同胞意識と格差拡大5

今回のギリシャ危機の本質・・ひいては解決策として2011/12/26「構造変化と格差8(大欧州化の矛盾)」その他で書いたことがありますが、わが国で言えば、夕張市や青森や東北地方をギリシャのように独立政府として放置しているようなものです。
我が国では、地方交付金や公共工事/全国展開する公務員給与などで沖縄・北海道その他地方経済の下支えして来ました。
ギリシャ危機の本質は、日本での東京・大阪・中京地域にあたるドイツや北欧諸国がギリシャに無償で資金を交付する気持ち、制度がないことにあります。
かと言って独自通貨発行権がない・・これさえあればギリシャがいくらでも紙幣を刷って国債を買い支えられるのでデフォルトになりようがありません。
(日本国債の問題としてマスコミが騒いでいることに対する反論として2012/04/04「日銀国債引き受け5」前後で書きました・・)
ひいては無制限引き受け=インフレによって国内は一時混乱しますが為替相場の急低下で貿易収支が改善するので、国債のデフォルト危機以前に収まるのですが、この自然回復システムのない現在のEU通貨制度では、弱小国には不利な制度です。
そのうえ元々民族が違うのでドイツの国民から徴収した税金でギリシャの高額年金・社会保障資金を払ってやるのを期待するの無理がある・・同胞意識以前の問題/助け合いが出来ないのに通貨発行権を制限するのは矛盾した制度だったことになります。
中国の場合、内陸部は国内として支配下にある点は日本の地方自治体・・青森等と同じですが、歴史上民族としての同質・同胞意識がない上に、歴史上中国大陸は異民族が交互に支配して来た民族混交社会です。
異民族支配が長かった(漢民族というのは存在せず、異民族が支配して漢字を使うようになるとこれを漢民族というだけです・・よく言われることですが、豊臣秀吉がもしも明相手に勝って明を占領していれば、今頃日本も漢民族だと言われていることになります)ので政府というものを全く信用していません。
上記の歴史があって、中国内の少数民族だけではなく漢民族内自体にも民族意識が存在したことがなく自分とその一族の助け合い精神の経験しかないので所得無償移転に関する合意は困難です。
朝鮮半島も同じ意識・・政府を全く信頼しない歴史・・専制君主に抑圧された歴史しかありませんし、今でも力を持てばやりたい放題・弱いものはいくらでも抑圧すれば良い式の政治(6月3日に書いた国内植民地支配方式)で、一族・本貫を重視する歴史しかありませんから、格差是正・所得移転が難しい点は同じです。
韓国人や中国人で次々と外国への脱出・外国籍取得者増が続いているのは、この辺に基本的な原因があるでしょう。
(中国共産党要人の家族の外国籍取得傾向を2012-6-3「新興国の将来3(格差拡大1)」でも紹介しました。)
韓国や中国の場合、敗戦のような事態ではない・・逆に経済が成長している(筈)のですが、儲けると儲けた人から順に(貧しい人と儲けを分かち合いたくないので?)海外脱出が続いているのが、民族意識の希薄さを表しています。
(村上ファンドの村上氏のように儲けを持ってシンガポールに逃げ出す不埒な人物もいますが、我が国にもこうした例外がないというのではありません・・原則と例外の違いです)
薄煕来事件では、中国の政府を支えるべき要人である彼の息子が海外留学していることが大々的に報道されていますが、息子を事実上海外定着・自国を捨てさせる方向を目指している様子がありありです。
中国・韓国等での・・民族一体感意識の欠如・・海外移住希望者が多いことについては、May 4, 2012「海外資産残高2(民族資本)」でも触れました。

同胞意識と格差拡大4

話を戻しますと、アメリカは占領時に日本国内の秩序破壊のために農地解放によって伝統的支配層の解体を試み、国内のいろんな階層の不満を助長して対立激化に励みました。
占領政策遂行上日本国内の対立激化を図っていたこと(どことどこに対立の芽があるなどの研究とこれを助長する占領計画)が公文書公開によって、今や明らかになりつつあります。
この結果、アメリカの使嗾によって、敗戦後「朕はたらふく食ってるぞ・・・」式のメーデー事件その他国内対立・争乱が多く発生することになりましたが、日米安保を契機にいつの間にか野党の攻撃対象が反米運動に転化して来ました。
アメリカの平和主義教育に基づく反米運動ですから、アメリカとしても野党・学生の主張を一概に否定出来ません。
天皇制を頂点とする国体復活を目指す・・アメリカ占領政策に基本的になっとくしていない勢力が自民党・・政権政党で、アメリカの言うとおりに再軍備・アメリカ軍の太平洋展開に協力するなど日米協調路線になり、アメリカの思惑とおり平和主義・牙を抜いた民族教育にどっぷり浸かった方が反米/親ソ親中国志向ですから、アメリカとしてはやり難い相手になりました。
日米協調路線をとる自民党を助けるためには、貿易上の利益もある程度多めにみなければならず、日本を叩くばかりとは行きません。
内部対立の激化を目指すアメリカの戦略がうまく行き始めた途端に、その矛先が自分に向かう皮肉な結果になってしまい、破綻してしまいました。
植民地・支配地で内部対立激化を煽り、漁父の利を得るやり方がイギリス〜アメリカの伝統的手法ですが、(インド支配がこの方法で確立しました・・今は中国をけし掛けて周辺国と摩擦をおこさせて、漁父の利を得ようとしています)日本に関しては100%失敗に終わったと言えます。
アメリカが育成した日本の反政府勢力がアメリカ反対に回ったのは、アフガンで手こずっているのと同じ原理です。
アメリカは太平洋戦争の原因にアメリカの挑発があったことを隠蔽するために「日本の軍国主義が悪かった」と頻りに宣伝して「平和主義と思想の自由」を説いて来たので私たち戦後教育を受けた世代はこれを真に受けてしまったのです。
アメリカの説く理想社会の実現を真に受けて育ってみれば、アメリカ主導の再軍備・・戦争準備態勢の構築ですから、(話が違うじゃない・・)これに反対する勢力になってしまうのは当然です。
今のアフガンゲリラはアメリカの支援で対ソ連用に訓練されたものですが、ソ連がいなくなれば今度はアメリカに刃向かう強大な戦力になってしまいました。
アメリカの正義は自分の都合によって使い分けるご都合主義の結果・・正義でも何でもなかったことが露呈し始めたということでしょう。
留学させてアメリカの豊かさを見せびらかして「日本はもう駄目だ」といくらGHQが宣伝しても、有能な人が海外に逃げ出すことは殆どなく、土地を奪われた地主と元小作人の対立も起きませんでした。
天皇制に対する反対運動・・廃止運動も起きませんでした。
むしろ彼ら人材が復興に心血を注いで(飛行機製造を禁止された結果、新幹線が生まれたことは有名なエピソードの1つです)見事復興を成し遂げました。
今回(昨年)の東北大震災でも韓国や中国は自分達の精神構造を前提に考えますので、日本は最早駄目だみたいな風評・期待がはびこりました。
しかし、我が国は諸外国とは違い一体感・同胞意識が基本にあるので危機時にこそ一致団結・・助け合うことに国民の誰も(建前だけではなく内心でも)反対しません。
今回の大震災に対する諸外国の評価で突出している点としては、「略奪が起きない・秩序が乱れないで逆に助け合う・・被災者もそれを信頼してじっと待っている精神状況」に感銘を受けていると言われます。
逆から言えば諸外国にはこうした同胞・信頼意識が存在しないので、ボヤーッと待っていると餓死してしまうので略奪に走るしかない社会が普通だということでしょう。

同胞意識と格差拡大3

日本の不動産バブルと違い中国の場合、民間資金・銀行によるものではなく、地方政府主導による点がまるで違います。
この辺のからくりは、日経新聞6月2日の朝刊第1面に書いていますが、共産党支配権確立の過程で所有権を全面的に取り上げてあるので、これを地方政府の錬金術として好きなように宅地造成してマンション群を立ち上げてはゴーストタウン(鬼城)を作り上げて来たと言われています。
昭和50年代から60年代に掛けてはやった千葉の金権候補あるいは昭和40年代の元総理田中角栄氏の錬金術(崖地・河川敷など二束三文の土地を買い占めて、まとめて開発して巨利を得る方法)と似たようなことを中国の地方政府が主役になってやって来ました。
今や地方政府の出している200兆元のうち3分の1が焦げ付いていると言われていますが、正確な統計を出さない統制経済なのでこれがどうなるか・・なっているか薮の中になったままです。
現在中国政治を揺るがしている薄煕来事件(激しい権力闘争)の経済背景をみると、彼の進めて来たいわゆる「重慶モデル」の破綻が背景にあった」と後に解説されることになるかも知れません。
不動産バブルのホンの短期間だけでみれば、内陸部の人たちは(外資導入・日本のスーパーやコンビニ出店加速=外貨両替で入って来た潤沢な資金を金融機関が地方政府を信用して貸し付けて来たので、資金移転の一種かも知れませんが・・)自分たちで花見酒の経済のように土地の価格やマンション価格をつり上げてこれの回転売買で儲けたような気になっていたのですが、これがゴーストタウン化して今やうたかたの夢と帰しつつあるようです。
同じバブル崩壊でも、ストレートに銀行/金融機関が参った日本と違い、間に地方政府が挟まっている分顕在化に時間がかかる仕組みです。
我が国で高度成長期を経ても農村部と都会地の格差是正・所得再分配がうまく行った理由は、民族の同質性の強調・・一体感の醸成に成功して来たことにあります。
我が国の民族一体感は、西洋の19世紀・・ナポレン時代よりも早く、古代白村江(663年)の敗戦・防人制度のときからある・・蒙古襲来時も明治維新時もこの意識に支えられていたことを以前どこかで・・あるいはそれぞれのテーマのときに書いたことがあります。
勿論第二次世界大戦での敗戦は日本始まって以来の国難でしたが、このときの奇跡の復興は同胞意識によって成し遂げられたものでした。
諸外国では国難があると古くは出エジプト記・あるいはボートピープルのように国外脱出が盛んになるのですが、我が国の場合、史上最大の国難で、列島隅々まで住む家も焼かれ仕事の材料も焼かれ、誰もが食うに困っているというのに、このときに海外からの引き揚げが何百万人と、しかも今の旅行のように安楽ではないのに命からがら帰ってきました。
世界史上こんな国民で成り立っている国があるでしょうか?
東京・・丸の内や銀座付近が焼け野が原になった写真が一般化されているので、焼け野が原になったのは東京だけかと誤解している人が多いと思います。
しかし札幌に旅行して戦前と戦後現在の定点写真展などをみると、あるいは千葉市に住んでいるので、千葉市の復興の歩みなどの写真展をみる機会が多いのですが、千葉のような田舎までも日本列島全体の工場どころ小さな民家までが繰り返し焼夷弾攻撃を受けて一戸残らず焼き払われて廃墟になってしまったのです。
こうした焦土作戦の一環として原爆の投下をしたのですから、アメリカは日本が二度と立ち上がれないようにジェノサイドを目指していたことが明らかです。
民間の引き上げ船であることが明らかな船の撃沈を繰り返していたアメリカが、戦争に勝つと日本軍人による数人や数十人の民間人処刑を理由に戦犯として死刑判決をしました。
あるいは、従軍慰安婦問題、南京虐殺などのあったかなかったか分らないような・・あったとしても数十人単位であったに過ぎない事件を過大に騒いでいるのですが、・・何百万人の一般人を殺し一般住居を燃やして来たアメリカ軍の残虐性と比較するとおかしな動きという外ありません。
史実をでっち上げてあるいは過大に報道して日中、日韓の離間を策しているアメリカの欺瞞性はその内歴史が証明してくれることでしょう。
私の個人経験・幼い私をおんぶして空襲・焼夷弾攻撃から逃げ回っていた体験を親兄弟から聞いて育っているので、ついこの問題に話題がそれてしまう傾向があります。

新興国の将来3(格差拡大1)

中国国内一人当たりの生活水準が今のままであれば、ベトナムやインド等の挑戦に対抗出来るでしょうが、国内格差が大きくなっているのでこれを是正しないままでは不満が募り国内政情不安が顕在化してしまいます。
日本の格差是正の実情を24年5月末まで書いて来ましたが、格差是正は低い方の生活水準の引き上げに向かうしかない・・高い方を引き下げて平準化するのは痛みを伴うので政治上実現が困難です。
我が国や先進国では中間層を没落させて貧しい方に合わせる平準化が進んでいるので国内不満・・個人的にはストレスが高まっています。
生活水準の低い方へ分配するべき資金をどこから得るか・・先進沿海部の生産性を引き上げて得た資金を先進地域の給与引き上げに使わないで内陸部に配るしかありません。
先進地域の労働者自身自分の稼ぎを内陸部に配るどころか、周知のように自分の賃上げ要求に熱心・先鋭化する一方ですから、後進地域への分配資金にはなりません。
上海・広州等先進地域と内陸部の格差は、中国とミャンマーやラオス等との格差以上のものがある上(6月1日の日経朝刊では平均3倍と言われています)に、ラオス・カンボジア等よりも中国内陸部の人口の方が多いので、いつまでも超低賃金労働者の流入が可能だと言われていました。
その結果、いつまでも低賃金による国際競争力があるとも言われていましたが、それでは何時までも都市住民の賃金が上がらないので今度は都市住民の賃上げ要求に遭遇し・賃上げを阻止している農民工の流入に対する都市住民の反発も高まります。
この後に書きますが中国では民族一体感がない・・自分(せいぜい広がっても一族)の利益ばかりの社会ですから、流入人口への反感が強まっている様子です。
中国人の海外移住が盛んですが、同じ華僑でも福建系と広州系とでは一緒に中華街を作れないほど排他・対立感情が強いことが知られていますが、同じ市内住民でもあるいは香港でも、後から来た人との差別が激しいことが報道されています。
日本で言えば外国人労働力の流入・ひいては労働移民先進国のドイツで起きている移民に対する反感・差別問題が国内で起きていることになります。
話が変わりますが、韓国や中国等では、国内で儲ける人・階層と搾取される人が併存している・・国内に19世紀型の植民地を抱えるような二重構造が始まっているように見えます。
サムスンの躍進の陰に国内労働者の多くが非正規雇用となり、正規就職してもいつまでも大手企業正社員に留まれない・・多くが短期間で非正規雇用に転落する・・労働者が疲弊し尽くしていて海外脱出熱が盛んな韓国を理解するには、国内に19世紀型植民地を作り出していると理解すれば大方納得のいく状況ですが、中国でも同じような状況になっています。
6月3日の日経朝刊第一面では、現在の中国は一人当たり国内総生産が4500ドルに達していて日本の70年代半ばの状況らしいですが、現在中国では何千万というイタリア製の高級車が年間342台も売れて世界1の市場になったたり1300万円もする高級時計その他が飛ぶように売れている状況らしいですが、70年代半ばの日本ではそのようなことは起きませんでした。
一部の共産党高級幹部やぼろ儲けした人に富みが集中しているからこういう結果が生じていることになります。
ちなみに富みの集中している幹部連中自身が祖国を見限って・・あるいは薄煕来同様の失脚リスクを予見しているのか、香港紙5月28日発売号「動向」によれば、共産党中央幹部127名の内113名の家族が既に外国移住して外国籍を取得していると報じているそうです。
当然蓄積した巨額資金を海外に移転していることでしょう。
昨年夏くらい前から頻発している広州周辺での賃上げストライキの頻発は、農民工流入に頼って低賃金政策を続ける無理が出て来たことの現れでしょう。
そこで農民工の都市流入を禁止する施策によって、都市の労働者不足とその他地域の大量失業発生の矛盾を作り出しています。
日本のように同胞意識がない国では所得再分配が出来ないので、内陸部の水準引き上げに手っ取り早い政策として始めたのが、不動産バブル政策だったと言えます。
こうした意見は私の知る限り誰も書いていませんので独自の思いつきになりますが、中国の不動産バブルは格差是正策の1つとして始まったものではないかと私は思っています。

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