原子力安全協定と同意権2

話しがあちこちに行きますが、沖縄に対する特別な援助法は、沖縄振興特別措置法(平成十四年三月三十一日法律第十四号)ですが、これは1972(昭和47年)年5月15日の沖縄の日本復帰直前に出来た法律である沖縄振興開発特別措置法(昭和46年12月31日法律第131号)を廃止して新たに出来たものです。
これまで沖縄につぎ込んだ累積資金は、(今のところ数字を知りませんが・・・)多分原発関連交付金どころの比ではないでしょう。
最近北海道開発庁と統合されましたが・・沖縄開発庁と言う役所まであってその専任大臣まで何十年もいました。
その役所の維持費だけでも大変な金額です。
民主党は基地の国外移転・・「そんな危険なものは本来要らないものだ」と言うスタンスでしたが、政権を取ってみると、ことは国内政治だけではなくアメリカとの関係・・アメリカの利益のために存在している面があるので(日本はもう要らないと言う論理だけでは・・)うまく行きません。
ただ、沖縄の米軍基地問題では新規立地に対しては地元自治体が反対運動が出来・その過程で原発のようにかなり踏み込んだ協定を結ぶチャンスもあり得ますが、米軍基地は敗戦のときからあるので、同意権に類似する協定を結ぶ余地がなかった・・既存基地に対しては何の法的な要求権もない・「じゃあ移転しません」と言われると、それまでであるところが弱点です。
そもそも基地の場合、運転中止・・飛行機が半年も離着陸しないようなことや再開と言う概念がありませんので、協定を結んでもなかなか原発のようには行きません。
軍事機密もあって調査立ち入り権も概念出来ません。
普天間基地問題では移転・新規立地に反対していると、既存基地の明け渡し・縮小が却って進まないジレンマがあります。
ところで、原発運転再開同意権の根拠は何か?ですが、前回紹介したように立地にあたって地元市町村や県との原子力安全協定締結によるものらしいです。
この協定は、いまになると国民の不安を無視してヤミクモな運転再開に対する防波堤・今回の大津波で防波堤はあまり役に立たないことが分りましたが・・元はと言えば交付金ないし協力金次第・・あるいは地域に何らかの公共工事を要求するなどの利権がうごめき易い仕組みとして工夫され発達して来たものでしょう。
原発屋と言われる政治家が一杯います。
それにしても原発事故が起きるとその立地市町村だけではなく今回の飯館村のように(隣の隣かな?)被害を受けることもあり、県が違っても隣県も被害を受けるのに、(茨城や栃木県も野菜その他被害を受けています)隣県が何の発言権もないのは不公平です。
ちなみにネットに出ている茨城県の協定を見ると、立地市町村と隣接市町村までが同意権や立ち入り調査権などの対象で、その次の隣接市町村には通報義務があるだけです。
原発再開に関して被害を受けるリスクのある50km〜100キロ圏の隣県や別の市町村には相談なく勝手に再開同意されても困ります。
ドイツが原発反対してもドイツ国境沿いにフランスが大量の原発立地しているのでは、(偏西風の東にあるドイツでは)意味がないのと同じです。
佐賀県の玄海町がどう言う根拠か不明ですが、再開同意したと報じられていますが、いろいろな名分はあるでしょうが、結果的にその町だけが仮に使い切れないほどのお金を(裏で)貰って同意したとすれば、一銭ももらわない隣県や周辺市町村などでは不満です。
お金ではなくとも、何らかの見返り条件(各種補助金要望に満額回答するなど・・)で同意しても同じです。
ところで、安全協定による同意権を濫用して市町村がいつまでも同意しなかったらどうなるでしょうか?
実務的に考えると同意権濫用の問題よりは、同意を得なくとも業者は自分で再開する実際能力を持っているので、勝手に強行再開したらどうなるかの問題です。
法律論よりは、原発反対・賛成派の政治運動が加熱・先行するでしょうが、平行して当然法律問題になってきます。
不同意のままの再開強行行為に対しては、運転禁止の仮処分申し立てが普通に考えられますが、この時に東電や関電等の業者側が、いつまでも科学的根拠なく?不同意を続けるのは同意権の濫用であるとか、行政協定の性質上法律上権限のある経産大臣が許可しているのに一定期間以上の(根拠のない)不同意は許されない、あるいは、定期点検のための中止再開は協定による同意見の埒外であると言う主張で対応することになるのでしょうか?
強行突破・・実力行使になると国論あるいは地域住民の政治的立場を二分しての大政治問題発展するでしょうから、同意なしの再開強行は、後で取り返しつかない地域住民間のしこり・原発不信を残して却って将来の原発政策に禍根を残すので、自治体の同意なしに安易に強行されることは想定されません。
結局原発の再開は、原発推進または廃止方向に関する世論の動向次第と言うことになります。
政府・東電あるいは電力業界はこぞって、原発停止による電力逼迫を大々的に宣伝して節電キャンペインを張って脅迫していますが、意図が露骨すぎてこのキャンペインもメッキがハゲて来つつあります。

原子力安全協定と同意権1

話を戻しますと、原子力安全協定による地元同意権をテコに原発特別措置法が成立したのではないでしょうか?
(「我々は国民みんなのために原発の危険と隣り合わせに生きているのだ、この程度のこともしてくれないならば、今後は簡単に同意しないよ」と言う脅しです・・裏返せば措置法で優遇してくれるなら、同意の方向で運用すると言う含み・・)
国民みんなのための犠牲と言われても、今になると国民の多くが「そんな危険な原発はなくとも良いのではないか」と言う方向に傾きかけていますが・・・。
それに広範囲の放射能飛散(に関係のない関西方面の食品さえ中国・韓国などでは輸入制限されています)と節電や計画停電の結果、地元以外の国民・企業も大きな被害を受けています。
このように見て行くとどこかで聞いたような台詞・・基地問題を抱える沖縄との対比が浮かび上がってきます。
全国民のために沖縄が犠牲になっていると言う論法を耳にタコができるほど聞かされて来て、沖縄に関する特別法が出来ています。
アメリカは日本全体を守るために沖縄に基地を持っているのではなく、対中国・東南アジア全体に睨みを利かせるのに好位置だから、自分の都合で維持したがっているに過ぎません。
(「核の傘」などまるで当てに出来ないことを繰り返し書いてきましたが、同類の議論です)
国内政治論だけでは、基地問題は解決出来ない・・アメリカの意向を無視出来るなら良いですが、日本はそこまで強くありません。
ここ一連の(尖閣諸島問題などの騒動を見ると)中国はアメリカの軍事プレゼンスの維持に裏で協力しているのではないかとさえ疑りたくなります。
ここ数年中国が黙っていて・・むしろ優しそうなことを言っておいて安心した日本の要求でアメリカ軍が縮小あるいはグアムへ移転してしまってから、居丈高になれば日本が困ったところでした。
民主党政権になった日本では、アメリカ軍の存在が日本全体で邪魔扱いになりかけていたところでした。
「少なくとも国外へ!」と言っていた民主党が選挙に圧勝したと言うことは、国民の多くは今後中国と仲良くして行けば良いのであって、アメリカ軍は必要ないのではないかと言う認識になりかけていたと言うことでしょう。
(今の原発不要論のうねりに似ていました)
ところが小沢氏主導政権でこうした方向へ進み始めたとたんに、中国が矢継ぎ早にこれに冷水を浴びせかけるような強行策にイキナリでて来たのは不思議な選択でした。
今年になってからは、南沙諸島で軍事強攻策に出てベトナムを怒らせていますが・・・。
多分「いま強行策に出ても今の日本はアメリカとすきま風が吹いているので困ってしまうだけだから今がチャンスだ」と言うもっともらしい刷り込みをアメリカ筋が中国の友人を通じて中国政府にしたので、中国は目先の利益にくらんだのでしょう。
英米系の謀略は凄まじいものがあるので、国際政治の経験のない中国などは、アメリカの謀略(離間の策)に直ぐに乗せられてしまうのです。
鳩山総理はこれまで日本はアメリカに偏り過ぎていたのを修正するとまで明言したのに、(そのように思っていた国民が多かったと言うことでしょう)中国の強硬策の実行によって「アメリカ一辺倒から中国へ」のムードがしぼんでしまいました。
今の国民世論では、アメリカのために基地がある本質は変わらないとしても中国の横暴を抑止する押さえには必要か・・・と言う意見が多数になっているのではないでしょうか?(アメリカの思う壷です)
一旦こうした行為をされると今後中国がウマいことを言ったり少しくらい譲歩して来ても、中国は怖い国だと言う印象が刷り込まれてしまったので今後数十年単位で日本人は信用しないことになりますから、中国の「人の弱みに付け込む行為」の代償は大きかったことになります。

原発特別措置法1(原子力安全協定)

福島第一原子力発電所は1号機から6号機まで、第二発電所は1号機から4号機まで合計10基あるので、立地周辺自治体には、当初20年間の補助金だけで(標準計算で)9000億円前後(年平均450億円)も出ているのですが、これは新規立地を促進するための餌みたいなものですから、新設が止まると補助金が減って行きます。
モデル計算によると原発運転前後各10年間に合計約9000億円貰う外にその後も貰い続ける電源3法による交付金の交付実績として、福島の場合2004年に130億円であったことを6月16日に紹介しましたが、最後の6号機運転開始が1979年ですから25年経過後の2004年でも、まだ130億円も貰い続けていたことがわかります。
これらの資金を避難用地取得あるいは地域離脱資金分配などに充てることなく、箱もの行政にあててきた結果その維持費がかかり過ぎて足りなくなって来たらしく、原発立地市町村はどこもかしこも財政赤字団体転落直前で苦しいらしく、2000年から圧力団体が結成されて、2003年からは電源3法だけではなく、特別措置法による別の補助金が追加されることになったことを6月9日のコラムで紹介しました。
特別措置法の条文を紹介するつもりでしたが、間にいろいろ挟まってしまいました。
2004年には年間130億円に減ってしまい苦しくなったので、(小さな町・・4ヶ町村及び周辺住民合計7万人の避難民でこれだけ貰って何故苦しいの?と言う疑問がありますが・・贅沢に馴れたのでしょう)次々と(表向き反対運動しながら)新設要求が出て来ます。
福島第1原発でも7〜8号機の誘致決議があって今年の震災時には着工に向けて進行中であったことを、6月9日に紹介しました。
福島第一原発では敷地が広くて新設余力がタマタマあったのですが、その他は敷地の広さが飽和状態とすれば、新たな立地を求めるには滅多には適地がありません。
2000年頃からは全国的に原発新設が限界になって来たらしく、既存原発立地市町村は強い立場になったのでしょうか、2000年以降全国協議会的な圧力団体が結成された結果、2003年以降原発特別措置法が制定されて新規立地がなくとも既に存在していると言うだけで、各種の補助・・立地市町村では地方債を発行しても赤字財政の認定の計算に入れない・・その分地方交付税で補填するなどの特例が生まれて来ました。
原発には定期点検や細かな事故等でしょっちゅう運転停止がありますが、その後再開するにはその都度地元自治体の同意がいる仕組みになっていて、同意を得るためのハンコ料これが大きな利権・・金の卵を産む鶏みたいな仕組みになっていますが、これをテコにこうした特別措置法が生まれたのでしょうか?
原子力安全協定は、国策としての原発推進の立場から国(経産大臣)にノミ立地や運転許可権限があって、市町村や県には何らの権限もないのに、他方で災害を受けるのは現場の地方自治体であり、災害防止・・災害対応義務が地方自治体の義務になっていることとの矛盾・・隘路にあって、これを解決するために同意権や通報義務・立ち入り調査権などが(紳士協定的に・・・私の個人的推測解釈です)結ばれたのが安全協定の始まりのようです。
このために、裏で利権を供給して「なあなあ」でうまく行っている間は問題になりませんが、住民感情が険悪になって裏取引が出来なくなる・・一旦法的紛争・・ギリギリのせめぎ合いになると、これが紳士協定に留まるのか、政治協定・行政協定かその法的効力については解釈が難しそうです。(研究したことがないので詳しくは分りませんが直感的感想です)
一般の工場の場合は、採算割れすると直ぐに工場閉鎖して他所へ移動して行けますが、原発の場合、まだ廃炉にした経験がないし、どのようにして発電所を立地前の元に戻せるかすら誰も知らない状態です。
車で言えば、走っている途中で故障したら修理する方法も分らないし、走り出したらどのようにして止めるのか分らないで、運転していたようなものと言えるでしょうか。
原発立地前の状態に戻すには運転をやめてからでも何十年もかかりそうで、(使用済み燃料棒の処置だけでも大変です)地元がうるさいからと言って安易に「じゃ、止めちゃいます」とは言えません。
この同意権があるので、地元同意がとれないと原発業者にとしては運転再開することも出来ない結果になります。
この仕組みで首根っこを抑えられていると、かなりの要求を受け入れざるを得なくなっていると言っても過言ではありません。

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