過剰労働力2と少子化

失業者は求職中ですから、言わば元気な無業者・病人で言えば発熱する体力のある初期の病人であって、無業者や非正規雇用者は、長期失業・・多数回面接で落ちて自信をなくして求職活動する元気をなくしている状態で親の家に寄生したり、生活保護受給者になっている状態と比喩的に言えるでしょう。
怠け者と言って非難するのはたやすいですが、何回も就職面接に落ちたり、何回就職・転職してもうまく行かなかった人にとっては、世間に出る勇気・気力をなくすのは当然です。
元気をなくしている重症者こそ正面から調査研究して何とかする必要があります。
精神科医の治療等は対象療法に過ぎず、鬱・不眠になる原因除去・社会生活力の回復・・受け皿の整備こそが基本的解決策です。
ちなみに、失業者という中間的概念で議論すると国ごとにどこまでを失業者と言うかの定義も違うし、国際比較がデタラメになり勝ちです。
どこの国でも失業率を低く見せるために、いろいろ工作していることが知られています。
失業率に関する国際基準があって、それが厳格に守られているとしても、日本のような暖かい家族の受け皿のある国・・大卒後何時までも親の家に居候出来る我が国と中国のように大卒後就職がないと地下室で起居するしかなく蟻族になってしまう国とでは、国情がまるで違います。
アメリカも親子の縁はさっぱりしていて高卒以降の庶民は親の家を出て、奨学金をもらって自分で大学に行くと噂に聞いていましたが、大分前のマスコミ報道ですのでインチキっぽいところもあり真実は分りません。
最近でアメリカも裕福な家庭ではいつまでも親が面倒を見ている傾向が増えて来たとも聞いています。
我が国の親は子供はいくつになっても(40〜50才になっても)子供として愛情を注ぎますので、就職活動して見込みがなかったり職場でうまく行かないことがあると親の家に居候したままになる傾向が高いので、失業率統計だけでは社会の実像が見えません。
親が死亡しても届けないで年金をそのまま受給している事例が数年前に問題になりましたが、このように高齢化してもなお親のスネをかじっている人が結構います。
失業・無業問題はこのシリーズのテーマではないので後に回すとして失業者・・無業者の増大(労働力過剰)が身近にあって、国民は自衛のために少子化の選択をしているのですが、少子化の効果(労働者減)が出るには3〜40年かかるので労働需要の急速な減少に間に合わないことが、現在人の鬱屈・社会補償費増大の大きな原因です。
少子化は社会停滞の原因ではなく、社会変化に適応した結果・後追い現象ですから、少子化に何故進んでいるかの原因を論じないで、少子化進行自体を非難したり(古くは女子大生亡国論がありました)助成金で逆行させようとするのは時代錯誤・・現実無視ですので底辺層ばかり子沢山になってしまい、うまく行く訳がありません。
(「女子が教養を持つと少子化するからけしからん」という立場からすれば、彼らは底辺層の拡大を望んでいるので貧乏人の子沢山は望むところかな?)


次世代の生き方3(少子化)

社会構造が変化するのは何時の時代でもあることですから、それぞれの能力に合わせて新しい時代に合わせた生き方の工夫が必要です。
天下太平と言われた江戸時代でもしょっ中生活環境が変わっていて、絵の世界・芸の世界にとどまらず、幕府の政治制度その他いろんな分野で絶え間なく変化を続けていました。
何時の時代でも親の真似をしていれば済む時代は滅多になかったので、何時でも時代変化に小刻みに適応した人が出世し生き残って来たのです。
応仁の乱に続く戦国時代に守護大名等名家の多くが没落して戦国大名が頭角を現し、明治維新・敗戦時の大変化など、その時々の時流に乗れた人と乗れなかった人がいて、時代の変化について行けない人が没落して行くし、うまく適合した人が頭角を現して来たのが我が国の歴史と言えるでしょうか?
(明治維新では新興勢力が三菱その他財閥を形成し、他方で多くの武士は没落しましたし、戦後も多くの地主階級は没落しました)
現在も約20年以上前から企業の海外展開が始まり現場労働縮小方向への大変化が始まっているのは誰の目にも明らかですから、次世代がボヤーッとしているのでは、取り残されるだけです。
ちなみに7月29日日経朝刊ではいつものように少子化による労働力減少→その結果?海外脱出が停まらないことを前提とする論文が掲載されていますが、順序が逆でしょう。
(職場がないから母親が少子化に励んでいるのです)
現在のマスコミでは、現在の日本経済悪化の原因はすべて少子化にあるとしてそのことの是非については論証抜き・・自明のこととして処方箋を論じていることが多いのですが,これもその事例です。
マスコミによる世論誘導の弊害としてこのシリーズの冒頭で書いたように、財政赤字と国家破綻は別問題であるのに如何にもイコールであるかのように散々報道してイコール意識を刷り込んでおいて・・増税の必要性だけを煽っている・・これに反対するのは非国民であるかのような論調です。
何故現実に反した論文を1面全部を使う大きな紙面に掲載するのか理解に苦しみます。
少子化が日本経済の活力を奪うというマスコミが決めた前提があって、その阻止に必死になっているのが分りますが、自己主張の正当化のために事実と逆のことを主張するのでは、国民の判断を誤らせる危険があります。
以下同誌21面「経済論壇から」の中段の一部を紹介しておきましょう。
以下の書き方をみれば現在の日本ではこの点は自明であって論証すら要らない・まるで公理のような書き方で自説に繋げています。

「少子高齢化の急速な進展で日本経済の行く末は決して明るくない。円高や電力不足と言った当面の問題に加えて今後の労働人口減や国内市場縮小を見越して、海外移転は着実に進展している。・・・」

と、東京大学教授の福田慎一氏が書いています。
しかし、労働力不足で国内で工員が雇えなくなったから、トヨタその他の企業等が中国その他海外生産に移行しているのではありません。
逆に海外進出増→国内雇用が減り続けていて、終身雇用制下では新卒に先ずその影響が出るので、若者が困っているのです。
また人口減・国内市場縮小を見越して海外生産が始まったかのごとく書いていますが、グローバル化以前にも輸出超過(海外市場目的で)で我が国はずっと来たのですから、国内市場縮小見込みならばなお輸出に精出せば良いだけですから、海外展開が加速するというのは無理なこじつけです。
円高、グローバル化の結果、輸出先で作るしかない・・現地生産しないと国際競争に勝てなくなった現実があって「国内雇用を守ると」と主張しているトヨタでさえ次第に国内雇用を縮小せざるを得なくなっているのです。
グローバル化以降国内製造業従事者が激減していて・・これを介護現場へ誘導するのに必死の国内現実からみれば、上記東大教授の論説は実態に反しているのではないでしょうか?

少子化の原因(富裕化と底辺層の男女同一賃金化)

出産・育児・種の維持保存行為は、本来親子の血統の強調によるのではなく、人類・社会に責任があるのですから社会負担化を進めるべきです。
社会化の進展途中・・不十分な現状では子育てコストを一族や親族・大家族更には核家族個人(夫婦だけ)へと順次変更しながら委ねて来たのですが、核家族化社会で男女同一賃金化が進行して来ると夫婦で一人前ですから、夫に子育て責任を負わせても、子育て中に無収入化する妻の分だけ生活費が足りなくなります。
これに対する社会の下支えが必要になってきました。
経済成長による富裕層の増加は一般的に少子化になり易いのですが、富裕化しない中間層でも女性の職場進出・生活力獲得によって、女性の子を産む意欲低下・・子を産まないと養って貰えないとする環境がなくなり・・結婚願望が後退して来たのは社会高度化の恩恵部分でもあります。
他方で自活能力の低い低所得層の女性は従来通り出産願望が強いままであっても、末端・現場労働系では若年層の低所得化・・・男女合計では同じとしても男性一人では出産育児中の妻子を養いきれない状態になりつつあります。
実際には出産抑制するのは一部ですから、多くの場合産んでしまってから貧困に直面して、給食費の未払い等が発生するようになったのです。
ここでワークシェアリングと少子化の関係を見ておきますと、国民総生産が同一の場合、ワークシェアリングで労働力を2倍にすれば一人当たり所得を半分にするしかないので、男女同一賃金化→男性の低賃金化が論理的必然です。
エリート系男性は今なお充分な所得を得ていますが、市場原理の働き易いフリーター・非正規雇用職場(例えばコンビニの店員など・・)では男女等しく低賃金化傾向が顕著です。
男女2人で働いて従来の男性一人の収入と同じになるのは一見公平な感じですが、子供を産み育てる場合を考えると出産によって妻が無収入化・出産後短時間労働しか出来なくなると男性の収入が数十年前の半分のままではやって行けません。
(コンビニの店員では、扶養手当もないでしょう)
この結果、末端職種の次世代若者が子育て負担に耐えられなくなるので、親世代の援助のない若者は子を産み育てるのが困難になって行きます。
この問題の解決には、底辺層の生活費不足分の支給は一種の対症療法でしかないので、原因の除去・・女性の出産による退職を阻止し、産休期間の収入保障・・失業保険同様の出産保険制度を造って2年間支給するなどが必要になることが分ります。
子供手当等よりは、この方面の手当の充実・・たとえば産休期間の長期化・その間の失業手当類似の支給制度を造り、育児しながらの職場復帰を容易にする(子供が10歳になるまでしょっ中休むことが多いので、この間子供の年齢に応じた企業への補助金交付など)こそ必要な施策ではないでしょうか?
我が国では、富裕化と女性の社会進出の増加による少子化進行に加えて底辺層が出産すると経済的に困難に直面することがあいまって、産業革命以降爆発的に増え過ぎた人口増の歯止め・・(明治以降人口が約3〜4倍になっています)・・人口縮小へ向かう切っ掛けになっているのですから、自然の摂理とも言えます。
以上によれば、政府の子供手当等の金銭面での助成策は、富裕化による少子化進行には何の効果もなく、少子化傾向の中の低所得層向けに若干の(本来は出産前後の失業を防止することですが・・)効果のある政策となります。
産業革命の先行者利益によって爆発的に増えていたわが国や先進国の人口が適正なところ(産業革命前の水準まで戻って)に落ち着く頃には、子育ての社会化が完成し、再び均衡関係(合計特殊出生率2)になるのでしょう。
ともかく、今のところは19世紀以降の産業革命によって増え過ぎた人口の減少策こそが世界全体で喫緊の課題です。
中国や新興国が遅れて近代化が進むに連れて人口爆発しているのですが、充分に増え過ぎている我が国や先進国が新興国と競争して増やして行くのは大間違いです。

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