離婚の自由度6・破綻主義1

オスはメスの発情期だけ1年に一回寄り付く時代から、半年に一回、3〜4カ月に一回でも10日に一回でも時々帰って来てでも、母子の生活費さえ入れてくれれば良い時代から始まって、その頻度が多い方が良いから次第に定着するように女性がサービスするようになったに過ぎないのですから、男に甲斐性さえあれば通う先が何件あってもそもそも文句はなかったのです。
オスに間違いなく帰って来てもらうためにはメスの方でじっと待っていると言う姿勢・・貞操観念が必要となったことを、08/26/10
貞操意識3と差別意識前後で書きました。
いわゆる現地妻の場合でも、何年ぶりかの航海を終えて帰って来たら別の男と一緒になっていたと言うことが多いのでは、ほとんどの男は帰ってくる気がしなくなってしまうでしょうから、女性の方の貞操意識は女性全般の生活を守るために必須になっていたに過ぎません。
風俗や飲食店あるいは洋服屋でお金のある人が10軒の行きつけの店があろうとあまりお金のない人が一軒しか行きつけの店がなかろうと、待っている店にとって良い客かどうかは、そのお店でその客がお金を使う額、頻度の問題に過ぎないのと同じです。
待つ身になれば、お金持ちが10件に分散するよりは一件・一人の女性に集中してくれた方が良いに決まっていますので、待っている店や妻の方は磨きをかけて競争相手を蹴落とす・・独占関係・・結果的に男に対しても浮気しないようにする道徳律を形成して行った結果、現在の一夫一婦制の道徳が形成されて来たものです。
不貞行為禁止は言うならば、経済保障の確実化を目指すための制度保障に過ぎなかった筈です。
日本の判例でも生活保障さえすれば有責配偶者からの離婚請求も認めるようになったのは、不当な離婚請求からの女性の保護と言っても経済保障さえあれば良いと言う論理の結末といえます。
いうならば同じ生活保障があるのならば、一夫多妻で我慢しているよりは離婚してしまって顔も見たくない時代・・その分だけ女性の地位が高まったということでしょうか?
戦後強くなったのはストッキングと女性と言われたように、女性の経済的地位の上昇・子育て社会化の進展・離婚後の母子家庭に対する生活保障等が充実してくると、逆に女性側からの離婚請求が増えて来ます。
高度成長期以降、男性が離婚に際して財産分与出来るような資産を持つ人が増えたり、都会人二世が大多数になると、夫婦破綻の場合遠くの地方(田舎)に帰らなくとも実家の受け入れが容易になった・・実家の受け入れ能力が充実したことも大きいでしょう。
昔・・実家が農家の場合、大多数は自分たち一家だけで食うや食わずの時代でしたから、「出戻り」と言う特殊用語があるように実家では婚家から戻って来た娘やその連れて来た子らを養い続ける余裕がありませんでした。
今では、都会で長男夫婦と同居している親は珍しく年金暮らしあるいはまだ現役・・経営者や会社役員・高額所得(平均的サラリーマンの場合まだ退職直前ですから高額所得です)の両親だけが普通ですから、娘が子連れで戻って来ても住空間は空いているし、都会の場合近所でいくらでも娘の勤務先があるしで、それほど困らなくなって来たのです。
(家賃なしで、光熱費等両親と一体支出ですとちょっとしたパート収入でも各種支援措置と合わせて何とかやって行けます。)
こういう時代になると、女性の方も昔に比べて離婚に対するハードルが低くなりました。

離婚の自由度5

離婚請求の出来る事由を順次見て行くと、第2号の「遺棄」される・・妻が生活費を入れてくれずに男が生活に困るなんてことは法律が出来た明治・戦後から、最近までの経済状態(男だけが主たる貨幣獲得能力を持ち女性が扶養家族でしかなかった時代)では想像もつきません。
男を養うために結婚している女性は、08/30/10「(1)婚姻外性行為とヒモ」前後で紹介したヒモくらいで、今でも滅多にありません。
ヒモの場合女性が養ってくれなくなれば、離婚請求権があると言うよりは、女性の方が先に愛想をつかした場合でしょうから、ヒモの方から離婚の裁判までする必要は考えられません。
ところで最近担当した刑事事件で、男性の方が高齢化(67〜8歳)して来て、(若い頃から何の年金もかけて来なかった人です)今はまだ稼いでいるが数年後には内妻(保険外交をしていました)の方が養って行くようになる状態の夫婦がいたので、チャンスとばかりに「一緒になっているメリットは何か」と聞いてみたことがあります。
やはり、女性一人だと何か家の修理等頼むにしても心細い・・家にいなくとも夜になるとあるいは数日後でも帰ってくる男がいるといないでは大違いだと言っていました。
まだまだ女性だとバカにされると言う意識が強いようです。
第4号の精神病と言っても、病気の妻を追い出すなどは滅多に考えられませんが・・人道的に無理な感じです・・・男が精神病になって生活が出来なくなると直ぐに女性が逃げ出して離婚になります。
食えないんだから仕方がないと言うことでしょうか?
女性の場合、男がお金を持ち帰らない・・その理由が病気であれ何(遊び)であれ同じことで、経済事情は文句なしの理由になる印象です。
昔から男の価値は、子育て期間中餌の獲得に苦労する母子のために生活費を稼ぐことにあった歴史がそうさせるのでしょうか?
この後で破綻主義・・有責配偶者からの請求権について書きますが、判例の流れは結局は母子に対する経済保障の有無程度が離婚の可否を決めると言えるような感じです。
婚姻制度は母子の生活保障のために始まったとする私の意見からすれば、どこの国でも生活保障さえ出来れば一夫多妻でも良いとする時代があったのは当然です。

夫婦の力学3(離婚の自由度4)

明治の法律では、男性の一方的な離婚権を取り上げて裁判所への請求権に格下げしたのですが、10月31日に紹介した条文を見ると男からの請求はほとんど認められる事由がないので、どちらかと言えばこの法律は妻からの離婚請求権を(制限的ですが、)新たに明記・認める方向に重心がありました。
江戸時代まで女性は寺社奉行所や鎌倉の東慶寺等に駆け込む(その場合3年間経過が必要)しかなかったと言われるように、強制的離婚の方法が限られていたことから見れば、特定の場合には夫婦双方から離婚請求出来ると明記したことは大進歩だったのでしょう。
この条文では夫婦双方の裁判所へ訴え出ることが出来る権利ですから、逆に言えば男からの離婚請求はこの制限列挙にあたらない限り・・江戸時代に行われていた三行(みくだり)半・・気に入らない・・今で言えば破綻と言うだけでは認められないことが明記されたのです。
現行法(戦後・昭和22年に男女平等の精神で改正されたものを最近口語体にしたもの)でも同じように「次に掲げる場合に限り、」と制限列挙ですが、戦後は男からの申立制限が視野にはいって来ている点がポイントです。
その現行の第二項を見れば分るように、これらの要件があっても裁判所は(諸般の事情を考慮して)離婚請求を認めないことが出来る仕組みとなりました。
・・借地法では滅多に解約が認められないし、雇用契約では雇い主からの解雇は滅多に認められないのと同様の運用・法制度でしたから結婚のことを戦後永久就職と揶揄されるようになっていたのは正鵠を射ていたと言えます。
この法律が出来た当初は、男による不当な追い出し離婚を防止する・・・女性・母子の生活保障が制度目的でしたので、離婚請求を出来るだけ制限する方向でした。
これが時代の進展によって次第に厳しくされて行き、つい数十年前まで(最近では判例の変更によってほぼ完全な破綻主義に移行しています)は法定の離婚原因がないと事実上認められない運用でした。
以下の条文を見れば、男が主張出来る離婚理由は妻の不貞行為くらいでしょう。
妻が不貞行為をしている場合は妻の方から出て行って帰りませんし、(逃げた女房には未練はないが・・と言う歌の文句そのままです)妻の不貞を理由に夫が別れたければ男の方から裁判までする必要性がないのが普通です。

民法(現行規定)

(裁判上の離婚)
第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
《改正》平16法147
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

男性の優位化2(戸主権)

 

明治民法で男性の優位が明文で書かれていたのではなく、戸主権を媒介しての男性の優位でした。
戸主には絶大な権力が認められ、戸主になるのは男性と法定されてはいませんでしたが、家督相続は男子優先でしたから、女性が戸主になれる場合は稀でしたし、せっかく女戸主になっていても736条で入夫婚姻をすると夫が自動的に戸主になってしまう形式・・夫がいれば原則として戸主になることが制度の前提になっていました。
男尊女卑と明文で書かれていたのではなく、戸主になれるのは原則として男性であり、女性は夫がいない時にだけ戸主になれたのです。
こうした明治の思想の歴史があるので、今でも天皇家の後嗣・・女帝に対するアレルギーがあるとも言えます。
ただし家の代表は男性とする前提で来たのは、昔からのような気がしますが、武家ではない庶民にまで戸主制度を敷いて一家内で主従関係を強制したのは明治以降のことではないでしょうか・・。
この戸主制度の定着が、今でも女帝制度にすると女帝が結婚したら、その夫が天皇になってしまうのかと誤解している人が多い遠因でしょう。
古代の女帝の場合、結婚しない前提でしたから、(夫の天皇がなくなって女帝になるのではなく、)未婚のままに女帝になると結婚出来ないままになって悲惨でしたが、イギリス王家みたいに、結婚してもその夫が必ずしも王様になる必要がないとすれば良いことです。
この辺の考えについては、06/24/10「女帝と結婚」で安倍内親王が未婚のまま孝謙天皇となり、更に重祚して弓削の道鏡事件を引き起こした称徳天皇となった事例とともに紹介しました。

民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後改正されるまでの規定です)
  第四編 親族

第二章 戸主及ヒ家族
第一節 総則
第七百三十六条 女戸主カ入夫婚姻ヲ為シタルトキハ入夫ハ其家ノ戸主ト為ル但当事者カ婚姻ノ当時反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス

第二節 戸主及ヒ家族ノ権利義務

第七百四十六条 戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス
第七百四十七条 戸主ハ其家族ニ対シテ扶養ノ義務ヲ負フ
第七百四十八条 家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス
 2 戸主又ハ家族ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ戸主ノ財産ト推定ス
第七百四十九条 家族ハ戸主ノ意ニ反シテ其居所ヲ定ムルコトヲ得ス
 2 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ戸主ノ指定シタル居所ニ在ラサル間ハ戸主ハ之ニ対シテ扶養ノ義務ヲ免ル
 3 前項ノ場合ニ於テ戸主ハ相当ノ期間ヲ定メ其指定シタル場所ニ居所ヲ転スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ家族カ正当ノ理由ナクシテ其催告ニ応セサルトキハ戸主ハ  裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ離籍スルコトヲ得但其家族カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス

第七百五十条 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
 2 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
 3 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル
第七百五十一条 戸主カ其権利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族会之ヲ行フ但戸主ニ対シテ親権ヲ行フ者又ハ後見人アルトキハ此限ニ在ラス
    第三節 戸主権ノ喪失
第七百五十二条 戸主ハ左ニ掲ケタル条件ノ具備スルニ非サレハ隠居ヲ為スコトヲ得ス
 一 満六十年以上ナルコト
 二 完全ノ能力ヲ有スル家督相続人カ相続ノ単純承認ヲ為スコト

第五章 親権
    第一節 総則
第八百七十七条 子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス但独立ノ生計ヲ立ツル成年者ハ此限ニ在ラス
2 父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ
第八百七十八条 継父、継母又ハ嫡母カ親権ヲ行フ場合ニ於テハ次章ノ規定ヲ準用ス

男性の優位化1と明治の離婚制度

 

男からの離婚請求権を厳しく制限するようになったのは、都市労働者が増えてきて男の経済的自由度が増し過ぎたこともあって、安易な離婚権の行使を旧来の村社会的秩序では制御出来なくなったからとも言えます。
(ただし上記のように、離婚請求・・条件交渉もなしに黙って逃げてしまう実力行使には無力でした)
明治民法では離婚協議が成立すれば別ですが、そうでない限り男には一方的な離婚の自由が(法律上)なくなり、以下に紹介する明治民法813条では「左ノ場合ニ限リ」とあるように法律で決めた要件に合致するときだけ、しかもこれを裁判所が認める方式になったのです。
江戸時代では、法的には男性が離婚を宣言する一方的権利があって(裁判所・・お上が有効性を判定するのではなく宣言すれば効力が生じる形成権です)も、事実上行使出来ないようにしていたのとは逆張りで、男が事実上逃げてしまうのは仕方ないが、法的には認めなくなりました。
それだけ貨幣経済化によって男性の立場が強くなり過ぎて、事実上の制御では女性の立場が守れない・・無理になってしまったからです。
明治民法の戸主権・・男性の圧倒的優位制度と他方で男性側からの離婚請求をほとんど認めなくなった条文を紹介しておきましょう。
解説しなくとも順に読めば分ると思います。

民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後改正されるまでの規定です)
  第四編 親族

第二款 裁判上ノ離婚
第八百十三条 夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
 一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ
 二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ
 三 夫カ姦通罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ
 四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
 五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
 六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
 七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
 八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
 九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
 十 壻養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。