自己主張と大人の文化(草食系)

日本では、津波・原発事故に限らず何かの事故が発生しても背後にいる同胞を守る意識が強烈ですから、自己保身のために先に逃げ出すような職業人は、末端に至るまで多分殆どいない筈です。
一人一人は弱い存在ですが、何かの組織構成員となると俄然人が変わったようになって
職業意識の鬼となって身命を賭して頑張る意識があります。
特別な組織ではなくともデパート店員でも地下鉄でも職業人である以上は、何かが起これば乗客や客を先に逃がすなどの意識が強くなるようです。
消防署員でなくとも一般職の公務員でも今回の津波では、自分の危険を顧みずに必死に頑張っています。
この点は若者が草食系化しても変わらないので、この意識がある限りイザとなれば強い国民であることは古代から将来にかけても変わらないでしょう。
江戸時代300年近く太平の世が続いていても、イザとなれば勇猛果敢な戦闘力を示して長州では幕末の四国連合艦隊の租借地確保を阻止しています。
長州藩は四国戦争で完敗しますが、高杉晋作らの決死の交渉によって英仏を中心とする四国連合艦隊が租借地確保を阻止されたのは、イザとなれば死を恐れない勇猛な精神力と我が国の過去の勇猛果敢な事績が考慮されたことは想像に難くありません。
そこが香港割譲を余儀なくされた中国との歴史の違いです。
草食系化とは弱体化のことと誤解されている向きがありますが、そうではなく、むやみに粗野な行動をしない・・日本人がスマート化した意味に捉えるべきでしょう。
生活水準の向上・スマート化に関連して弁護士業界を取り巻く状況・・我が国が進んで行くであろう社会の変遷を少し紹介しておきます。
我々の弁護士業界は合格者激増政策・・参入増による危機を迎えていることについては、ご承知のとおりですが、これは我が国社会の高度な特質を誤って米英その他全世界の進行方向と同視したことに原因があると私は考えています。
我が国以外の世界全部では、生活水準が上がって来るとアメリカ並みの訴訟社会になるというのが知識人の一般的意見です。
しかし、わが国の場合、逆に敗戦後の混乱時を除けば治安が良くなる・・お互い謙譲の美徳の社会で気配りその他社会のソフト化が進む一方です。
生活水準が上がると権利主張が高まるのではなく、明からさまな権利主張を控えるようになるのが我が国文化人・上級生活者の心得です。
日本の知識人は自分の目で現実で社会を見る能力がなく、西洋の歴史を真似して御託宣を述べているキライがあって誤るのです。
我が国では「金持ち喧嘩せず」の精神で、大きな声で自己主張をがなり立てるのは、みっともないとする文化があり、何かあると少しでも損しないように大きな声でがなり立てるのは・・昔から最底辺層のすることです。
力が強くなれば大きな声で要求するようになるのは未成熟なギャングエイジ・世代から若者世代がすることで、大人のとるべき行動ではありません。
日本語で「おとなしい」と文字を打つと「大人しい」と変換されるのは、大人は騒がない・・わが国の常識があるからでしょう。
大人の方がギャングエイジ=児童、あるいは中学・高校生よりも社会的な力が大きいことは常識で争いがないことでしょうから、自分の力(社会的力を含めて)を頼って乱暴に主張することは、本当の力のある人の行動ではないことを意味しています。
この文化に従って日本国民は生活水準が向上して力を持つと、これに比例して大人しくなり、上品になる傾向が次世代の若者に出たのが、ソフト化・草食系でしょう。

求愛2と時機

男女関係の合致方式は正札販売とは大違い・・昔のママで・・・例えば農家の庭先で博労が牛馬を売ってくれとかバイヤーが農産物購入を申し込むのに似ていて、相対の交渉が成立しなければ農家も売りません・・・今でも結婚を申し込まれても同意するか否かの権利が女性に留保されているのです。
商品売買の場合は購入・注文者の提示する条件は金額次第ですが、求愛の場合貨幣表示だけではなく(いわゆる3高と言う類型もありますが多くは・・・)総合力評価ですから、オスの方が安易に申し込んで拒否されるのは、面目丸つぶれ・・精神的ショックが大きくなります。
そこで、ある程度瀬踏みを続けてからでないとうっかり申し込みさえ出来ない・・このリスクにおびえて安易に深入りしないで遠巻きにしているだけの若者が多くなって、その内に年齢が過ぎてしまう・・のが現在でもあるでしょう。
リスクに弱く、求愛行動の動物的本能が薄れて来ているのが、昨今の草食系化・独身率上昇の現象にダブっているようにも思えます。
ボヤボヤしていて異性にのぼせる年齢が過ぎ去ってしまうと、これまで書いているようにオスの方は何のために結婚するのかと言う合理的疑問が湧いてくる人が多くなります。
勿論女性の方も、一定年齢が過ぎると「あえて子供が欲しい訳でもないし・・一人で生きて行けるし・・」となってお互い消極化してしまいます。
オスは年齢的に求愛行動をしたくなる時期があって(メスの発情期はほとんどの動物で年一回原則ですがオスの場合、年齢的期間限定です)、この時期に(のぼせ上がって)愛想を振りまいて一所懸命に異性を求めて「メスを釣る」行動をするのですが、恋が成就してしまうとあれほど熱心に求愛していた相方の女性に対するあこがれが急速に色あせてしまう仕組みです。
オスのこうした身体の仕組み自体は仕方のない事ですが、メスの方はそこからがオス引き止め・・毎日帰ってくるようにする正念場・・智恵次第と言うことで、古代から営々と工夫し、頑張って来たのです。
まさに若気の過ちで一緒になってしまうのが良いとする前提で、一緒にさえなれば後は女性の智恵で何とかなると言う時代が続きましたが、これは一人では生きて行き難い社会が続いていた社会背景によるものでした。
今では離婚後の生活保障が手厚くなってくると、女性がじっと我慢する必要がなくなって来ましたから、一緒にしてしまえば何とかなる時代ではありません。
まして、今のように双方ともに一定の経済力があって、(独身でも食事や洗濯に困らないなど一人でも生活がし易くなっています)しかも30代後半になってくるともう一人でいいやと言う人が増えてくるのは当然です。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC