高齢親の虐待2(任意後見制度利用の勧め)

後見制度は資産家が資産管理、処分能力がない時の例外として、禁治産制度の副産物的に生まれたものです。
管理処分権者制度は、後見に限らず、会社においては取締役等の管理処分機関、社団財団等では理事、個人法人共に破産したときの臨時管理処分権者である破産管財人が選任されるの同じでそれぞれ名称が違っているもののそのときの目的に応じた自分以外の法人や個人の財産管理処分権がそれそれ決まっています。
このようにそれぞれの制度設計の1要素でしかなかったのが、後見の役割が資産管理だけでなく介護その他看護関係に広がると元の資産管理処分制度設計を乗り越えたものになったことになります。
それでも大元は資産管理から始まっているので、任意後見制度の利用は事実上一定の資産があることが前提に思っている人が多いでしょうが、資産濃霧が法律上の要件ではないので無資産者でも公正証書作成費用さえあれば利用可能です。
後見費用が高いのでないか?と尻込みする人が多いでしょうが、親族後見の場合報酬自体放棄させれば無報酬ですみます。
私が申請する事件ではこれまで親族後見予定の場合(いずれも資産がある場合ですが)法的手続きをする都合上なってもらうだけだったので全て後見候補者の「報酬入りません」という上申書付きで申し立てていますが、のちに兄弟間で面倒を見たのに!という争い防止のためには、介護してもらう負担を考えて適正な金額(裁判所が決めてくれるのが原則)を決めておいた方が合理的です。
そうしておけば相続時に誰が面倒を多く見たという争いを防げます。
そうすれば介護など面倒見た分は適正報酬を受け取っているので遺産相続争いでは解決済みとなります。
親が養っている中高年の子供がいる場合、いきなり後見報酬のみでは生きていけない場合もあります。
後見が始まれば生活費として子供Aに毎月一定額支給するなど明記しておけば良いことでしょうが、これが制度上どう配慮してくれるかについは実務経験がまだないのでわかりませんが、実際必要になれば、その時点で裁判所の運用を調査してみれば分かるでしょう。
仮にその記載がその通りの効力がなくとも、書いておいて損はないということでしょう。
娘や息子が後見人ならば元気なうちに後見人指名しておいても置かなくとも、結果的に同じようですが、ここのテーマは密室化になりやすい介護家庭に公の目が入る利点です。
後見制度利用メリットは、
① 裁判所が年に1回財産管理のチェックをしてくれる・・預金通帳など提出が求められるのと、
② 年間必要額相当・・たとえば数百万・あるいは年金収入等振込入金で施設費用等に十分間にあうときには、その普通預金通帳だけの管理を後見人に委ねるのが普通です。
日常的出費に必要な額以上の資産は、信託財産(ただし株式など有価証券を扱わないようです)にして(信託財産化に応じないときには後見監督人を別に選任します)後見人が勝手に巨額払い戻しや処分できない仕組みにしています。
③ 介護関係の報告もあるので、後見報酬さえゼロまたは適正にしておけばほぼコストゼロで公のチェックが入る利点があります。
コスト問題ですが、社会に不適合を起こしている子供(と言ってもすでに5〜60台以上)を抱える親にとっては、中高年世代の娘や息子の生活費を出してやるのは良いが、自分が路頭に迷うほど浪費されては困るという親が普通でしょう。
こういう場合・・適正な後見費用支給を決めたり、生活費は支給してやりたいとすればそれを裁判所管理で実行してもらうのは合理的です。
単純に銀行や証券会社その他の手続きを娘や息子にに一任していると必要以上の支出あや売却をしているか不明朗になるのですが、それを裁判所がチェックしてくれるので安心です。を防げます。
裁判所ん費用は当初の申し立て印紙や郵便切手(裁判所から後見人への連絡コスト)など取るに足りないコストです。
毎月後見人に払う後見報酬は息子か娘を後見人に指定しておけば元々娘らの生活費援助資金の一部と考えればタダと同じです。(他人にお金が流出するわけではない)
ここでは、親世代が高齢化し次世代がしっかりしない場合、高齢化でいつか自分で管理し切れなくなったときの問題・家屋敷を売られたり、巨額資金を浪費されては困るジレンマの解決策を書いています。
一般論としては灰色段階の社会システム不備があると社会需要の溜まったマグマのはけ口としていろんな事例が起きる関係のように見えます。
児童虐待問題が火を噴く背景には、現在の子育て環境に問題が大きすぎる・・・人類は長い間大家族制プラス地域社会で大勢の目で育てて来たのに対して金愛社会化に比例して核家族化進み子育ての密室化が進んできたからではないでしょうか?
素人の直感にすぎませんが、補完作用として零歳児保育とか各種受け皿ができて来ましたが、原則と例外の違いで、時々どこか相談窓口があったり、預かってくれるという程度では追いつかないからではないか?と思います。

大晦日(物忘れのすすめ)

年末モードになったと思ったら、最早大晦日です。
月日の過ぎ去る早さに驚くことの多いトシになってきました。
「1年間は10歳では10分の1で20歳では20分の1、50歳で50分の1ですから70歳では70分の1になるから短く感じるのだ」と分ったような解説を聞きます。
しかし、それだけではなく高齢化による体力・知力の変化も大きな要因になっているような気がします。
体力で言えば、70台〜80台になれば4〜5年ごとの体力の衰えの速度は4〜50台に比べて半端ではないと言われます。
10年ほど前に私よりちょっと年上の弁護士に久しぶりに裁判所で対面したときに、(私がその先生の年老いた感じに驚いた表情をしていたのかも知れませんが、)相手の方からイキナリ、「この数年のトシの差が大きいんだよ!」と言われて「そうかあ!」と納得したことがあります。
その弁護士は平均的弁護士よりもかなり早い年齢で・・数年前に隠退しましたが、今の70台ではそんなに差が起きないと思います。
とは言っても、80代半ばになって来るとちょっとした病気をしたかしないかの差で、40〜50台の20年分以上に匹敵する差になることがあるでしょう。
それもそうですが、それに加えて最近の自覚では加齢に比例して直ぐに忘れてしまう傾向があることも無視出来ないように思えて来ます。
ただし自分の経験では、何でも均等に忘れるのではなく、従来はそれほど重視しない記憶でもそれなりに記憶していたのに、最近は重要でないと思った記憶はすぐに忘れて行く傾向があります。
書道で言えば墨の薄いところから、早くかすれて行くような感じです。
自分に都合良く解釈すれば、どうでも良いような日常のこと・・・雑多なことがすぐに忘れる・・その早さに驚くばかりです。
気楽に忘れて行けばこの間の時間記憶が消されて行くので、(ビデオや録音から無駄な会話を消去すれば1時間分の録音が10分の録音時間になりますから)早く過ぎ去ったかのように思えるのかも知れません。
この考えによれば、高齢化とは内容の残らない時間を削ぎ落とす能力が身に付いた世代・・効率の良い人生を生きている世代となるのでしょうか?
何をやっても栄養・滋養にならない・・経験に残らないのは無駄とは言うものの、老い先少ないので無駄を削ぎ落としているとすれば意味があります。
食べたことを忘れてすぐにお腹がすいて、胃もたれを心配しないで次々とおいしいものを食べられるとすれば、夢のような感じですから何も悪いことではありません。
「ボケてしまい、さっき食べたばかりなのにまだ食べてないと言われる」と文句を言う人がいますが、お金があるならば、いくらでも食べたいだけ・スキなだけ何回でも食べさせてやれば良いのじゃないかと言うのが私の無責任な意見です。
実際には忘れるのではなく胃腸からの満腹感の信号機能が衰えているだけかも知れませんので、本当にもう一回食べられる人はいないでしょう。
食べ足りない欲求の人は、もしかして若い頃に食べたいだけ食べられなかった(戦中戦後の)ひもじい記憶が残っているからでしょうか?
あるいは、ヒマになって食べると言う原初的欲求だけが残っているのかも知れません。
入院したり退屈なときには、まずい病院食でも食事の時間がやけに待ち遠しいものです。
物忘れに戻りますと、映画を見てその都度皆忘れても、その都度内容が良ければ感激すれば良いことであって、その映画を見たと記憶していて知人に自慢する必要もありません。
私は近年では、万葉集や漢詩その他のホンを何回詠んでもすぐに忘れるので、その都度同じホンを読んでも斬新で安上がりです。
歴史やその他の講義も聴いてすぐに忘れても良いのです。
そのときに納得すれば良いことで、テストの心配もないし、それを活かして何か成功する必要も人に競り勝つ必要もないのし今後の人格陶冶に役立てる必要もないので、覚えている必要がないでしょう。
美術展に行ってもお勉強する必要がないので、これを記憶しておいて・・と言う慾もありません。
ただ単純に展示品の善し悪しを楽しめば良いことです。
将来を考える必要もないし、今さえ良ければ良い・・高齢者は世俗の欲得(時間軸)を離れて今を贅沢に楽しめばいいので、高齢者になるのは目出たいことです。
誰でも失敗やイヤなことが少しはあるものですが、皆様・若い人でも高齢者の物忘れの智恵にあやかって今年一杯のイヤなことをさっぱり忘れて新たな年を気持ちよく迎えられるのは良いことです。
忘年会は、飲み騒ぐことに意味があるのではなく、忘れる価値を見いだすことに意味があって始まったことではないでしょうか?
高齢者(私自身)の物忘れ加速を言祝ぎながら今年のコラム納めとします。
来年もよろしくお願いします。

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