原発のコスト4(損害賠償リスク)

最初の水素爆発によるだけで、(8月11日のコラムで書いたように、8百何十度を超えると燃料棒皮膜の金属が溶けて水素が出来るらしいです)広島原爆の何倍の放射性物質が空気中に出たとも報道されていましたが、個人的な学者の意見ばかりで公式には何も出ていないと思います・・政府(菅政権というよりは経済産業省や伝統的支配層)は出来るだけ隠したいのでしょう。
とは言え、将来的には原子炉内の燃料がどれだけ残ってその他はどうなったかの客観的データが明らかにならざるを得ないでしょうから、未来永劫に隠蔽することは不可能です。
こうした隠蔽・・政府に都合の良い限度で公表するやり方は、国内事故であるから通用するに過ぎません。
これが海外の事故の場合、どうなるかです。
海外事故でこれの全責任を日本国が保障する約束の場合、現地政府は逆に出来るだけ誇大に誇大に公表して日本に請求して来ることになると覚悟しておく必要があるでしょう。
小国の場合、政府で保障すると言って先ず受注しておき、イザとなればデフォルトすれば済むので気楽に安請け合い出来ます。
日本の場合巨額外貨準備があるので、イザとなればマトモに払うしかないことになりますから、支払能力のあるわが国が事故賠償のコストを考えずに、いつでもでフォルトすれば済む国と張り合って輸出競争するのは危険です。
今回の福島の事故被害を見ると今のところ国内問題に留まっているので国民に我慢を強いたり、東電のやるべきことを政府や自治体が検査していれば済んでいて、被害総額が隠されています・・。
例えば福島その他の肉牛の全頭検査を国や自治体の費用で始めていましたが、こんなのは本来東電の負担すべき費用であることが明白ですから、政府は東電に負担してもらうと最近言い出しましたが、境界のあいまいな部分は事実上政府負担にして行く様子です。
労災・失業救済・メンタル関係の費用などは、労災保険、失業保険や生活保護などすべて(当面は・・)税で賄うことになります。
避難区域を狭め狭めに設定すればその外側の人たちが避難したのは勝手な行為として保証しなくてもいいような雰囲気の報道になってしまいます。
放射性物質に関する暫定規制値も緩めゆるめにし過ぎるから、国民が政府の規制値を信用出来ずに不安になっているのです。
もしも日本政府保障で外国に敷設した原発で事故が起きれば、この逆で、大きめの避難区域、厳しめの規制値が発動されてそのまま日本への請求になって来るでしょう。
因果関係についても、その地域住民の避難費用や外で子供が遊べない被害、セシュウム等の体内被曝の損害賠償の外にその地域で生産出来なくなった何年分の県民所得全部の損害・検査機器の費用や周辺行政が検査に走り回っている各種費用も請求されることになります。
8月3日に原発賠償支援法が可決成立したので、東電が賠償に応じても当面倒産・・資金繰りの心配がなくなったので、これから原発被害賠償手続きが本格化しますが、8月6日日経朝刊では政府の「原子力損害賠償紛争審査会が8月5日付で賠償指針を発表したと報道されています。
これによると、風評被害も受け付けるとしているもののの、(同誌第5面)移転による失業・廃業等の損害・・営業保障等がどうなるかについての項目がありません。
一般の損害賠償事件の積算方法を、個別視点からトータル視点に置き換えると福島県宮城県全域と茨城県の北部地方を中心として地域・県民所得合計×4〜50年程度(人がその地域に住めないとされる期間=セシュウムやストロンチュームの半減期間?プラス10〜20年間)の県民総所得が基本的逸失利益と大まかに考えておくのが合理的です。

原発のコスト3(損害賠償リスク)

8月1日付日経朝刊第11面「福島原発Q&Aでは、7月31日現在第1号機炉底部の温度は94、4度と書かれています。
事故直後のように100度以上(何百度・・八百何十度で燃料棒の皮膜が溶けてウラン235が剥き出しになるということでした)で推移していたときとは違うので、蒸発量が次第に減って行くのは明らかで、ステップ1に関する7月19日の政府発表では同時に初期に比べて「放射性物質拡散量は、200万分の1まで減少した」としているようです。
それにしても炉底部とは言えまだ100度前後もあれば、日々相当量の蒸発=空気中拡散が続いている筈です。
政府発表が正しいかどうかはこの後の公開されることになる筈の?データ分析によるでしょうが、仮に正しいとすれば、今後は空気中への飛散量よりは、汚染土壌や植物の全国拡散(稲藁のように広域に移動していますので・・)や汚染水の行方に焦点が絞られてきます。
その他に同じ建家にくっついて使用済み燃料棒の巨大な量が保管されていた燃料プールからも蒸発が続いています。
これの冷却装置も壊れているために高温化・過熱していたのですから、これの冷却・注水(遠くから放水したりなど)作戦に大騒ぎしたことも記憶に新しいところです。
7月31日の報道では、4号機の燃料プールの冷却装置の試運転に問題がなかったので、今後稼働するようになるということでした。
8月10日の報道では、1号機の燃料プールについても循環冷却が軌道に乗ったので今後数日程度で40度前後に下がる見通しとのことです。
2号機から4号機までのプールでは既に循環冷却が行われているとのことなのでこれで全部の冷却が軌道に乗ったことになるようです。
これまで高温による蒸発が続いていたので、過熱を防ぐために時々事故直後同様にコンクリミキサー注入用のホースで冷却用の水を注入をして来ましたが、冷却装置が軌道に乗ればこれで解決に向かうとの期待報道ですから、これまで過熱による冷却用のプール内の水の蒸発・・大気中への放射性物質の拡散が続いていたことになります。
プールに関しては緊急事態を脱した上に「ステップ2」では同じ建家に貯蔵している使用済み燃料棒の取り出しにも取りかかることになっているので、高温化による放射性物質拡散の危険がかなり遠のいたと見て良いでしょう。
放出された放射性物質が最終的にはすべて海に流入して行くとした場合、当面は海流の行方・・どの辺まで汚染されるのかが重要ですが、長期的には海を回遊している魚類が吸収して遠くの海で死亡したり他の魚に食われたり食物連鎖して行くので、体内の放射性物質が遠くの海に再放出され、時間の経過(セシュウムの半減期は約30年間です)で世界全体に拡散して行くことになります。
短期的には福島近海の海が高濃度で汚染されますが、その海流の方向性によって、その下流が次に拡散汚染され、次いでその周辺の魚類等の回遊方向によって、(おおむね海流によって移動しているでしょうが・・)更に別の方向へ拡散されて行きます。
結局は今回の水素爆発による空中拡散と、格納容器底抜けによる地中への漏出・・上記のように最後は海に行くでしょうから、(フランス製の技術による汚染水の濾過装置によって吸着した分を除いて)今回の漏出した放射性物質の総量を先ず計算してこれを公表することが必要です。
放出総量が決まればどの程度の場所まで拡散し、どの時期にどの辺ではどのくらい薄まっている・・許容量以下になる・・その境界が明確に計算出来ることになります。
海域ごとにメッシュ表を造って何時から何時までの期間がどの程度の濃度・危険などの計算・・公表が可能になります。
(海底に沈殿する分も当然あるでしょうが、これの分布図の想定も必要です)
仮に原発周辺での垂れ流しが収まった場合、「海流・潮流によって何日間でその辺の海域の汚染水はなくなって(何%から何%に下がる)しまう、その代わりその下流の海域では何日から何日までの間濃度が濃くなる」などの予報を出せることになります。
台風の予想進路同様のイメージになります。
次々と放射性物質放出が連続している場合、福島周辺海域はいつまでたっても高濃度のままになりますし、短期間なら関係のない筈の海底の生き物にも長期化すると蓄積が進むでしょうし、海底に沈殿して海底の泥などに付着する可能性も増えてきます。

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