損害賠償支援法1

現行の破産法その他債務整理法はすべて、開始決定時を基準にしているのですが、これでは緊急事態発生後法的手続き開始までの間、死にもの狂いで協力した人たちが報われません。
この基準時の設定がおかしいので、仮に事故時以降に発生した債務を優先支払とする特例法を造って法的手続きに乗せた場合には、勿論原発事故後の緊急時に活躍した下請けや緊急融資した金融債権も地震後のこととして、100%支払うことが出来るので、事故後の対応に問題がありません。
事故後に協力したことによって発生した債権も、その前からの債権も平等に扱うのは却って不平等です。
事故後開始決定までに発生した優先支払の特例法を造った上で、会社更生法か再生法の適用にして、責任者には責任を取ってもらい、特例以外の過去の負債はすべて一律配当する形式にすべきだったと思われます。
そうすれば、今後の大口負債は賠償債務・・それを支払うための社債償還債務だけになります・・今後のもうけは過去の負債の支払に使わずに済むので荷物が軽くなるでしょう。
これまで東電にかかわっていた関係者は、原発関係御用学者に限らずそれぞれが東電と一体となって良い思いをして来たグループなのですから、(今回の事故で東電の豪華施設を売却する方向なりましたが、労働貴族が良い思いをしていたのです)すべて3%前後の配当で我慢してもらい、今後のもうけはすべて賠償資金に充てるくらいの思い切った関係者一丸となった謝罪の態度を求めたい人が多いのではないでしょうか。
事故後に緊急事態に協力したことによって発生した債権も、その前からの債権も平等に扱うのは却って不平等です。
事故による損害賠償債務と事故時以降の債務に対する優先支払の特例法を作った上で、会社更生法か民事再生法の適用にして、責任者には相応の責任を取ってもらい、特例以外の過去の負債はすべて一律配当する形式にすべきだったと思われます。
そうすれば、今後の大口負債は賠償債務・・それを支払うための社債償還債務だけになります・・今後のもうけは過去の負債の支払に使わずに済むので荷物が軽くなるでしょう。
これまで東電にかかわっていた関係者は、原発関係御用学者に限らずそれぞれが東電と一体となって良い思いをして来たグループですから、すべて3%前後の配当で我慢してもらい、今後のもうけはすべて賠償資金に充てるくらいの思い切った関係者一丸となった謝罪の態度を求めたい人が多いのではないでしょうか。
今回の政府・・与野党合意のスキームですと、賠償金を払うためには、東電をつぶすわけには行かない、そのためには先ず既存債務を期限の来る順に元利金を払って行かねばならない・・そのための資金繰りのための政府保証の枠組み設定ですが、これでは、あまりにも順序が単純すぎて多くの国民に対する賠償に名を借りて既存債権者の債権回収を政府が先ず保証するためのスキームになってしまっています。
東電の既発行債が約5兆円とそれ以外の短期長期借入金がパーになると連鎖倒産が多すぎて産業界が持たないという読みもあったのでしょうか?
しかし、何事も微温的解決ばかりではなく、GMのようにはっきり法的手続きに乗せて、過去の分は一定の配当率で切り捨てて、将来に向けてやって行く方がすっきりしませんか?
機構を造っても次々と到来する東電の社債償還資金を貸してやるべき資金が機構自体にはないので、機構の名義で社債発行して資金確保してこれを東電に貸してやる仕組みですから昔流行った融通手形の大型版みたいです。
しかし、名義を貸してやるべき機構自体にも将来発生するであろう東電の損害賠償資金を全部負担してやるほどの資金力がないのが明らか・・業界全部束になっても今回の賠償金を捻出出来ないというのが市場の見立てです・・信用がないのです。
東電の支払能力不足を見越して社債発行が不可能になったのと同じ理由で、機構を造っても機構自体に賠償金をイザとなれば肩代わり出来るほどの信用力がない・・東電救済のための社債を発行しても信用されない点は同じです。
電力業界と言えば超優良企業の集まりの筈ですが、これが束になっても原発事故賠償金支払能力に市場で疑問符がつく・・信用がないということです。
そこで政府が機構の発行社債を保証することになったものです。
8月3日の夕刊では、3日午前に参院本会議で可決されて、漸く原発賠償支援法が成立したと報じられています。
ネットでは、賠償法案として出ていましたが、賠償限度を東電の払える限度まで限定してその差額を政府がストレートに持つのでは国民の理解を得られないことから、今回は既存の賠償法をいじらずに政府による別途の業界支援法・・金融関係法となったようです。

原発事故損害賠償資金3(政府保証3)

国債破綻問題から原発賠償資金向け新機構発行社債に対する政府保証に話題を戻します。
政府保証債で調達した資金については、国債同様に借り換えの繰り返しを前提にしているので、東電としては、結局自己資金を全く使わないでも済む仕組みです。
国債暴落時期不明を良いことにして(数年先でも時期が分れば分った時点で大暴落・デフォルト状態になります)政府債務のデフォルト判明までの間に投資家が一定期間金利を取得してから売り逃げ出来る(終わり頃に買った投資家だけが損をする仕組み)チャンスがある点の違いがあります。
言わば、東電の責任を国税で面倒見るのではなく、投資家に分担させて負担(リスク)を内外に分散させようとする政策です。
現在の政治のやり方・・・借り増してはその場の資金調達して行くばかりですから、債務が際限なく膨らみ遠い将来破綻することがほぼ明らか・借り換えばかりで最後は踏み倒す予定ならば、結局東電は一銭も自分の売上金から負担しないと宣言しているのと同じです。
そんなことが目に見えているならば、東電の責任を名目上・法律上100%にしないで、3分の1〜5分の1に限定してやる代わりに(無限責任を定めた原発賠償法の改正)少しでも自費で今・現在払わせた方が放射能被害でおののいている国民としては納得出来る感じです。
僅か3分の1でも5分の1でも東電が直接支払うのでは、市場の信認を得られないほど東電の体力がない・・賠償金が巨額過ぎる予想ということでしょうか?
東電の責任を仮に5分の1と限定すれば、残り5分の4が国(国民全部)の責任となります。
そうなると直ちに、国・政府では予算化しなければなりませんが、これまで書いているように「原発は安いぞ!」と言うキャンペインをしている手前、損害総額の見積もりをしたくない・・August 16, 2011「学問の自由と社会の利益」で書いたように、そんなにコストがかかるのかと国民に公表し知られたくないのが今の国・・伝統的勢力の姿勢です。
それと予算化するにしても、とてもその分をそっくり増税する勇気がない・・他方で何かの支出を減らして穴埋め出来る政治状況ではないので、ほぼそっくり赤字国債の増発しかありません。
財政赤字累積で大変なときに巨額の赤字国債の増発を出来れば避けたいところですから、保証という隠れ国債化の道を選んだのでしょう。
ところで、目先の倒産を防ぎ、これからの賠償金(今後の債務と言えるか・・法的には既存債務になるでしょう)支払に当てるためならば、更生法申請や再生手続きでやる方が合理的です。
今回のスキームではこれまで連載して来たとおり、賠償金の資金手当の前の段階・・・次々と到来する既存債務支払のデフォルトを避けるために、先ず既存債務の返済を円滑にすることから始まっています。
そして当面の危機をやり過ごせば、行く行くは、賠償金支払が始まりますが、その資金手当のための新たな(借り換えのためではない)賠償資金手当としての社債発行もして行こうとするようです。
これまでの社債は設備投資資金等に充てるために発行している前向き用途向けが普通ですから、そこから予定通り生み出されて来る回収金がその社債に対する支払原資になりますが、今後借換債の外に賠償金用に新規発行する社債は過去の賠償金支払資金用ですから、そこで取り入れた資金で何の前向き投資もしないのですから社債とは言うものの、実質は赤字国債や消費者信用・サラ金債務同様に何の利益も生み出しません。
このために借りた資金からは元本を完済するまでの利息支払用の利益も生み出さないし、元本自体を削減して行くための利益も生み出しません。

原発賠償支援スキーム3

政府保証がついていても払う義務のあるのは債務者本人ですから、社債がいつか発行出来なくなるときに備えて本来元金を徐々に蓄積しておくべきですが、8月21〜22日に社債の仕組みで書いたように、どこの優良企業も利息さえ払って行けば良い仕組みです。
我が国の赤字国債同様にうっかりすると利息支払分までも次の社債で手当てしている企業が多いのではないでしょうか?
国債がデフォルトになるときには国債を大量に買い込んでいる国内各種金融機関も軒並みデフォルトになり、多くの貸付金も大方焦げ付く事態でしょうから、国債がデフォルトのときしかデフォルトにならない債務は、国内的には超優良債務と言えます。
ちなみに、政府保証付きでも信用がなくなって次の借り換え用の社債発を行出来ないとき・・5年もの債権とすれば5年先に政府が保証債務を払えないと言う予測が立っているときですが、実は誰も5年先のことは分らないので、現時点で既に国債がデフォルト寸前であって初めて「今払えない者が5年先の保証するなんておかしいよ!」となるものです。
原発大事故まで東電は世界の超優良企業だった筈ですが、それでもひとたび事故にあって次に借り換え用の社債発行が出来なくなりデフォルトの危機に見舞われる状態ですが、政府保証の神通力が効かなくなったときにいきなり東電や新機構が自前資金で次々と到来する社債を償還出来る筈がありません。
東電の持っている銀行株や大手国内優良株を売って資金にしようとしても、国債がデフォルト状態になれば上記のように銀行株や大手企業株の大暴落で売って資金を作るどころの話ではありません。
借り換えが出来なくなるときには、国内企業全部が連鎖倒産ですから自分のお金で払うことは全く予定していない・・元々不可能な設計です。
政府保証が現実化するとき・・機構が新規社債発行不能のときとは、政府債務が破綻して政府保証の効能がなくなったときのことですから、政府保証とは言うものの、イザ保証債務を支払うときには既に政府が破綻しているのですから、政府自身も1銭も払わない結果で終わる予定になります。
政府保証とは言っても最後は東電も機構も、政府もみんなでそろって踏み倒すことを前提にしていることになります。
このように社債や国債発行スキームは名目上発行の度に利息分を上乗せして行って膨らみますが、最後まで払う気がない詐欺みたいな仕組みです。
ニクソンショック以降、金の裏付けがなくなった後の貨幣や国債・政府保証債・大手企業の社債などは、政府や大手企業が先頭に立ってモラルハザードを拡大しているのが現状と言えるでしょう。
景気沈滞を嫌がって必ず来る景気下降期にその都度紙幣の乱発・これを吸収するための国債乱発をして来た咎めの帳尻合わせがリーマンショック以降南欧諸国など鎖の弱いところから世界を駆け巡りながら徐々に続いているのです。
この最後に来るのが我が国の国債デフォルトと言うことでしょうか?
原発被害を100%賠償しますとは言っても、実際は社債と言う紙の発行の繰り返しで先送りするだけで関係者は誰も自腹をいためない仕組みです。
政府が払えないときは、最後に一種の徳政令で終わりですから、お互い気楽なものです。

原発賠償支援スキーム2

東電が直接社債発行するならその資金用途を投資家に説明する必要がありますが、新機構が機構名義で発行する場合その資金が東電の既発債返済資金に使うのか、あるいは東電の通常の運転資金用か・新たに必要となった賠償資金用に貸し出すのかを説明する必要がないことになるのでしょう。
言わば銀行がどこに貸すかを言わないで社債を発行するのと似たような役割になっていると思われます。
銀行のように預金を庶民から集めないし決済機能を有しないものの一種の金融業になります。
(条文自体を見ないと正確には分らないのですが、会員企業にだけ提供するので・互助会的扱いも可能でしょう)
当然のことながら新機構は構成員企業が一定額を出資して設立されるのでしょうが、それでは大した金額にならないので当初発行社債で入手する資金は先ずは新機構の基金積み増し(準備金)用になってしまい、その後蓄積した基金を何の用途に貸し出すかは機構の内部処理・・密室作業になります。
銀行が返済能力の見込めないことが分っている賠償資金に貸出すのは故意の不良貸し付けとして背任行為になるのでしょうが、新機構は赤字で返済能力のなさそうな(市場判定を受けている)東電に貸す目的で設立されたのならば、貸付先である東電や原子力事業者の返済能力を気にせずに貸し出せる点が違います。
事故賠償金向けにだけ限定ならば分り良いのですが、今回の原発事故による信用不安で社債借り換え不能になっている東電の資金ショート阻止が当面の課題で出来たスキームですから、賠償資金向けに限定することは法的に不可能です。
事実上は緊急の借換債代替機能が終わり、危機を凌いだ以降は一般債務借り換え・・普通の運転資金向けの貸し付けをしない暗黙の了解があるのでしょうが、法的にはこれの区別は難しいと思います。
数日前に書いたように、条文自体がまだ入手出来ていないのではっきりしませんが、条文上の区別は難しいので、もしかしたら既発行社債・一般債権弁済向けには期間制限・・たとえば1〜2年間に到来する債権の返済目的に制限していて、市場が落ち着いたら・・その後既存債務返済用に機構が東電に貸し出すのには主務大臣の認可がいるなどとしているかも知れません。
そうしないと電力業界は、極端なことを言えば自前で社債発行しないでこの機構を利用して次々と資金導入すれば全部政府保証になってしまい、モラルハザードが起きてしまいます。(まさに焼け太りです)
8月21〜22日に掛けて紹介しているように社債は元々満期までに元利金を用意していて返済する仕組みではなく、借り換えを前提にしているのですから、借換債の発行不能な信用状態にならない限り返済不能にはなり得ない仕組みです。
政府保証債ですから政府信用がぐらついて新規発行不能にならない限り無限に借換債の再発行が続くのですから、賠償資金用に限定したとしても自前資金では返済能力が全くないのを分っていて貸しても不良貸し付けとは言わないのでしょう。
ところで、今回の事故による東電の責任を限定せずに全額賠償義務を負わせる・・無限責任とは言うものの、社債による資金調達システムでは東電は自己資金を1銭も使わないで(この世の?)終わりまで行きそうです。
機構が発行した政府保証社債を使って集めた資金を丸ごと東電が借りて原発賠償金を弁償し、その後は借換債で繰り返して行けば半永久的に借金の元本を返済する必要がありません。

原発賠償支援スキーム1

 借金先送りシステムに話を戻します。
東電も一般企業同様に22日まで紹介した「借り換え繰り返しモデル」で資金運用していた・・自己資金で返す準備金を全く用意していなかったところに、大事故が発生しました。
巨額賠償金の手当が出来ないだろうという市場予測から、・・社債の借り換えが出来なくなってしまう予測・デフォルト含みから株式の大暴落になりました。
株式の暴落が社債市場に影響しますし、社債市場でのデフォルト予測が将来を織り込んだ株式相場に反映される相互関係ですが、社債発行は1年〜半年に1回程度しかないのに対し、株式市場は毎日開いているので刻々の変化が株式市場で先ず現れる関係です。
国政選挙が仮に2〜4年に1回しかなくとも、途中の補欠選挙やしょっ中行われる地方選挙で、政権の動向を読み取るのと似た関係です。
今回の賠償支援法・スキームが緊急に必要となったのは、
   ① 東電は賠償資金がなくて早晩行き詰まる予測から、 
   ② 現在の株価が大暴落し、(2000円台から400円台まで)
   ③ 直近に期限の来る既発行済社債の償還資金用借換債の発行困難化
   ④ 既発行社債を期限に償還出来なければ倒産→原発事故処理が滞る
   ⑤ 東電の当面の資金手当の必要性
   ⑥ 事故直後に1兆2000億あまりが金融機関から緊急供給
   ⑦ 緊急資金は、次々と到来する社債償還資金にはなり得ない
   ⑧ 恒久的資金供給枠組みを造るか、賠償責任の限定が必要
   ⑨ 賠償責任限定は政治的に不可能
   ⑩ 新たに作った中間組織による社債発行=資金準備
   ⑪ 新機構から東電へ社債償還資金を供給
   ⑫ 新組織の信用力不足を政府保証で補完
   ⑬ 将来的には東電の賠償資金の手当もこのシステムを使う。

ので、賠償資金の心配が要らないと言うことでしょう。
賠償支援法ですので賠償資金を直接捻出するための法かと思うのですが、東電が賠償資金を借りられないから賠償資金の調達を今直ぐに政府が保証するのではなく、外形から見ると先ず目先の倒産を防ぐために借換債発行の代わりに機構から供給を受けられる仕組みを作ってやったことに過ぎないことになります。
(これは賠償金支払ではなく結果的に既存投資家保護になります)
そして当面の資金ショート危機が去った後で、具体化して来る賠償金支払資金もこのスキームに乗せて順次機構による新発発行社債で集めた資金から東電が供給を受けて賄って行こうとするものでしょう。
これが軌道に乗れば東電の信用不安が解消されるので、賠償資金用途以外は東電が従来通り東電名義の社債を発行して資金を循環して行くことが期待されているのでしょう。
借金に切り替えても支払義務・負債の増えた点は同じですから、利益が出ないので長期間利益配当出来ない・・株式相場には影響するでしょうが、信用不安払拭にはなります。
社債は元々半永久的に自腹では払わないシステムですから、政府保証の社債発行残高がいくら増えても東電の信用・デフォルト不安には響かないことになります。

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