格差社会6(グローバル化)

いわゆるグローバル化を結果から見れば,国民のなだらかな階層構成から中程度の熟練工・中間層を減らして高度技術者・IT・知財関係と下層階層に2極化して行く政策・・資本家層の利益最大化と低賃金労働者増加を目指した政治でした。
西欧型支配構造・・支配対被支配の2項対立理念をそのまま極限まで体現する政策を押し進めていたことになります。
同じ技術者でも芸術家レベルしか生き残れない・・中級以下の職人は大量生産品のライン従事者にしかなれない社会を目指してきたのです。
よく書く例ですが、明治以降伝統的職人芸・・陶磁器系で言えば庶民日常使いのお茶碗・湯のみ類は大量生産(工場系)に淘汰されて行き、工芸展に出品できるような一定レベル以上の作家のみ生き残って来た・・細工物その他の分野がいっぱいありますが、この場合、職人とまで行かないレベルの人でも、一人前の労働者として遇されるメリットがありました。
数字的に表現すれば職人の技が95点以上は企業の「型」作りに重宝される・・企業は「型」さえ作れれば世界的に量産可能ですから94点以下の職人は不要です。
94点以下は5〜60点平均で足りる現場職人として雇用することになります。
これが流れ作業になり、さらに工程が単純化された結果3〜40点レベルで足りるようになり、ロボット化、オートメ化の進展により(過酷作業に耐える体力不要になり)10点前後のレベルでも足りるボタンや計器の監視役となりました。
この結果、体力的に参加しにくかった女性や障害者もかんたんに作業参加できる社会が到来したことになります。
この変化は大規模な工場の製造工程のみならず、食品や飲食業まで及んできていることは、大規模工場製のオニギリや弁当類が小売業界を席巻している外、ファッストフードや居酒屋チェーンの発達を見れば明らかでしょう。
ラーメン屋に行っても半端に倣った程度で開業したのでは、チェーン店の味にかなわない時代が来ています。
あらゆる分野で特殊技能の1強以外はフラット化する社会・・弱者参加が理想的になればなる程、フラット化が進みます・・これこそが理想社会の実現ですが、一方で格差社会批判が高まったのは皮肉というか矛盾です。
ビルゲイツのような巨額所得者を許せないやっかみも手伝っているでしょう。
みんなが貧しいか豊かではなく、能力に応じた格差を求める本音があるからではないでしょう?
この競争心・向上心こそが人が生きていく楽しみですから、一概にこれを否定する綺麗ごとばかりではどうかな?と思います。
産業革命に対して職を守れと言うラッダイト運動が起きたように、中間どころか中の下の能力も不要「みんな5〜6点できればいいよ!」と言われると文字どおり支配層と被支配層の両極社会に分化して行きます。
産業革命時に資本家・貴族層が競って囲い込み運動に参加したように資本家はグローバル化競争にうまく参加してこそ,倒産を防ぎ・地位を維持出来るので,(参加し損ねると倒産,戦国時代で言えば落城して城主が一介の武士に落ちる)・・一向に困りません。
彼らに言わせれば企業倒産を防いで資本所得を得て,その分を税としてあるいは◯◯財団に寄付して国家に還元してフードスタンプ資金等にしているから自己利益ばかり追及ているわけではない・・企業がつぶれてしまうより良いではないかと言う論理になります。
生産拠点を海外移転しないで倒産していたらもっと悲惨だよ・・と言う論理です。
あるいはIT業界のように高度技術者導入によって世界企業になっている御陰で国内一般雇用を(技術移民が500人働いて地元民が掃除や配達などで50人しか働いていなくともこの企業が、掃除夫など少しでも雇用を増やしている、納税も増えているはずです。
トランプ氏の就任演説では、「エスタブリッシュは自己利益保護しただけで労働者を守らなかった」と言うものですが,資本家・経営層に言わせれば当たり前です。
企業を守ってこそ雇用も守れるし配当収益の還元が出来る論理です。
他方で、ピープルにしてみればお金持ちのおこぼれを貰うのではなく、自分たちにも活躍の場をくれと言うことでしょう。
同じ月額20万円の生活でも生活保護20万円より自分で働いた20万円の方が良いのが普通の心です。
産業革命時に貴族が囲い込み(エンクロージャームーブメント)で小作人を追い出し
て工場労働者にして行ったのと同じことを(中間管理職を掃除夫や運転手にして行く)欧米資本家が繰り返して来たことになります。
トランプ氏の就任演説は国民不満を代弁していますが,「だから反対」と言うだけでは展望・先が見えません。
単なるストレス発散・・打ち壊しだけでは韓国民の大規模集会主義・・不満のはけ口に反日を叫んでいるのと同じで建設的ではない・・先の展望がないでしょう。
韓国の場合には、小国なので国内でいくら揉めていようが世界が相手にしませんが,米国の場合展望がなくとも,大国の不満を無視出来ないので,(図体の大きな牛が暴れるのは面倒なのでまあまあと宥めるのと同じで)フォードに始まるメキシコ投資撤回発表などに見られるように,当面「マアマア・・」と言う形になるのが普通です。
トランプ政策は幼稚で単純とは言え、欧米型労働者無視政策=いわゆるグローバル化戦略は修正に向かうようになり、何らかの軌道修正が行なわれる契機になるでしょう。
資本家叩きは庶民の喝采を受け易く人気取り政策としては簡単・・トランプ氏はキャリーのメキシコ進出阻止に成功し,次いでフォードも中止させ,次に外国企業であるトヨタにまで強迫をしました。
就任式後は日本に対する貿易赤字をなくせ・・合理的正義基準でなく,腕力による結果重視の理不尽要求・本音があまりにも早く始まりました。
いくら理不尽でも企業は強権に従うしないでしょうし、日本その他のクニも理屈を言って喧嘩するわけにも行かないのが現状です。
こういうことが続くと不採算工場縮小が先送りされる分、日本に限らずアメリカ自身の資本家利益(裏取引があるとしても社会総体の資本家利益)が急減します。
国有企業中心の中国で赤字企業を温存していると時間の経過でクニの活力が奪われてしまうことが一般に指摘されています。
アメリカも目先の利益のために・・言わば企業の損失先送りと同じ動きを始めたことになります。
アップルや金融資本による利益の極大化で新興国との賃金競争で負けている分の穴埋め・・労働者本来の生産性以上の給与支払やインフラ整備や社会保障資金になっていたのですが,資本家イジメをやるとこの穴埋め分・・海外利益の本国送金が減り,国内の補助金的資金源が枯渇してしまいます。
巨額収入者がいるとジニ係数が上がりますが,他方で彼らの納める税や寄付金で社会保障資金やインフラ資金も出ていて、その恩恵を受けている面もあります。
巨額収入者を潰すとジニ係数が下がって溜飲が下がるでしょうが,その分格差が少なくなるので生活保護基準が下がります。
閉鎖社会では、国内の富みが一定の場合,巨額所得者をなくして平準化すれば庶民の収入が上がります。
しかし,海外から巨額収入を得ている人まで(やっかみで)潰してしまっても(一時的に溜飲がさがっても)国内では誰も得しません。
金の卵を産む鶏を殺してしまうようなものです。

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