強行主義の限界6(スローガンと実務)

政治家の供給源が弱体化すると政権自体も頻繁に変わらざるを得ません・・これが2年ごとに政権交代を繰り返した原因ですし、民主党も鳩山.菅・野田と短期間に3人も変わった原因です。
安倍総理が長期政権の結果、国際社会でも重要な地位を占められるようになっていることからも明らかなように、一定以上の経験が必須です。
最近自民党の大臣答弁が危なっかし過ぎるのも、小選挙区で一人勝ちになる結果選挙区内の切磋琢磨がない・・経験を積めないことによる印象を受けます。
単純明快なシロか黒かに単純化するマニフェストやスロ−ガンどおりに国内政治を出来るわけがない・・選挙で勝つのに必要な能力・・・振り付け通りお演説演技能力と多様な価値観を受け容れる実務能力とは一致していません。
アメリカの場合、息子ブッシュが背中に何かをつけてその指示に従って記者会見していると言う噂が立ったことがありましたし、オバマも演説はうまいが1対1の政治会話が殆ど出来ないと言われていました。大分前に書きましたがアメリカでは演説のうまい素人政治家が、いきなり大統領になるからこういうことになります。
制度的にはアメリカ大統領はクニを守るための戦争と議会の決めたことを実行する事務局トップでしかないのですからそれでいいのですが、戦争用に議会を待たずに命令出来る大統領令を次第に拡大運用するようになったことと、実務をやって行く過程で社会の需要が顕在化し、実務官僚に利害情報が集まり予算化の必要性その他膨大な識見が集中するのですが、三千人とも言われる政治任用官僚の大幅入れ替えがスキルの蓄積を阻んでいる実態があります。
その上大統領府は議会の議決の執行権だけで予算の提案権すらない・・年頭の予算教書と言う願望演説しか出来ないし、法案提出権もないので日本のように法案について説明を求められることもない・・議会から招待されないと議会にも行けません。
日本では品位上どうかな?と言う場合、政府提出法案ではなく議員提出法案・議員立法と言うランク付けがありますが、アメリカではみんなこれですから(政府提出法案のように各業界根回ししてすりあわせたわけではない粗雑な?)、トランプ氏の暴言に似たとんでもない法案(議員立法が前提ですから、各議員は内閣法制局まがいのプロをスタッフを抱えています)がしょっ中提案されています。
ですから法案が出ただけで一喜一憂する必要がないのですが、トランプ氏が当選したようにときの勢いでアレヨアレヨと言う間に議会通過するリスクもあります。
一方でトランプ氏のように個人の思いつき的な大統領令の濫発?で大統領権限が肥大化しているのですが、お互いのいびつな関係が極まって来たのが今のアメリカです。
何事も粗製濫造で後で裁判して有効無効を決めれば良いと言う乱暴な社会です。
日本は平安の昔から、こう言う乱暴なことをせずに何百と言うか無数の利害調整してから決めて行く社会ですので社会の安定も保たれるし、時々刻々の関係者の要望を取り入れる結果、漸次の社会変化をスムースにこなして来られたのです。
無数の利害を吸収してこそ納得の政治が出来るのですから、二択の公約重視の宣伝は国内対立を激化させることになるだけです。
欧米レベル〜後進国では、社会が未成熟・・二択の単純思考しか慣れていないので、政治を分り易くする必要がある・複雑な利害調整は専門家に任せてくれと言う二階建て方式が妥当だったでしょうが、多数利害を吸収してから政治をする複雑思考・熟達した民度のわが国民に何周回遅れの後進国の単純思考方式を素晴らしいとマスコミがけしかけるのは間違いです。
ちなみにトランプ氏は従来エリートしか分らないような政治運動・・「後はエリートに任せてくれ」方式を庶民にもわかり易い言葉で訴えた点が新手法だったと言われています。
そのかわり、二択・単純思考の庶民が直截政治意見を言うようになると、「白か黒か」のような単純論法で引きつけてしまった分、現実政治で多数利害との調整・修正するのは「裏切り」に見えるので容易ではありません。
単純化は選挙スローガンでは有効ですが、これを如何にして現実政治に引き戻すかの手腕がないとその後政権が持ちません。
シロかクロかのような二分法でも小泉総理の郵政民営化のように産業の中の1部門だけ標的の一点突破ならば、これを具体化しても国論の分裂まで行きません。
利害関係者が、「万分の1」の分野で一点突破をすれば、反対論を封じ込めて強引・無茶をやっても関係のない9999人の多くは傍観ですから、社会の根幹を揺るがすこともなく仕掛けた権力者の一方的な勝ちに終わります。
小池都知事の手法もこの踏襲で、ピンポイントで敵・標的を一人決めて集中砲火を浴びせるやり方です。
小泉総理の場合には郵政民営化という政治テーマがありましたが、小池氏の場合個人攻撃ばかりで具体的政治とどう関係するのか全く見えません。
都政のガンだと決めつけて一方的な内田氏への攻撃をし、これが終わると今度は石原氏攻撃ですが、今やらねばならない都政、築地市場移転の決断のために当時の都知事の責任問題を解明しなければならないとは考え難い・・決断先送りとは殆ど関係がないように見えます・・。
それは別途やれば良いことでしょう。
小池氏の場合具体的政治をどうすると言う議論が殆ど聞こえて来ない・・これを言えば利害対立者が出て来ますが、これまでの小池知事の動きを報道で見る限り次から次へと個人攻撃に集中している印象です。
いじめっ子にされた人以外の人は自分に関係がないので次に自分が狙われたくない・・誰もが我関せずになりがち・対象にされた方は孤立するだけですから、権力を握ったほうが有利に決まっています。
多くの都議が小池新党になびいているのも、政治テーマ・・「都民ファースト」だけでは何もないに等しいでしょう・に共鳴シテのことではなく競合・刺客候補を立てると言われると、困る恫喝に怯えている印象です。
小池氏の擁立する新人の得票が仮に2~3割しかない・・負ける訳がないと思っても、2~3割も票が減ると競合する公明党などに負ける恐怖感がそうさせている・・公明党、民進党も皆同じ状態で浮き足立っているだけのように見えます。
刺客を立てられると怖いからとは言えないので、表向き政治姿勢が共感出来ると言っていますが、「千葉や埼玉のために」と言う都議はいないので「都民ファースト」と言うだけなら、政策ゼロと同じですから何に共感しているのか不明です。
敢えて言えば弱い者イジメに共感していると言うことでしょうか?
具体的政治を言うと利害敵対が生まれるので「政治意見ゼロ」強迫だけが共通項に見えます・・その見せしめに石原氏でさえこうなるぞ!と言う標的に選んでいるのでしょう。
選挙が終わると脅しの効果が薄れるのでその次に何をするかですが、いつまでも脅しばかりでは持たないでしょう。
いつかは具体的政治に着手するしないのですが、今のところ電線地中化程度の意見しか聞こえて来ません。
この程度ならどこにも反対がないでしょうが、その代わり簡単には進まない点では、トランプ氏のメキシコ国境の壁設置と同じです。
争点による波及効果・・単純OR複雑に戻りますと国際政治で言えば、北方領土や韓国竹島の占領は日韓以外に利害がないので 実力行使した方が勝ち・・世界中で日本がいくら訴えても「そう言う問題があるの!」と言う程度で終わり・・どこも気にしていません。
ところが、尖閣諸島の領有争いや南沙海域の埋め立てになると、利害関係国は中国とフィリッピンだけではありません。
通商航路維持に関して日本が強力な利害を持つだけでなく、パワーバランスに関してはアメリカも強烈な利害を持ちます。
(これを日本が説明してトランプ氏に同意して貰うのに成功したことになります)

スローガンの実効性3と信用喪失(土井党首と鳩山党首の轍)

アメリカの交渉術はオバマやヒラリー氏自身が弁護士であったこともあって,弁護士的思考方法と最近言われるようになりましたが,たまたまクリントン元大統領やオバマ大統領あるいはヒラリー氏が弁護士だったに過ぎず,社会の思考レベルが元々2項対立・単線思考の文化を背景に政治家が行動している社会を表しているに過ぎません。
単線切り分け社会を背景に生まれて来る政治家は弁護士でなくとも似たような思考しか出来ないのだと思われます。
アメリカは弁護士・訴訟社会と言われますが,何でも訴訟で白黒つける社会はその前提として,社会が単線・2項対立,白か黒か,敵か味方か中立か、程度の単純色分け社会しか理解出来ない・民度が生み出した交通整理方式かも知れません。
4〜5年前までのマスコミ論調・・アメリカや中国の戦略性に見習うべきだと言うのが普通でしたが,日本から見れば見え透いた戦略で馬鹿げたレベルに過ぎません。
欧米かぶれの文化人やマスコミは二項対立的戦略が格好いいと日本の戦略性のなさを嘆く声ばかりでしたが,あまりにも単純過ぎるのでマスコミ連動の野党は単細胞レベルからしか支持を受けられないジリ貧政党になっているのです。
ちなみに我々弁護業務は原告と被告,検察官と被告人と言う一対1の対立構造を前提に交渉するのが原則で例外的に多数関係者がいるだけです。
(集団訴訟も結局は一対一の構造に還元されて行きます)
すなわち弁護士・・法律家は一対一の交渉に関するプロですが,100〜数百の利害をつかねて行く交渉のプロではありません。
アメリカ社会はこの方法に優れている(・この程度の切り分けで社会が成り立っている程度のレベル?)だけあって、何でも二国間交渉に持ち込もうとしているのですが,国際政治は,AB間の決めごとがCGE〜Nにも影響を及ぼすので,単純ではありません。
中東の入り組んだ利害関係を見てもアメリカ式単純交渉術では国際政治を切り回すには限界にぶちあたっているのに,国際レベルについて行けないアメリカ人民とトランプ氏がこれに「逆切れ」を起こしているに過ぎません。
今回のトランプ現象は一面から見れば,複雑系処理に付いて行けない単線系アメリカ人がヒステリー・カンシャクを起こしたに過ぎないのですが,そのまま「どうせ俺たちは無茶しか出来なんだ」と突っ走るかどうかによって・・何しろ図体が大きいので誰も止めようがない・・世界の幸不幸が決まって行きます。
トランプ氏が第2次世界大戦前のロ−ズベルトのように無茶をやり過ぎないようにアメリカ人民・ピープルがコントロール出来るか否かに今後の世界政治はかかっています。
ヤクザが暴れても局地的でしかも,警察が来れば収まりますが,・・・アメリが無茶をやれば止められるクニがありません。。
この無茶を言いたい放題、やりたい放題した結果第3次世界大戦になると本当に世界がホロンでしまうリスクがあります。
アメリカが道理に基づく政治を出来れば,小手先のことを何をしようとも結局・・長期的には道徳律のしっかりしたクニ・・複雑系処理に優れた方に女神が微笑むでしょう。
中国、ロシア、トルコ等の地域大国が,その地域内で無茶をやりたがっている背景は,彼らを支持する民度レベルにかかっています。
我が国を含めて単純仕分け・・2項対立を煽る風潮批判をMay 5, 2016,「政府と国民5(2項対立3)まで書いて来ました。
日本では、この種単純煽り系のスローガンに面と向かって反対はしないが国民は滅多について行かない・・実態はそんな単純なものではない・・複雑と思っているので選挙になると,左翼系が大量動員した・・国民の声を無視するなと威張っている割に選挙結果は穏当です。
サイレントマジョリテイーの重要性については、October 31, 2015,「サイレントマジョリティ22(運動不参加者の心理2)」まで連載していて、その後Apr 24, 2016「サイレントマジョリティ23(保育所設置反対運動)」Apr 28, 2016「サイレントマジョリティー24(国民総意)」まで連載途中でしたが,その内再開します。
アメリカでは,肝腎のサイレンとマジョリテイーの方が単純なようですから,始末が悪い・・衆愚政治に堕することになります。
日本は民度が高いのに野党が単純思考過ぎて健全な野党が育たないで困っているし、アメリカの場合には、指導者とピープルの民度差が大き過ぎる問題です。
今回のトランプ旋風はピープルが成熟して国民に変身した結果なのか?
今でもガバメントの対象であって,政治の主役になれないままか?が今後の政治の動きで分ります。
地域大国の為政者の乱暴な言動は・個人の資質と言うよりもこれを求める自国民族レベルがまだまだ複雑系処理向きではない・地域大国らしく威張り散らしたいのにこれがが出来ないストレス・・民族願望を背景にしている点がほぼ共通です。
アメリカ「人民」の多くも実は民度は似たようなものですから、これに親近感を抱いているのをトランプ氏は煽って当選したと見える点がこの先政治を危険な方向へ導く可能性が高めます。
(ピープルの多くは、お金持ちになって高級料理店に行くようになると窮屈で困っているようなもので,大声しゃべりまくりたい本能・・内心あまり格好付けないでやりたい放題やりたいと言う本音が出て来たのです)
大人のちゃぶ台返しは、子供がダダをこねているのに似ていますが,廻りはその場の儀式等を滞りなく済ますために一応宥めますが,原始的本能をその都度爆発させていて中長期的にうまくやれるかは別問題です。
却って信用をなくすのが普通の結果です。
信用を得るには時間がかかるし,得ても失ってもすぐには効果が分りませんが,長期的に利いて来る・・逆から言えばすぐに回復不可能ですから,日本では誰もが信用を大事にしているし,礼儀作法を重視するのです。
ヤクザがスゴメばその場では何か恐喝・・利益が出ますが、長期的には敬遠されてしまい結果的に貧しい生活しか出来ていません。
ルーズベルトも関税等の報復合戦では収拾がつかなくなっていて、局面打開のために対日戦に訴えたがっていてあの手この手で日本を追い込むとともに国内世論工作して遂に日本をその餌食にするのに成功したと言うシナリオ理解が今では通説ではないでしょうか。
私の頃には,学校ではアメリカはルーズベルトのTVA計画を中心とするニューデイール政策成功によって不況脱出に成功したと習いましたが,実際には対日戦突入成功によって戦時景気・漸く不況から脱出出来たことが分って来ました。
社会党の土井党首が「ダメなものはダメ!」と言って一世を風靡したことがありますがこのような単純思考で物事・複雑な政治が片付く訳がない・・日本の成熟した民度から言ってふしぎです。 
実現不能な鳩山氏の「少なくとも県外へ」のスローガンと同じですが,こんな単純スローガンで政治が動くなど不思議ですが、もしかしたら、マスコミの応援で一世を風靡しただけだったかも知れません。
このスローガンは1998年の参議院選挙のときですが,僅か3年後の91年地方選挙では議席を激減させて土井氏は党首辞任になっています。
奇しくも2009年から2012年まで政権を担当した民主党政権と期間的にはほぼ同じです。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/28/doi-takako-passed-away_n_5894892.htmからの引用です。
「消費税導入への反発や、宇野宗佑首相の女性問題などを追い風に、「だめなものはだめ」「やるっきゃない」などの言葉で自民党への攻勢を強めた。女性候補を大量擁立して1989年7月の東京都議選で議席3倍増、同月の参院選では改選議席を倍増させて自民党を上回るなど大勝し「マドンナブーム」や「おたかさんフィーバー」と呼ばれた。
1990年2月の衆院総選挙でも「おたかさんブーム」は、社会党は改選を51議席上回る136議席を得たが、自民党も275議席を獲得して安定多数を維持した。しかし1991年4月の統一地方選では、道府県議の当選者数が過去最低となり、東京都知事選の推薦候補が4位と大敗。責任を取って、翌月に辞任した。」
上記を見ると90年選挙ではマスコミのフィーバーにも関わらず自民党よりも概ね他の野党の議席を食っただけだったことが分ります。
(この結果、不満を持った野党共闘が崩壊したことが都知事選等の大敗北→辞任に繋がります)
単純スローガンは複雑な説明よりは単純結論を求める低レベル庶民には分りよいのでマスコミがこれを煽ると票を得るには便利ですが、実際政治は複雑な要因で決まりますので,単純なスローガンとおりに政治をやれないのがほぼ100%です。
・・その結果庶民の失望感(騙されたと言う反感)から次の選挙では概ね大敗になるのが普通です。
単純スローガンは言わば麻薬のようなもので,一時的に馬鹿力を発揮しますが,長く政治をする政党が使ってはならない禁じ手です。
上記のとおり土井社会党はその後急速に支持を失い,党自体がなくなってしまいましたし,鳩山民主党政権もすっかり信用をなくして次の選挙で大敗し今では党名すら維持出来なくなって,今夏民進党に党名を変えました。

トランプ氏とスローガンの実効性2(スーパー301条)

トランプ氏がもし正常な理性を持っているならば・あるいは,これを支持するアメリカ人がある程度マトモに歴史を勉強しているならば大恐慌時の大失敗・・第二次世界大戦の原因はアメリカの自分勝手な行為に始まります)を自ら再現することはないでしょう。
せいぜい,制裁すると脅して相手から少し譲歩を勝ち取る程度ではないかと見るべきです。
実際にやれそうなことは往復貿易量も少ないし,報復力のない弱小国相手に関税アップするくらい・・要は弱いものイジメでお茶を濁すことになるのではないでしょうか?
合理的に考えると貿易収支均衡点までの輸入制限の交渉合意をすれば,相手国との折り合いがつきます。
実際にアメリカはこれまでスーパー301条だったか?で脅しては対日個別交渉で事実上の輸入制限・・電気・半導体その他日本の世界競争力の産業を次々と潰して来ました。
https://kotobank.jp/wordからの引用です。
「スーパー301条とはアメリカの包括通商法の条項のひとつで、不公正な貿易への対処、報復を目的としたもので、1974年に定められた通商法301条を強化するものとして、88年に成立した。規定は次の2つ。#不公正な貿易慣行、過剰な関税障壁を有する国を通商代表部(USTR)が特定し、撤廃を求めて交渉する。#それでも改められない場合には、その国からの輸入品に対する関税を引き上げるなどの報復措置をとる。スーパー301条は88年当時、米国との輸出入が特に不均衡であった日本を主な適用対象として規定されたといわれている。 」
要するに一定の貿易黒字があると,問答無用式に不公正取引国と認定する仕組みです。
最近・それほど古いことではなく不公正貿易監視国リストに日本を指定したと報道されたばかりです。
http://mainichi.jp/articles/20160430/k00/00e/020/155000c
「米財務省は、相手国の為替政策が不公正でないか判断するため、対米貿易黒字が200億ドル以上▽経常黒字が国内総生産(GDP)比3%超▽年間の為替介入規模がGDP比2%超−−の三つの基準を新たに設定。日本は貿易・経常黒字の2項目に該当した。日本のほか、中国、韓国、台湾、ドイツの4カ国・地域も対象に指定された。監視国リストの指定は今回が初めて。」
上記のように数値目標で監視するぞ!と脅し、その先にはス−パー301条の適用があるぞ!と予め脅すやり方です。
戦前の大恐慌のときでも同じでしたが,日本は制裁されると引っ込むしかない弱いクニですから、戦後も良いように叩かれ続けられました。
貿易黒字や経常黒字が大きいと何故不公正取引国になるのか・・その基準で言えば、産業革命の先行者利益によるイギリスの世界制覇も戦後アメリカの突出して貿易黒字による世界制覇も皆不公正な取引の結果になります。
不公正取引とは,賄賂等不純要素によって左右されるものであって,商品・サービスが優れていて競争に勝っているのは不公正ではありません・・子供でも分るる論理・基準ですが,アメリカ的単純思考では,結果が一定額以上の黒字だと「不公正」と言うことになるようです。
結果の修正は変動相場制下の,為替相場等で調整すると言うのが・・中国の場合まだ為替取引の自由が認められない固定相場=政府指定ですから、貿易黒字を簡単操作出来ますが・・自由取引圏では長年の智恵であり国際合意です。
頭を使わなくて簡単で便利と言えばそうですが,(自分が黒字のときには自由貿易を言い募っていて負けそうになると)こう言う単細胞的正義の基準で国際社会を振り回すのでは世界中が不幸です。
いろんな分野で無茶苦茶過ぎる基準を振り回して来たので公正にやってくれる信用がない結果、圧倒的武力・国力がなくなると、世界の警察官・・調整役を張れくなった原因です。
トランプ氏は,中国相手には報復合戦に陥るのが怖くて多分制裁は出来ない・・世界で最も弱い・何の報復も出来ない・・それでいて貿易黒字の大きい日本を叩くのが安直で理にかなっています。
日本は原油鉄鉱石その他資源を大量輸入している赤字分を、対米工業製品黒字でファイナンスしている関係ですから,対米構造的黒字国です。
貿易黒字の批判・・日本叩きの攻撃を避けるために東南アジア〜中国・最近はメキシコ経由で迂回輸出でカバーしている日本です。
他方でアメリカ製造業は日本へ殆ど進出していないので、アメリカが輸入禁止してもアメリカ国内企業は困らないし,日本へ輸出しているのは農産物・食糧中心(今後シェ−ルガス系が加わりますが)で日本は報復的輸入規制できませんので、アメリカには何らの痛みもない一方的関係です。
上記のとおり太平洋戦争の原因になった高率関税に対しても同じで日本はアメリカに何の報復も出来ませんでした・・報復しなければ安全ではなく,報復の心配がないとなれば遠慮なく押し込んで来るのが世界政治です。
ちなみにアメリカの広島・長崎への原爆投下の決断は,最早日本にはアメリカ本土爆撃の報復能力がないと見極めたので決断したと言われています。
戦争終結を早めるためではなく,日本の抵抗力がなくなるのを待っていたのです。
反撃力こそが抑止効果の基礎であること・・非武装平和論の空想・欺瞞性が明らかでしょう。
アメリカの正義に基準は、相手が弱ければ不正と決めつけて「制裁する」強ければ黙っている・・単純基準です。
この二重基準を知っている北朝鮮は何が何でも核武装に走ったり理由ですし,経済規模や武力の大きい中国政府がサイバーテロその他どれほど不正があっても何もしません。
経済非合理な関係・・報復力が全くないのに日本が最近対米黒字を大目に見てもらっていたのは,アメリカの世界的ヘゲモニー維持に協力する役割を忠実に果たして来たコトに対する恩賞に過ぎません。
トランプ氏が「世界でのヘゲモニーはいらない・・各地域大国が好き勝手にやってくれれば良い」と言い出せば日本の貢献は不要になります。
これがアメリカが明治維新以来長年日本を敵視する基本原理・・ロシアの南下政策を阻止する限度で利用価値があり,日露戦争で目的を達すると用済みとなり,戦後は・ソ連の国際赤化政策阻止など・・ソ連崩壊後日本の利用価値がなくなるとすぐに米中結託で日本除外工作が盛んになるなど・・日本と仲良くしていても経済的に何も得をしていない原理が基礎にあります。
現在も、ロシア、中国敵視をやめるとなれば,(アメリカにとって日本への輸出は食糧等中心で断られる心配がないし,中国市場の方が魅力がある点は戦争前と変わりません)日本利用価値が激減しますし,ロシア・中国にとっても日本利用価値が下がります。
これがトランプ氏当選後、直ぐに対日態度を変えたプーチン氏の姿です。
上記は分りよく単純化して書いているだけであって国際政治はもっと「複雑怪奇」です。
国際政治は2国間の単線的利害調整だけでは解決出来ません。

トランプ氏とスローガンの実効性1

ところで、世界の警察官をやめるのは軍事力負担が重いだけのように見えますが、それよりもアメリカ実業界にとってロシアその他に対する経済制裁が大きな損害・・負担になっている面を無視出来ません。
経済制裁というのは一方の立場を表現しただけであって,痛みは双方平等です。
10対1あるいは100対1の経済力差があるときに一方はその痛みに耐える力がその差に比例して持続出来るだけの違いです。
イラン禁輸・ロシア禁輸も同じで,アメリカ協力国総合と相手経済力の差に比例します。
ただ,北朝鮮の例で分るように,制裁直後は相手の民心に利きますが窮乏生活に慣れてしまうと相手国民心への影響力は漸減して行きます。
民主国家との体制相違も大きな影響差があります。
独裁政権では言論の自由がないので国民不満はただちに大きく出て来ませんが,アメリカの場合相手の10分の一の経済被害でもその業界に大きく騒がれる弱みがあります。
人命比較すると簡単ですが,IS等に日本人やアメリカ人が一人二人でも殺されても大騒ぎですが,その陰でイラク・アフガン・シリア人等が何万と殺されていても相手国の士気に何の影響もない・逆に反米士気が上がります。
長期的には封鎖されている方は国力が大幅に低下するので,最後の決戦力は弱まりますが最後の決戦に持ち込まない限り北朝鮮のように,世界の進歩に遅れたままでも元の19世紀よりも良くなったと喜んでいれば済みます・・元々圧迫を受けている敵愾心の強い民族には経済制裁だけでは実は効力が殆どありません。
禁輸している方の経済界では、(制裁前に相手国の輸入が大きかった場合・良い顧客だった場合には)逆に売り損なっている不満・経済的に見ればロシアに輸入禁止されているのと同じ経済効果が大きくなって来ています。
金融サービスであれ何であれ消費する方は別の業者、国から買うか消費を減らす・・外食や映画鑑賞を減らすのはどうってことがないなど柔軟対応可能ですが、供給側は1~2割でも売り上げが減れば固定経費の支払いがあって死活問題です。
買う方よりは売る方がダメージが大きいのが原則です。
ロシアやイランなどは元々原油程度しか売るものがないので、損をするのは国営系大型企業、国家財政だけで輸出に関係のない庶民零細企業には殆ど影響がありません。
要は西側のオシャレな商品、美味しい消費財が入ってこない不便さだけです。
消費財を売っていた企業は苦しくなるので連合体制の場合には何かと理由を付けて例外を求めるクニが現れますが,制裁を主導するアメリカ自身が率先してやるしかない以上,アメリカが一番損な役割になります。
ナポレオンの大陸封鎖・禁輸令が失敗に終わった原理です。
以上のようにアメリカが世界の警察官をやめると言い出したのは自分自身の制裁疲れが起きている面を無視できません。
世界の警察官をやめる=制裁解除は、国内企業の支持が多く一方的宣言で可能なので国内だけを考えれば意外に実現性が高い可能性があります。
ただしロシアその他への制裁は総合的国益を判断して行って来たはずですので、選挙のテーマにならない間接的ないろんな利益を損なう可能性が高いのですが、例えばちょっと考えてもサウジアラビアや欧州など関係国との協調をどうするかなど実は複雑です。
国際政治上アメリカに頼る関係で何かと譲歩して来た国々が一杯あります。
これを無頓着に行うと旧来の友好国との間で築き上げてきた膨大複雑な利害を無視することになり多方面の離反・アメリカの不利益を招くリスクがあります。
イラン制裁復活の主張もしていますが、解除で動き出したばかりでこれを一方的に覆すとアメリカの信用性が大きく揺らぐので実は簡単ではありません。
高関税、輸入規制の実現性を見ましょう。
アメリカ国内だけで見てもトランプ氏が仮に中国製品やメキシコ製品に45%も課徴金をかけると中国やメキシコ制裁のように見えますが,中国やメキシコがアメリカに対してのみ45%高くないと売らないと決めた輸出禁止(アメリカだけ高く買うしかない)を受けているのと経済効果は同じです。
イキナリ国内生産に切り替える暇がないから,国内は品不足で大混乱になるか,高くとも輸入して買うしかないので中国等からの輸入が45%減るのではなくもしかしたら一割程度しか減らないと思われます。
45%アップより10%高くてもいいからと中国以外から買うとすれば、結果的に国民が10%割高な買い物を強制されていることになります。
国内で作らなくなってしまった製品をイキナリ国内生産に切り替えるには人材も工場設備、サプライチェーンもないので,その間他所から買うとなれば結局割高なもの買うしかないのでアメリカ国民にとっても大幅な損失です。
それでも中国にとっては,時間の経過でアメリカ国内生産や他国からの輸入が増えて中国製販路が縮小するので大打撃です。
別の見方・・輸入品に45%の高関税を掛けて国内工場保護する場合,輸入品に一律45%の消費増税したのと同じ結果になります。
相手の立場で見るともっと無理があります。
自国産業保護のために高関税を掛けて相手国の報復関税を受ける連鎖が起きると,世界を鎖国状態に戻すことになります。
これが1929年頃の大恐慌に際して(いま同様に自国中心主義で)アメリカが先に関税を大幅に引き上げたので、これに欧州が報復関税をやった結果→報復合戦のエスカレートの末に植民地別のブロック経済・・国際物流縮小が始まった原因です。
日本の場合,後記のとおり原燃料等を買うしかない・・輸入禁止出来ない弱い立場なので,報復関税競争に参加していなかったのですがブロック化するべき植民地を持たない日独伊がトバッチリで真っ先に参りました。
当時の世界2大経済圏の流通が止まった結果、国際経済活動が窒息状態に陥ったのでこれを打開するため→ナチス・ファシズム台頭→日本は満州の囲い込みに走るなど世界戦争に入った原因です。
アメリカに高関税で狙い撃ちされれば中国は、ためらいなく報復に出るでしょう。
短期的には中国の代替としてその他の国の輸出は伸びるし,一方でアメリカの代替として中国への輸出も伸びて良いこと尽くめのようですが,米中2国間経済戦争の影響度・・戦前の2大経済圏であった欧米間の報復合戦同様にどのように波及して行くか,今は見通せませんが、世界経済は大変な状況になるリスクがあります。
アップルのようにアメリカ輸出用の製造工場が中国やメキシコに一パイありますが,(中国やメキシコの対米輸出が多くて怒っているのですから一杯あるのはあたり前です)その輸出が減ると日韓その他の対中輸出も減り→日本や韓国の輸出が減れば,日本韓国へ原材料輸出しているクニも困ります。
このような連鎖波及の切っ掛けが戦前の大恐慌であり→戦争になって行ったのです。
ところで貿易ストップの自国内反作用の大きさは相互往復貿易量(輸入輸出総量)に比例しますから,アメリカにとっても今や対中貿易量が大きくなり過ぎている結果(中国が違法行為をしてもアメリカが武力で脅せないのと経済面でも同じです)、対中貿易をストップしかねない35〜45%もの急激な課徴金を課することは実現不可能と思われます。
トタンプ氏はスローガンを掲げた以上は,結果などどうでもいいと言う無責任・蛮勇で踏み切れるのでしょうか?

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