新興国の将来6(人口ボーナスの終焉)

アメリカの場合も移民の流入が激しいせいか、毎年一定の労働人口が増えているので年率何%か雇用が増えないと大変な事態になると言われています。
アメリカの統計では、失業率の外に雇用者数の増減発表が重視されている所以です。
中国の人口動態はどうなっているのでしょうか?
いわゆる人口ボーナス〜オーナスの状態・・データが、どうなっているのか見ておきましょう。
調査部 環太平洋戦略研究センター主任研究員 大泉啓一郎氏の「中国の人口ボーナスはいつまで続くか」の論文がネットに出ていますので、以下はその受け売りです。
上記によれば、中国では労働人口自体は2010年ころにピークが来るらしい(論文は11年発表のものらしいですが、データは05年の1%抽出データその他を中心にした意見です)のですが、完全雇用の日本や韓国と違い、まだまだ国内労働量に余剰のある中国では、人口動態が即人口オーナスになる訳ではないようです。
例えば上海の固有の人口(戸籍)でみればとっくに人口オーナスに入っているのに実際には周辺からの流入によって成長を続けている・・アメリカも移民流入に頼る点は同じです。
中国全体では2010年に均衡して(2005年の予測)そこからは減少して行くとしても、まだ内陸部に余剰人口が大量に滞留しているので当面は内陸部から沿海諸都市への流入による人口ボーナスが続きそうだというものです。
この余剰圧力がある限り成長率が鈍化すると国内不安になってきます。
ただし私はこの後に書いて行くように、人口増が経済成長を牽引するという人口ボーナス説は間違いだという意見をもっています・・。
すなわち商品で言えば飛ぶように売れる(経済成長期)ときには在庫積み増し準備(大量の人口増)が必須ですが、売れなくなっても在庫(人口供給)さえ増やせば売れる(成長が始まる)ようになるという逆の関係はあり得ないという意見です。
ここから分ることは中国ではまだ人口ボーナス(国全体の人口増は停まってもまだ職場不足状態ですから、求職人口は増え続ける・・在庫増圧力)があるのに職場が減り始めるとどうなるかの問題が生じるということです。
ただし、第1次ベビーブーマ世代(大躍進政策による4000万人死亡後の反動で)は1963年以降急激に増えた出生率によるものですが、彼らは既に40代後半にさしかかっていてしかも彼らの学歴は小学・中卒が殆どで高卒は約5%に過ぎないとのデータも提示されています。
今後農村部に残っている余剰労働力は、50代前後になって来ると都市へ移動出来ない人材ばかりになって行くし、その上低学歴中心(上記5%の高卒の人は既に都市へ移動してしまっているかも知れません)となれば、その傾向がさらに進むでしょう。
(長距離・省間移動と省内移動の年齢別データも出ていますが、20代後半から30代前半までは長距離移動が多いのですが、高齢化して行くと移動が少ないことが示されています//この傾向は日本でもどこの国でも同じでしょう。)
第一次ベビームーマー世代に対する職業訓練次第(50歳前後になって農業から都市労働者への転換はどこの国でも困難です)によりますが、これが現状のまま推移すれば近いうちに国内人口移動による人口ボーナスも停まってしまうことが予想されています。
(内陸部では大量失業のまま都市部へ移動することが出来ない人が多く滞留すしたままになります。)
上海に近い安徽省にある巣湖市(戸籍人口470万人)の例が出されていますが、そこでは第二次ベビーブーマー世代が上海に流出してしまい、今や第一次ベビーブーマーで若い頃に都会へ移動しないで残った人たちや高齢者中心の都市になってしまっていて高齢化率14%に達しているばかりか、取り残された人ばかりなので平均所得も全国平均の約2分の1(年収1万元あまり)しかないようです。
しかも低学歴中高年世代は現場労務系が中心なので、50代から労働市場からの退出が始まるようですから、実際には労働人口の減少が一般的統計(65歳までカウントしていますが・・)に比べて早く始まるとも書かれています。
中国全土でいわゆる「未冨先老」社会になることが心配されていますが、局部地域的に見ると、既に到来しているのです。
中国国内では、一般に報道されている単に内陸部と沿海部の地理的格差だけではなく、人口構成上の格差も生じている様子です。
我が国でも過疎地域=高齢化地域でもある点は同じですが、我が国の場合「過疎」地域化していて人口が極端に減少しているので、ここへお金をばらまいても大した額・・それほどの負担になりません。
中国の場合上記一例でも明らかなように公称470万と言う巨大都市で高齢化・無職化が進んでいるのですから大変な事態です。
こうした巨大老人都市が内陸部で次々と生まれているのですから、産業の内陸誘致と言っても実際には難しいことが分ります。
(リーマンショック後の約40兆円の大判振る舞いのように、補助金で消費を倍増させて内陸部でも短期間活気を出せますが、生産業は難しいので補助金が切れれば息切れします)
私の持論である人口減少政策が必須であり、我が国の賢明な国民は(政府やマスコミの生めよ増やせよ政策にのらないで)素早く人口減に動いてるので、産業のない山間部で過疎化が進んだ結果、助かっているという主張が正しいことがこのデータでも裏付けられます。

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