西欧の中国接近10(貧すれば鈍する)

西欧の日米離れ・親中国の進行を政治的に見れば、この数十年間ソ連の西欧への脅威がなくなったこともあって、西欧には、軍事的リスクがなくなったことと、EU結成による自信回復によるところが大きかったでしょう。
米国離れを進めるには、対抗軸として新興の中国利用・中国カード利用を考えていたと想定されます。
現在のウクライナ紛争もロシアによる脅威と言うより、西欧によるロシア領域への無遠慮な蚕食が進み過ぎたことへのプーチンの反撃程度の意味でしかありません・・ウクライナ・キエフは元々ロシア発祥の地です。
里山から奥山に人間が侵蝕し過ぎると熊やイノシシその他が人間界に現れて農地を荒らすのと似ています。
プーチンの反撃は「まだロシアは噛み付く能力程度の力を持っているぞ!」と言う程度のことです。
この点は中国の膨張主義による自発的実力行使とは本質を異にしています。
中国の積極的秩序破壊行為に対して何も言えないままだと西欧はG7構成国の資格があるの?と言う疑問が生じるので、仕方なしに名指しこそなくとも中国非難満載の首脳宣言に同意せざるを得なかったのでしょうか?
ウクライナ問題・対ロシア制裁は地政学的に遠い日本やアメリカに直截利害がなく、地続きの西欧の利害のために始まった筈ですが、肝腎の西欧が内心では対ロシア制裁解除を望んでいる変な構図になっています。
日経新聞5月28日朝刊には、西欧のロシア融和策の背景をロシアによる「シリア関与を期待しているため」と書いていますが、ロシアはアサド政権支持のための空爆ですから、西欧の現政権打倒の方針と相容れませんから本音は対ロシア貿易縮小・金融規制による経済損失関心ではないでしょうか?
政治は多様な要素が絡まっていることを書いてきました・・喩えば、今の西欧にとっては人権よりは難民増加防止が緊急課題ですから、嫌忌するアサド政権でも何でもいいから、早く治安回復して欲しい意思?も絡まっていますが、いずれにせよロシアの空爆を内心望んでいるようになった以上は、西欧が従来主張して来た「道義」にこだわらない意思表示です。
難民問題は、元々シリア政治を引っ掻き回した西欧に責任があります・・、ビルの建て替えや再開発すれば、そこに住んでいる人がその間どこかへ避難するしかないのは当然です。
都市再開発の場合その間立ち退きしたオフイスビルテナントの需要が周辺に拡散して周辺貸ビルが潤うように、当初ある程度引っ掻き回して適当な数の難民受け入れならば、独仏等のの労働力不足対策になる・・低賃金競争出来るメリットの一石二鳥(人道主義の名目で難民・・多くは窮迫しているので安く使えます)の読みがあった筈です。
ドイツのメルケルが最初の内は、受入れ賛成していたのは本音だったのです。
ところが必要量を大幅に超えて流入する今になって、迷惑の方が気になって来て「秩序ある流入」をトルコに求めて責任逃れで騒いでいることになります。
西欧は対中国でも同じですが、倫理よりは経済利害優先・・余裕が無くなってきれいごとを言っていられなくなったと見るべきでしょう。
【貧すれば鈍する」と言われますが、貧して鈍するのは匹夫の生き方であり、貧しても鈍しないかどうかで本来の品性が決まります。
謡曲【鉢の木」は、貧しても鈍しない品格を表したもので日本人のあるべき姿を表しているものですが、西欧の行動はすぐにも「鈍する品格」を絵に描いたような行動です。
[落ちぶりたりといえどもこの源左衛門、 鎌倉殿の御家人として、もし幕府に 一大事がおこれば、千切れたりとも 具足を着け、錆びたりとも薙刀を持ち、 痩せたりともあの馬に乗り、一番に鎌倉に 馳せ参じ、一命を投げ打つ所存でござる]

結果的に西欧は、中国主導の専制的経済秩序形成の試み・AIIBに参加するだけではなくアジアでの中国の覇権主義的行動を批判しないなど・・これが最近の世界混乱が始まった(オバマの資質だけではない)構造的遠因です。
この後で西欧主導のIMFが、自ら設定した原理原則を曲げてまで人民元をSDRに採用した矛盾を紹介しますが、西欧諸国が中国に軸足を移していることを前提にすれば、西欧支配のIMFのSDR採用は、人権無視を気にしないようになったと同じ・・自ら設定した原理原則こだわらない1つの意思表示だったと言えます。
西欧諸国のAIIB参加は、汚職にまみれた中国の不透明運営・・参加国理事を常駐させないで中国人総裁・理事長が専決する仕組み・・中国が独裁運営する旨明白に意思表示しているのに、そこに参加して資金を出資してこの組織を大きく育てると言うのですから驚きです。
今後AIIBを世界経済運営の主要機関に育て上げて行く予定だったとするならば、今後世界中から集めた資金の国際的資金運営について中国の専制運営を認めその支配下に参加し自分も資本を出すが、運営には中国のスキなようにしてよいと言う宣言です。
経済運営については中国の専制支配下にはいる意思表示だったことになります。
ところで、国内政治も同じですが、税その他で集めた資金をどのように運用分配するかの経済政策が政治の9割9分みたいな面があります・・実際この後で書いて行くように西欧その他の中国離れの動きは、中国マネーの魅力が薄れたことによる・資金分配ほど気になるものはありません。
どこの国でも、経済政策の巧拙と結果が政権の命運を左右しています。
世界から集める資金を中国による専制運営を制度的に認めるのは、国際経済運営・資金配分は中国が専制支配・・スキなところに使って良い意思表示です。
民主国家を基本にしている国の運営を預かるものが、上位?機関として中国による専制運営機関を作りそこに自国が参加しその支配下に入る決定をするのは国民に対する裏切り行為ではないでしょうか?

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