希望の党の公約等2(内部留保課税2)

法人税大幅減税によってアメリカへの企業回帰を促すのがトランプ大統領の立候補時の最重要公約の一つでもあり、就任後その実現ができるかが彼の支持維持のために重要課題になっていることは周知の通りです。
このように国際政治の重要テーマになっている法人税軽減(裏から言えば企業誘致のための優遇)競争の時代にあって、日本の法人税がアメリカに次ぐ2番目に高い方になっているのをどうするかが日本でも重要課題になっている現在、小池氏が国の方向性として世界潮流に反して二重課税・法人税の実質アップに舵を切る主張をする以上は、日本経済にどういう影響を及ぼしそれをどうやってフォローするかについて相応の説明が必要です。
法人税支払い後に残っている内部留保について二重課税する場合の法的・経済的諸問題について、これを推進する流合理性・・法的・経済学説があって、これまで丁々発止と議論されてきたのならば、公約に掲げるについて特段の説明がなくとも一方の説を採用するというだけで足ります。
これまでに「内部留保課税しても問題がない」という意見を寡聞にして聞いたことがありません。
もしも内部留保課税賛成論があれば、メデイアが盛んに煽っているスローガンですから、新聞等に出ない筈がないのですが・・。
希望の党はこれを言いっぱなしであるとことから見ると、内部留保課税をすれば、どうなるかの総合的検討を一切せずに・・・多分何もわからないままメデイアのおすすめ通りのメニューをパフォーマンスとして掲げただけ・・という印象を受けたのは私だけではないでしょう。
こんな突拍子も無い内部留保に着目するようになったのは、民主党政権獲得時の埋蔵金論と根っこが同じような印象です。
我が国で内部留保課税発想が動きだした経緯は以下の通りです。
http://www.sankei.com/west/news/140828/wst1408280034-n2.html

2014.8.28 02:00
賃上げへ、大企業「内部留保」課税に踏み切る韓国強権政策で韓国経済はどうなるか…日本では禁忌、正反対の経済政策の明暗は
大企業への内部留保課税をめぐっては、日本では平成22年の民主党政権下で、浮上したことがあった。
当時の鳩山由紀夫首相が同年2月、日本共産党の志位和夫委員長と会談。志位氏から「過剰とされる大企業の内部留保に課税し、雇用拡大や中小企業に還元するべきだ」と促され、「検討してみましょう」と応じたのだ。
日本商工会議所からも「(首相発言は)真意を測りかねるが、企業の国際競争力の観点から不適切だ」(岡村正会頭)と批判があがったほか、当時の平野博文官房長官が慎重な姿勢を示すなど政府内からも懸念が広がった。結局は、菅直人副総理が国会で「特に検討することは考えていない」と明言。内部留保課税について「首相からの検討の指示もないし、私自身考えいない」と述べ“騒動”を1週間ほどで収めた過去がある。
そんな日本では曰く付きの政策が、奇しくも韓国で実行されようとしているのだ。
・・・

民主党政権は素人政権という評価の一端がここにも出てきました。
今でも素人的共産党の関心を小池氏やメデイアは引きずっているようです
上記だけでは韓国で実際に実行されているのか不明ですが、以下によると既に実施されているようです。
https://zuuonline.com/archives/181140

企業の内部留保課税」に批判が相次ぐのはなぜか
石谷彰彦2017/11/10
海外の事例で言うと、韓国は大手企業の内部留保吐き出しを目的とした留保金課税を2015年から導入している。年間所得から設備投資・人件費増加・投資家への配当を除外した金額に対して10%の税率で課税している。
人件費増加・投資・配当を行えば課税所得が下がるが、あくまでも単年度の所得に対する課税であり、こちらも積み上げた利益の総額に課税されるものではない。
・・・韓国における留保金課税導入の結果として、配当の増加には回ったものの賃上げには結びつかなかったとされている。
・・・賃上げを促進する税制や助成金であれば、すでに法人税における「所得拡大促進税制」や雇用関係助成金(例えば「キャリアアップ助成金・賃金規定等改定コース」)があり、効果の疑わしい制度を新設する必要性は乏しいと考えられる。(石谷彰彦、ファイナンシャルプランナー)

韓国では各年度の税引き後利益から、配当・賃上げや工場等に投資しなかった分にだけ10%課税する・・過去の蓄積分には課税しないという程度らしいです。
過去の蓄積にいきなり課税される・税引き後の利益で入手した工場や自宅を売れと言われるような政治ではたまったものではありませんから、いくら強権政治の韓国でもこれはできなかったようです。
このように常識的結果・・次年度からの剰余金にしか課税しない(しかも設備投資などを除くので、何かに換金してれば良い・・例えば出店予定地/社員の独身寮用にマンションを買ったと言えばいいのかな?何か買っていれば大方控除になるでしょう)となれば実際の課税対象は微々たるものになるでしょう。
他国にも実施例があると内部留保課税を擁護する意見(希望の党の言い分?)もあるようですが、もしも韓国の例によるならば、内部留保課税は未投資の現金剰余分だけに課税する・・実際の課税段階で投資済み分を除くのであれば、せっかく企業買収したのを内部留保だから売却しろと言われるバカなことがない・実害がないかも知れませんが、その代わり喧伝されているほどの税収増にはなりません。
当初から書いてきたように大手企業は社債発行による巨額借金をして投資しているのが普通で、無駄な現金をほとんど抱えていないのが普通です。
投資済みには課税しない→決済用に保有している現預金部分にしか課税しないとなれば課税対象は微々たるものになります。
しかも過去の累積剰余金には課税しないでその年の剰余金だけというのです。
これでは、数十年以上かけてたまった累積剰余金=内部留保蓄積が3百兆円・これに対する数%の課税でも莫大な税収というメデイアの触れ込み宣伝は、いいとこ取りの使い分け・・何の関係もない実質的デマ報道だったことになります。
希望の党の説明は以下の通りらしいです。
http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/171112/ecn17111209150001-n2.html

希望の党は選挙公約で消費税増税を凍結し、その代替財源として内部留保課税を打ち出した。増税の実施を掲げた自公両党に対抗するためとはいえ、「(大企業が抱える300兆円の内部留保に)2%の税金をかければ、増税凍結分は浮く」という課税案は経済界を驚かせた。この案を主導したのも、希望の党を率いた小池百合子東京都知事のブレーンを務める投資ファンド経営者のようだ。

上記の説明によれば、300兆円に課税する予定の数字ですから、韓国で実施されている内部留保課税のように現金部分だけの課税を前提としているとすれば、300兆円に2%かけるというメデイア宣伝は辻褄が合わなくなります。
だから希望の党では、韓国でやっているが問題が起きていないとはっきり言えなかったのでしょうか?

希望の党の公約等1(内部留保課税と法人税1)

昨日東京10区の得票数などを見ましたが、民進党の合流効果・・民進系の中道・保守グループ支持票+所属政党いかんにかかわらず投票する小池個人+若狭氏個人支持層+浮動票中民進党が合流しても極端な左さえ入らなければ良いとしてなお希望の党を支持する人らを合わせても、補欠選挙時より若狭氏は約2万票も減らしています。
鈴木氏が91146票に対して若狭氏は57901票でした。
この結果を見れば、若狭氏個人で見れば時流・風に乗ったつもりだったでしょうが、追い風がすぐに吹きやんで、自民党公認のまま方がよかったことが明らかです。
負け惜しみの強いメデイアにいわせれば全国的に立憲民主党の得票を合わせれば自民党を上回っていたというありきたりの強調が盛んですが、その場合若狭氏に入った票のうち、左翼を切り捨てた中道系の合流だからと言う理由で希望の党に投票したかなりの浮動票が逃げていたでしょうから、単純足し算は机上の空論です。
この辺は共産党と合わせれば何票という想定論が無意味な(例えば連合の場合、共産党が応援するなら支持しないという人の方が多いから簡単に共闘できない)のと同じです。
16日に書いたように希望の党、 立憲民主と無所属に3分裂したからこそ、元民進党議員が民進党に固まっている時よりも多く当選できた事実でわかります。
「希望の党」という内容のないイメージだけで、政党を立ち上げてしがらみを「リセット」するというのですが、これでは何をどう変えるのか、政策内容が一向に見えない・こんな無責任な主張を掲げる政党に政治を任せた方が良いと煽るメデアもメデイアでした。
この合理的批判に耐えられなくなって、急遽発表した公約をみるとどれも子供の思いつきの域を出ない・あるいは市議会や町内会のレベル・庶民密着といえば聞こえが良いでしょうが、電柱をどうするなどの羅列を見ると国政レベルの政党の公約か?というお粗末な印象です。
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/2017/commitment/20171007-OYT8T50000.html公約には色々と綺麗ごとが並んでいますが、気がついた1部を紹介しておきます。

2017年10月09日 11時55分
衆院選 希望の党公約
・・・・・・・・・・・省略・・・
「希望への道」しるべ 12のゼロ
〈1〉原発ゼロ 〈2〉隠ぺいゼロ 〈3〉企業団体献金ゼロ 〈4〉待機児童ゼロ 〈5〉受動喫煙ゼロ 〈6〉満員電車ゼロ 〈7〉ペット殺処分ゼロ 〈8〉フードロスゼロ 〈9〉ブラック企業ゼロ 〈10〉花粉症ゼロ 〈11〉移動困難者ゼロ 〈12〉電柱ゼロ
希望の党政策集
1 政治に希望を
国会及び国の行政機関の情報公開のあり方を抜本的に見直し、例外的に非開示にできる理由を大胆に絞る。・・・・・
2 経済に希望を
金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間の活力を引き出す「ユリノミクス」を断行。〈1〉消費税増税を凍結し消費の冷え込みを回避する一方、大企業の内部留保に課税することにより、配当機会を通じた株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす 〈2〉若者が正社員で働くことを支援し、家計の教育費と住宅費の負担を下げ、医療介護費の不安を解消する 〈3〉新規分野を中心に規制改革と社会実験を大胆に進めることにより、民間活力を最大限引き出し、潜在成長率を底上げ▽日銀の大規模金融緩和は当面維持した上、円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索する▽「時差Biz」による「満員電車ゼロ」実現など生活改革を進め、労働生産性を高める▽日本企業の事業再編を促すため、事業再編税制を強化▽電柱の地中化により、災害対策を強化するとともに、景観を改善
3 中小企業に希望を
正社員雇用を増やした中小企業の社会保険料負担を免除する「正社員化促進法」を制定▽ブラック企業の要件を明確化し、該当企業の名前を公表▽中小企業の人手不足を解消するため、国と職種を限定して外国人労働者の受け入れを拡大
4 家計に希望を
成長の実感が伴わない中で消費税引き上げを強行すると景気が失速する可能性が高いため、2019年10月に予定されている10%への消費税引き上げは凍結▽消費税引き上げの前提として、議員定数・報酬の削減、一院制実現に道筋を付けるなど国会改革の実現、不要不急のインフラ整備を徹底的に見直す▽消費税増税凍結の代替財源として、約300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討。内部留保を雇用創出や設備投資に回すことを促し、税収増と経済成長の両立を目指す▽「ユリノミクス」による税収増、ワイズ・スペンディング(税金の有効活用)による財政支出の削減、国有資産の売却や政府系金融機関の廃止に伴う貸付金の回収などでプライマリーバランス(PB)の改善を図る。
・・引用が長くなりすぎるので・・以下省略

「民間活力を引き出す」ために(1)内部留保課税と言うのですが、内部留保(累積利益?)と言っても帳簿上評価でしかありません。
企業の持っている現預金は規模に応じて資金ショートしない程度の決済用資金だけであって、その他は子会社に対する出資金や知財、工場や原材料・在庫等の資産評価の総計ですから、これに課税する(理論上二重課税の問題がある他に結果的に法人税の重税化ですから、企業誘致競争に反して海外に逃げるリスクもあります)とこうした資産(国内外の工場設備)売却を企業に強制することになります。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171113-00000502-san-bus_

企業に「ため過ぎ」批判 内部留保課税は有効か 論説委員・井伊重之
11/13(月) 10:00配信
「内部留保といっても、企業が金庫に札束をため込んでいるわけではない。会計上の内部留保とは、企業が稼いだ利益から税金を納めて株主への配当を支払い、そこから残ったお金を長年蓄えた利益剰余金のことだ。既に内部留保の一部は工場設備などに姿を変えており、内部留保そのものに課税はできない。」

金の卵を生む鶏を殺すような愚かな政策です。
これが「ユリのミクス」の冒頭にくるのですから驚きです。
内部留保が大きすぎるという主張は、格差社会を強調する左翼系の主張にあわせて企業の儲けすぎイメージを煽るためにメデイアの根拠なきムード強調が続いていましたが・小池氏はメデイア受けだけ狙って安易に取り入れたものと思われます。
1〜2年前に暴露されたパナマ文書に始まり、数日前にバーミューダ諸島パラダイス文書が暴露されて租税回避地に名目だけ移転するなどのタクスヘイブン利用(税逃れ)に対する大騒ぎが報道されていることから知られているように・・国際競争力強化・企業誘致(逃げられないための)手段として法人税の軽減競争(裏から言えば企業誘致のための優遇競争)をどうするのかが重要国際テーマになっています。
http://www.asahi.com/articles/ASKCK5FQJKCKULZU009.html

パラダイス文書に登場する法人情報、ネットで公開
2017年11月17日22時48

公約から実務能力へ4

話が為替政策にずれてしまったので、公約の意義に戻ります。
安倍自民党の円安政策発言がそのまま実現しているように見えるのは、わが国にとって不幸なことに貿易収支赤字の定着傾向とタマタマタイミングがあったに過ぎません。
まさか安倍氏が我が国の貿易赤字を実現した・・安倍氏の功績だとその取り巻きも言うつもりはないでしょう。
とすれば公約とは関係なく、大震災以降我が国のファンダメンタルズが悪化して来た結果・・その効果・・貿易赤字恒常化の傾向が統計上も出て来て・・「さすがに日本も参って来たか!」という国際認識の結果、円が安くなったことを誰もが認めるしかない筈です。
円安とは、国力低下に応じて市場がハンデイを下げてくれたに過ぎず、決して目出たいことではありません。
1月10日に書いたように為替介入は短期的には行き過ぎた相場の是正作用はありますが、その程度の効果では、企業が海外進出するか、国内で増産するかどうかの長期判断には関係しません。
長期的な為替相場は貿易の長期的トレンド・国力評価によるものですから、政治家が公約として円安にするとか円高にすると主張するのは太陽の運行を早くする・あるいは来年は猛暑にするというのと同じで政治で決められることではないので公約には馴染みません。
安倍自民党は本来公約になり得ないものを掲げてあたかも自分の手柄のようにしていますが、貿易赤字が定着しつつある昨年秋ころからは、赤字傾向になって来たので円が安くなるしかない地合でこれを先取りしたに過ぎません。
公約の意義に戻りますが、国民政党時代に社会が来ている以上は、結果的に矛盾した国民の要望をどのように取り込んで決断し、実現して行くかしかありません。
本来的意味での公約が無理だとすれば、公約としては「貿易立国」や「国民の生活第一」みたいに抽象的にしておくと政党を選ぶ基準がなくなります。
結局は人格者に委ねる・・あるいは実務能力が必要になったと時代と言えるのかも知れません。
公約があまりにも総花的になって意味をなさなくなったので、人格+実務能力時代に戻ったのでしょうか?
実務能力重視と言えば、地方首長が副知事や助役経験者ばかりだったころを思い出しますが、その頃の説明では、地方自治体では革新だ保守だと言ってもやれる範囲が狭いので関係がない、むしろ実務能力こそ重要だということでした。
言わば国政も冷戦構造が終わって、保守革新の区別が意味をなさなくなると、地方自治体のような関係になります。
今後は国際経済競争にどうやって勝ち抜いて行くか、どの辺で折り合いを付けて行くかの競争です。
保守革新の区別ではなく、予めどうすると公約していた事態ではなく、原発事故のような個別事案が起きるたびにその処理能力、官僚掌握術・結局は人格の高潔さ・懐の大きさが勝負になってきました。
アジア通貨危機やバブル処理でも実証されましたが、アメリカのエリート学者の集まりであるIMFの言うとおりしないで、一見もたもたしていた我が国のやり方が正解でした。
最先端・・世界でどこも経験のしたこともない難しいことは、じっくり時間をかけて日本流の総意・・ボトムアップ方式で進めて行くのが良い結果に繋がります。
指導者不足と嘆くマスコミ論調が多いのですが、日本人は一人一人のレベルが高いので、少数のエリートに一任する諸外国のやり方・アメリカの真似をしたがるのは却って危険です。
日本社会はこれからも前人未到の最先端社会を切り開いて行くしかないのですから、お勉強・・いつも書きますが過去の経験を学ぶのに秀でた人たち・・単純回路中心のハーバード流(プリンストン大学でも同じですが・・)学者の言うとおりしていてもうまく行きません。
誰もどこも経験したことのない最先端事象を解決して行くには、国民の総意を総合して行くしかない・・もたもたしているように見えても、これが1番副作用の少ない良い結果を生み出します。
幸い我が国の国民一人一人のレベルが高いので、一握りのエリートに委ねるのではなくみんなで智恵を出し合って行けば、必ず良い解決が生まれる筈です。
強力な指導者による号令一下突進するのではないので時間がかかりますが、愚直にモタモタしながら、国民みんなで努力し、もがきながら良い(GDPのことではなく国民生活の高レベル維持)結果を出せればいいのです。

公約3

個人の場合、映画が好き、本を読むのも好き、旅行も野球も好きというのは勝手ですが、二者択一の場合どうするかの質問・・あるいは優先順位付けこそ公約には重要です。
輸出産業の苦境打開、TPP、農家保護、増税反対、財政再建、福祉充実等々それぞれが矛盾している場合があるので、政党としての優先順位こそ公約で書くべきです。
例えば拉致被害者奪回、靖国参拝の実行・竹島記念日の国家行事化、慰安婦問題の政府意見の見直し、あるいは尖閣諸島に常駐するという自民党の公約でしたが、一見選挙運動段階ではこれによる不都合を全く無視して実行するかのような公約でした。
ところが政権を取ってみると「そんな子供みたいなことは出来ないでしょう・・」とばかりに竹島記念日の国家行事化実施をさっさと見送りを決めて、逆に中韓両国に対して真っ先に関係修復のための特使派遣発表となりました。
それならそうと公約段階で言うべきではないでしょうか?
公約を実行するかどうかは、「万般の諸要素次第であって、直ぐにやる訳ではない」ということですから、公約は何の意味もなかったことになります。
(予算が許せば、という条件付きで)政権を取れば生活保護費を10倍に引き上げます、大学まで授業料全額免除します。国民全員に世界旅行券を配ります、税を半減します。・・・と言う公約をしたとすれば、意味がないでしょう。
自民党の勇ましい公約と中韓両国との関係正常化とどのように折り合いを付けるのか、どのようなタイミングでやるのか、何を何に優先させるのかが政権獲得後の今でさえまるで分っていません。
政党や政治家の公約は(自民党に限らず)国民の多くが支持しそうな項目別に迎合して意見を言っているだけで各項目を同時に実施したら矛盾関係になることが多いのですが、最終的にその政治家や政党がどちらを選ぶのかはまるで分っていないのが現状です。
状況に応じていつかやりたいというだけならば、(個人の願望でしかなく)公約とは言えないでしょう。
安倍自民党は具体的な金融緩和・円安政策論を選挙で全面に押し出しましたが、これは現状・・貿易赤字定着によって円安に振れる状況下で、現状に併せて言ったに過ぎず、本来政治で決められる性質のものではありません。
為替相場や金利動向などは4年間の任期中に経済ファンダメンタルズ次第でくるくると変わるべきものですから、前もって政治で決めて行けません。
円相場に関して言えば、長期的には経常収支の赤字が続くか黒字が続くかによって決まって来るのであって、政治家の公約や決断だけでどうなるものでもありません。
やる気にさえなれば出来ることは、(ランクを上げるのではなく下げる・無駄遣いして赤字にするのは怠けて贅沢していれば良いので努力しなくとも誰でも出来ますから)、長期的に貿易赤字を続けることくらいです。
成績10番の生徒が来年4番に上げるというのは努力目標に過ぎず、実現出来るかどうかは分りませんが、10番の子が来年ビリになるのは怠けていれば良いので簡単に実現出来ます。
円安=貿易赤字の長期化政策は、国民が国際競争に邁進せずに怠けていてドンドン消費拡大していれば良いだけですから、簡単に実行出来ますから、本気で政治の力で長期的円安を実現しようとしているとしたら、国民に怠けてお金を使え言っているとしか考えられません。
実際無制限な財政出動や日銀紙幣増刷っぽいことも主張しているのですが、これは言い換えれば国民の働き以上の支出をするべしと言う主張ですから、働き以上の支出をすれば貿易赤字になるのは決まっていますし(家計でも企業でも収入以上の経費をかければ赤字になりますし、その企業の株式相場も下がります)、結果的に国力低下=円安になるのは必然ですから、この点は公約どおり実現可能なのでしょう。
国民の働き以上の生活をさせて貿易赤字が定着するのを政治目標・国家経営を主張するのって、正気の沙汰でしょうか?
為替相場というものは市場の需給で決まるので、短期的には政治力・為替介入で行き過ぎ調整は出来ますが、(囲碁の例で言えば置き石の数が実力以上に多いとなれば市場反応を待たずに先取りでハンデイを下げる程度)経常的に赤字の垂れ流し国が一時的に為替市場で買い支えをしても長続きはしませんし、逆に長期的な黒字国でドンドン外貨が流入している国で、為替介入をしても一時的にはサヤ稼ぎのプロがこれに驚いて買い進みが一服する程度であって、長期的相場を押し下げることは出来ません。
貿易黒字のママで円が安くなればこんなうまい話はありませんが、それは一時的な介入効果にとどまり1〜2週間もすれば元に戻ってしまうのが普通です。
1〜2週間程度の短期的円安ですと、輸出業者にとっては今現在の取引の決済は何ヶ月か先の納品後が普通ですので、何の意味もないことです。
安倍政権の公約であった円安効果定着を本当に意のままに実現するには、貿易赤字にとどまらず経常収支でも長期的に赤字継続しなければならない・・ずっと怠けて贅沢しているしかない・・言わば亡国を期待する論理に外なりません。
インフレ・円安期待論は、亡国期待論に他ならないことについては、February 21, 2012「為替相場と物価変動2(金融政策の限界1)」前後とAugust 17, 2012「健全財政論11(貨幣価値の維持5)」で書きました。
しかも半年以上円安が続くと輸入物資・原材料費/コストが同じ比率で上昇する効果が出て来るので企業にとって差し引き貿易上の有利性は左程変わらなくなるので、結局は消費者物価の上昇分だけ国民生活を窮乏に陥れる結果になっておしまいです。
それでは困るので更なる円安を求めるとすれば、半年後には更なる消費者物価上昇になって国民生活の窮乏化が更に進みます。
韓国がウオン安策によって企業は儲かっているものの、韓国国民の窮乏化が進んでいるのはこの結果です。
このように自国通貨安は経済原理上自国の国力低下に比例して起きるものであることから、結果的に国民が窮乏化するのが一般的です。
こうした効果を期待するのって、一国の指導者のするべきことでしょうか?
どこの国でもその国の通貨価値の相場・トレンドはその国の国力の上下動に長期的には比例していますし、この経済原理から逃れることは出来ません。
長期的円安を期待するグループは、日本の長期的国力低下・国際的地位低下を期待しているとしか考えられません。
囲碁でも相手よりも強いから置き石で対戦し、将棋で言えば飛車角や桂馬落ちで勝負したりしますし、若者が入学試験の難しいところを受けたがるのは、より向上したい意欲があるからです。
置き石の数を5〜4〜3個と順次減らして、相手に勝ってみて・これが楽だと安住しているのでは実力が下がる一方です。
ただ実力以上の置き石で負け続けているならば実力相応に置き石を減らすことが臨時に必要ですが、それ以上の為替政策は論理的ではあり得ません。
入学試験のレベルの低い所に合格して楽勝だと威張っていても将来性が知れています。
出世したら大変だから昇進したくないと、グータラを決めているようでは将来が案じられます。
実力以上の円安誘導をして輸出競争に勝って貿易黒字が復活出来れば、その比率に応じて円が再び上がるしかないのですから、円安になって1年経っても2年経っても円安で楽だからと努力しないで更に競争で負け続けて貿易黒字転換を避け続ける=貿易赤字を期待しているのでは、最後は今のギリシャのようになるのを期待しているのと同じです。
レベルの低い学校に入ったらその分頑張って成績上位者になろう(貿易黒字を復活)とするのではなく、低位校にいれば勉強が楽だから、そこでもさぼって中位者のままの安住を夢見ているようなものです。

政権担当能力4(公約1)

アメリカの対日基本スタンスは、戦後一貫していて日本を支配下に置く・・支配下におけないまでもその弱体化が究極の目的だったと思われます。
周辺諸国もこれに同調しているので、日本は米中韓による悪意の包囲網下にあると考えていいでしょう。
極東だけで見れば中韓の言うとおりに、日本は戦後ずっと孤立して来ました。
・・最近は東南アジアやインドなどが強くなって来たので大分日本に有利な局面になってきましたが、米中韓包囲網から抜け出す気配のある日本に対して、米中韓が焦り始めたのが最近の日中・日韓緊張激化の根本原因かも知れません。
米中韓の包囲網からすれば日本の「政治の迷走は思う壷」ということで、能力のありそうな政治家に対してはアラ探しをしてこの対応に終始させて、他方で残った小者に対しては政権担当能力のなさをマスコミ・進歩的?学者を通じて煽って来たように思われます。
民主主義国家においては政策によって競うべきであって、政権担当実務能力をマスコミが煽ること自体、(野党には実務経験がないのは当然ですからこんな基準が幅を利かすと政権交代が出来ません)選挙による政権交代を前提とする民主主義政体をぶちこわす行為です。
実務能力基準と言い出したら20年前ころまで普通だった地方自治体首長が助役や副知事上がりの時代に戻り・選挙は儀式でしかなくなります。
石原前都知事が殆ど登庁しなくとも成り立っていたのは、(有能な副知事がいたとも言えますが・・)本来政治家は大所高所からの方向を決めれば良いのであって実務は官僚に委ねるべきでしょう。
実務能力を言い出したら官僚上がりが一番ですから、政治家不要論・民主政体が成立しません。
民主政体が良いと言う以上は政治家が決める方針に併せて官僚機構が責任を持って準備して、且つフォローして行くべきでしょう。
政治家は官僚のようには実務経験がないのが当然ですから、民主政体を選択している以上は、実務処理能力を基準に議論する最近のマスコミ傾向は間違っています。
防衛大臣で言えばシビリアンコントロール・軍事のプロではありません・・に矛盾することが明らかでしょう。
実務処理能力不足問題は、与野党が変わったときに官僚が充分に下準備して補佐すべきことです。
ただし、 官僚機構がいくら準備しても出来ないことは出来ませんから、公約発表には与野党を問わずに実際に可能かどうかの官僚機構との事前擦り合わせが必要です。
野党が法案提出するには、条文にするにはどうするか、他の条文との整合性はどうかなど専門家とのすり合わせが必要なのと同じやり方です。
ただし、Dec 1, 2012「民主主義と正義9(選出母体の支持獲得1)」に書いたように、現在では国民政党化している・・支持母体が錯綜しているので、どの政党も公約に責任を持つとすれば、独自色・特色を出せずに「よりよい日本を作る」「日本を元気に」という程度の抽象的公約しか出せません。
国内企業立地が国際競争上不利になっても良いという意見は、労働者であれ資本家であれ誰もいないでしょうから、争点はもっと具体的な企業保護政策・逆から見ればどこかがその分しわ寄せを受けるかに論点が下がっていますが、これは裾野が広過ぎて公約には書き切れません。
書けるとすれば、政策選択基準を開放経済中心で行くのか国内企業保護で行くのか、農家保護中心で後はおかまいなしか企業保護中心か労働者中心に軸足をおくのか、高齢者中心か若者中心か程度は自分の立ち位置を明らかにすべきでしょう。
ところが、上記12月11日に書いたようにどの政党も労働者からも企業からも農民票も高齢者票も若者からも総体からの票が欲しい・八方美人のために政党色が表面に出ていません。
当選したら何をするのからない状態での投票勧誘・公約ですから、困ったものです。
農家保護子供手当その他諸々細かい項目ごとの賛否を公開質問しているのですが、これらを見ると個別項目と他の項目が相容れない場合が多くあります。
どちらを優先するかの質問がないから、どの項目にも賛成の大そうな選挙に有利になりそうな回答を選んで気楽に答えているのでしょう。
たとえば国際競争力の維持向上政策の必要性は誰も反対しませんが、それと原発維持拡大しあるいは縮小とどのように整合性をつけるのかの立ち入った質問も回答もありません。
都市政策に関して何回も書いていますが、旧市街地街の再開発と郊外の新市街地開発とは高度成長期には両立していたので政治家は気楽に主張していました。
今はどちらかをやめないで両方に投資して行くのでは、財政が持たないし人口減少地域は無理があります。
原発即時廃棄と燃料輸入増による電力料金の値上がりや貿易赤字をどうするのか、福祉充実と増税反対など、いろんな矛盾項目(実際には2項対立どころかもっと複雑です)をセットで考える必要があります。
一人の人間・・政党は同時にいろんなことを決めなければらないのですから、優先順位を付けて質問をし、回答を求めないと意味がありません。

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