税収3(税の歴史1)

助け合いや地域のことを、何もかも税でやらなければならないと思い込んでいる人が多いと思いますが、そんなことは、元々ないのです。
近代国家になって国家権力が強大になったので、政府の入り用は何でも強制的な税に頼るようになっていますが、全く強制力によらず国債を資金力のある人に買ってもらって資金を獲得するのが最もソフトな民間からの資金徴収方法と言えます。
イヤならば国債を買わなきゃ良いのですから、100%自発的拠出に頼ることになります。
何事も強制よりは自発的行為の方がスムースですから、国債による資金徴収方法はソフトな良い制度だと思います。
政府費用や所得再分配資金として「国民からお金を集めるのは税だけだ」と錯覚している人が多いと思いますが、税だけで運営するようになったのは明治維新による近代国家成立以降に限られています。
そもそも中国式の中央集権国家・・政府が直接国民を把握して徴税する仕組み・・・律令制は導入しても、我が国の実情に合わないことから直ぐに破綻してしまったことを01/09/06「律令制の崩壊1(豪族のしたたかさ)」その他関連のコラムで紹介しました。
平安朝以降は荘園や大名小名領地に編成されて行き、次第に中央政府自体が直接徴税出来る仕組みがなくなって行きました。
秀吉が後陽成天皇に寄進したのが僅か3000石であり、家康が関ヶ原後に征夷大将軍に任ぜられたお礼は、秀吉の寄進した旧領安堵でしかなかったのです。
家光の上洛(1634年)の引き出物として後水尾天皇に7000石を寄進して漸く合計1万石の生活費を得たに過ぎません。
(外に5摂家に各1000石していますが・・武士で言えば中級の上の旗本程度です・・高家筆頭の吉良家は4200石程度でした)
徳川時代には公家諸法度で朝廷が政治に口出しさせないように儀式を多くやるように強要していたので、その代わりその経費を見る必要・・・を賄う程度・・今の皇室経費の発想です。
05/22/04「皇室祭祀令 4と雅子妃殿下の苦悩23 (天皇家の独立)」前後で連載しましたが、今の皇室もこの歴史を引きずっているので行事儀式だらけで忙しすぎることを書きました。
徳川政権自体も自分の領地から上がる地代・税によって運営されていて、諸大名には堤防工事や駿河台の石垣積みをやらせたり何かの義務・・たとえば浅野内匠頭に接待供応・・を命じるだけで国税として(大名が自分の領地で取る税は今で言えば地方税に該当するでしょうが・・・)徴収する方法がありませんでした。
大名も支配内で固有の領地を持つ豪族的・・大身家臣の領地内での収入は、その重臣の固有収入であってその何割かを大名家に納める仕組みがなかったことは、徳川家と大名・旗本等の関係と同じです。
元々平安末からの武士団・・鎌倉時代から徳川時代終わりまでの中央・地方の政府組織は、戦闘集団から始まっているので、家臣は命じられれば戦闘だけではなく何でも無償で人的サービスを履行する義務を負うだけで、金品を納付する義務がありませんでした。

税収2と国債1

自分勝手な主張に振り回されてバブル崩壊後20年あまりもやって来て、我が国は財政赤字・・国債発行残高が極限近くまで来てしまったとして、(ギリシャ危機を他山の石として)ここ数年問題になっています。
国債発行で所得再分配資金を賄うのはマスコミが言っているように本当に極限かどうか・・税と国債の問題について、この際考えて行きましょう。
本来海外で2〜3万円の賃金で作れる工業製品を国内で40万円以上も給与を払って作り続ける事自体・米や麦の高額買い取り制度・あるいは高率関税で輸入阻止しているのと同様の実質的な社会保障・生産補助金と言えます。
補助金は緊急避難的なものである限り有効ですが、構造改革を伴わない単なる痛みの先送りであれば、その産業にとっては有害でこそあれ何の解決にもならないことはアメリカの製鉄業やビッグスリーの凋落や日本の農業の長期衰退を見れば明らかです。
ただし、同質・同胞意識で成り立っている我が国では、高度成長期には地域間格差是正政策・あるいは近代工業社会に適応出来ない人に対する緩和策としての補助金としてこれを見れば、激変緩和・・社会保障政策としては有効だったことについては論を俟たないでしょう。
今度は地域間格差是正ではなく各地に散らばっている労働者間格差の是正ですから分り難いのですが、職業訓練に精出しても高度化対応人材に変身出来る人は限られています。
ですから、職業訓練をいくらやっても過疎地の農地改良や農道整備資金として高度成長期に過疎地に何十年も投入し続けた巨額資金同様に大した効果は出ないことになりそうです。
産業補助金ではなく社会保障としてみれば当然です。
80歳以上の高齢者向け医療費をいくら出しても、高齢者がもう一度働けるようにはなりません。
・・・生活保護・子供手当・身体障害者向け施設などが充実すれば不良少年になる人が減って国際競争力が出るなどという論法もありますが、こうした効果があるのはホンの0、00何%ですから、投資効率としてみればこじつけ・無理筋であり、リターンを求めない社会保障としてみるべきです。
そこでここからは、国際競争力維持の観点ではなく別の視点で考えてみたいと思います。
せっかく長年貿易で儲け過ぎて巨額資金を溜め込みながら国民が質素な生活をし続けるのは、バランスが崩れると考える人がいてもいいでしょう。
この際生活水準を引き上げる視点・・高度成長期以来寝食を忘れて頑張って来た国民あるいはその子孫にご褒美を上げる視点も必要です。
国債発行で市中から資金を引き上げて国民に配る・・預貯金等余裕のある人の資金を預貯金のない一般国民に回すこと自体は、ここら辺で国民の生活水準を上げるための観点(国際競争力の回復ではなく)から意味があったと言えます。
赤字国債で資金調達して社会保障資金・生活水準嵩上げ資金に回すのは、国内の金持ちから貧乏人に対する資金分配の一態様・・税徴収による回収と経済効果は同じです。
01/17/07「国債発行と税収(建設国債)」その他で国債で紙幣を回収するのと増税で回収するのとでは、国富の利用を国民に委ねずに政府が使うという点ではその効果は同じであることを書いたことがあります。
寄付金で恵まれない子供達・障害者の受入れ施設を作るなども同じ発想です。
家の回りの掃除など公的なことは何でも税でやるしかないと今では思っている人が多いでしょうが、つい、私の育ったころまではある程度みんなで出て行って地域のいろんなことを無償で負担する時代でした。

格差是正32と税収1

我が国はプラザ合意以降の迂回輸出によって急激なグロ−バル化・低価格品の流入に直面しているので、汎用品職場が急激に減少しひいては労働環境が悪化しています。
緊急臨時の痛みの緩和策としての所得再分配が必須でしたし、これからも中国などとの賃金格差がなくなるまでこの進行がやむことがないのでずうっと必要でしょう。
緊急対策である以上、税を取らないまま先ず借金でも何でもして保障から始めるのは悪いことではありません。
昨年の大震災の場合でも、税収や費用負担は後の問題として先ずは緊急に援助隊の派遣・物資・資金を投入するのは当然です。
千葉市からも大量の応援部隊が派遣されましたが、そのときにタマタマ市の要人と会う機会があって費用がどうなってるのか聞いたら、「それは当然国の方で後で面倒見てくれる筈です」という答えでした。
大震災に対するような緊急支出は緊急事態が終わった後に税を上げて回収する・あるいは何らかの方法で資金手当てして補填するのが本来です。
ところが、バブル崩壊後緊急事態が続いているという理由で(国債発行による借金で賄って)資金を投入するばかりで増税しないで来たために、財政赤字が累積してしまったのです。
以前書きましたが、景気波動による不景気に対する補助金ならば、景気循環で直ぐに好景気が来ますが、・・構造的下降局面に対する激変緩和措置としての補助金の場合、何年経っても生産が上向くことはなく更に下降しているので第2次〜第3次の下支えが必要となるばかりでどこまで行っても、税を引き上げるタイミングがありません。
過疎進行地では、公共工事や補助金を何年続けてもこれがなくなれば直ぐに息切れするのと同じで、汎用品製造現場が構造的縮小過程にある以上は(5年経っても6年経ってもその間に更に悪化しているだけで)どこまで行っても増税どころではありません。
こうして財政出動繰り返しの結果、ギリシャ危機発生で我が国も赤字解消が焦眉の急と言われていたところで、更に昨年は大震災にあったのでまたまた財政出動が先になってしまいました。
バブル崩壊後20年以上も緊急事態の連続を理由に、税を取らずに補助・・財政支出を増やし続けていたのでは財政赤字が累積するのは仕方がないことです。
そこで取れるところから取るしかないので、国債発行残高増加と諸外国に比べた高率法人税率の基礎になっているのですが、法人いじめばかりでは金の卵を生む鶏を殺してしまうようなもので、所得再分配の原資がなくなります。
法人ばかりに負担させるのではなく国民等しく公共コスト・税を負担すべきだとすれば消費税ほど合理的・公平な負担制度はありません。
March 3, 2012「デフレと不人気政治」でも書きましたが、補助金増加分の増税の必要だけではなく、デフレ経済が続くと同じ税率では税収が減ってしまうのでその関係の調整としての増税も必要です。
消費税が合理的・公平なことについては09/05/07「小うるさい国民性4(会費負担と発言権1)」その他のコラムで以前書きました。
消費税増税も無理ならば、社会保障に回すべき税負担を国民がしたくないという意思表示ですから、所得再配分政策に反対だとも言えますから見直して行くしかないのでしょうか。
自分のお金は出したくない・・「税は負担したくないが可哀想だからか何とかしてやれ」「・・自分が出すのはイヤだが法人から取れば良いだろう」「資金がないなら借金してでも可哀想だから出してやれ」という主張がここ20年あまりの風潮です。

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