強行主義の限界6(スローガンと実務)

政治家の供給源が弱体化すると政権自体も頻繁に変わらざるを得ません・・これが2年ごとに政権交代を繰り返した原因ですし、民主党も鳩山.菅・野田と短期間に3人も変わった原因です。
安倍総理が長期政権の結果、国際社会でも重要な地位を占められるようになっていることからも明らかなように、一定以上の経験が必須です。
最近自民党の大臣答弁が危なっかし過ぎるのも、小選挙区で一人勝ちになる結果選挙区内の切磋琢磨がない・・経験を積めないことによる印象を受けます。
単純明快なシロか黒かに単純化するマニフェストやスロ−ガンどおりに国内政治を出来るわけがない・・選挙で勝つのに必要な能力・・・振り付け通りお演説演技能力と多様な価値観を受け容れる実務能力とは一致していません。
アメリカの場合、息子ブッシュが背中に何かをつけてその指示に従って記者会見していると言う噂が立ったことがありましたし、オバマも演説はうまいが1対1の政治会話が殆ど出来ないと言われていました。大分前に書きましたがアメリカでは演説のうまい素人政治家が、いきなり大統領になるからこういうことになります。
制度的にはアメリカ大統領はクニを守るための戦争と議会の決めたことを実行する事務局トップでしかないのですからそれでいいのですが、戦争用に議会を待たずに命令出来る大統領令を次第に拡大運用するようになったことと、実務をやって行く過程で社会の需要が顕在化し、実務官僚に利害情報が集まり予算化の必要性その他膨大な識見が集中するのですが、三千人とも言われる政治任用官僚の大幅入れ替えがスキルの蓄積を阻んでいる実態があります。
その上大統領府は議会の議決の執行権だけで予算の提案権すらない・・年頭の予算教書と言う願望演説しか出来ないし、法案提出権もないので日本のように法案について説明を求められることもない・・議会から招待されないと議会にも行けません。
日本では品位上どうかな?と言う場合、政府提出法案ではなく議員提出法案・議員立法と言うランク付けがありますが、アメリカではみんなこれですから(政府提出法案のように各業界根回ししてすりあわせたわけではない粗雑な?)、トランプ氏の暴言に似たとんでもない法案(議員立法が前提ですから、各議員は内閣法制局まがいのプロをスタッフを抱えています)がしょっ中提案されています。
ですから法案が出ただけで一喜一憂する必要がないのですが、トランプ氏が当選したようにときの勢いでアレヨアレヨと言う間に議会通過するリスクもあります。
一方でトランプ氏のように個人の思いつき的な大統領令の濫発?で大統領権限が肥大化しているのですが、お互いのいびつな関係が極まって来たのが今のアメリカです。
何事も粗製濫造で後で裁判して有効無効を決めれば良いと言う乱暴な社会です。
日本は平安の昔から、こう言う乱暴なことをせずに何百と言うか無数の利害調整してから決めて行く社会ですので社会の安定も保たれるし、時々刻々の関係者の要望を取り入れる結果、漸次の社会変化をスムースにこなして来られたのです。
無数の利害を吸収してこそ納得の政治が出来るのですから、二択の公約重視の宣伝は国内対立を激化させることになるだけです。
欧米レベル〜後進国では、社会が未成熟・・二択の単純思考しか慣れていないので、政治を分り易くする必要がある・複雑な利害調整は専門家に任せてくれと言う二階建て方式が妥当だったでしょうが、多数利害を吸収してから政治をする複雑思考・熟達した民度のわが国民に何周回遅れの後進国の単純思考方式を素晴らしいとマスコミがけしかけるのは間違いです。
ちなみにトランプ氏は従来エリートしか分らないような政治運動・・「後はエリートに任せてくれ」方式を庶民にもわかり易い言葉で訴えた点が新手法だったと言われています。
そのかわり、二択・単純思考の庶民が直截政治意見を言うようになると、「白か黒か」のような単純論法で引きつけてしまった分、現実政治で多数利害との調整・修正するのは「裏切り」に見えるので容易ではありません。
単純化は選挙スローガンでは有効ですが、これを如何にして現実政治に引き戻すかの手腕がないとその後政権が持ちません。
シロかクロかのような二分法でも小泉総理の郵政民営化のように産業の中の1部門だけ標的の一点突破ならば、これを具体化しても国論の分裂まで行きません。
利害関係者が、「万分の1」の分野で一点突破をすれば、反対論を封じ込めて強引・無茶をやっても関係のない9999人の多くは傍観ですから、社会の根幹を揺るがすこともなく仕掛けた権力者の一方的な勝ちに終わります。
小池都知事の手法もこの踏襲で、ピンポイントで敵・標的を一人決めて集中砲火を浴びせるやり方です。
小泉総理の場合には郵政民営化という政治テーマがありましたが、小池氏の場合個人攻撃ばかりで具体的政治とどう関係するのか全く見えません。
都政のガンだと決めつけて一方的な内田氏への攻撃をし、これが終わると今度は石原氏攻撃ですが、今やらねばならない都政、築地市場移転の決断のために当時の都知事の責任問題を解明しなければならないとは考え難い・・決断先送りとは殆ど関係がないように見えます・・。
それは別途やれば良いことでしょう。
小池氏の場合具体的政治をどうすると言う議論が殆ど聞こえて来ない・・これを言えば利害対立者が出て来ますが、これまでの小池知事の動きを報道で見る限り次から次へと個人攻撃に集中している印象です。
いじめっ子にされた人以外の人は自分に関係がないので次に自分が狙われたくない・・誰もが我関せずになりがち・対象にされた方は孤立するだけですから、権力を握ったほうが有利に決まっています。
多くの都議が小池新党になびいているのも、政治テーマ・・「都民ファースト」だけでは何もないに等しいでしょう・に共鳴シテのことではなく競合・刺客候補を立てると言われると、困る恫喝に怯えている印象です。
小池氏の擁立する新人の得票が仮に2~3割しかない・・負ける訳がないと思っても、2~3割も票が減ると競合する公明党などに負ける恐怖感がそうさせている・・公明党、民進党も皆同じ状態で浮き足立っているだけのように見えます。
刺客を立てられると怖いからとは言えないので、表向き政治姿勢が共感出来ると言っていますが、「千葉や埼玉のために」と言う都議はいないので「都民ファースト」と言うだけなら、政策ゼロと同じですから何に共感しているのか不明です。
敢えて言えば弱い者イジメに共感していると言うことでしょうか?
具体的政治を言うと利害敵対が生まれるので「政治意見ゼロ」強迫だけが共通項に見えます・・その見せしめに石原氏でさえこうなるぞ!と言う標的に選んでいるのでしょう。
選挙が終わると脅しの効果が薄れるのでその次に何をするかですが、いつまでも脅しばかりでは持たないでしょう。
いつかは具体的政治に着手するしないのですが、今のところ電線地中化程度の意見しか聞こえて来ません。
この程度ならどこにも反対がないでしょうが、その代わり簡単には進まない点では、トランプ氏のメキシコ国境の壁設置と同じです。
争点による波及効果・・単純OR複雑に戻りますと国際政治で言えば、北方領土や韓国竹島の占領は日韓以外に利害がないので 実力行使した方が勝ち・・世界中で日本がいくら訴えても「そう言う問題があるの!」と言う程度で終わり・・どこも気にしていません。
ところが、尖閣諸島の領有争いや南沙海域の埋め立てになると、利害関係国は中国とフィリッピンだけではありません。
通商航路維持に関して日本が強力な利害を持つだけでなく、パワーバランスに関してはアメリカも強烈な利害を持ちます。
(これを日本が説明してトランプ氏に同意して貰うのに成功したことになります)

公約から実務能力へ4

話が為替政策にずれてしまったので、公約の意義に戻ります。
安倍自民党の円安政策発言がそのまま実現しているように見えるのは、わが国にとって不幸なことに貿易収支赤字の定着傾向とタマタマタイミングがあったに過ぎません。
まさか安倍氏が我が国の貿易赤字を実現した・・安倍氏の功績だとその取り巻きも言うつもりはないでしょう。
とすれば公約とは関係なく、大震災以降我が国のファンダメンタルズが悪化して来た結果・・その効果・・貿易赤字恒常化の傾向が統計上も出て来て・・「さすがに日本も参って来たか!」という国際認識の結果、円が安くなったことを誰もが認めるしかない筈です。
円安とは、国力低下に応じて市場がハンデイを下げてくれたに過ぎず、決して目出たいことではありません。
1月10日に書いたように為替介入は短期的には行き過ぎた相場の是正作用はありますが、その程度の効果では、企業が海外進出するか、国内で増産するかどうかの長期判断には関係しません。
長期的な為替相場は貿易の長期的トレンド・国力評価によるものですから、政治家が公約として円安にするとか円高にすると主張するのは太陽の運行を早くする・あるいは来年は猛暑にするというのと同じで政治で決められることではないので公約には馴染みません。
安倍自民党は本来公約になり得ないものを掲げてあたかも自分の手柄のようにしていますが、貿易赤字が定着しつつある昨年秋ころからは、赤字傾向になって来たので円が安くなるしかない地合でこれを先取りしたに過ぎません。
公約の意義に戻りますが、国民政党時代に社会が来ている以上は、結果的に矛盾した国民の要望をどのように取り込んで決断し、実現して行くかしかありません。
本来的意味での公約が無理だとすれば、公約としては「貿易立国」や「国民の生活第一」みたいに抽象的にしておくと政党を選ぶ基準がなくなります。
結局は人格者に委ねる・・あるいは実務能力が必要になったと時代と言えるのかも知れません。
公約があまりにも総花的になって意味をなさなくなったので、人格+実務能力時代に戻ったのでしょうか?
実務能力重視と言えば、地方首長が副知事や助役経験者ばかりだったころを思い出しますが、その頃の説明では、地方自治体では革新だ保守だと言ってもやれる範囲が狭いので関係がない、むしろ実務能力こそ重要だということでした。
言わば国政も冷戦構造が終わって、保守革新の区別が意味をなさなくなると、地方自治体のような関係になります。
今後は国際経済競争にどうやって勝ち抜いて行くか、どの辺で折り合いを付けて行くかの競争です。
保守革新の区別ではなく、予めどうすると公約していた事態ではなく、原発事故のような個別事案が起きるたびにその処理能力、官僚掌握術・結局は人格の高潔さ・懐の大きさが勝負になってきました。
アジア通貨危機やバブル処理でも実証されましたが、アメリカのエリート学者の集まりであるIMFの言うとおりしないで、一見もたもたしていた我が国のやり方が正解でした。
最先端・・世界でどこも経験のしたこともない難しいことは、じっくり時間をかけて日本流の総意・・ボトムアップ方式で進めて行くのが良い結果に繋がります。
指導者不足と嘆くマスコミ論調が多いのですが、日本人は一人一人のレベルが高いので、少数のエリートに一任する諸外国のやり方・アメリカの真似をしたがるのは却って危険です。
日本社会はこれからも前人未到の最先端社会を切り開いて行くしかないのですから、お勉強・・いつも書きますが過去の経験を学ぶのに秀でた人たち・・単純回路中心のハーバード流(プリンストン大学でも同じですが・・)学者の言うとおりしていてもうまく行きません。
誰もどこも経験したことのない最先端事象を解決して行くには、国民の総意を総合して行くしかない・・もたもたしているように見えても、これが1番副作用の少ない良い結果を生み出します。
幸い我が国の国民一人一人のレベルが高いので、一握りのエリートに委ねるのではなくみんなで智恵を出し合って行けば、必ず良い解決が生まれる筈です。
強力な指導者による号令一下突進するのではないので時間がかかりますが、愚直にモタモタしながら、国民みんなで努力し、もがきながら良い(GDPのことではなく国民生活の高レベル維持)結果を出せればいいのです。

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