくなっているので、弁護士相談する程度の能力のある普通の人の場合、これを守っているか否かで一応訴訟解決可能ですが、それでもこの種の消費者被害が後を絶ちません。
身寄りもなく寝たきりで介護を受けている場合、預金等を勝手に払い戻されていることがわかっても、問い詰める気力もないので困ります。

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