国債無制限発行2(ロンバート型融資システム1)

日本より高金利国の投資家が、日本国債を買うと逆ざやですから金利差目的では購入動機がありません。
海外の資金を呼び込みたい国では他所より金利を高くしないと導入出来ませんが、日本の場合国内に(長年の貿易黒字の蓄積で)資金がだぶついているので世界最低金利のままで何十年もやって来られました。
外国人による国債購入動機については、10/30/08「円高相場と国債1」のコラムで紹介したとおり、為替相場の見通しと金利差がすべてです。
再論すれば国際金融危機などのときに超短期資金の行き場をなくして逃避先として最も安全な円に交換するしかない・・円値上がり期待で円を購入すると購入した円の保管場所に困ります。
機関投資家の場合個人と違って購入した円をタンス預金しておけないので、どこかに預けるしかありません。
零%近くの金利で銀行に預けるよりは国債を買っておけばホンの少しでも(1%前後)上乗せ金利を稼げる超短期運用先・・逃げ場としての利用しかないのが現状です。
昨年のギリシャ危機以来の超円高局面では、資金の逃避先として円が上がったのですが、そのときに彼らは円の仮置き場としてさしあたり少しでも金利のつく国債を大量購入したので昨年末の日本国債の外国人保有比率が数%も急上昇しています。
(リーマンショック時にも円が上がると同時に国債保有比率が上がりました)
このように我が国の国債は低利過ぎて外国人投資家には円相場急騰期以外には購入動機が限られていることから、仮に際限なく発行量を増やしても平常時には5%前後の保有比率(日本の国際貿易量の大きさ見てこの程度の保有は一定の国際貿易等の決済資金用として必要です)以上に上がることはないでしょう。
ちなみに賃貸用ビルやホテル稼働率あるいは失業率も移転誤差用として、いつでも5%前後の余裕・ゆるみが必要です。
とすれば、日本国債はもともと外国人投資家による引き受けを予定していないのですから、外国人投資家の引き受け拒否による国債引き受け不能・デフォルトあるいは大暴落になる心配がありません。
国債の増発がなく書き換え債の発行だけならば、民間金融機関の余剰資金が同じである限り書き換え用国債の引き受け資金が不足することはありません。
景気が良くなって預金の融資先が増えると国債引き受け資金がその分不足することがありますし、個人金融資産が徐々に減って来ると銀行等の融資用利用額が同じでも引き受け資金・余力が細くなります。
景気が良くなって民間資金利用が増えて国債引き受け資金不足時には、その分民間需要が盛り上がっているので政府が需要喚起のために国債で市中から資金を引き上げて使う必要がなくなるので、国債発行自体を減らして行くべきでしょう。
とは言え、満期が来る分の償還資金を政府が用意していないのが普通ですから、(どこの企業でも書き換えによる償還資金手当を前提に運用していることを書きました)実際には直ぐに不足分の資金を手当て出来ません。
景気が悪いままなのに個人金融資産が減ってしまい国債引き受け用資金が銀行等から縮小して行く場合(・・今後高齢化が進むとこのパターンが予想されます)も同じく資金不足になります。
これらの場合、償還予定額と同じ額の国債残高を維持するためには、紙幣増発しかないのでいわゆるロンバート型融資によって穴埋めする必要に迫られます。
ロンバート型融資+銀行による国債引き受けの仕組みについては、03/19/08「サブプライム問題と世界経済6(円の大量供給の功罪2)」のコラムで紹介しましたが、ロンバート式融資の場合、日銀が直接引き受けしなくとも既発行国債を担保に新規の国債引き受け資金を借りられるので既発行債の借り換えに関しては(担保の掛け目にもよりますが・・)銀行がほぼ際限なく引き受け可能です。
たとえば担保掛け目を9割に設定していれば、既発行債の借り換え資金として新たな民間からの引き受け資金としては、差額の1割だけで済みます。
例えば借り換え用の額面100億の新発国債をロンバート型融資で引き受ける場合を例にしてみましょう。
100億の既発行国債を担保に90億の日銀融資を受けて差額10億を金融機関の自己資金=預金等で賄っても、その数日後〜1日後あるいは即日(1時間後あるいは数秒後)に担保にした既発行国債が額面通り100億で償還されるので、資金的には殆どリスクがありません。
(数時間後あるいは数分・数秒後の償還金入金の場合、帳簿の書き換えに過ぎません)
この繰り返しで行けば、政府にとってはその時点までの既発行債残高の償還資金の準備資金が限りなくゼロに近づくので、ロンバート型融資を始めた時点で存在していた発行残高(その時点で800兆円の残があったとすれば・・)がゼロになってしまったような経済効果があります。
ロンバート型融資による銀行引き受けが行われるようになると、間に藁人形としての銀行をカマしているだけで事実上日銀直接引き受けと同じことになるので、上記ロンバート型融資のコラムでも書きましたが中央銀行の独立性を学者や関係者が何故今でも主張しているのかが疑問となります。

ソフト化社会6(トラブル回避システム)

一般民事事件を見ても,いろんな分野でトラブル回避システムが発達しています。
アパート経営も今では金融会社の保証で貸すことが増えたことと不動産会社の管理に委ねていることが多いので、大家さんが個人で家賃不払いその他のトラブルに対して弁護士依頼することがほぼ皆無になっています。
自動車販売会社も,私が弁護士になった頃には車販売代金の焦げ付き回収→車の回収事件が多かったのですが、20〜30年ほど前からファイナンスが普通です(現金支払は皆無に近い)ので、リスク管理・訴訟は皆無になったと言えます。
今では修理のクレーム処理・・それも殆どクレーマー相手の相談が中心です。
ファイナンスと言えば住宅建設も住宅ローン建設が中心ですから、出来上がってからお金がないことによる言いがかり的苦情・トラブルは減りました。
建築やリフォームあるいはちょっとした大きな取引では支払能力があるのかないのか分らないで、受注するリスクが減ったのです。
「あなたは本当にお金があるのですか」とアパートを借りに来た人や家を建てたいという人から聞くことは不可能ですし、資産状況のリストを出してくれとは言えませんが、ローンや保証会社付きでしたら業者が客に求めたり品定めする必要がありません。
銀行や信販会社が自動的に所得証明その他の資料提出を求めるので、収入の不安定な人や過去に焦げ付きを起こしている人は契約段階ではねられてしまうのでリスク軽減が進んでいます。
その上,不動産取引は建て売りやマンションが普通になったので個人が自分で建築契約すること滅多にありません。
立て替えの場合個人が建築契約当事者になりますが、今は大手ハウスメーカー=既成品注文が多いので、実質的には販売契約に近くなっています。
建て売りやマンション業者関連の建設工事の不具合は、建て売り業者やマンション業者が、建設工事会社に要求する関係ですので,継続的受発注関係の中でおおむね処理されて行き、トラブルや訴訟事件になるのは継続関係の切れた場合の例外的現象になります。
このように社会システムの進展と(生活水準の上昇)人格のソフト化によって、我が国では訴訟事件がここ25〜30年ほど激減傾向にあります。
交通事故自体が減っている外に保険制度の発達で現在では殆どが保険で間に合いますし、交通事故が裁判になるのは私が弁護士になった頃に比べて、100分の1もないでしょう。

社債・国債の償還システム2

超優良企業でもあるいは国債でも、自前資金で元々期限に元金100%を返す予定で社債や国債を発行しておらず、借り換えて返す予定しかない点はサラ金苦の自転車操業と本質が変わりません。
違うのはその始まりが消費資金債務と建設的な投資用債務の違いくらいであって、国債では建設国債と赤字国債に分類しているのがこれにあたりますが、期限後の借換債になると借金支払のための借金である点は同じになります。
元は建設的だったというだけで足りるならば、住宅ローンが払えなくなってサラ金から借金しても建設的債務という理屈になります。
これがサラ金債務者と違って健全と思われているのは、大手企業あるいは国(・・特にアメリカ)など大きすぎてつぶせない筈という変な神話に寄りかかっているだけのことでしかありません。
社債発行・・すべての分野での先送り体質については、03/27/07「過剰消費社会8(消費先取りシステム2)」」03/28/07「過剰消費社会10(消費先取りのシステム4)」02/23/07「キャピタルゲインの時代5(修正作用2)社債発行1」その他のコラムで連載しました。
たとえば、2000億円社債発行によって資金調達して新工場を立ち上げる場合、計画通り順調に売上が伸びたとしても5〜10年で設備投資資金全額を返済出来る予定ではありません。
(その設備を売リ飛ばせば別ですが、それではせっかく新規事業を軌道に乗せた意味がありません)
せいぜいその間の利息や減価償却費を支払い続けた上で、5〜10%の利益を出せるのが成功モデルです。
この利益から税を払い株式配当をした残りで元本部分を償還して行くとすれば、5年や10年で元本をゼロにして行くことは不可能です。
(用地取得から工場設備建設〜出荷で利益を出せるようになるまで、数年以上かかります)
殆どの企業は、社債の償還資金を積み立てているのではなく、借換債の発行で先送りして行く計画になっています。
会計上もこれで良いことになっていて、別に違法ではありません。
2000億円で工場を新設すれば、2000億円の負債が生じますが、他方で2000億円の資産を取得しているのでバランスシート上は均衡します。
その後は、減価償却分だけ資産価値が減少して行くので、これに見合う分だけ借入金の元本を減らすか、元本は全く減らさないままでも現預金あるいはプラス何らかの資産を増やせばバランスシート上左右が均衡します。
利益が出たからと言って減価償却した分以上の元金返還をすると、資産の減損以上に負債が減ってその差額分が利益計上になってしまうので、現金がその分なくなっていても税を払ったり配当したりしなければなりません。
こんな仕組みですので、社債の金利さえ払っていればいい感じになって、それ以上に償還期限が来る途中で元金まで返す・・社債の買い戻し動機が湧かないのが現状です。

社債・国債の償還システム1

賠償支援スキームに戻しますと、新機構を造ってもそこの支払能力に疑問があるので、政府が新機構の発行社債を保証する仕組みらしいです。
(きっちり政府のホームページに入って行けばあるのでしょうが・・・安直にグーグルで検索する限りでは・まだネットで条文が見られないので今はマスコミの報道を根拠にしています)
とすれば、新たな組織・機構を作らずに東電の賠償資金用社債に限ってこれを政府が直接保証すれば良いようなものです。
これがそうならなかったのは、賠償資金限定では一般社債の借り換え用社債発行困難のさし迫った危機解決になりません。
賠償金に限定しない借り換えを目的とした新発社債の保証が緊急に求められていることから、政府が特定企業の全債務保証をすることが出来るのかという疑問もあります。
従来の各種公庫や公社(今は独立行政法人)なども政府系というだけで法的に政府保証していた訳ではありません。
アメリカのサブプライムローン問題の引き金になったアメリカの住宅公社系も同じでイザとなれば政府が責任を持つだろうという程度の期待でしかなかったのです。
この辺はリーマンショック直前の09/05/08「GSE破綻リスクの怪2」前後で連載しました。
そこまで丸抱えでは国民世論が許さないだろうと言うことや、他方東電自身も事実上政府丸抱え・国営企業みたいになってしまうのはいやということで、中間に機構という半公的期間・ワンクッションを置くことになったと思われます。
ちなみに、借り換えで先送りして行く仕組みは今回のスキームに限らず一般民間企業の銀行借入や発行社債も同様ですが、一旦信用不安に火がつけば、しょっ中到来する借入金返済期限や社債償還期限に償還する資金がなくてショートしてしまう点も同じです。
社債を5〜10年に一回しか発行していなければ良いのですが、殆どの企業は数ヶ月〜6ヶ月に一回何らかの返済期限が来る仕組みになっていますので、社債販売条件の悪化に繋がる株式相場の変動にどの企業でも一喜一憂しているのです。
本来売ってしまった株式が10分の1に下がろう20分の1になろうとその企業に直接の利害がないのですが、次の社債発行条件・・実質利回りにモロに響くので、株式相場の維持に心を砕いているのです。
今回の賠償支援スキームで政府は東電の株主は切り捨てても(20分の4に下落した損害はそのまま)、社債に対する保証をして継続発行(今後期限の来る社債権者は100%払ってもらえる)だけ守ろうとしているのは、企業の本音そのものズバリであると言えば良いでしょうか?
企業としては社債によって集めた資金を投資して金利+減価償却以上のかなりの利益が出たときに、全部を利益配当にまわすと資金が社外流出してしまう上に配当落ちすることもあるので、その利益の一部で自社株式を購入して保有したりあるいはこれを消却するなどして、株式価値引き上げないし維持に努力しています。
たとえば、発行募集期間に株式相場が1割下落=社債発行価格が予定より1割下がれば、その分経営コストが1割上がることになって他社より不利・・苦しくなります。
転換社債の場合株価連動・ストレートの関係で分りよいのですが、額面百万円でその社債で時価100万円の株と将来強制交換となれば、単純に100万円を基準に(満期に100万円戻って来る前提で)中間利息控除した金額に表面利率を合計した金額プラスアルファ(変動リスク分考慮)で買い手がつきます。
ところが発行直前になって株価が90万円に急落すると、額面が100万円でも90万円が戻って来る基準にその差額を満期までの期間で割って金利計算した数字でないと買い手がつきませんから、実売価格が下がってしまう・・発行会社の手取りが減るのです
ただし、1割や5%の下落ならば数ヶ月先に償還期限の来る社債50億円の手当として、発行手数料等をプラスした52億円の発行計画があった場合、実売価格が1割減ですから、その分コストが高くなっても5億円だけ短期借入しあるいは手元資金の取り崩し等で補えるのでコスト(金利割高)だけの問題で済みます。
しかし、東電のように2000円台の株価が数日〜10日くらいで400円台に下がってしまうと、比率で言えば200億円手取り発行予定が40億円しか手取りにならないのですから、とても手元資金や臨時の借金では賄いきれず、資金ショートしてしまいます。
上記は理論的比率でしかなく、実際にこのくらい大幅に下がってしまうと4億円での買い手もつかないだけではなく、仮に買い手がついても40億円借りて200億円返すのではコストが高すぎて話になりません。
実際には中止するしかありませんので、資金ショートしてしまいます。
(・・政府発行国債だって同じようにしょっ中満期が来ますので、一旦信用不安に火がつけば大変です・・大暴落中だから借換債の発行を状況の良くなる数年先まで見合わせようと思っても、その間の既発行債償還資金手当がつかないので、たちまちデフォルトの危機・これが最近のギリシャ危機あるいは過去に繰り替えされた南米諸国のデフォルトの原因です)

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